京都大学は8月2日、小惑星探査機「はやぶさ2」が2026年に探査を行う予定の小惑星2001 CC21について、その形状の推定に成功したと発表しました。発表された形状は、細長い楕円体をした形です。

小惑星2001 CC21とはやぶさ2

京都大学の研究者らのグループが行った研究に基づいた、小惑星2001 CC21の形状と、そこへ接近するはやぶさ2の想像図。2026年にそばを通り過ぎる(フライバイ)形で観測を行う。実際の形状は観測の際に判明すると考えられる。
画像: © 有松亘/JAXA
出典: 京都大学OASES/PONCOTSプロジェクトのX投稿
https://x.com/OASES_miyako/status/1819169913883578763

そもそも、「はやぶさ2」がまだ宇宙にいて探査を続けている、ということ自体をご存じない方もいらっしゃるかも知れませんので、簡単にこれまでを振り返ってみます。
はやぶさ2は小惑星からサンプルを持ち帰り、小惑星の起源や地球・生命の起源を明らかにすることを目的とした探査機です。
2014年12月に打ち上げられ、2018年6月に目的地の小惑星「リュウグウ」に到着、2019年2月と7月に2回のサンプル採取を実施しました。2019年11月に小惑星を出発、2020年12月に帰還カプセルが地球に帰還しました。そして内部には約5グラムのサンプルが入っており、この解析により、水や有機物が存在することが確認されるなど、これまでの小惑星像を一変させる成果が相次いでいます。

さて、このように目的を果たしたようにみえるはやぶさ2ですが、実は帰還の時点でまだ燃料もかなり残っていました。
初代「はやぶさ」は、度重なるトラブルのために燃料が全て失われ、帰還カプセルを地球に戻す軌道に乗せるためには本体ごと地球に突っ込まざるを得なかった…そして地球の大気圏で燃え尽きる姿が多くの人の感動を呼んだわけですが、今回はそういうことはありませんでした。帰還カプセルを分離したあと、はやぶさ2の本体は大きく軌道を変更して再び宇宙へと戻りました。
そして、「拡張ミッション」と呼ばれる、さらなるミッションを始めたのです。

拡張ミッションでは、2026年に小惑星2001 CC21のそばを高速で通り過ぎて観測し(高速フライバイ)、さらに2031年には小惑星1998 KY26に到着し、詳細な観測を実施する予定です。なお、小惑星の名前の付け方については、記事末にある月探査情報ステーションの解説ページをご参照下さい。これらの小惑星にはまだ名前がついておらず、仮符号と呼ばれる記号で呼ばれています。
小惑星の詳細についてはその観測でわかるとはいえ、今からそれらの小惑星がどのような姿化を明らかにしておくことは、ミッションをより確実に実施する上でも大いに役立ちます。

今回、京都大学白眉センター及び理学研究科附属天文台に所属する有松亘特定助教を中心とするグループは、この2001 CC21の掩蔽(えんぺい)現象を利用し、さらに独自の解析プログラムを開発することで、この小惑星の形状を推定することに成功しました。その結果、この小惑星が細長い形をしているらしいことがわかりました。

掩蔽とは、天体(特に恒星など)の前を別の天体が通過し、後ろ側の天体を隠す現象のことです。
掩蔽によりある天体が隠される時間を詳細に測定することで、その天体の大きさなどを推定することが可能となります。
例えば、天王星の輪は、天王星の掩蔽現象の観測中、思ったよりも早く天体が見えなくなった(そして思ったよりも遅く再度みえるようになった、かつ天王星本体の掩蔽の前後に同じ回数だけ前後に天体が見えなくなった)ことで発見されました。

今回は、2023年3月5日、きりん座にある10等星の恒星が小惑星2001 CC21で隠される掩蔽現象の観測を実施しました。観測には日本全国のアマチュア天文観測者も参加しました。
日本の20地点で観測が実施されましたが、このうち滋賀県のアマチュア天文家・井田三良さんが、わずか0.1秒というごくごく短い時間の掩蔽を観測することに成功しました。2001 CC21は大きさわずか500メートルほどと推定されていますが、これだけ小さい天体による掩蔽現象を観測するというのは画期的なことでした。

ただ、本来であれば、複数地点の観測からそのズレを見極め、小惑星の形状を推定したいところでした。しかし成功したのが1箇所だけだったので、この方法は使えません。
そこで今回、有松助教のチームは新たな解析手法を開発しました。その名も「DOUSITE」(どうして)(Diffracted Occultation’ s United Simulator for Highly Informative Transient Explorations)というものです。

掩蔽の際には、カメラのシャッターが切れるように、光が急に消えるわけではありません。後ろの天体を隠し始めるとき、あるいは隠し終わるときには、徐々に光が消えて(現れて)きます。この光の回り込み(回折現象)を今回は利用しました。
この方法では、様々な小惑星の形を仮定した上で、掩蔽の際に生じる光の回り込みを正確にモデル化することができます。これと現実の観測結果を精密に比較することで、小惑星がどの形にいちばん近いのかを知ることができるというわけです。

その結果、小惑星2001 CC21の形状が細長いものであると仮定すると最もよく観測結果をよく説明できることがわかりました。具体的には、長径(長い方のさしわたし)が840メートル、短径(短い方のさしわたし)が310メートルという形状が観測結果と最もよく一致します。

いまのところ、天体が「楕円体らしい」というところまでしかわかっていませんが、それを下に描いたイラストが上記のものです。
詳細な形状はわかっていないため、果たして初代「はやぶさ」の探査先であったイトカワのようなピーナッツ型(2つの天体がくっついた形)になっているのかどうかは実際にはまだわかっていませんが、その可能性も十分あるといえるでしょう。
少なくとも、「はやぶさ2」の探査先であったリュウグウ、あるいはオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の探査先であったベンヌのような「そろばんの玉型」ではなさそうです。

今回の成果は、2026年のはやぶさ2のフライバイを前に、その天体の様子を知っておくという意味で大変貴重なものです。
ある程度の大きさの推定ができていればフライバイもより確実に行えますし、観測計画を立てる上でも重要です。

それ以外にも、小惑星観測という意味でも重要な成果です。
今回のように、1箇所の観測データしかなかったとしても小惑星の形状を推定できる技術は、他の小惑星の観測にも当然応用できます。これまであきらめていた形状推定もできるかも知れません。

さらに、今回はアマチュア天文家の観測ということもあり、市民科学(シチズンズサイエンス)という側面からも大きな成果といえるでしょう。
もともと、天文学はアマチュア観測家の観測により進んだ面もありました。そういう意味で、市民科学と天文学は非常に相性がいい、あるいは市民科学からみて天文学は先進事例であるともいえるのですが、今回はさらにその事例を推し進める成果となるでしょう。観測にも広範なプロ・アマチュアのメンバーが参加していますし、これからもこのような協力体制が大きな成果を出せる事例が多く出てくるのではないでしょうか。

最後に、有松助教からのメッセージを。

掩蔽観測楽しいよ!みんなやってみて!