小惑星には、「イトカワ」といったようなわかりやすい名前がついているものもあれば、1999 JU3のような、よくわからない名前がついているものもあります。特に後者(仮符号といいます)がどのような形でつけられているのか、そのルールについて解説します。

仮符号

まず、小惑星が発見されると、その発見は、ハーバード大学内にある、国際天文学連合(IAU)の下部組織の小惑星センター(MPC: Minor Planet Center)というところに送られます。2晩の観測によって軌道要素が決定された時点で、その小惑星にはまず仮の名前として、仮符号というものが与えられます。上記の「1999 JU3」というのがそれです。
なお、仮符号は正式には空白を入れ、1999 JU3のように表記します。

仮符号の付け方

仮符号は、以下の3つの部分に分解できます。

  1. 最初の4文字(発見年)
    発見年(西暦)を示します。例えば「1999 JU3」であれば、発見年は1999年です。
  2. 次の1文字(半月番号)
    「1999 JU3」の 「J」にあたるものです。これは、1年を24期間(12ヶ月をさらに半月ごとに区切った期間)に区切り、そのどの期間で発見されたかを示します。

    A 1月1日〜15日 J 5月1日〜15日 R 9月1日〜15日
    B 1月16日〜31日 K 5月16日〜31日 S 9月16日〜30日
    C 2月1日〜15日 L 6月1日〜15日 T 10月1日〜15日
    D 2月16日〜29日 M 6月16日〜30日 U 10月16日〜31日
    E 3月1日〜15日 N 7月1日〜15日 V 11月1日〜15日
    F 3月16日〜31日 O 7月16日〜31日 W 11月16日〜30日
    G 4月1日〜15日 P 8月1日〜15日 X 12月1日〜15日
    H 4月16日〜30日 Q 8月16日〜31日 Y 12月16日〜31日

    なお、「I」(アルファベットの「アイ」)は、数字の1と紛らわしいため、この半月番号では使用されません。

  3. 順序符号
    「1999 JU3」のU3にあたる部分は、上の半月番号の期間内の何番めに発見されたかを示す順番です。この順番は、以下のような独特なルールになっています。

    • その期間内に発見された1番目から25番目までの小惑星には、I(アイ)を除く25個のアルファベットを順番に割り当てます。例えばAは1番目、Yは24番目ということになります。
    • 26個以上発見された場合、今度はまたAへと戻りますが、その後ろに1という数字をつけます。例えば、A1となった場合には26番目、B1となれば27番目、…Z1となれば50番目となります。
    • 51個以上発見された場合、数字は2となります。51番目はA2,52番目はB2、…となります。
    • このようにして、25個ずつ、アルファベットを繰り返しながら数字を増やし、小惑星の順番通りに仮符号を作っていきます。

    例えば、1999 JU3の場合、順序符号はU3ですから、Jで表される5月1日〜15日の期間中に、25+25+25+20=95番目に発見された小惑星ということになります。

このようにして、発見されて軌道が確定した小惑星には仮符号が割り当てられていきます。

小惑星番号

仮符号がつけられた小惑星は、あくまで「仮」であり、その後のより詳細な観測によって、前に発見された小惑星と同じであると認定されたり、実は彗星など別の天体であった、ということになる可能性もあります。
何回かの観測によって、その天体の軌道が決定され、これまでに発見されていない天体であると小惑星センターで認定された時点で、「小惑星番号」が付与されます。この時点で、小惑星は1つの新しい天体として登録されたことになります。
従って、小惑星の場合、正式に呼ぶ場合には次のようになります。

小惑星 25143 イトカワ (1998 SF36)
Asteroid 25143 Itokawa (1998 SF36) …英語の場合

なお、小惑星番号は、「小惑星」という名前がついていますが、彗星や準惑星にも付与されます。
例えば、2006年に惑星から準惑星へとその分類が変更された冥王星には、小惑星番号134340が与えられています。なお、小惑星1番は、最初に発見された小惑星(そして現在は準惑星に分類されている)ケレスです。

命名方法

小惑星番号が与えられた小惑星には、名前をつけることができます。
基本的に、小惑星の名前については、以下の様々な条件を満たすことが必要となります。

      • 前に名付けられているものと重複していないこと。
      • 他の天体につけられている地名や天体名などと著しく類似していないこと。
      • 発音がしやすいこと。
      • 1語であることが望ましい。ただ、名前のように2語以上に分かれる場合、1語として登録することも可能です。
      • アルファベットで16文字以下であること。
      • 公序良俗に反しないものであること。
      • 人名については、その個人が政治家、あるいは軍人である場合、死後100年以上経過していることを原則とする。
      • 政治、あるいは軍事に関連するできごとに関しては、それが起きてから100年以上経過していることを原則とする。
      • ペットの名前は原則として好ましくない。
      • 商業的な理由での命名は認められない。

なお、特定の小惑星(トロヤ群小惑星など)については、それぞれ別の命名規則があります。例えば、トロヤ群小惑星については、トロイ戦争の英雄の名前をつけることが基本となっています。
以上のような規則を元に、命名者が名前を提案し、IAUによって認められれば、その小惑星に名前がつくことになります。しかし、10万個以上も発見されている小惑星ですから、いろいろな名前がついているのはむしろ当たり前といえましょう。変わったところでは、

      • ジェームズ・ボンド (9007 Jamesbond, 小惑星番号に「007」という数字を含むため)
      • 仮面ライダー (12796 Kamenrider, 「あの」仮面ライダーです)
      • IAU (5000 IAU, 5000番というきりのいい番号が、IAU自身に使われている)
      • オールイーブン (24680 Alleven, 小惑星番号の数字がすべて偶数(イーブン(even))であることから)
      • オテル・ラシーヤ (3705 Hotellasilla。チリにある天文台の観測者がよく泊まっていたホテルの名前)

などというものがあります。最近では発見される小惑星の数が激増しているため、命名はまったく追いついていないのが現状です。
なお、命名の権利は基本的に発見者にあります。ですが、最近では大規模な小惑星観測などが実施されており、その実施担当者は事実上、膨大な数の小惑星への命名権利があります。そのため、彼らが名前をつけることはあまりなく、命名者が発見者に対して名前をつけることを要請し、命名されることが基本です。なお、最終的に名前を認定するのはIAUです。
イトカワの場合、発見したのはハーバード大学の地球軌道接近型小惑星研究チーム(リニア: LINEAR)であり、彼らの大規模観測によってみつけられたものです。「はやぶさ」を打ち上げた宇宙科学研究所がこのチームを通してIAUに申請し、名前が認められたわけです。


■参考資料