中国が月探査に熱心であることは皆様ご存知かと思います。人民網日本語版が、これまで、そしてこれからの月探査について、無人探査の「嫦娥」シリーズから将来の有人探査までの特集を組んでいます。

嫦娥3号のローバー「玉兎」

嫦娥3号のローバー「玉兎」

この記事から、それぞれの探査機が成し遂げた成果を拾ってみましょう。

嫦娥1号(2007年打ち上げ)

  • 月全休の写真を撮影(中国としてははじめて)
  • ヘリウム3の含有量の測定に成功(将来の月資源利用の可能性に道を開く)
  • 世界ではじめてとなる、月表面の温度分布図を作成
  • 宇宙天気の結果を記録

嫦娥1号は中国初の月探査機ということで、性能面としては同じ時期に打ち上げられた「かぐや」に比べるとかなり劣っていましたが、それでも、将来的に中国が月探査を行っていく上での数多くのノウハウを得られたという点では成功だったといえるのでしょう。

嫦娥2号(2010年打ち上げ)

  • 解像度7メートル以下での全月面写真を取得(編集長注: 「かぐや」のカメラは最高解像度8メートルでの全球写真を取得しています)
  • 月周回軌道からラグランジュ点(L2)への飛行を果たす(世界初)
  • 深宇宙探査を実施。地球から7000万キロ離れた地点で小惑星トータティスへフライバイ、写真撮影に成功。

嫦娥2号は中国の2つ目の月探査機、そして2つ目の周回探査機でした。1号の成功を受けて、1号がやっていなかった「大胆な」探査をいろいろと行いました。中でも大胆だったのは月探査ではなく、月を離れてからあとの状況といえましょう。月を離れて小惑星探査を行ったり、1億キロの地点からの通信実験を行ったりと、将来中国が着陸探査や深宇宙探査を行う際の技術開発に大いに貢献しました。

嫦娥3号(2013年打ち上げ)

  • 中国初となる月着陸に成功
  • 中国初となるローバーの月面での稼働に成功
  • 世界でもっとも長い、探査機の月面稼働時間を達成
  • 月面における水分についての最新データを取得

嫦娥3号は、中国が周回から着陸探査という新たな段階に探査を進めた、その第1号機です。2013年末の着陸以来、すでに月面での稼働日数は800日に迫ろうとしており、上述の「月面でもっとも長く稼働した探査機」の記録を更新しています。
その一方で、あまり科学的な成果については出てきていませんが、元記事にはなかったものの、搭載されている月面望遠鏡のパイロットプラントについても野心的な試みとして触れておいてもいいでしょう。

ここから先は将来の話となりますが、中国の月探査は以下のような形で進む予定です。

  • 嫦娥4号…2018年打ち上げ予定
    嫦娥3号と同一の機体。世界初の月の裏側への軟着陸を目指す。着陸機およびローバーから構成される。
  • 嫦娥5号…2017年打ち上げ予定 ※4号の方があとになります
    中国初の月サンプルリターン探査機。また、打ち上げは新型ロケット「長征5号」、打ち上げ場も新しい「海南宇宙センター」となる。

さて、サンプルリターンの先にあるのは、やはり「有人月面探査」でしょう。
これについて記事では、月探査プロジェクト3期(サンプルリターン段階)のチーフデザイナー・胡浩氏の言葉を引用し、「現在、さらに推力の大きなキャリアロケットと生命維持システムが最大の課題。その準備ができれば有人月面着陸も可能になるはずだ」」と述べています。また、生命維持システムに関しては、現在中国が進めている有人宇宙船「神舟」シリーズ、及び宇宙ステーション「天宮」の実績が利用できるとの見通しを述べています。

記事でも触れられていますが、有人宇宙開発でもっとも大きなポイントは、人間を無事地球に返す部分です。特に大気圏の再突入は非常に高度な技術が必要になるだけでなく、非常に大きな危険も伴います。
中国はこれまで神舟シリーズでこの点についても実績を積み重ねていますので、技術的な蓄積はある程度できているとは考えられます。ただ、地球周回軌道からの帰還と月からの機関ですと、速度面や制御などの方法の違いも出ることが考えられ、神舟の蓄積をそのまますぐ応用できるとは限りません。
おそらくこのあたりの技術的な成熟具合、さらには達成に必要となる予算や期間などを見通した上で、中国政府、あるいは中国共産党として有人月探査に踏み込むかどうかを決断することになるでしょう。それはおそらく、嫦娥5号でのサンプルリターンの成否が明らかになって以降、早ければ2018〜2019年辺りにも決断が行われると考えられます。

なお、人民網日本語版の記事では、それぞれの探査機の成果を報じた記事へのリンクも設置されています。そちらもぜひお読みになられるとよいと思います。