2019年1月1日、NASAの探査機「ニューホライズンズ」は、カイパーベルト天体「ウルティマ・トゥーレ」への最接近(フライバイ)に成功、地球から65億キロも離れた天体の探査に成功しました。人類史上はじめて、カイパーベルト天体の直接探査に成功したことになります。そして、人類史上最も遠い、天体の直接探査を成功させたことになります。
(「最も遠い天体」ではなく、「最も遠い、天体の直接探査」です。読点「、」が重要です。)

「ウルティマ・トゥーレ」に最接近するニューホライズンズ探査機の想像図

カイパーベルト天体「ウルティマ・トゥーレ」に最接近するニューホライズンズ探査機の想像図
(Photo: NASA/JHUAPL/SwRI)

ニューホライズンズは、2019年1月1日午前0時33分(アメリカ東部標準時。日本時間では同日午後2時33分)、カイパーベルト天体「ウルティマ・トゥーレ」に最接近、そばを通り過ぎながらの探査(フライバイ)を行いました。
カイパーベルトとは、海王星の先に広がる領域で、この領域に冥王星を含めたやや大きめの天体が多数存在することが、1990年代以降観測により実際に確かめられ、太陽系の誕生の謎などとの関連で注目を浴びてきました(詳細はニューホライズンズのページにある「ウルティマ・トゥーレとは」をご参照下さい)。今回このカイパーベルトにある天体を直接探査することで、これまで望遠鏡でも点にしかみえず、正体が謎とされてきたカイパーベルト天体を解明できるのではないかと期待されています。

ただ、先ほど申しました通り、とにかく遠い天体への探査です。65億キロ先の探査機からのデータを受信するためには、光の速度をもってしても6時間以上かかります。
ニューホライズンズ探査機の運用を行っているジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(JHUAPL)では、探査機からのシグナルを1月1日の午前10時29分(アメリカ東部標準時。日本時間では1月2日午前0時29分)に受信しました。

ニューホライズンズのプロジェクトマネージャーで、サウスウェスト研究所のアラン・スターン博士は、「本日(1月1日)、探査機は所定の動作を実施し、史上最も遠くでの直接探査を成功させた。太陽から65億キロ(原表現では「40億マイル」)も離れた天体だ。すでに我々のところに届いているデータはすばらしいものだ。ウルティマ・トゥーレについて、我々はすでにすぐ近くからいろいろなことを学びつつある。今後、データはよりよいものになっていくだろう!」と、探査を成功させた安心感と自身の中にも若干興奮をにじませたコメントをしています。
最後の「今後データがよりよくなる」は若干の補足が必要でしょう。
繰り返しますが、ニューホライズンズは我々から65億キロも離れたところにいます。ここから地球へ送られる電波は、地球に到達する頃にはものすごく弱くなっています。このため、通信速度が極めてゆっくりになってしまうのです。
そこで、ニューホライズンズでは、まず速報的なデータだけを送り、その後ゆっくり、最接近当時に撮影したデータや科学データなどを時間をかけて送ってきます。冥王星への最接近の際も同様で、全てのデータが送られてきたのは最接近から1年3ヶ月後の2016年10月27日でした。今回は冥王星よりより遠くにおり、探査の内容上データ量は若干少ないと思われますが(冥王星探査の際には冥王星の衛星カロンなども撮影しています。また、冥王星はウルティマ・トゥーレより大きな天体です)、それでも全てのデータの送信には20ヶ月(2年弱)かかるのではないかとみられています。
ともかくも、じっくり待ちましょう。

今回ニューホライズンズは、ウルティマ・トゥーレに約3500キロメートルまで近づき、接近している間に写真を撮ったり、科学データを取得したりしています。
もちろん最接近の前後にも科学観測は行っています。
その成果の1つが、以下の写真です。

最接近時のウルティマ・トゥーレの写真

現時点で最もウルティマ・トゥーレ全体の状況をよく表している写真。ニューホライズンズ探査機に搭載された広範囲観測カメラ(LORRI)によって撮像された写真2枚をつなぎ合わせたもの。長さは約32キロ(原文では20マイル)、幅は16キロ(原文では10マイル)と推定される。
右側はウルティマ・トゥーレの自転のイメージ。赤い矢印が自転の方向を示している。
Photo: NASA/JHUAPL/SwRI; sketch courtesy of James Tuttle Keane

これは、ウルティマ・トゥーレの全体像を表す現時点で最良の写真です。かなりぼんやりとした姿しか写っておりませんが、「現時点」ではここまで。
それでもいろいろなことがわかります。まず、全体の大きさは、長さが約30キロメートル(原文では「20マイル=約32キロ」)、幅が約15キロ(原文では「10マイル=約16キロ」)というサイズであることがわかります。
また、以前から観測で指摘されていたように、全体が「鉄アレイ」あるいはピーナッツのような、2つの丸い天体がくっついた形をしていることがわかります。以前指摘されていた、2つの天体からなる連星系という可能性はなくなったようです。
また、自転軸が下を向いている、つまり、自転が逆方向であるということもわかりました。自転がわかったのは、接近しながら連続写真を撮影したからです。

ウルティマ・トゥーレの自転

ウルティマ・トゥーレの自転の様子を連続写真で表したもの。3枚の写真を使っている。2018年12月31日に受信したデータ。撮影は広範囲撮像カメラ(LORRI)で、ウルティマ・トゥーレとの距離は約110〜135キロメートル(原文では「70〜85マイル」)。
Photo: NASA/JHUAPL/SwRI

ものすごく小さな写真ですが、ウルティマ・トゥーレの自転がこれでわかります。今後より詳細な画像が地球に届けば、より詳細な自転の様子がわかり、自転時間やより正確な自転軸の傾きなどもわかるでしょう。
また、この写真から、ウルティマ・トゥーレの謎の1つが明らかになりました。
一般的に、天体の自転時間を決める際には、明るさの変化をみます。例えば「はやぶさ2」の目的地である小惑星リュウグウに関しては、この手法によって、地上からの観測で自転時間が7時間37分と極めて正確に決められました。ところが、ウルティマ・トゥーレは、遠くから探査機などによる観測を行っても、明るさがほとんど変わらないのです。
これは、自転軸が実はニューホライズンズ探査機の方向を向いていたためとわかりました。ちょうど飛行機のプロペラのようなもので、これでは明るさの変化は期待できません。

ニューホライズンズの快挙に、関係者からも祝福のメッセージが寄せられています。
NASAのブライデンスタイン長官は、「また新しい金字塔を打ち立てた、NASAのニューホライズンズのチーム、そして(探査機を共同開発した)JHUAPL及びサウスウェスト研究所の皆様に心からお祝い申し上げる。史上初の冥王星探査に加え、今日ニューホライズンズは探査機が訪れた最も遠い天体を探査した。そして、太陽系形成の名残りを留める天体を調査するという偉業を成し遂げたのだ。これこそ、宇宙探査におけるリーダーシップが何を意味するかを物語っている。」と祝辞を述べています。
「勇敢に長期にわたって活躍を続ける小さな探査機、そして偉大な写真家でもあるニューホライズンズは、私たちの心の中では愛しい存在だ。今回の最接近(フライバイ)は、JHUAPLやNASAだけではなく、私たち全てにとっての『はじめて』である。そしてこれは、冒険を成し遂げた科学者・技術者チームの輝かしい証でもある。」(JHUAPLのラルフ・センメル所長)
「65億キロも離れたウルティマ・トゥーレへの到達成功は、半端ない成功である。ニューホライズンズ探査の中でも最もすばらしい瞬間だろう。冥王星とカイパーベルトについて教科書を新たに書き始められるだけの成果を残した、ミッションパートナー、そしてニューホライズンズの科学チームたちに賛辞を送りたい。私たちは次章を読むのが楽しみでならない。」(サウスウェスト研究所のアダム・ハミルトン所長・CEO)

しかし、ニューホライズンズの旅はここで終わりではありません。
ニューホライズンズが打ち上げられたのは2006年。当時はアメリカの大統領はジョージ・W・ブッシュ氏(子どもの方のブッシュ氏)であり、打ち上げ当時は目的地であった冥王星はまだ「惑星」でした。ツイッターがサービスを開始したのが2006年。月探査情報ステーションはまだブログを始めておらず、当時の情報は古いフォーマットの記事に残されています。ちなみにニューホライズンズチームの記事によれば、2006年の雑誌タイムの「今年の人」は、「あなた…インターネットでつながっている全ての人」だったそうです。
そして打ち上げから9年後の2015年、ニューホライズンズは冥王星への最接近(フライバイ)を果たし、世界的な話題となりました。打ち上げ当時は存在しなかったツイッターのタイムライン上で冥王星についての話題が世界的に展開されたのを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。月探査情報ステーションでも、接近からその後の解析などについて詳細にブログでレポートを続けました。
そして打ち上げから13年後の2019年の、カイパーベルト天体への最接近。
ニューホライズンズチームは、遅くとも2021年までに、次のカイパーベルト天体の探査を行うことを計画しています。またより多くのカイパーベルト天体の探査を行うこともチームでは考えているようです。ニューホライズンズの「偉大な旅」はまだまだ、終章を書けそうにはありません。