皆様、新年あけましておめでとうございます。
旧年中は月探査情報ステーションをご愛顧いただきまして、ありがとうございました。

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昨年は月・惑星探査にとって「当たり年」といってもよいほど話題が多い年でした。
私たち日本人にとってはなんといっても「はやぶさ2」でしょう。2019年11月に目的地の小惑星リュウグウから離脱、2020年いっぱい帰還に向けた航行を続け、12月6日、オーストラリアに無事、帰還カプセルを到達させました。開封された帰還カプセルには5.4グラムという、初代とは比べものにならないほど大量のリュウグウ由来のサンプルが確認されました。まさに、玉手箱には「大判小判がザクザク」(若干物語が異なりますが)という状況でした。帰還の瞬間は真夜中でしたが、多くの人たちがテレビやネットの実況中継を心待ちにしていたことでしょう。初代「はやぶさ」の帰還のときとはまさに様変わりでした。
「はやぶさ2」は帰還カプセルを地球に戻したあと、2031年に向けた新たな拡張ミッションへと出発しました。まだまだこれからも、はやぶさ2から目が離せません。
また、報道では「アメリカ版はやぶさ」とも呼ばれることが多いアメリカのオサイレス・レックス(オシリス・レックス)ですが、こちらも10月20日、サンプル採取に成功しました。こちらも大量のサンプルを取得し、一時そのためにふたが閉まらなくなるという「うれしい悲鳴」を上げざるを得ない状態でした。こちらは今後のサンプル取得についても成果が楽しみです。

そして、火星探査の当たり年でもありました。
2020年7月には、中国アメリカ、そしてアラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機が次々に打ち上げられました。1年に3機もの火星探査機が打ち上げられたのは人類史上はじめてのことです。それだけ、この赤い星への関心が高まっているともいえるでしょう。UAEの火星探査機が日本のH-IIAロケットで打ち上げられたことも特筆すべきポイントではないかと思います。

さらに、月探査、とりわけ有人月探査についても大きな前進がありました。
アメリカが主導して進められている有人月探査計画「アルテミス計画」はその歩みを着実に進めています。と同時に、それに参加する日本の動きも活発になってきました。昨年7月に発表された日本の新たな宇宙基本計画には有人月探査計画への参画が盛り込まれ、日本人宇宙飛行士がいずれ月面に立つのではという報道も目立ちました。10月には日本を含めた8カ国が「アルテミス協定」に署名、国際協力体制も本格的に構築されてきました。
また、将来の有人探査を見据えた無人月探査についても、政府・民間それぞれで活発な動きが展開されていきました。
一方、中国の嫦娥5号は12月に月からのサンプルリターンを実施、44年ぶりに月から試料を持ち帰ることに成功しました。これ自体は非常に大きな科学的成果であり喜ばしいことなのですが、一方でアメリカの有人月探査に向けた動きは中国への対抗という側面も大きく、今後の中国の月探査の進捗がアメリカの宇宙開発に与える影響を中止していかなければなりません。

しかし、2020年は最初から最後まで、まさに「新型コロナウイルスの年」でした。宇宙開発ももちろんこの影響を世界的に受けました。世界中の多くの施設でロックダウンが行われ、衛星開発やロケット開発に遅れが出たり、見学施設の閉鎖などが相次ぐ事態となりました。世界中で数百万人が死亡するという恐るべきパンデミックが私たちの社会の与えた爪痕は、今後何年にもわたって世界経済を苦しめる可能性があります。宇宙開発がそこでどのような助けを差し伸べられるのか、今年以降、経済復興の側面からの宇宙開発の議論が活発化してくることも予想されます。

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さて、2021年の宇宙開発はどうなるでしょうか?

まず、2021年は、昨年の成果を最大限活かす年になるでしょう。
「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルの本格的な分析がスタートします。リュウグウ由来であることはまず間違いないですが、その確定を行うこと、そして詳細な分析により、リュウグウの歴史、そしてそこから太陽系生成の歴史に迫っていけることが期待されます。もちろん、リュウグウは水や有機物に富むとされるC型小惑星です。サンプルも炭素が多いことが伺える黒っぽいものでした。これまでカメラなどによるリモートセンシングではわからなかったC型小惑星の本来の姿が解き明かされることになっていくはずです。

2月には、昨年打ち上げられた火星探査機が相次いで火星に到着します。まずはこれらが無事火星周回軌道に投入される、あるいは火星表面に着陸することが重要です。火星は探査機にとって決して優しい環境ではなく、過去多くの探査機が辛酸を嘗めてきました。2021年においてもまずこの点をクリアしてくれることを祈らなければなりません。
そのうえで、探査機がそれぞれの実力を大いに発揮してくれることが期待されます。とりわけ、アメリカの「マーズ2020」は、将来のサンプルリターンも視野に入れているだけに、その働きぶりが大いに注目されるところです。

有人月探査については、その着実な実施に期待がかかります。特に11月に予定されている1号機「アルテミス1」は、20年近くも開発にかけてきたNASAの新型宇宙船「オライオン」(オリオン)の本格デビューとなるだけに、期待も大きい反面、心配も残ります。本来昨年中に実施される予定であったものが順延されて今年になったことも含め、こういった計画の遅れ(や予算超過)が計画全体の足を引っ張ることにならないよう、そしてそれが過去何度も繰り返されてきた「大型月・惑星探査ミッションのご破産」につながらないように願いたいものです。
月探査については、民間の月探査機の打ち上げもアナウンスされています。こちらも楽しみです。
また、将来に向けてのミッションの進捗も期待したいです。2022年度打ち上げ予定の日本の「スリム」、同じく日本の企業、アイスペースの「ハクトR」を始めとして、日本や世界の月探査がどの程度進捗するかにも注目です。

小惑星については、今年2つのミッションの打ち上げが予定されています。
1つは、6月打ち上げ予定の「ダート」(DART)です。小惑星ミッションとはいっても、これまでの科学(サイエンス)ミッションとは異なり、そのメインが「小惑星の軌道を変える」ことにあるという点で非常に特異なものといえるでしょう。
小惑星の地球衝突問題の重要性は論を待つまでもありませんが、それに対し、小惑星の軌道を変えることで衝突を防ぐという「直接解」を与えるものがこのダートです。目的地は地球近傍小惑星のディディモス。衛星を持つこの小惑星についての詳細が明らかになることも期待されます。
もう1つは、10月に打ち上げられる予定の「ルーシー」です。ルーシーは、木星の公転軌道を回る小惑星「トロヤ群小惑星」を探査するために打ち上げられる探査機で、目的地到着は2027年を予定しています。「はやぶさ2」同様、太陽系初期の様相を残す小惑星への探査ということで、その結果を心待ちにしたいと思います。
もちろん、ミッションを引き続き遂行するオサイレス・レックス(オシリス・レックス)からも目が離せません。

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月探査情報ステーションは、2020年も皆さまに多くの情報をお届けした…といいたいところですが、残念ながら、そうはなりませんでした。
その最大の要因はやはり忙しさでした。特に年の後半は、私自身が仕事を変えたこともあり、引っ越しや異動などで私自身の時間が全く取れなくなってしまいました。徐々に落ち着きつつあるとはいえ、生活リズムが再び確立するにはもう少し時間がかかりそうです。

書き溜めているブログ記事は、下書きのままのものが400件を越えてしまいました。これらのブログ記事は、皆様に最新情報をお届けするだけでなく、自分自身の情報収集、そして勉強にもなるわけですから、私自身の知識が失われているともいえます。
仕事を変えたことを気に、抜本的に状況を改善できるように動いていければと考えています。

2021年は、月探査情報ステーションのスタートから23年目になります。
ありとあらゆるものがバーチャル、リモートになってしまった2020年、しかし、インターネットの存在によって、私たちのコミュニケーションは最低限であっても、あるいは不自由ながらも保たれました。そして多くの人に、インターネットの重要性を再認識させることになりました。そのインターネットを使った情報発信の先駆者として、月探査情報ステーションに何ができるのか。さらには先ほど述べた「宇宙開発が経済浮揚にどのように貢献できるのか」を、広報・普及啓発の分野からもう一度しっかりと考えて、サイト運営を進めていきたいと思います。

本年も月探査情報ステーションをご愛顧・ご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2021年1月1日
月探査情報ステーション 編集長
合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表社員
寺薗 淳也