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小惑星サンプルリターン計画(アーム計画)、NASAが2018会計年度で予算を要求しない方針

NASAが、アメリカの次の会計年度である2018会計年度(今年=2017年10月から1年間)の予算の方針を関係者に明らかにしています。その中で、これまでNASAが進めてきた小惑星探査フレームワーク「小惑星イニシアチブ」の目玉、小惑星捕獲計画(ARM=アーム)について、2018会計年度に予算要求をしないと述べていることが明らかになりました。編集長(寺薗)がNASA関係者から入手した情報により明らかになったものです。

小惑星表面で岩をつかむアーム探査機

小惑星表面で岩をつかみ、サンプル回収を試みるアーム探査機の想像図 (Photo: NASA)

小惑星イニシアチブは、NASAが推進する小惑星探査の大きな枠組み(フレームワーク)で、その中に含まれるものとして、

  • 小惑星捕獲計画(ARM=アーム)…小惑星表面の岩を無人探査機で捕獲し、これを地球と月の間にある軌道まで移動、そこへ有人宇宙船(オライオン)を打ち上げ、有人での探査及びサンプルリターンを実施する計画。
  • 小惑星グランドチャレンジ…地球に近いところにある小惑星のうち、地球に衝突する危険がある小惑星(PHA: 潜在危険小惑星)の監視などを行う計画。監視はNASAだけではなく、大学や民間企業、アマチュア天文家、さらには国際的なネットワークで行うことを検討中。

の2つの大きなプロジェクトが入っています。
問題はこのアームです。
計画当初は「小惑星をまるごと持ち帰る」という派手なものでしたが、技術的にかなりの無理があることがわかり、現在では表面の岩(ただし数トンレベル)を持ち帰ることを目指しています。
ただ、アーム計画に関しては現時点でも開発の遅れや難航が目立っており、2017会計年度(2016年10月から1年)においてはアームについてNASAが暫定予算で対応している、さらにはアメリカ議会でも中止すべきであるという議論が出るなど、むしろ逆風にさらされているといってもよいでしょう。

そんな中で出てきた今回の動きですが、そのNASA関係者に宛てたメールによると、NASAは2月(現地時間)の議会での一般教書演説において、トランプ大統領が「アメリカが遠い世界に足跡を残すということはもはや遠い夢ではなくなった」と述べ、火星以遠の探査に力を入れることをほのめかしたことを踏まえて、予算内容を検討している、と述べています。
そのうえで、アーム計画についてはこう述べています。

我々は引き続き深宇宙有人ミッションの検討は続けていく。しかし、今回の予算計画においては、アーム計画については予算を追い求めることはしない。しかしこれは、すでにチームがアーム計画について行っている献身的な努力が失われてしまうことを意味するものではない。我々は、(アーム計画により開発が進められている)太陽光利用の電気推進システムが、将来の他の宇宙ミッションにおいて役立つ可能性を考え、開発を進める。

「追い求める」ことをしない(原語ではpursue)という表現も含みをもたせるものですが、一義的にはアームに関し、次期会計年度で予算要求を行わないものと判断してよいでしょう。そのうえで、アーム計画の無人探査機に使用されることとして開発を進めてきた太陽光利用の電気推進システムの開発は続行するという形で、アームの「遺産」を残すことを考えているようです。
一方で、これまで数年間にわたるチームの努力にも配慮する文言も含まれるなど、職員に対してショックを和らげるような内容も含まれています。

注目すべきなのは、編集長(寺薗)が入手した文章において、具体的なミッションに言及しているのはこのアームだけだという点です。このことからも、NASAが2018会計年度予算においてアームについてとりわけ重視していることがわかります。
この内容からみるに、おそらくアームは一旦キャンセルとなり、要素技術の検討のみが進むものと思われます。ただ、小惑星イニシアチブ全体についてどのように取り扱われるかはわかりません。こちらも、個々の技術要素や普及啓発活動に絞って進めていくということが考えられます。
その場合には、2013年に大々的にNASAが打ち出した「小惑星イニシアチブ」自体がバラバラになってしまうことを意味します。ただ、それでもNASAとしては、既存の探査であるオサイレス・レックス(オシリス・レックス)や、将来探査であるルーシーやサイキなどを1つの枠組みとして考え、規模を縮小しながらもより科学面へフォーカスした「小惑星イニシアチブ2.0」を打ち出していく可能性も残されています。

ただ、予算案はまだあくまで「たたき台」の段階です。メディアでも、国防費の増額や環境保護局(EPA)の予算減額などが報じられていますが、今後議会での折衝などを経た上で正式に予算案として認可されていくことになります。したがって、今後NASAの予算についても変更されていくことは十分に考えられます。ただ、これまでの情報から考えて、アームに今後明るい未来がないであろうことは、想像に難くないでしょう。

2017年3月17日(金)|Categories: 小惑星イニシアチブ|

NASAのエウロパ探査機の名前が正式に「エウロパ・クリッパー」に

私など以前からそう呼んでいましたし、月探査情報ステーションのカテゴリー名もこうなっていたので「いまさら」感はあるのですが、一応NASAがそう言っているのですから、そうなのでしょう。
NASAは10日、現在検討中のエウロパへの探査計画について、正式に名称を「エウロパ・クリッパー」とする、と発表しました。

探査機ガリレオが撮影したエウロパの姿

探査機ガリレオが撮影したエウロパの姿 (Photo: NASA/JPL-Caltech/SETI Institute)

19世紀、「クリッパー」という名前は、大西洋を高速で横断する帆船に名付けられました。より速く横断できたものが「最速」の称号を得られる、クリッパーとはそのような栄誉を意味する言葉なのです。時代は移り変わり21世紀となりましたが、この「最速」の称号を意味するクリッパーの名を冠した探査機は、木星の衛星、エウロパまで高速で飛ぶことになります。そして、一度エウロパに到着すれば、最高で2週間に1回はエウロパに接近し、エウロパの様子をこれまでにないほど事細かに調べることになるでしょう。NASAでは、40〜45回程度最接近を行うとしています。
もちろんただ接近するだけでなく、そのたびに探査機は高解像度の写真を撮影するほか、各種の科学観測を実施します。
エウロパは、地下に(塩水の)海があるとされ、その海はひょっとすると生命を育んでいるかも知れないと期待されています。さすがに潜るのは難しいにしても、エウロパの海の証拠、そしてあればどのような海なのかを、上空からの観測によってできる限り明らかにする、これがエウロパ・クリッパーの目的です。
NASAでは、エウロパ・クリッパーの究極の目的として、エウロパが生命を育める天体であるかどうかを明らかにすること、そしてエウロパに生命を育むことができる3つの要素…水、有機物、そして適度なエネルギーが存在するかどうかを明らかにすることとしています。

エウロパ・クリッパーのプロジェクト科学者であるジェット推進研究所(JPL)のロバート・パッパラード氏は、「エウロパに接近するということは、木星の強力な放射線帯の中を通過するということではあるが、探査機の速度が速いためその時間は短くて済むだろう。エウロパ接近の際には大量の科学的なデータを集めることになり、それは私たちの未来への帆を高く揚げることにつながる。」と、クリッパーになぞらえながら期待を述べています。

現在のところ、打ち上げは2020年代を予定しており、エウロパには数年かけて飛行する計画です。エウロパに限らず、太陽系の特定の衛星(月を除いて)をここまで詳細に探査するミッションは世界ではじめてです。成功すれば、太陽系に新たな生命の存在という大発見があるかも知れません。
ヨーロッパも、現在「ジュース計画」というエウロパ探査計画を立案しており、この計画には日本も機器提供などで協力する見込みとなっています。2020年代というとまだもう少し先ですし、実際のミッションの成果が出てくるのは2030年代になってしまうかも知れませんが、まだ見ぬ生命への旅が火星を超え、いよいよ外惑星系へと向かっていきます。楽しみです。

2017年3月14日(火)|Categories: エウロパ・クリッパー|

情報通信研究機構、東大などが2020年に火星周回衛星打ち上げを検討 朝日新聞が報道

あまり予想していなかった思わぬところ、ただいわれてみるとそうかなというところから、驚くべきニュースが入ってきました。

朝日新聞の記事によると、情報通信研究機構(NICT)や東京大学が、2020年に火星を周回する超小型衛星を打ち上げることを検討しているとのことです。
もし成功すれば、日本でははじめて火星周回軌道へ探査機を投入できることになります。

記事によると、総務省の専門家会議でこの計画が承認されたとのことです。なお、NICTは総務省が所管する国立研究開発法人です。
同じく記事によると、衛星には火星表面の水分などを検出できる装置を搭載した超小型衛星で、火星表面(深さ数十センチくらい)の水分や酸素の検出を目指すということです。
打ち上げロケットは未定と記事では述べています。費用は数億〜数十億とのことです。

現時点で、総務省、NICT、東京大学のウェブページには情報がありません。

短い記事から情報を読み解くのは困難ですが、いくつか推測してみましょう。
まず、記事では打ち上げロケットは「未定」とのことですが、恐らくはH-IIAロケットへの相乗りの形で打ち上げられるのではないでしょうか。2020年にはアラブ首長国連邦(UAE)の火星探査衛星「アル・アマル」の打ち上げをH-IIAロケットで行う予定になっており、このロケットに相乗りして同じ火星を目指すというのが自然です。
次に、搭載されるセンサーについては、単なるスペクトロメーターではなく、電波を使ったレーダーのようなもの、恐らくは超小型のレーダーではないかと思われます。
スペクトロメーターでは、火星表面の水分などの分布は解明できても、その下にある岩石や砂の水分などの分布はわかりません。地下の様子をみるためには、地下に到達できる電波を使ってその反射をみるという仕組みが最も適切です。実際、月探査衛星「かぐや」では、地下数十キロまでの様子をみるために「レーダサウンダー」という電波を発射する装置が搭載されています。こちらは地殻の構造を知ることがが主な目的でしたが、似たような方法を使うことを想定しているのではないでしょうか。
また、NICTは電波を利用した宇宙通信の実績を数多く積んでいます。超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)や今年1月に運用を終了した技術試験衛星「きく8号」などはJAXAとNICTが共同で開発した衛星であり、特に衛星通信技術や超高速通信技術などではNICTの高い技術が活かされています。
今回の火星周回衛星でどのような技術が使われるのかがはまだわかりませんが、NICTのこれまで培った宇宙通信技術が余すところなく使われるとともに、おそらくは実験的にさらに高度な技術を試すということも考えられるでしょう。
また、東京大学は、これまで小型衛星打ち上げについては数多くの実績があります。最近は、超小型の金星探査衛星「UNITEC-1」(予定した軌道に入ったものの通信途絶)の全体統括として関わった経験もあります。さらに、最近日本経済新聞で報道された内容ですが、2018年にアメリカから月着陸衛星(もちろん超小型衛星です)「オモテナシ」と「エクレウス」を打ち上げるという記事も出ています。編集長(寺薗)もメンバーはよく存じ上げておりますが、実力派十分にあるといえるでしょう。

いずれにしてもまだ報道は朝日新聞のみです。続報を待つとともに、日本としてこの試みが成功することを期待したいと思います。

2017年3月14日(火)|Categories: 火星探査 (ブログ)|

編集長(寺薗)の火星探査・研究に関するインタビュー動画が掲載されました

NPO法人日本火星協会による編集長(寺薗)のインタビュー動画が、同法人のユーチューブ(YouTube)チャンネルに掲載されました。
編集長が研究の道に入るきっかけやいまの研究への思い、さらに有人火星探査の意義について述べているビデオです。
日本火星協会のYouTubeチャンネルに掲載されています。ぜひご覧下さい。
なお、編集長は日本火星協会の特別アドバイザーです。

 

 

2017年3月10日(金)|Categories: お知らせ|

インド、月探査機チャンドラヤーン2を来年(2018年)第1四半期に打ち上げか

これまで打ち上げ予定が確定していなかった、…というより、「打ち上げ」という噂が出ては延期になっていたインドの月探査機「チャンドラヤーン2」ですが、どうも今度は確実なようです。
ウェブサイト「mashable」(マッシャブル)や、インドのニュースサイト「News Nation」(ニューズ・ネーション)などによると、今回の打ち上げ時期についてはインド宇宙機関(ISRO)のキラン・クマール総裁が、3月1日に開催されたベルス大学(Vels University)での会合で発表したものです。それによると、チャンドラヤーン2は来年の早い時期、おそらくは第1四半期の打ち上げの可能性が高いとのことです。また、ISROは現在、月着陸用のエンジン(小型ロケット)の試験を実施しているとのことです。
クマール総裁は、月着陸実験のため、人工的なクレーターを作成し、技術者たちが試験を行っていると述べています。

同じく総裁によると、探査機はインド国内3箇所で地上試験が実施されており、「打ち上げ準備は整いつつある」と述べています。

ニューズ・ネーションによると、チャンドラヤーン2は周回機、着陸機およびローバーから構成され、打ち上げはGSLV Mk.IIロケットで行われるとのことです。周回軌道からの観測を行うほか、軟着陸の試験も実施、最終的にはローバーを月面に走らせる予定です。
総裁によれば、この「無人での月軟着陸を実現するため、推力を調整できるエンジン(小型ロケット)を開発している」とのことで、これが上記の試験中のエンジンなのではないかと推測されます。

インドは2008年10月に、初の月探査機となる「チャンドラヤーン1」を打ち上げました。チャンドラヤーン1は月を周回する周回機で、11の科学観測機器を搭載するという非常に野心的な探査機でした。しかし、本来の寿命(2年)に届かない9ヶ月(2009年8月)に探査機に異常が生じ、これ以上の観測ができなくなりました。
ただ、搭載されたアメリカの観測装置のデータから、月面に多くの水(といっても正確にはOH基=ヒドロキシ基)が存在することが明らかになるなど、一定の成果をあげています。

チャンドラヤーン2については、2013年ころから開発、打ち上げの噂がありましたが、最初に述べた通り伸びに伸びてしまっています。これについては着陸機の影響が大きいようです。
当初はこの着陸機はロシアから提供されるということだったようですが、途中から自主開発の着陸機(おそらくはローバーも含めて)に切り替えられ、それで打ち上げが伸びているのではないかと考えられます。
ただ、今回の情報、すなわち2018年第1四半期の打ち上げはかなり確度が高いものと考えられます。

1つは発言者です。 ISRO総裁が明言しているということは、時期が多少前後するとしても、打ち上げが近いことを示唆するものと考えられます。試験についても場所などが明言されており、実際に開発が急ピッチで進んでいることが考えられます。
2つ目はタイミングです。このブログでもたびたびお伝えしている通り、2017年末を締め切りとする月着陸レース「グーグル・ルナーXプライズ」が、現在最終段階を迎えています。このレースに最終的に勝ち残っているチームに、インドのチーム「チーム・インダス」があります。このチームは日本のチーム「ハクト」のローバー「ソラト」と相乗りして(というか、ロケットはインドのPSLVなので、日本チームが乗せてもらう形になりますが)今年末に月への打ち上げを目指しています。
つまり、技術的にはインドは月着陸を十分行える(チーム・インダスの構成はわかりませんが、ISRO技術者との交流もあると考えてよいでしょう)実力を持っているとみて間違いありませんし、国としても民間チームとしても技術が熟成していると考えてよいでしょう。

さて、2018年第1四半期にチャンドラヤーン2が月へ向かうとなりますと、その前にグーグル・ルナーXプライズの各ローバーが月面着陸しており、一部は月面での活動を続けている可能性もあります。
さらに、中国の月着陸機「嫦娥3号」およびそのローバー「玉兎」もまだ活躍を続けています。来年初めころは、月面で多数のローバーが同時に活躍しているという状況も十分に考えられます。楽しみです。

なお、ニューズ・ネーション紙によれば、以前から噂があるISROの金星探査計画については総裁は議論は続いているもののまだ完全に固まっているわけではないと述べています。こちらも方も要注目です。

2017年3月8日(水)|Categories: チャンドラヤーン2|