月探査情報ステーションとは
月探査情報ステーションは、月・惑星探査の情報を中心として、月の科学、さらには月や月・惑星探査にまつわる様々な情報を皆様にお届けする、「月・惑星探査のポータルサイト」です。
このサイトでは、月を中心として、「科学」という視点を中心に取り上げ、月についてどのようなことがわかり、どのようなことがわかっていないのかを解説しています。
そして、まだわからないことを調べようとする「探査」(ミッション)について、最新情報をいち早くお知らせするほか、その背後にある科学などについて、わかりやすく解説しています。
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お知らせ
「夏休み 自由研究・工作お助けページ 2022」に日本の月探査特集を追加しました
月探査情報ステーション恒例、夏休み限定のコンテンツ「夏休み 自由研究・工作お助けページ 2022」に、新たに日本の月探査についての特集ページを追加しました。
これから先日本の月探査機が続々と打ち上げられ、また日本人宇宙飛行士が月面に降り立つかも知れないといわれている中、日本の月探査について調べてみるのは夏休みがよいチャンスになるかと思います。ぜひ、日本の月への取り組みを調べてみて下さい。
なお、お助けページの残るコンテンツも近日中に完成の予定です。すべて揃うまでもう少々お待ち下さい。
「夏休み 自由研究・工作お助けページ」を公開しました
大変遅れてしまいましたが、月探査情報ステーションの夏休みシーズン限定・恒例のページ、「夏休み 自由研究・工作お助けページ」2022年版を公開しました。
なお、2つ目、3つ目の項目につきましては現在準備中です。近日中に(夏休みの宿題に間に合うように)公開いたしますので、もう少々お待ちください。
月探査機「バイパー」のページを開設しました
「月探査」のコーナーに、2024年打ち上げ予定のアメリカ・NASAの月探査機(月面ローバー)「バイパー」のページを追加しました。バイパーは月の南極地域に着陸し、月の水の探査を行う予定です。
当初打ち上げは2023年が予定されていましたが、このほど、2024年に延期されました。
なお、バイパーについては今後より詳細な情報を随時追加していく予定です。
ブログに新しい記事を追加しました
月探査情報ステーションブログに、以下の日付で新しい記事を追加しました。
ヨーロッパ宇宙機関、エクスマーズでのロシアとの協力を中止 (7月16日付)
月探査情報ステーションブログでは、過去の日付でブログに記事を追加することがあります。これは、元になる情報から記事の日付がそれほど離れないようにするため、または過去に「下書き」記事として執筆していたが執筆を中断していた記事を完成させたため、などの理由によるものです。
日付は前のものとなりますが、内容自体は日付に関係なく最新のものですので、ぜひお読みいただければと思います。
月探査機HAKUTO-R、1号機の月着陸機打ち上げは早ければ11月に
日本の宇宙開発スタートアップ企業アイスペースは20日、最初の打ち上げを予定している月着陸機の進捗に関して発表しました。この中で、打ち上げに向けた試験は順調に進んでいて、早ければ今年(2022年)11月にも打ち上げができるとの見通しを述べています。
HAKUTO-Rは、アイスペースが開発を進める月着陸機・ローバーおよびそのプロジェクトです。世界初の民間企業独自の月着陸を目指して開発が進められています。2022年中には1号機となる月着陸機を、2024年中(当初は2023年中)には2号機として、着陸機およびローバーを月に向けて打ち上げる予定です。
1号機はすでに2021年6月から組立作業を開始しており、2022年6月に組み上げ作業を完了。現在、打ち上げに向けての最終試験を実施しているということです。
試験は順調に推移しており、このまま順調に進めば9月にはすべての試験を終了することになります。このあと、着陸機は組み立てを行っているヨーロッパ(ドイツ)から打ち上げ場所であるアメリカ・フロリダ州へと輸送され、もっとも早いスケジュールであれば11月にも打ち上げられるとのことです。なお、打ち上げはスペースX社のロケット「ファルコン9」を使用します。
アイスペース、そしてHAKUTO-Rは月への挑戦の長い歴史を持っています。アイスペースの母体は、2018年に勝者なく終了した宇宙開発競争「グーグル・ルナーXプライズ」に挑戦した日本チームであり、そのときに開発されたローバーがHAKUTOでした。しかし残念なことに打ち上げ機の確保に手間取るうちに競争のタイムリミットが来てしまい、結局月への打ち上げには至りませんでした。
しかし、技術的には月に行けるだけのポテンシャルを十分に有していたことから、今度は会社としてのミッションを行うこととし、名前もリブート(再起動)などの意味から「HAKUTO-R」と名付け、計画を着々と進めてきました。HAKUTOでの反省を活かして早い時期に打ち上げロケットを確保するなど、まさに着実な開発を積み重ね、もうあと一息というところまでやってきました。
アイスペースのCEO(最高経営責任者)・創設者および代表取締役である袴田武史さんは、このHAKUTO-R1号機が「民間宇宙開発の歴史的転換点になる」と信じていると語り、この打ち上げがアイスペースだけではなく、日本、そして世界の月探査、商業月輸送の歴史を変える可能性があることを強調しています。その上で、この後に続くミッションにとってもこの1号機が大切なものであると述べており、またミッションのために日々努力しているアイスペース全社員、関係者、パートナーへの謝意を表しています。
またアイスペースはこれに合わせ、HAKUTO-Rに新たなサポーティングカンパニー(支援企業)が2社加わったことを発表しました。
東レ・カーボンマジック
同社はもともとスーパーカーの開発事業を手がけており、そこで培われた最適化設計、軽量化技術を月着陸機や月面ローバーに応用することを目指します。
横河電機
工業機器やプロセス制御システムの世界最大手のうちの1社です。日本ではあまり名前が知られていないかも知れませんが、海外では圧倒的な知名度と信頼力を誇ります。水資源探査に必要な計測技術や水素バリューチェーンに必要な制御技術など、将来的な月面活動のインフラ技術で貢献することになります。
現在、日本で月へ向かおうとしている探査機は、アルテミス1に相乗りする「エクレウス」「オモテナシ」と、NASAの商業月輸送プログラム(CLPS)1号機によって月に運ばれる予定の「ヤオキ」(YAOKI)、またJAXAが開発を進めている「スリム」(SLIM)があります。いずれもが今年度中…2023年3月…までに月に向かう予定で、今回のHAKUTO-Rもそのうちの1機となるわけです。
なお、純民間による月探査(月輸送)はこのHAKUTO-R1号機がはじめてとなる見通しです。その前にCLPS1号機が月に向かうかも知れませんが、こちらについてはまだ明確に打ち上げ時期がアナウンスされていません。
長い努力と苦労を重ねてきたHAKUTO-R、無事、月へと届いて欲しいものです。
アイスペースのプレスリリース
https://www.ispace-inc.com/jpn/news/?p=2306
HAKUTO
※2018年現在の情報です
ヨーロッパ宇宙機関、エクスマーズでのロシアとの協力を中止
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は13日、「中断」状態となっていた火星探査機「エクソマーズ」を巡るロシアとの協力関係を正式に「中止」すると発表しました。今後の実施方針については、20日に開催される評議会で正式決定するとのことです。ESAのジョゼフ・アッシュバッカー長官がツイッターで発表しました。
エクソマーズは、ヨーロッパとロシアが共同で進めている火星探査計画です。打ち上げは2回に分かれていて、2016年に第1回の打ち上げが行われ、ここでは火星大気を観測する周回機(TGO)と、着陸実証機が打ち上げられました。周回機は火星周回軌道投入に成功しましたが、着陸実証機は降下中に行方不明となりました。
第2回の打ち上げでは、ヨーロッパ製のローバー「ロザリンド・フランクリン」と、ロシア製の着陸プラットホーム「カザチョク」が打ち上げられる予定でした。
第2回の打ち上げは当初2020年が予定されていましたが、新型コロナウイルスの流行などの理由で2年延期され(火星への打ち上げ好機は2年に一度やってきます)、2022年となりました。そこに襲ったのが、ロシアのウクライナ侵攻です。
この事態を受けて、ESAは直ちにロシア(ロシアの宇宙機関=ロスコスモス)との関係の見直しに入り、エクソマーズについても、今年度の打ち上げは難しいとの声明を出しました。
アッシュバッカー長官は13日に発信されたツイートで、上記の通りエクソマーズについては、ロシアとの協力関係を築くことが難しい状況に変化はないとの認識を示した上で、エクソマーズにおけるロシアとの協力関係を(「見直し」から)正式に中止とすると発表しました。これはESAの評議会により決定したものです。
なお、正式な発表は20日(現地時間)の記者会見で行うとのことです。
On a different note, today @ESA Council addressed the ExoMars Rover and Surface Platform mission, acknowledging that the circumstances which led to the suspension of the cooperation with Roscosmos – the war in Ukraine and the resulting sanctions – continue to prevail.
— Josef Aschbacher (@AschbacherJosef) July 12, 2022
As a consequence, Council mandated me to officially terminate the currently suspended cooperation with Roscosmos on the ExoMars Rover and Surface Platform mission.
New insights on the way forward with other partners will come at a media briefing on 20 July, details to come.
— Josef Aschbacher (@AschbacherJosef) July 12, 2022
一方、ロシアのタス通信は、この発表について「ロシアはESAなしでもエクソマーズ(の一部)ミッションを遂行できる」との表題の記事を出しています。
こちらによりますと、ロスコスモスのプレスサービスは「ヨーロッパ(の協力)なしでもロシア側の(エクソマーズ)ミッション部分は実行できる」とのことで、まだESAからの正式を受け取っていないため、彼らの「ツイッター外交にしか反応できない」と述べています。その上で、ヨーロッパは「火星での生命探求といった共同の(科学的な)目的よりも、特定の当局者や国の野心を優先した」と批判しています。
またこの記事では、ロシアの国営宇宙開発法人(ロスコスモスのことでしょうか)がESAと交渉し、2024年にロシア製の着陸プラットホーム「カザチョク」を打ち上げることに合意した、という内容も含まれています。ただ、これについては他の報道機関などからの同様のニュースはありません。またそもそも、上記のアッシュバッカー長官のツイートなどとも全く矛盾する内容なので、これはないのかと思われます。
ESAとロシアとの協力関係は、このエクソマーズの他にも、ソユーズロケットの打ち上げがあります。こちらについては侵攻直後にロシアの技術者が南アメリカ・フランス領ギアナの打ち上げ基地から撤退しています。エクソマーズと同様、こちらでの協力関係も停止するとみられます。
今回のESAからの「中止決定」は、ほぼ確実なものかと思われます。ウクライナ情勢がすぐに好転するということは100パーセント考えられませんし、ロシア側とヨーロッパ側の「言い分」が完全にずれていることからも、相互の医師の修復は相当困難かと思われます。
となりますと、今後については以下のようなルートが考えられるでしょう。
①エクソマーズ2022の完全中止。打ち上げもせず、ローバー、着陸プラットホームともそのまま保管ないしは廃棄。
②ヨーロッパ側だけでエクソマーズ2022を実施。具体的には、何らかの方法でローバーだけを打ち上げられるような改造を施す。また、ロケットも新たに調達する。
①はそれなりに可能性が高いのですが、個人的には大変もったいない決断になるかと思います。構想段階から20年もかけてようやくたどり着いたローバーですし、ヨーロッパとしては史上初の月・惑星探査ローバーとなります。なんとしても実施したいというのが、特にミッションチームの希望でしょう。
ただ問題は、ロシア側が「着陸プラットホーム」という、ローバーにとって必要不可欠な部分を握っていることです。仮にロシア側の協力を得られずにそのまま打ち上げるということになると契約違反などの問題も出てきかねませんし、ロシア側からのサポートを得られなければいざというとき、あるいは火星地表へローバーを下ろすときなどに運用が困難になる恐れがあります。
そこで、②の作戦です。つまり「何らかの形で」ロシア側の着陸プラットホームの代替品を開発する、あるいは全く別の方法で、着陸プラットホームを必要としない形でローバーのみを単独で打ち上げる形です。
重量や打ち上げ時の計上などは大幅に変更になりますので、再設計からかからなければいけません。ローバーも再設計が必要になるかも知れません。その場合、一度分解し、使える部品だけを確保した上で再度組み立てを行い、打ち上げるという形が考えられます。
もっとも、そもそも打ち上げ用のロケットも新たに調達する必要がありますから、その時点で再設計を余儀なくされることは確かです。であればあとは時間と費用の問題ということになります。
時間ですが、火星への打ち上げ好機は2年に一度しかやって来ませんので、それを睨むと、2024年に間に合わせるためには、再設計やロケットの調達などは非常に厳しいと思います。余裕を持たせる線でいえば2026年あたりの打ち上げを目指して再設計にかかるというのが妥当な線ではないでしょうか。
一方、ロシア側が主張する「単独で着陸プラットホームだけを打ち上げる」(つまり、エクソマーズ2022のロシア部分だけをロシア独自で実施する)という方ですが、この場合も準備にかなり時間がかかるように思います。そもそも、ロシアは現在海外から厳しい経済制裁を受けており、そのための部品調達だけで(宇宙開発には最先端の部品が必要です)相当な苦労を強いられるはずです。実現性は低いように思われます。
いずれにせよ、ESAは20日に記者会見を開き、今後について明らかにすると述べています。その情報を待つことにしましょう。
タス通信の記事
https://tass.com/science/1479131
エクソマーズ (月探査情報ステーション)