皆様、新年あけましておめでとうございます。
旧年中は月探査情報ステーションをご愛顧いただきまして、本当にありがとうございました。

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2022年は、世界と日本の月探査が再び動き出した年として、後世に記憶されることでしょう。
その象徴は、なんといっても「アルテミス計画」第1弾となる「アルテミス1」ではないでしょうか。

アルテミス1は、昨年3月にお披露目が行われ、そのときには6月にも打ち上げか、との情報が流れていました。
しかし、4月に行われた最終点検(最終リハーサル)ではトラブルが相次ぎ、打ち上げは8月末へと延期。しかしその打ち上げも度重なるロケットのトラブルでの延期を余儀なくされました。さらに9月末に延期された打ち上げにハリケーンが直撃、最終的に11月半ばの打ち上げとなりました。

しかし、アルテミス1…打ち上げロケットとなるSLSと、月へ向かうオライオン宇宙船…は共に打ち上げ後はパーフェクトな動作を行いました。最終的に無事帰還し、計画は成功裏に終了しました。延期など、ロケットの信頼性にはまだまだ課題があるとはいえ、2025年にも予定されている人類の月面着陸に大きく前進したことは間違いありません。

一方、12月には世界初の純民間企業による月探査機の打ち上げが行われました。そしてそれは日本の企業でした。アイスペースによるハクトR(HAKUTO-R)1号機の打ち上げです。こちらも打ち上げは成功し、現在(12月末)月に向けて順調な飛行を続けています。今年4月末にも月面に着陸する予定です。
民間企業による本格的な月探査、あるいは月輸送への進出、またそれが日本企業によリ世界ではじめて達成されたことは大きな意義があるでしょう。日本における宇宙開発、特に宇宙ベンチャー企業による宇宙開発が活発になり、それが低迷気味の日本経済を引っ張るきっかけになれば、これ以上うれしいことはありません。

この他にも、韓国初の月探査機「タヌリ」(KPLO)の打ち上げもあり、まさに月一色の一年となりました。

一方で、世界情勢が宇宙開発に大きな影を落としたことも指摘しておかなければなりません。
2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、世界に大きな衝撃を与えるとともに、世界政治・世界経済に大きな影響を与えました。宇宙開発にも大きな影響を及ぼしています。ロシアとヨーロッパ共同で行われる予定だった火星探査「エクソマーズ」もロシア部分がキャンセルとなり、今後の見通しが不透明になっています。宇宙開発大国が侵略戦争を仕掛けるという未曾有の状況の中で、この先世界の宇宙開発がどう変化していくのか、また月・惑星探査にどのような影響が及ぼされるのか、情報を細かく注視していくことが必要でしょう。

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2023年は、昨年の月探査一色の傾向が引き継がれていくと考えられます。

アルテミス1のような大きな打ち上げはないものの、2024年のアルテミス2に向けての準備が進められるでしょう。また、NASAが進める商業月輸送プログラム(CLPS)の1号機の打ち上げも予定されています。こちらには日本のベンチャー企業ダイモンが開発した超小型月探査ローバー「YAOKI」が搭載され、月面で活躍する予定です。CLPSの打ち上げは遅れていますが、この1号機をきっかけに今後も順次進められていくでしょう。HAKUTO-Rとともに、民間企業による月へのアプローチが加速することが期待されます。

また、H3ロケット打ち上げの関係で2023年度に打ち上げが延期された日本の月着陸機「スリム」(SLIM)も注目です。
狙った場所にピタリと着陸する「ピンポイント着陸」は、将来の月科学探査だけではなく、将来の月輸送にも必要とされる技術です。
SLIMには超小型変形型月面ローバー「ソラキュー」(SORA-Q)も搭載されます。SORA-QはタカラトミーやJAXAによリ開発された球体ローバーで、2つの変形モードで月面を自在に動き回ることができます。
超小型探査機であり、アルテミス1に相乗りしていったオモテナシ(OMOTENASHI)を除けば、JAXAとして日本から打ち上げられる月探査機としては、2007年の「かぐや」以来となります。
日本が月面での存在感を強めていく大きなチャンスになるかと思います。

小惑星探査では、延期されていた「サイキ」の打ち上げが10月1日(アメリカ現地時間)に予定されています。金属質の小惑星プシケを探査するという意味では、これまでにないミッションといえます。プシケの探査は、将来の宇宙資源開発などにも重要な示唆をもたらすでしょう。
また、「アメリカ版はやぶさ」と呼ばれることが多かったアメリカの小惑星サンプルリターンミッション「オサイレス・レックス(オシリス・レックス)」の帰還も今年9月です。「はやぶさ」や「はやぶさ2」と同様、小惑星のサンプルの分析に期待が集まります。とりわけ、オサイレス・レックスの行き先ははやぶさ2のターゲットであったリュウグウと同様のC型小惑星です。リュウグウのサンプルの解析も進められていますが、2つの異なるC型小惑星のサンプルの比較は、私たちに小惑星についての新たな知見をもたらすことでしょう。

日本に絡むといえば、さらに遠くの惑星探査にも注目です。
ヨーロッパと共同で進められている木星探査計画「ジュース(JUICE)」がいよいよ、この4月に打ち上げを迎えます。木星とその衛生を探査するこの計画は、木星そのもの、そして生命の可能性も指摘されるエウロパなど、この巨大惑星の謎を解き明かすであろうと期待されます。日本とヨーロッパ共同の探査、開発に10年、そして8年後の2031年木星到着という壮大な計画です。

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さて、2023年は月探査情報ステーション誕生から25周年の節目の年となります。
インターネットの世界はよく「ドッグイヤー」と呼ばれます。犬の年齢のように、1年が(人間の年では)7歳にもあたるという意味で、転じて進歩や展開が非常に速いという意味です。
宇宙開発や月・惑星探査の世界も、非常に展開が速い世界といえます。特に民間宇宙開発が広がり始めたこの数年は、展開がどんどん速くなっているようにみえます。
その中で、月探査情報ステーションは25年間にわたり、着実に情報を伝え続けることができました。それだけではなく、25年間にわたる分厚い情報の蓄積は、ウェブ上での大きな資産として皆さまのお役に立てています。
これも、日頃からの皆さまのご支援の賜物であり、深く感謝申し上げます。

ただ、ずっと悩まされ続けていた運営体制の問題はだんだん深刻となってきています。
私自身が仕事でもプライベートでも多忙となった昨年は、更新が途絶えることが多くなってしまいました。アルテミス1やHAKUTO-Rといった重要ミッションにリアルタイムで情報が追随できなかったことは、私としてもたいへん悔しく思っています。
この点、今年は体制を立て直していく元年としていければと考えております。25年、四半世紀を経て、新しい世界にステップアップできれば…。新年の始まりにあたり、この点を希望と目標の両方として定めていければと思います。

月探査情報ステーションの3つのポイント、月・惑星探査の情報を「正しく」「わかりやすく」「すばやく」のうち、最後の「すばやく」がなかなか達成できておりませんが、焦ることなく、今年も着実に自らのミッションを成し遂げていきたいと思います。

本年も月探査情報ステーションをご愛顧・ご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2023年1月1日
月探査情報ステーション 編集長
合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表社員(社長)
寺薗 淳也