現在、月は地球から、年に約3センチメートル程度の速さで離れつつあります。
ということは、これを元に戻していくと、過去は月はもっと地球に近いところにいたのではないか、という想像ができます。

ただ、月が離れていく速度が昔から一定だったのか、ということについては、実際のところよくわかっていません。
月が地球から離れていく大きな原因は、地球と月の間の潮汐力により、地球の自転が遅くなることが原因です(この質問も参照して下さい)。ところが、この潮汐の動きに大きな影響を与えるのは、海の水の流れです。
地球の自転にブレーキをかけていくのは、海水の運動、特に、海底との摩擦や、海流が大陸とぶつかることによる影響です。しかし、大陸はずっと今の位置にいたわけではありません。大陸は少しずつ移動していますし、それによって潮汐の影響なども少しずつ変わってきます。

この影響を計算に入れた上で、かつて地球の自転がどのくらい遅くなっていたのか、ちょうど時計の針を逆回しにするような計算を行ったのが、宇宙科学研究所の安部正真さんです。
計算の結果、やはり地球は、かつてもう少し今より近い位置にあったと考えられます。例えば、10億年前であれば今より約10パーセント近く、距離が短かったという結果が出ています。20億年前であれば約16パーセント、30億年前ですとおよそ30パーセント短かったという計算結果になっています。
また、計算の結果では、月が地球に非常に近かったのは43億年以前、という結果も出ています。これは、地球と月ができたのがおおよそ45億年前、という仮説ともほぼ一致する結果といえるでしょう。

ここで気になるのは、「では、その頃の月は大きく見えたのか」かと思います。
1〜2億年前は、今の地球―月の距離とほとんど差がありませんので、月の大きさは今みえているものとほとんど代わりがありません。では10億年前はどうでしょう。今と10パーセント近く距離が違うということであれば、月と地球の平均距離はおよそ34億キロということになります。
ところが、実は現在の月でさえ、距離は一定していないのです。現在の月までの距離は、平均すると大体地球から384400キロということになっていますが、月は地球から遠ざかるときは約40万キロ、近づくときは36万キロまで近づきます。この場合、見かけの大きさも10パーセントくらい違ってきます。
写真などで見ると明らかに大きさが違いますので、時折、地球に近いときの満月が「今年いちばんの大きな満月」などと紹介されることがありますが、実際夜空で満月を眺めたとき、その大きさをはっきりと実感できるかどうかは、微妙なものがあります。
30億年前、もし30パーセントも近いということになりますと、その距離は平均して27万キロくらいです。こうなると、夜空の月は今よりも少しくらい大きく見えてもいいかと思います。ただ、残念ながらそのような月を眺めた人は、人類としてはアポロ宇宙飛行士くらいだと思いますが…。


謝辞
本原稿の執筆にあたっては、安部正真さんから資料のご提供をはじめ、ご助言などをいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。


■関連Q&A


■参考資料

  • 安部正真、水谷仁 地球史における1日の長さの変化 月刊地球 vol.64, No. 8 (1994)