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アメリカの小惑星探査機オサイレス・レックス(オシリス・レックス)、9月22日に地球スイングバイへ

アメリカの小惑星探査計画「オサイレス・レックス(オサイレス・レックス)」は、小惑星からサンプルを持ち帰ることを目的としていることから、「アメリカ版はやぶさ」とも称されます。実際ミッション全体はよく似ていて、目的地の小惑星に向かうため、地球のすぐそばを通りすぎて加速すること(いわゆる「地球スイングバイ」)を行うことまで一緒です。

NASAは1日、オサイレス・レックスが9月22日午後0時52分(アメリカ東部夏時間。日本時間では翌23日午前1時52分)、地球から約1万6000キロメートル(ピンとくる方はピンとくると思いますが、「1万マイル」です)の距離を通過する「地球スイングバイ」を実施すると発表しました。

地球スイングバイを実施するオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の想像図

地球スイングバイを実施するオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の想像図 (Photo: NASA GSFC/University of Arizona)

オサイレス・レックスの目的は、「はやぶさ」や「はやぶさ2」と同様に、小惑星からサンプルを持ち帰ることです。そのサンプルを地球上で詳しく分析することで、小惑星の起源や資源利用など、様々な点に迫ろうということが目的です。

地球スイングバイは、地球の引力を利用して探査機を加速(減速させることも可能ですが、一般的には加速させることが目的です)させるため、探査機を天体すれすれのところに飛ばすという飛行方法です。小惑星に到達するためには決まった速度が必要ですから、それだけの力を天体(この場合は地球)から得るために、軌道を厳密に決めた上で飛行しなければなりません。非常に高度な技術が必要になります。
「はやぶさ」や「はやぶさ2」ではこの地球スイングバイを行って目的地の小惑星に加速しており、今回はオサイレス・レックスもその例にならう、というわけです。

実は面白いことに、小惑星に向かうために地球スイングバイを実施するというのはNASAの月・惑星探査ミッションとしてははじめてなのだそうです(過去には、土星探査機カッシーニが地球スイングバイで加速したということがありました)。

今回オサイレス・レックスが向かう小惑星ベンヌは、実は地球の公転軌道(黄道面)から約6度傾いたところを回る軌道を回っています。そのため、この地球スイングバイを利用してその軌道の傾きに合わせるようなことを行います。
これまた「はやぶさ2」とそっくりなのですが、こちらの目的地の小惑星「リュウグウ」も実は軌道が5.88度傾いており、2015年12月の地球スイングバイの際、そのリュウグウの軌道に合うように探査機の軌道を調整しています。

オサイレス・レックスは2016年9月に打ち上げられ、約2年かけて小惑星ベンヌまで向かう予定です。打ち上げ直後から運用チームは探査機の軌道を精密に調整し、そのための噴射などを行って軌道を変更してきました。そのうちもっとも大きな軌道変更は2016年12月28日に行われたもので、このときには飛行速度の調整と、今回の地球スイングバイに向けた軌道変更を実施しています。
その他にも軌道調整は、打ち上げ直後の2016年10月7日、2017年1月18日、そしてつい最近である2017年8月23日(以上すべての軌道変更日時はアメリカ現地時間)に実施されています。これらはいわば「微調整」ですが、精密な軌道を飛行するためにはこの微調整もまた、重要というわけです。

オサイレス・レックスの軌道運用チームは、NASAのゴダード宇宙飛行センター(GSFC)の職員と、カイネティクス・エアロスペース(KinetIX Aerospace)社の職員からなっています。さらにカイネティクス社のメンバーは、この探査機を製造したロッキード・マーティン社の探査機運用チーム(コロラド州デンバーに所在)と共に、軌道変更のためのコマンド送信などを実施しています。
精密な地球スイングバイを実施するためには、まず精密な探査機の軌道の計算と、必要な軌道の変更量(速度、方向など)の計算が必要です。これには様々な要因を考慮に入れる必要があります。例えば、他の天体(木星や、もちろん地球など)の引力は小さいといえど考慮しなければなりません。
これらの計算によって軌道が正しいと確認できれば、それを探査機に送る指令(コマンド)へと変換し、送信します。探査機はそのコマンドを解釈し、搭載されているエンジン(小型ロケット)を噴射して必要な軌道変更を行います。人と機械、地球上の人間と宇宙にいる探査機とが連携して行う細かい調整で、探査機は所定の軌道を飛行することができるのです。

探査機が地球のそばを通り過ぎるときの速度は時速3万キロ(秒速約8キロ)というかなりのスピードです。今回の地球スイングバイでは、(これもまた「はやぶさ」や「はやぶさ2」と似てますが)地球への最接近ポイントは南極大陸、チリのホーン岬の南側のところで、そこからオーストラリアの上空へと飛行していきます。
ただ、これはちょっとした(いや、かなりの)危険を伴います。その間通信ができないのです。

「南極上空を飛行することになるため、NASAと探査機との通信は約1時間にわたって途絶えることになる。オサイレス・レックス探査機は、NASAの通信網である深宇宙通信網(DSN)を使って通信するのだが、このうち2つの局…オーストラリア・キャンベラ、及びカリフォルニア・ゴールドストーンの両局からみても、探査機が地平線に比べてかなり下側に位置するため、通信不能となる。」(GSFCの飛行チーム主任、マイク・モロー氏)

NASAは通信回復を午後1時40分(日本時間で翌日の午前2時40分)と見込んでいます。これはスイングバイで最接近点を通過してからおおよそ50分後です。

最接近から約4時間後の午後4時52分(日本時間で翌日の午前5時42分)、オサイレス・レックスは月と地球の観測を実施します。これはたまたま地球のそばを通過するので写真を撮ろう、という広報目的ではなく、カメラの性能を試す(より正確にいえば、カメラが正しく映ることを確認する校正作業…キャリブレーション)ことが目的です。「はやぶさ」や「はやぶさ2」で地球スイングバイのときに地球や月の写真を撮影したのも、このカメラの性能確認が主要な目的でした。

もう1つの心配は地球接近の高度です。高さ約1万6000キロメートルのところを飛行するわけですから、オサイレス・レックスは地球の周りを回る人工衛星が多数あるところに猛スピードで突っ込んでいくことになります。そのためNASAでは、わずかな可能性ではあるにしても衝突を避ける手立てをすでに考えています。もし衝突が予想される場合、オサイレス・レックスの飛行力学チームが考えたプログラムにより、探査機の軌道をごくわずか変化させて衝突を防ぐ、というわけです。

「地球スイングバイから数週間後には、ベンヌへ向かう軌道の検討に入る。必要な場合には追加のエンジン噴射を実施し、正しい軌道に探査機を乗せることになる。」(軌道変更デザイン・軌道解析グループ主任で、カイネティクス社のダン・ウィベン氏)

そして、2018年6月末には、ベンヌ到着に向けた最終軌道調整を実施し2018年10月頃に小惑星ベンヌへ到着、本格的な科学観測を開始する予定です。

「なにしろ相手の小惑星は小さく、そのために重力も小さいので、これがもっともミッションにとって困難な点となることだろう。現在、そのために働いている。ベンヌはだいたい直径500メートルくらい(編集長注: 小惑星イトカワはさしわたし535メートル、「はやぶさ2」の目的地のリュウグウは直径920メートルほどと見積もられています)で、NASAがこれまで周回機を送り込んできた天体では最小だ。」(誘導チームのチーフで、カイネティクス社のピーター・アントレアシアン氏)

大変なことではありますが、「はやぶさ」でも小さな天体の周りを回る周回飛行を(しかも姿勢安定装置が壊れた中で)実施したことはあります。今回もうまくいって欲しいですが、まずそのためには地球スイングバイが無事成功することが重要です。
オサイレス・レックスのミッションマネージャー、アリゾナ大学のダンテ・ローレッタさんは、「地球スイングバイは、探査機の燃料を使うことなくベンヌの軌道へと探査機を誘導するための賢い手段だ。」と述べています。

よく誤解されるのですが、「はやぶさ2」とオサイレス・レックスはライバル同士とはいっても決して仲が悪いわけではありません。互いにチームメンバーの交流は盛んに行われており、科学面だけではなく広報などの面でも互いに協力しあっています。その意味でも今回の地球スイングバイの成功が期待されるところです。

なお、オサイレス・レックスは広報が非常に盛んなミッションでもありますが、今回の地球スイングバイに際しても広報キャンペーンを行います。「オサイレス・レックスに手を振ろう」(Wave to OSIRIS-REx)というキャンペーンが、地球スイングバイ時に実施されます。
これは、個人またはグループで、地球に接近してくるオサイレス・レックスに手を振っている写真を撮影し、それにハッシュタグ「#HelloOSIRISREx」をつけ、ミッションの公式ツイッター (@OSIRISREx)あるいはインスタグラムのアカウント (@OSIRIS_REx)へ投稿する、というものです。
投稿はいつでも可能ですが、もちろん最接近に合わせるのがいちばんよろしいとは思います。
日本ではちょうど夜中になりますが、それはそれでまたすばらしい写真が撮れるのではないでしょうか。ぜひ皆さんもオサイレス・レックスに手を振ってみてはいかがでしょう(もちろん、投稿もお忘れなく)。

2017年9月5日(火)|Categories: オサイレス・レックス|

ハリケーンの影響でジョンソン宇宙センターは閉鎖中

テキサス州南部を襲った大型ハリケーン「ハービー」の影響で、テキサス州南部の都市は大規模な水害に襲われています。

テキサス州南部の大都市といえば、人口230万(周辺郡を含めれば400万以上)と、アメリカで4番目に多い人口を誇るヒューストンですが、このヒューストンも現在、大水害のまっただ中にあります。アメリカのテレビ局は連日、ヒューストンの水害の状況と、その救助作業、避難の様子などをトップニュース、というよりずっと流し続けています。

さてヒューストンといえば「こちらヒューストン」でおなじみのNASAジョンソン宇宙センター(JSC)が所在するところです。私(編集長)もよく行くところですが、やはりこの水害の影響を免れることはできず、27日から閉鎖されているとのことです。以下、JSCの緊急連絡用のツイッター、@JSCSOSのツイート。時系列的に並べてみます。日付・時間に注意してください。

現時点(日本時間30日午前9時、ヒューストンの中央標準時では29日午後7時)時点でもジョンソン宇宙センターは閉鎖されており、ミッションの継続や救助などで特別に必要とされる人以外は立ち入りができなくなっています。また入口も1箇所に制限されています。現時点では「呼ばれた人以外は来るな」という状況になっているようです。
なお、JSCの緊急用連絡サイトでは、(少なくとも)9月4日(月曜日)までは閉鎖を継続し、5日より再開するとのことです。

報道では、ヒューストンの降水量は降り始めからすでに1200ミリを超えたとのことで、日本でもまず経験したことのない(さらにいえば大都会ではまず経験しないような)すさまじい大豪雨となっています。JSCといえどこの影響を免れることはもちろんできません。
また編集長としては、JSCは比較的低地(すぐ隣に「クリアレイク」という湖があるくらいです)に位置しているため、洪水や溢水などによって浸水してしまう可能性があるのではないかと心配しています。

JSCはNASAの宇宙センターとしては、有人宇宙活動を中心に担っていますが、一方では月・惑星探査により地球外から集められた試料(例えば月の石など)を保管・分析する「地球外物質保管・分析センター」を持つ、月・惑星探査にとっても重要な部署でもあります。こういった人類にとっての貴重な試料が洪水によって被害を受けないことを祈りたいと思います。

現時点でも状況は刻々と変化しており、またハリケーンから変わった熱帯低気圧も動きが遅く、テキサス州西部から東隣のルイジアナ州周辺に居座るとの予想が出ています。今後さらに雨が降り、被害が拡大する可能性もあります。
様子を見守ると共に、一日も早い復興、復旧を願っています。
月探査情報ステーションでも状況は随時お伝えしていく予定です。

[お願い]ヒューストン現地は大変混乱していると報道されています。また、行方不明者・救助要請者の救助・収容が現在もっとも重要な課題です。また、市民の皆さんの安全も重要です。上記2つのうち、緊急用サイトは、JSCの職員に向けたサイトです。従って、JSC職員などの利用を優先し、不要なリプライやコメント、サイトへの書き込みなどを実施することはお控えください。

[追記]当初記事で「9月5日まで閉鎖」とありましたが、JSCのツイートによると、閉鎖は4日までで、5日より再開するとのことです。ブログ記事を書き換えると共に、JSCの公式ツイートも参考に追加しました。

 

2017年8月30日(水)|Categories: 月・惑星探査一般|

日本の月探査機スリム、打ち上げ1年延期、天文衛星「ひとみ」代替機と一緒に打ち上げへ

興味深いニュースが入ってきました。
現在開発中の日本の月探査衛星「スリム」について、打ち上げを1年延期すると共に、打ち上げロケットをH-IIAに変更、さらにこれを、2016年に事故で失われた天文衛星「ひとみ」との相乗り打ち上げにする、という報道が、日刊工業新聞から出ています。

月に着陸したスリム探査機の想像図

月に着陸したスリム探査機の想像図 (© 池下章裕)

スリムは、月(さらには、将来の惑星など)への高精度着陸技術を検証することを目的に開発されている月探査衛星で、イプシロンロケットにより2019年度に打ち上げられる予定となっていました。
今回、日刊工業新聞が報道した内容は、8月18日に開催された宇宙政策委員会の小委員会(どの小委員会かは不明ですが、おそらくは宇宙科学・探査小委員会かと思われます)に報告されたというもので、情報源がしっかりと明示されていることから信頼性は非常に高いと思われます。

記事によると、基本的には打ち上げ費用の削減を目指したもののようです。「ひとみ」代替機の打ち上げに合わせてスリムを搭載することによって、イプシロンロケットの打ち上げ費用(50億円と見られる)を削減できるというのが大きな理由のようです。これにより、スリムの打ち上げ時期は1年遅れ、2020年度ということになります。

今回の計画ですが、確かに相乗りさせることによってスリムの打ち上げ費用の削減にはつながりますが、ミッション自体を1年遅らせるだけでなく、打ち上げロケットを変更するということは、スリムの探査機設計や全体的なスケジュールなどの大幅な変更が必要となってきます。これらはそう簡単に変更できるものではないですし、宇宙研、あるいはJAXA内部でも相当な検討が行われてきたということでもあるでしょう。
それだけの変更を行っても打ち上げ費用を削減したいということをJAXAとして判断したということになるかとは思いますが、そもそもイプシロンロケット自体が「将来の月・惑星探査などに機動的に運用できる」ことを目的としていることを考えると、編集長の個人的な考えとしては腑に落ちない判断と思えます。
さらにいえば、スリム自体が、イプシロンロケットを利用した「中型科学探査」の第3弾として計画されたものです。こうなってくると、この「イプシロンを利用した中型科学探査」の位置づけ自体も非常に不安定なもののように思えてきます。
ひょっとすると、この「打ち上げ費用削減」以外にも何らかの要因があり、総合的な判断として今回の「1年延期+打ち上げロケット変更+相乗り」という判断が下されたのではないかと考えたいのですが、私の手元にはそれを裏付ける情報はありません。

スリム自体、当初は2018年度打ち上げであったものが、「計画を着実に実行するため」1年延期されて2019年度となり、今回ロケットの変更などを絡めてもう1年延期となりました。
打ち上げが比較的迫っている(逆にいえば、打ち上げまでの準備にそれほどの時間がない)探査に関してこうころころと変更がなされると、編集長としては現場の士気に大きな影響が出てしまうのではないかという懸念を抱かざるを得ません。

あえて積極的な見方をすれば、予算が減り続けているJAXAにおいて、相乗りにすることで「とにかくも打ち上げの機会を守る」ということもいえるかもしれませんし、そのようにすることで、最近JAXA、あるいは日本の宇宙開発政策がみせている「ムーン・シフト」、すなわち月探査への回帰ムードを保持したともいえるでしょう。
ただ、繰り返しになってしまいますが、計画の大幅な変更はミッション自体の混乱を招くことが懸念されるだけに、JAXAや宇宙研は今回の変更の理由についての説明をしっかりと行うと共に、現場の士気を下げないような最大限の努力を行うことが必要だと思います。
なお、今回の記事のもととなった宇宙政策委員会の小委員会の資料は現時点でウェブページにアップロードされていません。詳細はこの資料を待ってからということになるかと思いますので、注意してみていくことにしましょう。

2017年8月22日(火)|Categories: スリム|

韓国の月探査第1段階完了を2020年に再設定、朴政権以前の目標に戻る

韓国の月探査計画に若干の後退がみられることになりました。中央日報日本語版が伝えるところによりますと、韓国の科学技術情報通信部は8月9日に宇宙開発委員会を開催し、この中で月探査の「第1段階」完了の時期を2年遅らせ、2020年に再設定すると決定しました。

2018年末打ち上げ予定の韓国の月周回衛星の想像図

2018年末打ち上げ予定の韓国の月周回衛星の想像図。合計で5つの機器を搭載し、そのうち4つが韓国、1つがNASAのものとなる。(© KARI)

韓国は宇宙開発を国策として積極的に推進すると共に、その技術開発、特に国産化を進めています。ロケットもKSLVと呼ばれる国産ロケットの開発を進めていますし、月探査もその流れの中にあります。
韓国の月探査は、2段階にわたるものとなっています。第1段階は周回衛星を打ち上げ、第2段階は着陸機を打ち上げるというものです。

前の朴槿恵(パク・クネ)政権時代には月探査は韓国の国策として強力に推し進められました。朴政権が進めた「技術イノベーションによる韓国の国力回復」の方針に沿ったもので、その中で予定が変わっていきました。当初は最初から着陸機を打ち上げる予定でしたが、その前に周回機を打ち上げる(月・惑星探査としてスタンダードな)方向に変わると共に、NASAとも技術協力を推進、一方では予定を前倒しする方向で検討してきました。

その中で、2018年末にはNASAからの技術協力を得た月周回衛星を打ち上げ、2020年には月着陸機を打ち上げる…朴槿恵大統領の言い方を借りれば「月に太極旗をはためかせる」…方向となっていました。
ただ、このブログで私も何回か指摘していましたが、ロケットの開発も遅れる中で、いたずらにスピードばかりを求めることは、月・惑星探査のあり方としては望ましくない方向であると考えられます。
そんな中で、スキャンダルと共に朴槿恵大統領は退陣、変わって登場した文在寅政権が現在、前政権の政策の総見直しを進めています。今回の延期決定もそのような流れの中にあるといえるでしょう。2年遅れると書きましたが、実際には朴・前政権が推し進めた「2年の前倒し」をキャンセルし、元の計画に戻したという言い方が適切かと思われます。

中央日報日本語版の記事の中にも、「衛星開発にも5~8年かかるのに月探査1段階事業を3年で推進するのは現実的に難しい。開発期間を2年延長しよう」という意見が紹介されています。確かにこれまで、月・惑星探査を全く行ったことがない韓国が、あと2〜3年(もし2018年としたらあと1年ちょっと)で月探査衛星を打ち上げるというのはもはや無謀といってもよい計画だと思われます。
宇宙開発、とりわけ費用のかかる月・惑星探査は、技術を慎重に積み重ね、安全を確かめて進めることが必要です。今回の延期の方針はその方向性に沿ったものであり、妥当であると編集長(寺薗)も考えます。

またこの記事では、 科学技術情報通信部のペ・テミン政策官の言葉として、「もう1段階の開発追加も検討する必要があるかも知れない」という検討内容が述べられており、これについては今後検討が進められていくと考えられます。
この検討結果次第では、2020年の周回機打ち上げの目標再設定もありえるでしょうし、さらに第2段階の着陸機打ち上げの目標(そもそもの計画では2025年とされていました)の再検討も行われる可能性があります。

月・惑星探査は、探査に関する技術的な問題だけではなく、予算や周辺技術の状況も総合的に判断して進めなければなりません。と同時に、政治的な観点からの介入、とりわけ政権の人気取りといった「技術的な目的以外の観点からの」介入は極力排除しなければなりません。
今回目標をある程度ゆるめたことで、韓国がもう一度月探査に関する技術的な状況を点検した上で、現実的な目標を設定し、確実なミッション成功を収められるような(時間的・技術的な)計画を再立案することを望みたいと思います。

2017年8月14日(月)|Categories: 月探査 (ブログ)|

ニューホライズンズの次の目標天体「2014 MU69」、2つの天体からなる?

世界中が大興奮した、ニューホライズンズの冥王星最接近からもう早くも2年が経ちました。本当に早いものですが、ニューホライズンズの探査はそこで終わったわけではありません。
現在、ニューホライズンズは、新たな天体の探査に向けて一直線に飛行中です。次にニューホライズンズが探査する天体は、太陽系の外側に存在するとされる比較的大きな天体「カイパーベルト天体」の1つと考えられる「2014 MU69」という名前(といっても仮の名前ですが)の天体です。

なにしろこの2014 MU69は非常に遠いところにあるため、いままでにわかっていることは「かなり赤い」「カイパーベルト天体としてはかなり小さい方に属する」「カイパーベルト天体としては古いものらしい」ということくらいです。まぁ、わかっていないから探査する価値があるというわけですが、あまりにわかりすぎていないというのもあまりよろしいことではありません。
そこで、地上からもこの天体の探査が行われています。このほどこの天体の地上からの望遠鏡観測が行われ、これまでより少し詳しいことがわかってきました。そしてこの天体がひょっとしたら「2つの天体(がくっついたもの)」である可能性が出てきました。

2017年7月の望遠鏡観測に基づく2014 MU69の想像図

2017年7月に行われた望遠鏡観測の結果に基づく、ニューホライズンズの次の探査目標天体「2014 MU69」の想像図。この想像図はこの天体が2つの大きな天体がくっついたもの、あるいは互いに回り合っているとした場合のもの。また、これまでの観測通り「赤っぽい」ことも明らかになっている。(Photo: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/Alex Parker)

2014 MU69は、地球から65億キロも離れたところに存在する天体です。この天体が今年の7月17日、星(恒星)の前を通るという観測の好機に恵まれました。ある天体(恒星や他の惑星など)の前を別の天体が横切る現象は「掩蔽」(えんぺい)と呼ばれ、前を通る天体の様子を詳しく観測できる絶好のチャンスとなります。
今回もこの掩蔽に合わせ、世界各所で2014 MU69の観測が実施されました。ニューホライズンズのチームも、アルゼンチンの最南端、パタゴニアでの観測を実施しました。こんな人里離れたところに向かったのは、ここがこの掩蔽の観測に最も好都合だったからです。

さて、この掩蔽の観測の結果、2014 MU69についてかなり「奇妙な」ことがわかってきました。どうやらその形は普通の球形ではなく、「ものすごく横に長い楕円体」(原語では”extreme prolate spheroid”)、あるいは2つの天体がくっついたもの、あるいはさらに、ものすごく近くを互いに回る2つの天体である可能性も出てきました。
ものすごく長い形の楕円体(ものすごく扁平なラグビーボールをご想像ください)であっても驚きですが、もし2つの天体が互いに回り合っていることになったら、おそらく私たちが出会うはじめての太陽系天体のタイプだということになるでしょう。
ほかにも、本来であれば1つの割と球形の物体に、大きな物体がくっついているような形も考えられます。「はやぶさ」が向かった小惑星イトカワにも、今では「ヨシノダイ」という名前がついている大きな岩がありましたが、あれのもっと極端なものとお考えいただければと思います。

、ニューホライズンズの次の探査目標天体「2014 MU69」の想像図

2017年7月に行われた望遠鏡観測の結果に基づく、ニューホライズンズの次の探査目標天体「2014 MU69」の想像図。この想像図はこの天体が非常に横長の楕円体であるとした場合のもの。また、これまでの観測通り「赤っぽい」ことも明らかになっている。(Photo: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/Alex Parker)

2014 MU69の大きさもわかってきました。長さは約30キロメートルを超えないサイズ、もし両者が2つの天体である場合にはそれぞれが15~20キロメートルの大きさを持つようです。

今回得られたデータは、過去3回の掩蔽で得られたデータと合わせて、観測チームにとって非常に貴重なデータとなります。今回チームでは、ハッブル宇宙望遠鏡、及びヨーロッパ宇宙機関(ESA)の人工衛星「ガイア」で観測したデータを使用しています。観測チームはこれらのデータが、今回の掩蔽の観測に欠かせなかったと述べています。

ニューホライズンズのプロジェクトマネージャーであり、サウスウェスト研究所所属の科学者、アラン・スターン氏は、今回の観測結果について「驚くべきものだ。今回の2014 MU69の観測結果は大変刺激的な内容で、おそらくニューホライズンズにとってもう一つの『世界初』…2つの天体からなるカイパーベルト天体に行くことを意味しているのだろう。」と、驚きを隠せない様子で語っています。

また、今回の観測計画を立案・指揮した、サウスウェスト研究所の研究者でニューホライズンズ計画の共同研究者であるサイド・マーク・ブイエ氏は、「今回の驚くべき、そして謎めいた結果はすでに私たちのミッションの目指すべき大きなポイントとなっている。さらにこの2014 MU69周辺の天体についても新たな謎が出てくるといえるだろう。いずれにしても、それが解決するのは17ヶ月後、この天体への最接近のときだ。」と語っています。

果たして、私たちは人類史上はじめて目撃することになるカイパーベルト天体で、2つの天体からなる極めて奇妙な姿を目のあたりにするのでしょうか? あるいはもっと「普通」な楕円形の天体なのでしょうか? もし2つの天体であった場合、それはカイパーベルト天体ではごく普通の存在なのでしょうか?
いずれにしても、その謎が解けるのは、ブイエ氏が言うように、2014 MU69に最接近する、2019年1月1日まで待たなければなりません。1年半以上も先の話であり、待ち遠しいというよりは「じれったい」感じすらしますが、あわてずじっくりと待つことにしましょう。

2017年8月7日(月)|Categories: ニューホライズンズ|