アポロ計画の「あのうわさ」を元にして、破天荒なアポロ計画の広報担当者と実直な発射責任者を軸にアポロ11号打ち上げを背景として人間模様を描いた映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(原題も Fly Me To The Moon)が、日本では7月19日に公開されます。

この公開を前に、映画と月探査について語るトークイベントが、7月15日、東京・港区虎ノ門のソニーピクチャーズ試写室で開催されました。

■映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』について

映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を簡単に紹介します。

1969年。人類を史上初めて月に送る「アポロ計画」はその最終盤を迎えていた。計画の難航から予算確保や国会議員の理解低下、国民の関心の低さに苦しむNASAは、アポロ計画を大々的にPRすべく、広報のプロフェッショナル、ケリー(スカーレット・ヨハンソン)を現場に送り込む。ケリーは早速型破りな広報を繰り広げるが、そこで出会ったのは、実直な発射責任者、コール(チャニング・テイタム)である。宇宙飛行士が登場するビデオに俳優を起用したり、次々に企業とのタイアップを仕掛け、「アポロ計画をビートルズ以上に有名にする!」と意気込み、破天荒な広報活動を推進するケリーにコールは反発する。しかし、ケリーのPRが功を奏し、アポロ計画に懐疑的な国会議員を次々に転向させることに成功する。一方仕事熱心で仲間思いのコールの姿にケリーも思いを寄せるようになる。そんな中、ケリーにある衝撃的なミッションが告げられることに…。

映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』オフィシャルポスター
© 2024 Sony Pictures Entertainment

敏腕マーケターのケリー役にはスカーレット・ヨハンソンが、実直な発射責任者であるコール役にはチャニング・テイタムが起用されています。ちなみにスカーレット・ヨハンソンは映画の脚本に惚れ込み、プロデューサーとしても参加しています。

映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の1シーン。ケリーとコール。
© 2024 Sony Pictures Entertainment

■トークショーのゲスト

今回のトークショーのメンバーは、いずれも宇宙に深いつながりがある3人です。
宇宙飛行士で東大特任教授も務める野口聡一さん、タレントで宇宙開発をはじめ科学分野で大活躍している中川翔子さん(しょこたん)、そして宇宙が大好きなタレント・モデル・YouTuberの滝沢カレンさんです。
進行はタモリさんの「フェイク」…モノマネで有名なジョニー志村さんが担当。映画の解説として、映画パーソナリティの伊藤さとりさんも参加しました。

ジョニー志村さん(左)と伊藤さとりさん(右)
© 2024 TERAZONO Junya

そして、3人の登場です。今回、映画の舞台が1960年代末ということで、3人ともその時代の雰囲気たっぷりの衣装で登場しました。特に野口さん、しょこたんさんはそれぞれ、劇中のケリーとコールの姿を思い起こさせるような姿でした。

登場シーン。左から野口聡一さん、しょこたん(中川翔子)さん、滝沢カレンさん、ジョニー志村さん。
© 2024 TERAZONO Junya

■「あのうわさ」を皆さんは信じてますか?

トークショーの最初は、「あのうわさ」を皆さんご存知かどうか、という質問から始まりました。いうまでもなく、「あのうわさ」とは、「アポロ計画で人類は月に行っていないのではないか、つまり、アポロ計画の一連の映像や写真は、地上で作られた捏造(フェイク)ではないか?」というものです。このうわさはアポロ計画実施直後の1970年代から広まり、いまでもよく話題となります(でなければそれをもとにしたこのような映画はできないでしょうね)。

野口さんは、「昔は(このうわさは)以前はよく聞いていた。この話は、実は地球が丸くなく平面であるという説(地球平面説)ともつながっている」60年代〜70年代のいろいろなものを疑っている時代、『国家が何か隠しているんじゃないか』という雰囲気が映画にもよく現れている」と、非常に正しい解説をして下さいました。アメリカ滞在歴が長い野口さんだけに、アメリカでのアポロ疑惑の発祥とその根底をよくご存知なようでした。

しょこたんさんは、「実は8割(うわさが本当だと)信じています」という大胆なお答えでした。「着陸はしただろうけど、実は映像は(映画『2001年宇宙の旅の』)キューブリック監督が撮った、というという話など、すごく興奮する」と述べていました(映画の中でも実はそういったセリフは出てきます)。

滝沢カレンさんは「(アポロ計画を)全く疑ってない。私自身が『(アポロが月に)行った』という事実からスタートしているので、行ってないといわれたとしてもそこの夢は壊さないで欲しい」という、ストレートな心境を語っていました。

野口さんとしょこたんさんのトーク
© 2024 TERAZONO Junya

■映画をみての感想は?

続いて話は、映画をみた上での感想に移っていきました。

野口さんは、「最初はスカーレット・ヨハンソンが出ているからみるか、という感じだったのだが(ファンなのだそうです)、当時のNASAの技術者の熱意などがよく表現されている。広報担当者や技術者など、今は歴史に残らない人たちの頑張りを残してくれているドキュメンタリーのような感動作品だった。」と述べ、「裏方こそが歴史を作った」と感じされると語ってくれました。
個人的には、この「裏方こそが歴史を作った」は、自分自身(編集長=寺薗)が関わった映画「はやぶさ/HAYABUSA」(あの映画も、主人公は「はやぶさ」のカメラ研究者兼広報担当役でした)にも通じるところがあって、グッとくる言葉でした。
また、NASAが全面協力しているという点については、「エンドロールをみてひっくり返った。エンドロールの協力者のところのNASAの欄に出てくるのが、一番目が長官のビル・ネルソン、二番目が著名な宇宙飛行士でケネディ宇宙センター所長も務めたボブ・カバナ。NASAのナンバー1・ナンバー2が協力者に入っている」と述べていました。私も確かにこのエンドロールには度肝を抜かれました。

さすがにNASAにもいらしたということで、野口さんはさらに再現度についてもお話しして下さいました。
「ケネディ宇宙センターは過去30年そんなに変わっていないので、懐かしいシーンがいろいろ出てくる。発射台に向かう道とか、組立棟とか(大きなNASAのロゴマークがあります)、レストランやホテルが集まっているココアビーチの再現性など、リアルさが非常に高く、懐かしい思いと共にみていた。」と、ご自身のケネディ宇宙センターでの体験も含めたお話をして下さいました。

しょこたんさんは、「興奮する場面だらけ。『NASA全面協力』という言葉だけで、『ああ、人類はこんなにずっと仲良く喧嘩していたんだ』(60年代の米ソ冷戦)「本当だ嘘だ」と言い合ってきたのが、これでいちばん真実に近い形が明かされてしまったのではないか。そして、ごきげんなアメリカンムービーでもあるので、60年代のサウンドや派手な衣装もあったりして、ファミリーでも見やすい映画だ。」と述べてきました。
あと…ちょこっと映画の中身にも触れるお話をしていたのですが、ここでは内緒、としておきましょう。

野口さんとしょこたん

野口さんとしょこたんさんのトーク
© 2024 TERAZONO Junya

 

しょこたん

映画について語るしょこたん(中川翔子)さん。今回は映画に合わせ、まさに主役のケリー役が着ていたものとそっくりの、1960年代風の衣装で登場。
© 2024 TERAZONO Junya

滝沢カレンさんは、「いままでも宇宙映画をよくみてきたが、みてきたのは宇宙が主役の物語ばかり。でもこの映画には宇宙のシーンがほとんど出てこない。地上が主役になっている。地球での物語が月への頑張りをみせていくという展開がすごい。逆に私たちが、月に行って帰る場所であるこの地球にいることが奇跡なのではないかと、映画の最後になって思えてくる。地球にいることに鳥肌が立ってくる、そんな思いを抱かせるような映画だ。私たちは宇宙の一つに立っている、と映画が終わったあとより強く思わせる。」と語りました。

MCを務めたジョニー志村さんももちろん映画をご覧になって「楽しめた。いろんな人が頑張ったからこそ月に行けたということがわかった。」と、大変実感を持って語って下さいました。

滝沢カレン

滝沢カレンさん
© 2024 TERAZONO Junya

ちなみに、1969年の話について、野口さんも4歳、残りお2人は生まれていないとのことでした。
野口さんに言わせると、「1969年(の月着陸)の前と後で人類は2つに分かれているのではないか」とのことでした。

主演のスカーレット・ヨハンソンについて、しょこたんさんは「彼女はすごく大好きで、しかも同い年!そうみえないけれどもあこがれちゃう。ピンクやイエローといった派手派手のカラーの服を着て、ヒールを履いて仕事をして、仕事という線引きを超えて『私にしかできないことをやるんだ』という情熱がビリビリとスクリーンを越えて伝わってくる」と熱い思いを語って下さいました。

滝沢さんは「嘘かホントかを、スカーレット・ヨハンソン演じるケリーが最後まで握っている。嘘が悪い、リアルがいいとは思わせない、2つに分けることではないのではないか。それを最後に教えてくれるように思う。嘘も地球のためにはいいことに変身できる。最後に何かを教えてくれるのがケリーじゃないか。」と、映画の核心に迫る内容を述べていました。

これを受けて野口さんは、ネタバレにならないようにと苦心しながら、「(この映画は)見ればみるほど、実際にアポロ計画に加わっていた人たちへのちゃんとしたリスペクトが感じられる。実際に起きた悲劇的な事故(アポロ1号の炎上事故)も出てくるし、そういったことに対する敬意も払っている。主役の2人とも、過去に家族、あるいは仲間を失っている。それに対する責任を果たしている、ということが胸を打つ展開だ。過去にいた人たちに対していま自分たちが責任を果たさなければいけない。それをみるだけですごくいいヒューマンドラマになるだろう。」と語りました。

発射管制センター

映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の一シーン。発射管制センターで着陸を喜ぶコール(中央)と技術者たち。
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■もし「フェイク映像を撮れ」と言われたら…

3人がもしケリーの立場に置かれたらどうなるか、という質問に対しては…

しょこたんさんは「楽しんでやりたいですね…仕事だし。でも我慢できないから、うちにいるねこたちには喋っちゃう」とのことでした。

滝沢さんは「誰かにご迷惑がかかるようだったら、嘘だけど、これをみたあとなら『やる』といえる。みる前だったら『やらない。怖い』といっていたかもしれないが、これをみたら気持ちが持てる。勇気をもらった。」とのことでした。

宇宙飛行士でもある野口さんの答えは大変に気になるところでしたが、「そういう場面で彼らが頼るのは役者と広報担当者。一にも二にも、そういう我々プロ(の宇宙飛行士)の活動を支えてくれているのは彼ら。そういう方々の存在感が大きいということを逆に知らされる。実際に我々がやる以上に『どう伝えるか』がそれと同じくらい大事だ。それがこの映画の裏のテーマであり、アメリカ人はよくわかっている、ということを伝えてくれる映画だ」ということでした。伊藤さんからは「核心をうまくそらしましたね〜」と言われていましたが…。

野口さんとしょこたん

野口さんとしょこたんのトークの様子
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■月に一緒に行けるとしたら、誰と一緒に行きたいか?

ここからは実際に月に行くことを想定した質問が、3人に投げかけられました。

野口さんは、「妻と子どもたち、家族と一緒に行きたい。僕は3回宇宙に行ったが、仕事だったので家族と一緒に宇宙を体験していない。行くのには準備が大変だしそれなりに覚悟も必要だが、行っている間は楽しい。景色も素晴らしい。」とのことでした。さすが、宇宙を経験した人でないといえない言葉ですね。

しょこたんさんはずばり「大谷翔平選手!」とのことでした。「つい先日、ドジャースタジアムで『生28号』を見たばかり。月では重力が6分の1だから、時速131キロのボールが6倍の時速786キロになる。それをカメラマンとしてみてみたい」とのことでした。そこに野口さんが割り込んで、「実は宇宙から大谷くんと話している。おんなじ話をしたらすごく喜んでいた。」と付け加えて、しょこたんさんがかなりびっくりしていました。

盛り上がるトークの様子

盛り上がるトークの様子
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滝沢さんは、意外なお答えでした。「1人がいいです。安全面も保証できないし、あまりたくさんの人が呼べない。自分が行って、自分の目で確かめて、自分の心から出た言葉を友達に言って、その後来るかどうかはその人次第。」という、なかなか慎重なお答えでした。

■月に行ったときの第一声、皆さんならどうする?

ここでジョニー志村さんから、「アポロ11号のアームストロング船長の、月に最初に降り立ったときの有名な言葉『一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ』(映画にももちろん、このセリフは登場します)があったが、みなさんが月に降り立ったらまず最初にどんな言葉を発するか」というお題が出され、皆さんフリップに答えを書いて示しました。

野口さんは、月の重力が6分の1になったということで、ポンポンジャンプするようになることから、「月の兎になったよ。」と、かわいめの言葉を書いて下さいました。全力ジャンプすれば、(地上で1メートル飛ぶのなら)6メートル飛べるかもしれません。ちょっとウサギより凄そうですね。

野口さんの月面第一声

野口さんがもし月に行ったら発する第一声「月の兎になったよ」。
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しょこたんさんは「昔から決めていた」とのことで、あのアニメのセリフでした。
「月に代わってお仕置きよ!」です。ブログでは言葉が伝えられませんでしたが、まさにあのアニメの感じで決めて下さいました。
以前深海に潜ったことがあるというしょこたんさんは、「最も深い海に潜った芸能人ではあるのだが、深海と宇宙に行った人はまだいないので、『行きたいな』ではなく『行く』と決めている。英語も話せないのに宇宙飛行士選考にも応募したし(書類で落ちたそうです)、宇宙旅行のために貯金もしているし、宇宙旅行が気軽に行ける日のために長生きしようと決めているので、そのときには絶対これを言います!」ということでした。
ぜひ頑張って欲しいと思います!

しょこたんさんの月面第一声

しょこたんさんの月面第一声は、あのアニメのセリフ「月に代わってお仕置きよ!」
© 2024 TERAZONO Junya

滝沢さんは、「こちらに家を建ててよろしいですか?」という、ちょっと意外なお答えでした。
滝沢さんは月に住みたいのだそうで、「月を拠点に、銀河系の端まで行ってみたい。地球と月に家があったとして、地球より月からの方が近い星があるはずだから」とのことでした。
どう家を建てるのかという質問が出たときに野口さんがすかさず助け舟。「乗っていったカプセル(宇宙船)をそのまま家にしてしまえばいいのではないか」。窓もあるし、地球に帰るときにはまたそれで戻ってくればいい、というアイディアです。
実際このような月面基地(?)も、将来できるかもしれませんね。

滝沢カレンさんの第一声

滝沢カレンさんの第一声は「こちらに家を建ててよろしいでしょうか?」
© 2024 TERAZONO Junya

さらに、ジョニー志村さんは「意外と近かったね」だそうです。確かに、皆さんが思うより月というのは近い存在なのかもしれませんね。
なお、フリップに「ジョニー志村」と書いてあり、「あれ?誰でしたっけ?」というツッコミはありました。

ジョニー志村さんの第一声

ジョニー志村さんの第一声は「意外と近かったね」
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最後に、野口さんは「来年(2025年9月)にまた人が月に行く(アルテミス2)」というお話をしていましたが、しょこたんさんからは「でも55年行ってないっていうのが怪しんだよね…」というお言葉が。映画に近づく内容でトークイベントは終了しました。

フリップを持った3人

フリップを持った3人
© 2024 TERAZONO Junya

 

イベント終了後のフォトセッション(その1)

イベント終了後のフォトセッションにて(その1)
© 2024 TERAZONO Junya

 

イベント終了後のフォトセッション(その2)

イベント終了後のフォトセッションにて(その2)
© 2024 TERAZONO Junya

30分という短い時間ではありましたが、3人とも強力な「宇宙愛」が感じられ、和気あいあいとしたトークセッションとなりました。
また、映画の中身についても「言いたいんだけど」というような部分がすごく多く(一部言っちゃったところもありましたが…),3人ともこの映画にすごく惚れ込んでいるという様子がよくわかりました。編集長(寺薗)も試写をみておりますが、私もこの映画、すごく楽しみましたし、おすすめしたいと思います。あと、言いたくなっちゃうのも共通です。

映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、7月19日より全国の映画館で公開されます。ぜひ、ご覧になってください。
あと、「あのうわさ」が気になったら、ぜひ月探査情報ステーションの以下のページをご参照のほど。