高砂熱学工業は18日、世界初となる月面での水の電気分解を行う装置を開発し、月面への輸送のため、ハクトR (HAKUTO-R)を開発・運用するアイスペースに引き渡したと発表しました。

月面水電解装置

高砂熱学工業が開発した、月面での水の電気分解を試験する装置。
Photo: © 高砂熱学工業

現在日本でも世界でも月探査が活発に実施・計画されています。この大きな理由は、1990年代に月に水があるらしいことが判明したことによります。

水があれば、人間が生きていくための飲み水に使えるのはもちろん、生活用水(手洗い、シャワー、掃除など)にも使えます。人間が生きていくために水は欠かせないものですが、現状、月にものを持っていくとなると輸送費が非常に高価になり(諸説ありますが、例えば1キログラムのものを持っていくのに1億円という試算もあります)、地球から水を送るのでは経済的に人間の月面滞在が成り立たないという事情があります。
もし月面の現地で水が得られるのであれば、これを使えばいいことになり、問題は一気に解決することになります。

また、水の使いみちとしてはもう一つ、「燃料として使う」というものがあります。
水はご存知の通り、酸素と水素からできています(H2O)。水を水素と酸素に分解できれば、水素はロケットや燃料電池の燃料に、酸素は人間の呼吸やロケットの燃料(酸化剤)に使うことができます。
この「分解できれば」を行うのが、電気分解(省略して「水電解」)というものです。皆さんも中学校の理科の実験で経験されたかと思いますが、水そのものは電気を通さないため、水酸化ナトリウムなど電気を通す物質を混ぜた上で水に電気を通すと、水が水素と酸素に分解されます。

今回の高砂熱学の装置は、これを月面で行うというものです。なお、まだ月に水が存在するかどうか、あるいは着陸地点に水があるかどうかが定かではありませんので、今回の実験では水を地球から持っていった上で、装置が正常に動作するかどうかを確かめることになっています。

今回の実験で使う水を提供するのは、これまた日本が誇る水のエキスパート、栗田工業。
栗田工業は水処理のエキスパートとして、日本だけではなく世界に展開しています。その水処理技術が今回月に届きます。
今回の実験で使う水は「超純水」です。ちょっとした不純物が混じっているだけで実験そのものに問題が出ますし、それを取り除くために月面に赴くわけにもいきません。栗田工業が誇る超純水製造技術が、ここで役立つことになります。

一言で水の電気分解とはいいますが、学校の理科の実験と月面での実験は大きな違いがあります。

まず、重力が違います。
月の重力は地球の6分の1です。この違いにより、月ではものの流れが地球とは異なります。このような重力の違いを考慮に入れた上で装置を設計する必要があります。

また、宇宙に運ばれる装置は、ロケット打ち上げの際の激しい振動に耐えられなければなりません。このような振動にも耐えられるよう(でも重くならないよう)、装置を作っていく必要があります。

もちろん、一度月面に運ばれれば、装置を修理することはできません。人間が行って直すというわけには(いまのところは)いかないからです。にもかかわらず、月面では高温では120度、低温ではマイナス170度、しかも空気がないという極端な環境にさらされます。
こういった極限の環境下でしっかり装置が動作するかを確かめることも重要になります。

装置は以下のような構成になっています。
大きく分けると、

①電気分解そのものを実行する「電解セル」
②電気分解により得られた水素を蓄える「水素用タンク」
③電気分解される水、及び酸素を蓄える「水及び酸素用タンク」
④装置全体を制御する「電気ユニット」
この4つから成り立っています。これらは激しい振動にも耐えられるよう、しっかりとした部品で繋ぎ止められています。

なお、大きさは縦300ミリ×横450ミリ×高さ200ミリです。高さを別にすればA3の用紙1枚とほぼ同じ大きさです。

月面水電解装置

高砂熱学工業が開発した、月面での水の電気分解を試験する装置。各部の説明が入っている。
Photo: © 高砂熱学工業

高砂熱学工業は、空調設備を中心に、環境を快適にする装置を開発してきた会社です。近年では水素に注目し、製造から貯蔵、利用までのシステム構築に力を入れています。
創業100年(2023年に100周年)の技術を活かした今回の装置といえるでしょう。

この装置は、今年の末に打ち上げられるとみられる、アイスペースのハクトR2号機(HAKUTO-R M2)に搭載されて月面に運ばれる予定です。