ロシアの月探査については、私も含めてこれまでは「本当に進むのか(進んでいるのか)」といった懐疑的な意見もかなりありましたが、どうやらロシアは、月探査を本格的に自国の宇宙開発の中核に据える決断をした模様です。
このほど、ロシア連邦宇宙機関(FSA)は、月探査を将来のロシア宇宙開発の中核プログラムにすると断言、そしてその皮切りとして、1976年以来途絶えていた探査機名「ルナ」を関した探査を復活させ、番号も引き続きでルナ25号として打ち上げることを発表しました。

FSAのマラコフ戦略計画担当官は、「FSAは今年、長期的な新宇宙探査プログラムを策定、その中で月探査は中核に据えられている」と述べました。
この中には、月に有人基地を設営することなども含まれており、早ければ2020年代にも、ロシアが有人月探査を実施する可能性があるとのことです。もし実現すれば、1960年代のアメリカ・ソ連の月探査競争でロシアがかなわなかった有人月探査が、60年の歳月を超えて実現することになります。

一方、別の報道では、ロシアが2023〜2025年頃に、月からのサンプルリターン探査を行う計画を持っていると伝えています。
以前、ロシアはルナ25〜28号までの4回の月探査を新たに計画しているとお伝えしましたが、今回の記事ではさらに1機増え、5回のシリーズ探査になるとのことです。つまり、ルナ25〜29号までの5機の探査機が、2020年代までに月に向かうということになります。
2023〜2025年に行われる探査としては、まず、着陸技術の基礎試験としての探査、及び今後のミッションにつなげるための探査としての周回機の打ち上げがあります。そしてルナ27号ではそれらの結果を生かした月着陸探査を実施、さらに、2023〜2025年頃をめどにした月の砂のサンプルリターン探査を行うということです。
なお、月探査計画は2016年から実施される予定のようです。

そうなると気になるのが、直近で打ち上げられる予定のルナ25号です。
こちらについては、FSAでは数百億ルーブルの費用が必要になると試算しています。現在、ロシア・ルーブルはロシアの景気後退や欧米による経済制裁などの影響により大きく貨幣価値が下落しており、100ルーブルが2.4ドルという状態です。仮に数億ドルとした場合でも、日本円では数百億円クラスのミッションとなる可能性が高いということです。
マラコフ氏は、「例えば、この探査で必要となる額としては数百億ルーブルという単位になるだろう。準備にそれだけのコストがかかるからである。また、技術開発もかなり必要である。」と述べています。

以上、これまでの情報も含め、記事から読み取れるロシアの月探査プログラムをまとめてみますと、

  • ロシアの月探査計画は2016年よりスタート
  • 2025年頃までに無人の月探査を5回にわたって実施する。
  • 月探査機の名前は、往年の探査機シリーズ「ルナ」を引き継ぐ。そして番号も引き継ぎ、新たにルナ25〜29号として打ち上げられる。
  • ルナ25号は2016年に打ち上げられる着陸機。おそらくは月着陸技術の実証を目指す探査機となる。
  • ルナ26号は周回機か?
  • ルナ27号は月着陸を行う。こちらはルナ25号の技術や経験を元に、将来にわたっての本格的な月略陸技術の習得を目指す探査機となる。
  • ルナ28号または29号は月から砂(サンプル)を持ち帰るサンプルリターン機となる。
  • 最終的に、2030年ころをめどにロシアとして有人探査を実施。将来的には長期居住も可能な月面基地の構築をも目指す。

というようなものとなるようです。

ただ、繰り返しになりますが、現状のロシアの宇宙開発の状況で、これだけ野心的かつ矢継ぎ早の月探査計画が実現できるのかどうか、私としてもかなり懐疑的にみざるを得ません。
そもそも、ロシアは長年にわたって月探査計画「ルナ・グローブ計画」を持っていました。これは2000年代中頃から計画されていましたが、度重なる延期によって現在に至り、そしていままた、ロシアの月探査計画の再編によってその中に取り込まれようとしています。
月着陸計画としてはその後に「ルナ・レズールス」という計画もあったようですが、これは実はインドのチャンドラヤーン2に搭載される予定の着陸機である、といった情報もありました。これもまた、月探査計画の再編に取り込まれたのではないかと思われます。

このように頻繁に変わり、かつなかなか実現しないロシアの月探査は、計画を立てたとしてもそれが予定通り順調にいくのかどうかを疑問視されても仕方がないといえましょう。
さらに、ロシアの宇宙開発自体が厳しい環境に置かれています。ロケットの打ち上げ失敗も続いていますし、2011年には火星探査機「フォボス・グルント」の打ち上げにも失敗、ロシアは月を含めた深宇宙探査では21世紀に入って1機も成功した探査機を打ち上げられていないという状況になっています。
また、前述のように、ウクライナ情勢に端を発した欧米の経済制裁の影響や、石油価格の下落、資本の流失などの問題もあり、ロシア経済は極めて厳しい状況に追い込まれています。ミッションを行うにしても資金が必要で(マルコフ氏も「数百億ルーブル必要」と述べています)、それを国家財政としてちゃんと調達できるのかどうかわかりません。正直非常に難しいことは確かでしょう。

ただ、ロシアがこのような内外の厳しい状況を乗り越えて月探査、さらには惑星探査に復活するようなことがあれば、往年の月・惑星探査の経験を持つ国が再びこの世界に復帰してくるということになります。さらに世界的な月・惑星探査の隆盛の流れにも加わるということで、宇宙開発や月・惑星探査の豊富な経験により、普通に考えられる以上に早い勢いで流れを取り戻してくれることを期待したいと思います。