先日まとめ記事を書いたばかりではありますが、やはり年が明けると、その年の動向というものが気になるものです。
2015年、月・惑星探査の世界はどのようなことになるでしょうか。この記事では、今年(2015年)の月・惑星探査を展望し、どのようが起きるか、起きそうであるかを分野別にまとめていきます。

◯2015年は「準惑星探査」の年
まず間違いなくいえるのは、今年の月・惑星探査は一言でいうと「準惑星探査」の年になるということです。
準惑星といってもなかなかぴんとこないかもしれませんが、「冥王星が惑星から格下げされた」という報道は一度は耳(目)にしたことがあるかと思います。2006年の国際天文学連合(IAU)の総会で、惑星とまでは呼べないものの、そこそこの大きさがあり、小天体とまではいえないような天体をまとめる新たなカテゴリーとして、準惑星という新たな枠組みが提案されました。
今年は、この準惑星に2機も探査機が接近します。
3月、小惑星探査機ドーンが準惑星ケレスに接近します。以前はこのケレスは「最大の小惑星」に分類されていましたが、現在では準惑星の1つとなっています。しかし、小惑星帯の中に存在するこの天体は、大きな小惑星の代表とも捉えることができますし、ドーン自体、前に探査を実施した天体は小惑星ベスタでした。
ドーンは史上はじめて、小惑星帯の天体を複数周回する探査を行います。ケレスには接近したあと周回軌道に入って探査を実施します。ベスタの探査では私たちの思いもよらない複雑な表面の姿をとらえたドーン、今度は私たちにどのようなケレスの姿をみせてくれるでしょうか。
そして7月、人類最後のフロンティアといえる冥王星に、これまた人類史上初の探査機が到着します。ニューホライズンズです。
2006年に打ち上げられてから9年、史上最速の探査機でさえ9年もかかる長い長い行程の末、7月に冥王星にフライバイを行う予定です。冥王星、そして双子系といってもよい衛星カロンの姿がどのようなものなのか、非常に楽しみでありますが、一方では探査が無事成功するかどうかという点も注目です。
この2つの探査はメディアでも話題になると思われますし、要注目といえるでしょう。

◯月探査は着陸探査の年に
月探査の分野では、今年打ち上げられるとみられる中国の月探査機、嫦娥4号に注目です。中国の月探査の「法則」に伴い、先行する着陸機、嫦娥3号の性能を強化したものとなるはずです。そして、その性能強化がどのへんに向けられているのかも注目されます。おそらく、3号であまりうまくいかなかったローバー性能の強化が図られているのではないかと思いますが、中国の月・惑星探査関係の情報はあまり出てこないため、打ち上げ直前(これまた中国の「法則」では、打ち上げは10月ころではないかと考えられます)に一気に情報が出てくるのではないかと思われます。
もちろん、先行する嫦娥3号、とりわけ順調に動いている着陸機の動向も気になるところです。
一方、年末ギリギリになって期限が1年延長された月着陸レース「グーグル・ルナーXプライズ」ですが、1年延長されたからといっても、残り2年のうちに着陸機を完成させて月に届けなければならないわけで、いよいよ各チームの競争は熾烈さを増すことになるでしょう。
1月には、優秀チームに対して中間賞(マイルストーン賞)が授与される予定で、その候補には日本のチーム「ハクト」も含まれています。私はハクトの受賞の可能性は十分あると思っており、選定に注目されるところです。
昨年、大規模な探査計画の再編を発表し、月探査に再び戻ってくると高らかに宣言したロシア。予定通りであれば2016年にも新しい計画に基づく最初の探査機「ルナ25号」が打ち上げられる予定です。ただ、深刻なロシアの経済状況の中で、果たしてこの計画がうまく進むのか、報道に注目していきたいと思います。

◯小惑星探査は「仕込みの1年」
昨年12月(ちょうど1ヶ月前)に打ち上げられた日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は、現在順調に飛行しており、今年は11〜12月に地球スイングバイを実施して加速する予定です。2018年中頃の小惑星到着へ向けて、地道なミッションが続きます。
地道という点では、計画としてははるかに壮大な「小惑星イニシアチブ」も仕込みの1年でしょう。昨年、各要素技術を18個に絞り込んだところで、今年は各技術の具体的な検討に力が向けられるでしょう。
来年打ち上げ予定の小惑星探査機「オサイレス・レックス」の準備も進むはずです。こちらの探査機についても情報が徐々に出てくるのではないでしょうか。

◯内惑星探査は盛り上がるか?
地球の内側にある2つの惑星、水星と金星をまとめて内惑星と呼びます。この探査も継続的に進められていくことになります。
現在水星で周回探査を実施しているアメリカの探査機「メッセンジャー」の探査は今年も続きますが、そろそろ探査機自体の寿命が迫ってきています。その代わりという形になるのが、日本とヨーロッパ共同の水星探査機「ベピ・コロンボ」です。打ち上げは2016年といわれていますが、まだJAXAから公式の発表はありません。こちらについても今年の進捗が気になるところです。
金星は、昨年末交信を経って探査を終了したヨーロッパの探査機「ビーナス・エクスプレス」に、まさに入れ替わる形で、日本の金星探査機「あかつき」が再度の金星周回軌道への投入にチャレンジします。2010年12月の悪夢のような周回軌道投入失敗から5年、この軌道投入は今年末が予定されています。これがうまくいくのかどうか、私たちもじっくり見守っていきたいところです。

◯史上最多、7機体制の火星探査
火星には現在、7機の探査機が到着しています。着陸機は2機、周回機は5機で、1つの天体にこれだけの探査機が同時に到着して探査を行うというのは史上はじめてのことです。
着陸機(ローバー)は、マーズ・エクスプロレーション・ローバー「オポチュニティ」と、マーズ・サイエンス・ラボラトリー「キュリオシティ」です。オポチュニティは活動開始からすでに12年、当初の予定が3ヶ月であったことを考えると、信じられないような長生きの探査機です。今のところ探査機自体は順調なようですが、これだけ年数が経つと探査機の状態も心配です。
オポチュニティも、2012年8月の探査開始からすでに1年半。予定では1火星年(687日)の探査でしたので、今年初めにはその区切りを迎えます。おそらくさらに探査は継続されると思われます。
周回機は、

の5機体制です。アメリカ、ヨーロッパ、そしてインドという3カ国の探査機が協力し合いながら、火星の観測を行っていくことになります。なお、メイバンとマンガルヤーンは、昨年9月に到着して以来機器のテストなどを行っており、おそらく今年初めには本格観測段階に入ることになるでしょう。
これらの探査については、探査機そのものの性能よりは、縮小され続けている各国の宇宙開発予算の枠の中ですべてを維持できるのかどうかという点も心配な材料です。
さらに、来年打ち上げ予定の火星探査機インサイトエクソマーズについても、開発の状況を見守っていきたいところです。

ほかにも、2017年まで観測が実施される予定の土星探査機「カッシーニ」、着実に月周回探査を続けている「ルナー・リコネサンス・オービター」の成果にも期待したいところです。

今年も1年、月・惑星探査から目が離せません。月探査情報ステーションでも、これらの情報、そして新しく入ってきた情報を随時お伝えしていきますので、どうぞお楽しみに。