月探査情報ステーションをご覧の皆様、新年明けましておめでとうございます。

おととし12月に打ち上げられた「はやぶさ2」でのフィーバーに続き、またも昨年は年末12月に惑星探査のフィーバーがやって来ました。その「はやぶさ2」の地球スイングバイ、そして、5年越しの悲願と努力の末、日本初の惑星探査機となった金星探査機「あかつき」です。
「はやぶさ2」の地球スイングバイは、精密な軌道制御技術とそれに合わせた探査機の制御が成功の秘訣でした。そして「あかつき」は、5年前に周回軌道投入に失敗したとはいえ、その失敗の原因を探り出し、対応策を打った上で、「決してあきらめない」という姿勢のもと、5年間にわたる運用を行い、無数ともいえる金星周回軌道投入軌道のうち最適なものを選び出すという、頭から血がにじみ出るような努力を重ねた末の勝利でした(この文章の長さがまさに「あかつき」の苦闘を物語っているといえるでしょう)。
また昨年前半には、日本が新たな月・惑星探査に乗り出すというニュースが大きな注目を集めました。月着陸機「スリム」、そして火星衛星からのサンプルリターン計画です。新たな月・惑星探査は喜ばしいことではあるのですが、一方ではその決定過程や実効性について、私たちは今後もしっかりと見続けていくことが必要です。

他方、外国に目を向けますと、やはり昨年7月の「ニューホライズンズ」冥王星探査が大ニュースだったといえるでしょう。なんといっても、人類がはじめて目にする冥王星の姿です。そしてそれは、私たちの想像をはるかに超え…というよりは、謎が謎を呼ぶ不思議な世界でした。富士山並みの高さの山、すっかり有名になった「ハート型の模様」、一転して滑らかな地形など、最果ての地は私たちの好奇心を満たし、想像力を最大限発揮させる場所でした。そして科学者には、これらの膨大な謎を解明するという大きな仕事が待っています。

2016年は、これまた月・惑星探査が盛り上がる年になりそうです。
まず3月には、ヨーロッパとロシアが共同で計画している火星探査機「エクソマーズ」の打ち上げがあります。
エクスマーズは周回機と着陸機からなる探査計画で、2016年に続き、2018年にも探査機が打ち上げられられます。これらにより、新たな火星探査の地平を拓こうとしています。
一方、同じ3月に打ち上げられる予定であった火星探査機「インサイト」は、直前の12月末、搭載される地震計の不具合により打ち上げが延期されることになりました。少なくとも2016年の打ち上げはキャンセルということで、残念ではありますが、ミッションの確実な成功のためには仕方ないといえるでしょう。

4月には「あかつき」がいよいよ、金星観測を開始します。すでに何枚かの写真が公開されていますが、科学者の間でも早速写真に映っている様々な模様について議論が始まっています。本観測が始まれば、金星の謎、とりわけ大気の謎について新しい知見が得られることが期待されます。

7月、2011年に打ち上げられ、5年にわたって宇宙空間を旅していた木星探査機「ジュノー」が、ついに木星に到着します。木星の磁場や大気、内部構造などを調べる探査機です。木星探査機は、1990年代の「ガリレオ」以来実に20年ぶりです。ガリレオに比べますとジュノーはやや地味という側面は否めませんが、ガリレオ当時よりも格段に進化した観測装置で、新たな木星の謎に挑んでくれることでしょう。

そして9月。「アメリカ版はやぶさ」とも称される小惑星探査機「オサイレス・レックス」(オシリス・レックス)が打ち上げられます。小惑星からサンプルを取得し帰ってくるという点はまさに「はやぶさ」「はやぶさ2」と同じですが、サンプル採取機構などを含め、独自のコンセプトで作られた部分が多々あります。そしてなんといっても、「はやぶさ2」チームとオサイレス・レックスのチームは密接に交流しており、互いの成果を競い合いつつ協力していくことになっています。
このような探査が、小惑星の謎を解き明かし、ひいては私たちの地球、そして私たち自身の誕生の謎につながっていくことを期待したいです。
一方では、このオサイレス・レックスは、今やアメリカの宇宙政策の重要地点と位置づけられています。それは、オサイレス・レックスが、やがてやってくる小惑星有人探査ミッションの先鞭と位置づけられているからです。アメリカが国家宇宙プロジェクトとして推し進める「小惑星イニシアチブ」のさきがけとなるミッションであり、その小惑星イニシアチブ自体にも大きな影響を与えるのではないかと注目されます。もちろん、この小惑星イニシアチブの検討状況も注視していく必要があるでしょう。
アメリカは、小惑星有人探査を、究極の目標である有人火星探査へのステップと位置づけています。しかし、来年はアメリカ大統領選挙の年です。アメリカの宇宙計画は大統領が交代するたびに変化してきました。来年すぐに変化が現れるということはないとしても、どのような人(さらにいえば、共和党か民主党か)が大統領になるかで、アメリカの宇宙政策はまた大きく変わる可能性があります。直接月・惑星探査とは関係しませんが、アメリカの大統領選挙も実は世界の月・惑星探査にとって大きなポイントになりそうです。

月探査に関しては、10月に打ち上げられるといわれている中国の月探査機「嫦娥4号」に注目です。嫦娥4号は史上初の月の裏側への着陸を目指すとされています。その成否と共に、本命とされるサンプルリターン探査機「嫦娥5号」の進捗状況も注目です。ただ、中国は景気減速に伴って国家経済にも少しずつ影響が出てきているとの報道がなされています。中国がこれからも、これまでのようなペースで月探査機の打ち上げを続けていけるのか、その状況も綿密にウォッチしていかねばなりません。
また、月探査への意欲を明確にしているロシア、そして2017年に月着陸機チャンドラヤーン2を打ち上げるとされているインドの動きも注目です。

そして気が早いですが、年末から来年にかけては、日本とヨーロッパ共同の水星探査機「ベピ・コロンボ」の打ち上げに関するニュースがいろいろと出てくることでしょう。水星探査は、アメリカの探査機「メッセンジャー」以来数年ぶりとなるわけですが、ベピ・コロンボは内部構造に焦点を当てた探査ということで、一味違う中身になっています。その分、興味深い成果が出てくるのではないかと期待されます。

今年も月・惑星探査は話題が盛りだくさんです。ここに挙げた探査機以外にも、すでに稼働している数多くの月・惑星探査機が、新しい成果をもたらしてくれることでしょう。月探査情報ステーションでは、今年もこれらの成果を「正しく」「わかりやすく」「素早く」お伝えしていく予定です。

さて、月探査情報ステーションは、今年、十数年来の大きな変化を迎えます。
月探査情報ステーションのトップページをご覧いただくと、古めかしいデザインであることがよくわかるかと思います。実際、サイトのデザインは2003年のもので、ウェブ技術の点からもデザインの点からも非常に古いものとなっています。また技術面からみても、このような古さが、迅速な情報更新の妨げになっています。
これらを抜本的に改善するためのリニューアル作業が現在進行しています。新たに、ウェブページを一括管理・編集できるCMS(コンテンツ管理システム)が導入されます。さらに、デザインも一新、モダンでかつより親しみやすいデザインへと衣替えします。
3000ページ以上ものページを抱えるサイトということもあり、作業は2年がかりとなっていますが、現在はコンテンツの移設を行うという最終段階に到達しています。今年第1四半期中、早ければ1月中にも、皆様に新しいサイトをお披露目できるかと思います。
それは、かつて「かぐや」のプロモーションサイトとして始まったこのサイトが、総合情報サイトとして生まれ変わっていく過程を、一気にジャンプして表現したものといえるでしょう。
ぜひ、新しい月探査情報ステーションにもご期待下さい。

今年も多くの月・惑星探査のトピックスをお伝えしていきたいと思います。月探査情報ステーションへの変わらぬご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。

月探査情報ステーション 編集長
寺薗 淳也