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インド、金星探査実施を検討開始 – インド紙が報道

1月に、インドが金星探査と木星探査実施を考えているとブログ記事で紹介しましたが、その記事にもあるように、インドはまず金星に行く道を選んだようです。
インドの新聞「ザ・ヒンドゥー」は21日、インド宇宙研究機関(ISRO)が、近世探査計画を正式に承認したと発表しました。

同紙の記事によると、今回ISROは科学者を招き、金星探査ミッションについての基礎的な検討を開始したとのことです。
ISROの計画によると、探査機は最初に金星を回る非常に細長いだ円軌道に投入されるとのことです。sorae.jpの記事では、軌道は近金点(金星に最も近い点)が500キロ、遠金点(金星から最も遠い点)が6万キロとのことです。このような長だ円軌道は、金星周回衛星では一般的です。日本の金星探査機「あかつき」も、ヨーロッパの金星探査機「ビーナス・エクスプレス」も、このような長だ円軌道に投入されて、金星の観測を行っています。
探査機は175キログラムの科学機器を搭載し、総発電量は500ワットとのことです。かなり小さい探査機になりそうで、4〜5つ程度の科学機器が搭載されるものと考えられます。

現時点ではISROは検討を始めたばかりで、最終的にはISROの宇宙科学アドバイザリー委員会の承認を得たあと、政府の宇宙委員会の承認が必要で、これによってやっとミッションが正式にスタートできます。
ISROによれば、探査機についてより詳細な情報は来月(5月)19日までには提供されるとのことで、おそらくその時点で機器などについてより詳細な情報が出てくると思われます。
現在搭載機器については募集(AO: Annoucement of Opportunity)が出ており、選定の結果機器が決まることになります。

ザ・ヒンドゥー氏によれば、探査は2020年より前にはならないとのことで、2020年より後になると考えられます。これは妥当な判断でしょう。月や火星とは異なり、強い太陽光などが障害となる金星探査は難易度がぐんと上がります。ですので、いくら「安くて早い月・惑星探査」が得意なインドとはいっても、ここはじっくりと検討を続けるという判断を行ったのかと思われます。

もし実現すれば、インドは月、火星に続き、金星に向かうということになります。いってみれば、地球から近い探査目標を順々に攻略するという(地球に近づく小惑星は別として)、ある意味一貫した哲学のもとに探査を実施しているようにみえます。
いずれにせよ、来月の情報などを含め、今後の情報に期待しましょう。

2017年4月25日(火)|Categories: 惑星探査 (ブログ)|

ニューホライズンズ探査機、9月初めまで「冬眠」状態に

冥王星を探査し終え、次の目的地であるカイパーベルト天体探査へと向かっているニューホライズンズ、しばしの「休眠」となりました。
10日、ニューホライズンズチームは、ニューホライズンズ探査機が「ハイバネート」(冬眠)状態に入ったと発表しました。冬眠は4月7日からで、9月初めころまでこの状態になるとのことです。

冥王星上空を飛行するニューホライズンズ探査機

冥王星上空を飛行するニューホライズンズ探査機の想像図 (Photo: NASA/JHUAPL/SwRI)

より正確な時間ですが、アメリカ東部時間の7日午後3時32分、日本時間では翌8日の午前4時32分)とのことです。
この時点でニューホライズンズ探査機と地球との距離は約57億キロ、光の速さで往復しても10時間半以上かかります。つまり、地球から「冬眠せよ」という指令を送信し、それが探査機に伝わり、探査機側の返答が届くまで、10時間以上も待たなければいけないのです。いま探査機がいかに遠い距離にいるかわかると思います。

2017年4月10日現在のニューホライズンズ探査機の位置

2017年4月10日現在のニューホライズンズ探査機の位置。世界時で14時(日本時間では午後11時)時点での探査機の距離を示している。太陽からの距離は38.15天文単位(約57億キロメートル)、速度は太陽を基準にして秒速14.29キロ。冥王星からはすでに5.07天文単位(約7億6000万キロ)も離れている。光の速さでの往復には10時間33分14秒必要。(Photo: NASA/JHUAPL/SwRI)

探査機がこのような「冬眠」状態になる(される)のは、電気をできるだけ消費しないようにするためです。ハイバネート状態では、必要最低限の機器以外の電源が切られ、まさしく「冬眠」のように最小限の電気(エネルギー)しか消費しない状態となります。遠くまで長い距離を長い間飛行する探査機では、このようにしておけば電気を大幅に節約し、いざ探査に臨まなければいけないときのためにエネルギーをとっておけるというわけです。
ノートパソコンなどでも、よく電源は切らないが一部の機器を止めてしまっている状態(サスペンド)や、メモリーなどまで全てディスクに書き戻して電源を完全にオフにしてしまう状態(まさしくハイバネート)という状態にすることがありますが、これとよく似ていると考えてよいでしょう。
この状態でも、搭載コンピューターは稼働していて、月に1回、状態を地球に送ってくることになっています。また、目覚める方法ですが、あらかじめ「目覚まし時計」というか、タイマーがセットされていて、その指令により探査機は「目覚める」、つまり機能を回復することになります。

ニューホライズンズの運用担当マネージャーであるジョンズホプキンス大学応用物理研究所のアリス・ボーマン氏は、「ハイバネーション期間に探査の労力が減り、全体的な仕事量が減ることを期待している。2019年1月1日のカイパーベルト天体へのフライバイまではこの状態で行きたい。」と述べています。探査機の労力が減るだけでなく、探査機を見守る人の労力も減るというわけです。

ニューホライズンズ探査機も実は、地球から打ち上げられてからしばらくの間はずっとハイバネート状態でした。その状態から目覚めたのは2014年12月6日。冥王星に近づき、観測モードに入るためでした。それから約2年半にわたって、冥王星への再接近、そして詳細な観測をこなすなど、探査機は非常に「多忙」な状態に置かれていました。
次の大仕事は2019年1月1日、カイパーベルト天体である2014 MU69への最接近(フライバイ)です。逆にいいますと、冥王星最接近の例からみて、その半年前…おそらくは2018年中頃までは寝ていてもいいのですが、探査機は意外と早く目覚めます。

ニューホライズンズがこの冬眠状態から回復するのは、今年の9月11日で、たった(?)157日の冬眠でしかありません。それでも、探査機にとっても探査機を見守る人たちにとってもしばしのお休み、次のミッションに向けて気力を充実させることになるのでしょう。

2017年4月12日(水)|Categories: ニューホライズンズ|

土星探査機カッシーニ、いよいよ最後のミッション「グランドフィナーレ」へ

打ち上げから20年、土星到着から13年。月・惑星探査史上最長であり、そして最大級といってもよいミッションが、いよいよその幕を下ろそうとしています。しかも、やや派手に。
NASAは5日、土星探査機カッシーニが今年9月に運用を終了して土星大気に突入すること、またそれに向けて最後のミッション、通称「グランドフィナーレ」を実施すると発表し、その概要を公表しました。

カッシーニの「グランドフィナーレ」における飛行の想像図

土星の北半球の上空を飛ぶ、最終ミッション「グランドフィナーレ」を実施中のカッシーニ探査機の想像図。これはグランドフィナーレにおける22回めの降下の際の状況。(Photo: NASA/JPL-Caltech)

ヨーロッパとアメリカ共同の探査機であるカッシーニは1997年10月に打ち上げられ、7年をかけた旅の末、2004年6月についに土星に到着しました。土星を周回しながら探査する探査機は史上初です。それまで土星は通りすぎて探査する(フライバイ)方法でのみ観測されただけでした。

期待通り、カッシーニは土星本体、そして土星の数多ある衛星についての驚くべきデータを多数送ってきました。
土星本体の大気の流れ、土星を特徴づける壮大な輪についての詳細な写真が送られ、土星本体についても多くのことがわかってきました。
さらに衛星については、カッシーニと共に土星に向かった着陸機「ホイヘンス」が2005年1月、分厚い(地球の1.6倍ある)大気を通り抜けて無事着陸に成功しました。そしてホイヘンスがみた光景は、メタンやエタンの海や川からなる、なんとなく地球に似た感じもする、しかし極彩色の有機物に彩られた極寒の世界でした。人類は、地球からは想像もできないはるか果ての世界の画像・映像に驚愕し、興奮したものです。
そして、土星の小さな衛星、エンケラドゥスに水の間欠泉が存在することも発見しました。水が吹き出ているということは、地下に水…海が存在する可能性があります。そして水があるということは、ひょっとするとエンケラドゥスの地下には生命が宿っている可能性があるかも知れません。
その他にも、ここでは書き切れないほどの成果、数えきれないほどの美しい土星の世界の写真を地上に送ってきました。あまりにたくさんの写真が送られてきていて、月探査情報ステーションでもなかなかご紹介できていませんが、NASAのページや写真集、科学雑誌などでご覧になった方も多いと思います。
月探査情報ステーションでも、ホイヘンスの着陸は実況中継(ヨーロッパから送られてくる映像をもとに状況を随時更新)していたので、編集長(寺薗)としても思い出深い探査機です。
しかし、どのような探査にも終わりはやってきます。長寿のカッシーニであってもそれは例外ではありません。

NASAによりますと、カッシーニのミッション終了は本年(2017年)9月15日(アメリカ現地時間)です。NASAはこの最後のミッションを「グランドフィナーレ」と呼び、最後の、そして最後しかできない数多くの観測を行う計画を立てています。
カッシーニのミッション終了は、搭載燃料がなくなってきたことによるものです。本体だけで4.6トンもある巨大な探査機だとはいえ、燃料を無限に積んでいるわけではありません。土星やその衛星の周りを飛行しながら、カッシーニはその燃料を上手に使って軌道を修正してきましたが、その燃料がそろそろ尽きようとしています。
2010年、NASAはカッシーニの燃料がなくなる時期を2017年と判断してその時点でのミッション終了を決断、最終的に土星大気に突入する形で探査機を消滅させる決定を下しました。大変もったいない話のように思えますが、用を終え、制御ができなくなった探査機がいつまでも土星周辺、あるいは太陽系内に存在することは、将来の宇宙開発にとって危険を伴います。さらに、もしカッシーニの軌道が変わって土星の衛星などに衝突することになれば、搭載している原子力電池のプルトニウムが飛び散り、ひょっとしたらいるかも知れない生命に悪影響を与える可能性もあります。軌道が変わることも生命の存在も万が一、億が一の確率ですが、NASAは念には念を押し、そのような可能性がないよう、土星本体に飛び込ませて探査機を完全消滅させる決断を下したのです。

これから始まる「グランドフィナーレ」は、まずは土星最大の衛星、そしてかつて僚機ホイヘンスが着陸した衛星タイタンへの最後のフライバイから始まります。この最終フライバイは4月22日(アメリカ現地時間)が予定されています。
タイタンへはカッシーニはこれまで数えきれないほど(といいますか、たくさん)立ち寄り、観測を行ってきましたが、これもまさに最後となります。
タイタンに近づくことによりカッシーニは軌道を変え、土星の輪の外側を周回しながら飛行するようなコースをとることになります。輪は非常に小さな(数センチレベルの)粒子、あるいは石や氷からできていると考えられるため、探査機にとっては危険ですが、このようなリスクを犯すことができるのも最後のミッションならではです。これにより、土星本体や輪について、新しい発見が得られることが期待されています。

さらにカッシーニは、土星本体と、輪のいちばん内側の間を飛行するという離れ業もやってのけることになります。
この、本体と輪のいちばん内側の間の空間の飛行は4月26日から始まり、合計で22回、このたった2400キロの幅しかない領域を通り抜けることになるそうです。
「こんな領域を22回も通り抜ける探査機などというのは全く存在しなかった。このカッシーニの最後のミッションによって、この巨大な惑星がどのようにしてできたのか、そして太陽系自体がどのようにしてできたのかを知ることができるだろう。最後に向けて、新たな発見に挑むのだ。」(NASAの科学ミッション部門長のトーマス・ザーブーチェン氏)

当然ながら、その飛行は危険が伴います。地球から見れば何もないすき間のようにみえる領域ですが、そこには数センチレベルかも知れないにしても石や氷があります。それらが秒速数キロで飛ぶ探査機にぶつかってくる(その石や氷自体もそのくらいの速度で飛んでいる)のです。もしぶつかったら…いうまでもなく、探査機はその瞬間に最後を迎えます。
「我々のモデルによれば、探査機に何らかのダメージを与えるほどの大きさの粒子(石や氷など)がこの内側の領域にある可能性がある。しかし、カッシーニは探査機に搭載された(地球通信用の)巨大アンテナをいわば盾としながら最初は飛行し、その後の軌道では安全を確認しながら科学機器を作動させて観測を行う。まちがいなく未知の領域に踏み込むことになるが、探査の最後にやるべきことはまさにこのようなことであると確信している。」(カッシーニ計画のプロジェクトマネージャー、ジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏)

そして9月半ば、タイタンに少しだけ近づいたあと、探査機の軌道は土星本体へと落下する方向へと変わります。
最後は9月15日、土星大気への落下の日です。しかし、カッシーニは最後の最後、通信電波が途絶えるまで、観測データを地球に送り続けます。土星の大気がどのような成分、構造からなっているからを調べる、本当に最後のミッションを達成し、土星の奥深く、彼方へと消え去っていくことになります。

グランドフィナーレにより、科学者たちは、土星内部の構造や輪の構成、土星大気の成分や構造などが解明できると期待しています。さらに非常に近い距離から観測することにより、土星本体の上空にある雲の様子や内側のリングの様子も詳しく観測できるかも知れません。
現在カッシーニのチームでは、グランドフィナーレの観測プログラム(観測シーケンス)の最後の点検を行っており、問題がなければ、探査機に4月11日(アメリカ現地時間)に送信される予定です。この指令が送信されたとき、カッシーニの「最後の時計」が動き出すことになります。
はかなくも、ワクワクするミッション。グランドフィナーレで何が見つかるのか、そしてそれがどう終わるのか。この半年、世界がふたたび、土星に目を向けることになりそうです。

「グランドフィナーレは最後の大気突入よりもより多くのものをもたらす。まさにこの偉大なる探査の最終章を刻むものなのだ。そして、終わり方が明確に決定されている探査において、科学的に大きな成果をもたらしてくれることだろう。」(カッシーニ計画の科学者、JPLのリンダ・スピルカー氏)

2017年4月7日(金)|Categories: カッシーニ/ホイヘンス|

ボーイング、新たな月・火星有人探査構想を発表

ボーイングというと飛行機の製造会社というイメージが強いと思いますが、実は宇宙分野でも非常に多くの実績を持っています。そのボーイング社から興味深い発表がありました。
ボーイング社は3日、月・火星などの深宇宙有人探査に向けた有人探査機及びその輸送システムのコンセプトを発表しました。

地球−月間の軌道上にある「ディープ・スペース・ゲートウェイ」の想像図

ボーイングが構想する「ディープ・スペース・ゲートウェイ」の想像図。地球−月間の軌道(この図では月の近辺)に宇宙飛行士が居住できるような宇宙ステーションを設置する。ここへの往復は太陽電気推進を利用した宇宙船を使用する予定。(© Boeing)

基本的には、この構想は現在NASAが検討中の「宇宙輸送システム」(SLS: Space Launch System)の発展版ということが可能でしょう。SLSでは将来、人間を月、さらには火星にまで送ることを目標としていますが、これに使うことを目的としているようです。
ボーイングのリリースでは、将来的に設けられる地球−月軌道間の基地まで、現在開発中の太陽電気推進システムで進む有人宇宙船で飛行、そこから、月面基地へ向かうということです。この「地球−月軌道間の基地」をボーイングは「ディープ・スペース・ゲートウェイ」(日本語では「深宇宙探査口」と訳せばいいでしょうか)と呼んでいます。

ボーイング社宇宙探査部門のグローバル・セールス&マーケティング部長のピート・マクグラス氏によると、SLSは有人探査機(オライオン)と無人の貨物輸送機を同時に打ち上げる能力があるため、4回の打ち上げでこの「ディープ・スペース・ゲートウェイ」を2020年初頭には完成させることができると述べています。

さらに、このディープ・スペース・ゲートウェイは有人火星探査にも応用可能で、現在国際宇宙ステーションに用いられているのと同じようなドッキングシステムを利用することで、火星周辺まで有人輸送が可能とのことです。一度火星上空に到達すれば、そこから着陸船を下ろし、火星へと人間を向かわせることができるというわけです。

火星へと向かう有人宇宙船の想像図

ボーイング社が構想する「ディープ・スペース・ゲートウェイ」を利用し、火星へと向かう有人宇宙船の想像図 (© Boeing)

なお、この宇宙船も太陽推進システムを利用するほか、宇宙飛行士が火星への長期間の飛行を過ごす、そして放射線などから防御するだけの装備を備えているということです。

興味深いのは、このリリースの中に「太陽推進システム」(SEP)という言葉が何度も出てくることです。このシステムですが、実際のところ大元を手繰っていきますと、あの「小惑星イニシアチブ」にたどり着きます。2013年にオバマ政権が発表した、小惑星に関する包括的な探査フレームワークです。
小惑星イニシアチブの売りは、「アーム」と呼ばれる、小惑星の表面から岩を持ち帰るサンプルリターン計画にあります。ところがこのアーム計画、NASAの次年度予算で承認されない見通しであるなど、ここのところ旗色がよくありません。ことによると、小惑星イニシアチブ自体が破綻する可能性も指摘され始めています。

一方、トランプ政権、すなわち共和党政権になって移行、徐々にですが月への回帰という流れもみえてきています。まだ政権がそのようなことを明言しているわけではないですが、伝統的に共和党が月回帰の傾向が強い党であることからみても、そういう方向性は自然かといえるでしょう。
そこで、小惑星イニシアチブ、さらにいえばアーム計画で残された「遺産」である太陽推進システムを活かし、かつトランプ政権が掲げる「かも知れない」月探査構想へも対応するべく、ある意味観測気球のような構想として上げたのが、この「ディープ・スペース・ゲートウェイ」なのではないかと編集長(寺薗)は睨んでいます。

すでにスペースXが2018年の月周回有人飛行を明言するなど、アメリカの民間企業の進出領域は、これまでの低軌道領域(国際宇宙ステーションなどが飛行する高度数百キロメートルの領域)から、地球−月軌道系、さらには月周辺にまで広がりつつあります。このような点をにらんで、将来的な「国策」の月飛行への布石、さらには民間宇宙飛行(ボーイングも自前の有人宇宙船「CST-100」の開発を進めています)の両方に対応できる構想が、このディープ・スペース・ゲートウェイではないかと思われます。
一方で、トランプ政権の動き、とりわけ宇宙分野への動きはまだ一向にみえてきません。果たしてアメリカがどのような宇宙政策を取っていくのか、今後も見守る必要があるでしょう。

2017年4月5日(水)|Categories: 月探査 (ブログ), 火星探査 (ブログ)|

火星探査機エクソマーズの着陸地点、2箇所に絞られる

2020年に打ち上げられる予定のヨーロッパとロシア共同の探査計画「エクソマーズ」のローバーと着陸機の着陸地点について、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は28日、2箇所の候補地を選定しました。オクシア高原 (Oxia Planum) とマワース峡谷 (Mawrth Vallis) です。

エクソマーズ2020年ローバー

エクソマーズ計画で2020年に打ち上げられる予定のローバーの想像図。(© ESA)

エクソマーズ計画では、2020年に着陸機とローバーを打ち上げる予定としています。本来の打ち上げは2018年だったのですが、開発の遅れなどから2年の延期を行うことを昨年決定しています。
この着陸機およびローバーの着陸点について、ESAでは選定委員会を27日に開催し、最終的に着陸点を2箇所まで絞り込むことにしていました。この3ヶ所は、当初(2015年時点。このときはまだ、2018年打ち上げの計画だった)着陸点として有力視されていたオクシア高原、そしてアラム尾根とマワース峡谷です。いずれも水が豊富にあった場所であることがわかっており、エクソマーズが目指す「生命の痕跡を探す」という目的にピッタリの場所でした。

しかし、科学的な目的の重要性より、さらに優先される事項があります。それは「着陸のしやすさ」(安全性)です。なにしろ着陸できなければ探査ができないわけですから、この点はなんといっても最優先にせざるを得ません。
今回の3箇所から2箇所への絞り込みでは、もちろんまずこの点が重要視されました。まず、候補地がどれくらい低い場所にあるかどうかがポイントとなりました。なぜ「低さ」が重要かというと、低ければ低いほど、火星大気との摩擦などでより長く減速でき、その結果よりゆっくりと(安全に)着陸できるからです。

次に、着陸点を中心として長さ120✕19キロの範囲内で、着陸やローバーの展開、ローバーの運用に支障となるような障害物がないかどうかが調べられました。ローバーの運用に危険を及ぼしそうな地形としては、急な坂、石や砂などがゆるくたまっているような場所(ローバーが車輪を取られて動けなくなる可能性がある)、大きな岩(当然のことながら、ローバーが避けて進めなかったり、最悪の場合乗り上げて横転ということもある)などです。

今回、オランダ・ノルドバイクにあるESAのヨーロッパ宇宙技術研究センター(ESTEC)で2日間にわたって開催された選定会議では、このような着陸点に関する技術的な製薬という観点から、マワース峡谷が有利であると判断されました。
その前の会議で選定されていたオクシア高原については、とりあえず有力候補としてそのまま残った形になるようです。

オクシア高原の地質・地形図

オクシア高原の地質・地形図。オクシア平原は比較的平坦で、大きなクレーターなども少ないことから着陸に支障が少ないと判断される。一方特に東部を中心に水が流れた跡がみつかっており、水や有機物の存在に関しての新たな証拠が見つかる可能性が高い。(© Base Map: NASA/JPL-Caltech/ASU, analysis: IRSPS/TAS-I)

今回着陸地点候補として選定された2箇所、オクシア高原とマワース峡谷は、どちらも火星の赤道から少しだけ北に位置しています。このあたりには、かつて水が流れたとされるような無数の谷がみつかっています。これらの谷は南の高原地帯から北側の低地へと走っています。
オクシア高原は、このような多くの谷が流れ下って消えている平原付近から始まり、粘土鉱物が多数あることがこれまでの探査からわかっています。粘土は砂や泥などの細かい鉱物が水の中で堆積してできたものですので、かつて(おそらく39億年くらい前)ここには豊富な水(湖?)が存在したのではないかと考えられています。
上記の地質・地形図でも、この粘土鉱物を含む層が高原一帯の広い範囲に広がっていることが確かめられており、探査によってこれらを明らかにすることで、古代の火星にどのくらいの水があったのか、さらには生命をもたらすことができたのかどうかを解明できる可能性がぐっと高くなってきます。

一方、マワース峡谷はオクシア高原から数百キロメートル離れており、この谷自体が水が大規模に流れ下った跡であることがわかっています(専門用語では「アウトフロー・チャネル」(Outflow Channel)といいます)。着陸地点は、この谷の南側が想定されています。
これまでの探査データからの解析では、マワース峡谷は何層もの堆積層からなっており、やはり粘土鉱物を主とする堆積物が多いことがわかっています。さらに鉱物についての分析から、この地域には水が少なくとも数億年は存在していた可能性が指摘されており、おそらくは湖か大きな池のような形で水が存在していたことが考えられます。

マワース峡谷の探査機画像

マワース峡谷付近を撮影した探査機の画像をつなぎあわせたモザイク画像。ヨーロッパの火星探査機、マーズ・エクスプレスのデータを使用。谷は本画像の中心付近にある。水は南側(画像下)から北側(画像上)に向けて流れている。右下隅の白い線が100キロメートルを示す。© ESA/DLR/FU Berlin, CC BY-SA 3.0 IGO

加えて、白っぽい岩石が写真からも目につきますが、これらの岩石は水によって変成された岩脈が通っているのではないかと思われます。地球の岩石でもよくみかけますが、岩の間を白っぽい鉱物が貫いていることがありますね。あのような岩石が存在している可能性が高いというのです。
こういった岩脈は、地下水と岩とが反応してできたと考えられています。あるいはより温度が高い、熱水によるものかも知れません。熱水といえば、地球上でも生命発生の地と考えられる深海の熱水噴出口が思い浮かびます。太古の火星ではこのあたり一帯が湖、あるいは海であり、湖底、あるいは海底には熱水噴出口があり、そこでは生命が育まれていた…そのような可能性も考えられます。
マワース峡谷は、このような火星の長期にわたる歴史を反映した場所であると期待されています。生命の存在はもちろんのこと、火星がどうして今のような環境になったのかを知るという意味でも絶好の場所であるといえるでしょう。

今後、この2箇所の候補地点についてより詳細な科学的な調査が実施されます。科学的な面からは、ドリルによる掘削の候補地点の選定やローバーの走行ルート、そしてそのルート上での科学実験の場所などを決定します。ルートは最低でも5キロメートルにわたります。
技術的な側面からは、着陸候補地点の岩やクレーターの大きさ、傾斜の詳しい測定や柔らかい砂の位置の同定などを行い、着陸やローバーの走行ができるだけ安全に行えるようにします。すでにこれらの詳細検討はマワース峡谷について開始されています。

エクソマーズのローバーの360度映像 (© ESA/ATG Medialab)

現在のところ最終的にいつ着陸点が決定されるのかについてはまだ決まっていませんが、幸か不幸か打ち上げが2年延期になったことを考えると、もうしばらく詳細な検討を行う時間があると考えられます。どちらに決まっても大変興味深い探査になることは間違いありません。楽しみに待ちましょう。

2017年3月30日(木)|Categories: エクソマーズ|