皆様、新年あけましておめでとうございます。
旧年中は月探査情報ステーションをご愛顧いただきまして、ありがとうございました。

昨年の今日、1月1日は、ニューホライズンズによる史上初のカイパーベルト天体「アロコス」(当時の名称は「ウルティマ・トゥーレ」)へのフライバイで盛り上がりました。日本では正月3月日はお休みで正月気分となりますが、その翌々日、3日には中国の月探査機「嫦娥4号」がこれまた史上初の月の裏側への着陸に成功、昨年の正月3が日は月・惑星探査の大ニュースが次々に入ることになりました。

しかし、なんといっても昨年の月・惑星探査のニュースを盛り上げたのは「はやぶさ2」の活躍であったといえるでしょう。
2月に第1回のタッチダウンに成功、4月には先代「はやぶさ」にはなかった衝突装置の運用に成功、7月にはその衝突装置によって作られたクレーターの近くへの第2回タッチダウンに成功と、まさにありとあらゆることがパーフェクトに進んだといってよいミッションでした。先代「はやぶさ」にかかわってきた編集長にとっては隔世の感を感じると共に、先代があったからこそこのパーフェクトな成功があったのだと、自らに言い聞かせる部分も少しあります。

そして、月探査をめぐる情勢も目まぐるしく変わりました。
5月、アメリカ・NASAは新たな有人月探査計画「アルテミス計画」を発表しました。2024年までにアメリカ人を月に送り届け、初の女性の月着陸を成し遂げるという計画です。もちろんその後には、長期滞在型の月面基地という動きも出てくるでしょう。
これに呼応して、日本は10月にこのアルテミス計画に参加することを発表しました。これは日米同盟維持という観点から発表された、いわば政治的な側面の強い決定ではありますが、今後必要とされる費用の問題など、懸案は全て今年以降に先送りされた形となっています。
何よりも、アルテミス計画そのものが計画通り進められるかどうかすら予測できません。計画自体がアメリカの政治的な産物の色合いが濃いだけに、今後のアメリカの政局次第では計画が大きく揺れ動き、最悪の場合停止してしまう可能性もないとはいえないでしょう。

月に関しては、アメリカ以外、さらには民間部門の動きも目立ちました。
2月にはイスラエルの月探査機「べレシート」が月に向けて打ち上げられ、4月に着陸の予定でしたが失敗、月面に激突したとみられています。7月にはインドとしては2機目となる月探査機「チャンドラヤーン2」が打ち上げられ、9月はじめに月に到達しましたが、月面着陸機・ローバーは月面に激突し、失敗してしまいました。相次ぐ月面着陸の失敗は、月が「そう甘くはない」天体であることを示しています。2021年度に月着陸を予定し、その後そのインドと共に月極地探査を予定している日本としても人ごとではありません。
一方、民間部門での月への動きは着実に加速しています。アメリカではブルーオリジンが月着陸船「ブルームーン」を発表。ライバルとなるアストロボティック社でも月着陸船の開発が進んでいます。
日本ではアイスペースが月探査計画を着実に進める一方、ダイモンが新たに小型月ローバー「ヤオキ」の開発を表明、前述のアストロボティック社の月面着陸機に搭載することを発表しました。
月に限らず宇宙ベンチャーの勃興が著しかった2019年は「民間宇宙開発元年」と振り返られることになるかも知れません。しかし、その勢いが持続するためには、長期にわたる宇宙開発ビジョンや、官民挙げてのサポートなど、一時の勢いで終わらせないための多段の工夫が必要になるでしょう。

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2020年。新たな年の始まりというだけではなく、2020年代という新たな10年代の始まりでもあります。
2010年代の始まりは、初代「はやぶさ」の帰還でスタートしたといってもよいでしょう。これがやがて「はやぶさ2」へとつながり、あメリカの「オサイレス・レックス(オシリス・レックス)」を含めた小惑星探査の勃興へとつながりました。2020年代は、もし今のまま進むのであれば、有人月探査、そして民間月探査の時代となっていくと考えられますが、一方で中国の月探査の動きにも留意する必要があります。

今年、2020年における月・惑星探査としては、年の終わりになりますが、なんといっても「はやぶさ2」の帰還が大きなイベントとして挙げられると思います。先代の帰還から10年、今回は微粒子レベルではなく、かなり大量のサンプルを地球に持ち帰ってくると期待されます。帰還だけではなく、その先のサンプル分析などの動向も期待したいところです。
一方、「はやぶさ2」は帰還カプセルを切り離したあと、軌道を変更し、新たな探査に出ることが想定されています。その探査先がどこになるのか、またどのような探査を行うのか、この点についても注目です。

今年は2年に一度の火星探査の打ち上げ好機です。前回、2018年の打ち上げ好機では「インサイト」1機しか打ち上げられませんでしたが、今年は7月から9月にかけて4機もの火星探査機の打ち上げが計画されています。1年に4機もの火星探査機が打ち上げられるのは史上はじめてとなります。
アメリカの大型火星ローバー「マーズ2020」、アラブ首長国連邦(UAE)が開発し、日本のH-IIAロケットで打ち上げられる「アル・アマル」、2016年に先行周回機・着陸実証機が打ち上げられたヨーロッパとロシア共同の火星探査計画「エクソマーズ」、そしてまだ情報が少ない、中国の火星探査機。これらが約2ヶ月の間に次々に火星へと向かうのです。
2020年代の火星探査についてはまだ計画があまり多く出ていません。しかし、いろいろな情報を総合すると、今後は火星からのサンプルリターンが主になると考えられます。実際、マーズ2020は、その後のサンプルリターンを想定した探査になっています。
日本も2024年度の打ち上げを目指して、火星衛星探査機MMXの開発を進めています。MMXは火星衛星からのサンプルリターンを目指しています。

そして、大きな動きが続きそうなのが月探査です。
アメリカのアルテミス計画をはじめとした月探査計画は今年も進んでいきそうです。今年は特に、「アルテミス1」と名付けられた、NASAの有人宇宙船「オライオン」(オリオン)の打ち上げが待ち構えています。NASAが10年以上もかけて開発してきたオライオンと、スペース・ローンチ・システム(SLS)の組み合わせが、実際に月という天体に向かうことができるかどうか、これがいよいよ本番として試されることになります(但し、無人ですが)。その進捗次第では計画の今後を左右する可能性もあります。
NASAだけではなく、民間企業による月へのアプローチも今年以上に盛んになってくるでしょう。また、JAXAのスリム計画など、各種月探査計画の進捗も楽しみです。
ただ、これらには多くの不確定要因があります。現在月探査を推進しているアメリカのトランプ政権は、2020年、大統領選挙という試練を迎えます。再選についてはいろいろな予測がありますが、再選されなかった場合に月探査が今後どのようになっていくのかも気をつけてみていかなければなりません。
民間企業による月探査についても、景気の動向に大きく左右されます。一部では「ベンチャー疲れ」という言葉も聞こえてくるようになってきました。これまでの宇宙ベンチャー企業の勢いが持続できるかどうかも試されることになるでしょう。
さらに、中国の動向も気になります。今年は、中国初の無人サンプルリターン探査機「嫦娥5号」の打ち上げが予定されています。昨年、世界初の月の裏側への着陸を成功させた中国は、着実に月への歩みを進めています。サンプルリターン探査機の打ち上げに成功すれば、その先にある有人月探査についても何らかの動きをみせてくるかも知れません。ただ、これも米中対立などによる経済の悪化などが影を差してくる可能性があります。

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2020年もまた、月・惑星探査の話題には事欠かない1年になりそうです。

月探査情報ステーション、そして編集長(寺薗)にとって、昨年は決してよい年とはいえませんでした。
21年目となる昨年は、本業の多忙に加え、体調を崩してしまい、更新が滞ってしまいました。特に6月には1ヶ月の休養を余儀なくされる事態にまで陥りました。ここ数年、書籍出版などを契機として、講演やイベントの依頼が多く、加えて本業である大学の仕事が増加の一途をたどっていることから、全てを達成しようとして体と精神に大きな無理がかかってしまったようです。

7月以降は体調を回復させつつ、無理をせず運営を行ってきましたが、結局「無理をせず」は「最低限」と同義となってしまい、やはり頻繁な更新を行えませんでした。
私としても、記事やサイトの更新は、自分自身の知識を更新していく作業の一環でもありますので、更新が低調に推移するということは、自分自身の知識が追いつかないということでもあります。そのような意味で、自分の中にも欲求不満はたまっていますが、それを解消しようとして無理をすればまた同じことになります。

皆様にもなかなか最新の記事、あるいは月・惑星探査の最新情報をお届けできず、大変申し訳ないと思っておりますが、上記のような事情もあり、自分自身の問題の全体的な解決をみるまでは、しばらくの間どうぞご猶予をいただければと思います。
私自身にとっても、月・惑星探査の情報、そして魅力をより多くの方にわかりやすく(そしてできればすばやく)お伝えしていくことはライフワークであると思っております。本業や他の仕事との両立を模索しながら、今年も月探査情報ステーションをしっかりと運営していきたいと考えております。

本年も月探査情報ステーションをご愛顧いただきますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2020年1月1日
月探査情報ステーション 編集長
合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表社員
寺薗 淳也