月探査情報ステーションの火星・火星探査のコーナー「火星・赤い星へ」が、この7月1日で開設から20周年を迎えました。2003年7月1日に設立されて以来20年、火星と火星探査についての最新情報を伝え続け、現在に至りました。

マーズ・エクスプレスによる火星の高解像度モザイク

マーズ・エクスプレスの高解像度ステレオカメラ(HRSC)が撮影したデータをつなぎ合わせて作られた、火星全球のモザイク写真。打ち上げ20周年を記念してESAが公開したもの。
Photo: © ESA/DLR/FU Berlin/G. Michael, CC BY-SA 3.0 IGO

「火星・赤い星へ」は、月探査情報ステーションのベースとなった、旧・宇宙開発事業団のウェブサイトのコンテンツ「月・惑星へ」のうち、火星探査についてのページをベースに大幅に拡張したコーナーです。

「火星・赤い星へ」コーナーが誕生した2003年は、火星に向けて双子のローバー「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」(愛称「スピリット」「オポチュニティ」)が打ち上げられた年でした。火星探査の新たな時代を告げるかのように打ち上げられたこの2台のローバーは、翌2004年1月に火星に無事到着、火星表面の探査を行いました。そして、3月には火星にかつて水が流れていた証拠を発見するなど、私たちの火星への認識を深める大きな役割を果たしました。
さらに、当初90日の予定であったミッションは結局信じられないほど長続きし、スピリットは2011年5月まで、オポチュニティに至っては10年以上も働き続け、2018年6月に通信が途絶するまで実に14年半も動き続けるという快挙を成し遂げました。

火星探査ローバー「オポチュニティ」

マーズ・エクスプロレーション・ローバーのうちの1台「オポチュニティ」。もう1台のローバー「スピリット」も同じ形。
(Photo: NASA/JPL-Caltech)

また、2003年は同じく火星探査機としてヨーロッパがはじめて「マーズ・エクスプレス」を打ち上げた年でもあります。周回機であるマーズ・エクスプレスは翌2004年に火星を回る軌道に無事投入され、以来今まで観測を続けています(従って、マーズ・エクスプレスも打ち上げ20周年ということになります)。マーズ・エクスプレスも、火星大気中にメタンを発見するなどの功績を挙げ、またその後のヨーロッパの火星探査であるエクソマーズにつながる技術を蓄積することができています。

火星周回軌道上を飛行するマーズ・エクスプレス

火星周回軌道上を飛行するマーズ・エクスプレスの想像図
&copy ESA – Illustration by Medialab
Source: http://www.esa.int/spaceinimages/Images/2003/10/Mars_Express_in_orbit_around_Mars

月探査情報ステーションでは、「火星・赤い星へ」誕生にちなんでマーズ・エクスプロレーション・ローバーの活躍を大々的に追いかけていきました。ローバーの着陸、探査開始から発見まで、NASAが発表する情報を随時追いかけました。着陸当時は100万を超える膨大なアクセスがありました(当時はページビュー測定は行っていませんでしたが、現在の指標で換算すると10万ページビューはあったかと思われます)。

それから20年、人類の火星への歩みは着実に成長を遂げました。
2011年に打ち上げられたローバー「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」は、「キュリオシティ」という愛称がつけられ、現在でも火星表面の探査を続けています。キュリオシティは重さ900キログラムと小型自動車並みの大きさがあり、「ラボラトリー」(研究所)の名にふさわしい多数の分析装置を搭載、火星表面の岩石や砂などの分析を行っています。2020年には後継機となる「マーズ2020」(愛称「パーセビアランス」)も打ち上げられました。このパーセビアランスには史上初の火星ヘリコプター「インジェニュイティ」も搭載され、飛行に成功しました。

また、アメリカやロシアといった伝統的な国だけではなく、新たなプレーヤーも参入してきました。先に述べたヨーロッパもそうですし、2014年にはインド、2020年には中国およびアラブ首長国連邦(UAE)が火星に探査機を到達させることに成功しています。

なぜ、世界はこうまでして火星を目指すのか。
それは、火星に生命が存在する可能性があるからです。
火星にはかつて水が存在していたことがほぼ確実視されています。これは、先ほどの「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」の探査における大きな功績でもありますし、他の探査機もそれを追認するような探査結果を出しています。
水があれば生命が誕生していてもおかしくありません。残念ながら、これらの探査機ラッシュをもってしてもまだ生命そのものはみつかっていませんが、かつて生命の存在に適している環境であったことは探査によりほぼ裏付けられています。

また、火星は人類の次の究極の目標でもあります。
NASAは2033年をめどに火星有人飛行を目指しています。このコーナーが始まった頃はまだ「2030年代なかば」という大雑把な目標でしたし、そのための技術開発もまだ初期段階でしたが、現在では人類が長期にわたって宇宙に滞在するための技術も進歩してきています。さらに、有人月探査計画「アルテミス計画」では、将来的に人類が月に滞在することを目指していますが、その技術も火星有人探査に確実に反映されていくことになるでしょう。
2030年代への火星への到達、その後は人類が常に火星に滞在する時代がやって来ることでしょう。

しかし、火星は私たちにとって簡単な目標ではありません。
これまでの火星探査は半分近くが失敗に終わっています。
2003年は、日本の火星探査機「のぞみ」が火星周回軌道への投入を断念するという悲しい出来事があった年でもあります。太陽フレアの影響で探査機の機能を失い、火星にまで飛行できたにもかかわらず周回軌道に入ることを断念せざるを得なかったのです。
以来、日本は火星探査機を打ち上げていません。諸外国が続々と火星に探査機を送り込む中で、日本はまだ、火星周回軌道にすら到達できていないのです。20年の歴史の中で、これは私にとっても最も残念なことでもあります。

しかし、日本も火星を目指そうとしています。
2024年に打ち上げられる予定の「MMX」は、火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを目指します。「はやぶさ」・「はやぶさ2」で培った他天体からのサンプルリターンという「日本のお家芸」が、今度は火星の衛星で実現することになります。
MMX以外には日本の火星探査は具体化していません。もっぱら月探査中心の日本の月・惑星探査の流れにおいて、しかし、将来に月探査にひととおりのめどが立ってくれば、必ずや火星探査も目標に加わってくるでしょう。いや、そうでなければなりません。

4K・8Kカメラを搭載したMMX探査機

4K・8Kカメラを搭載し、火星の衛星フォボスに接近するMMX探査機の想像図
( © JAXA/NHK)

そこにたどり着くのが困難であるからこそ、目標に挑む。
あえてリスクを取ることで、大きな利益を得る。
今の月探査がそうであるように、日本が技術大国、宇宙開発先進国として生きていくために、火星探査は避けられない(通らなければならない)道であると思います。
だからこそ、私は世界、そして日本の火星探査の過去・現在・未来を伝え続け、多くの人に火星探査の情報を提供し、火星探査の大切さ、そして挑戦の重要さを伝え続けたいと思っています。

30年目の節目には、きっと人類の火星到達の報を、このコーナーで伝えられると信じています。
その日まで、そしてその日が過ぎたとしても、人類の火星への歩みは止むことはないでしょう。
これからも、「火星・赤い星へ」、そして月探査情報ステーションをご愛顧のほど、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

2023年7月1日
月探査情報ステーション 編集長
(合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表社員)
寺薗 淳也