冥王星・カイパーベルト探査機ニューホライズンズのチームは27日、昨年7月の冥王星最接近(フライバイ)の際に観測したデータの地球への送信が完了したと発表しました。1年以上かけて、ゆっくりと地球に送られてきたというわけです。

現在、ニューホライズンズは地球から約50億キロのところを飛行しています。これは光の速さですら5時間8分もかかる距離です。これだけ離れているところからデータを送ろうとすると、まず電波が非常に弱くなります。電波が弱いと、その上に乗せることができるデータの量も減ってしまうため、データ送信はゆっくりと行わざるを得ないのです。
15ヶ月かけて最後に送られてきたデータは、冥王星撮像装置(Ralph)により撮影された冥王星とその衛星カロンのデータで、ニューホライズンズを運用しているジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所の運用センターで、10月25日の午前5時48分(アメリカ東部夏時間。日本時間では同日午後6時48分)に受信が完了しました。最後のデータは、衛星からNASAの深宇宙通信網(DSN: Deep Space Network)のキャンベラ(オーストラリア)の通信局で受信されたもので、これで、50ギガバイト以上という大量のデータが全て送信し終わったことになります。

下の動画では、なぜ送信にそれほど時間がかかるのかをわかりやすく説明しています…英語ですが。

ニューホライズンズは冥王星のそばを通り過ぎ(フライバイ)、その瞬間にとにかく大量のデータを撮影しまくります。そして、最接近のときのデータ取得のチャンスは数時間しかありません。さらにカメラは一度に1つの目標しか撮影できません。従って、探査機は最接近のときにはとにかく貴重な時間全てをデータ取得に費やし、そのデータを内部に溜めた上で、あとでじっくり送るという形をとっています。
冥王星最接近の際に取得したデータ量は、送信できるデータ量の実に100倍以上にもなったということです。
その後データをじっくり時間をかけて送ってくるわけですが、そのあたりも少し賢い工夫がなされていて、まず最初に重要なデータから地球に送るようにプログラムされており、その後残ったデータを順々に送るという作戦をとっています。

「やっと夢が実現した」と語ったのは、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のミッション運用マネージャー、アリス・ボーマン氏です。すべてのデータが今や手元にやってきたのですから、その気持ちもわかります。
ただ、ボーマンさんの仕事は終わっても、まだまだミッションチーム全体の仕事は残っています。これからミッションチームはデータを確認する作業を行い、それが全て問題がないと確認できたあと、ニューホライズンズ探査機のデータ記憶領域(2箇所あります)を全て空にします。「え、もったいない」と思われるかも知れませんが、ニューホライズンズ探査機にはすでに別の役割があるのです。
探査機は、2019年1月1日(アメリカ現地時間)に、カイパーベルト天体 2014 MU69 へ最接近(フライバイ)を行います。ここでももちろんデータを取るわけですから、その前にデータ記憶領域は空にしておかねばなりません。
今回のニューホライズンズの旅は、「カイパーベルト延長ミッション」(KEM: Kuiper Belt Extended Mission)と呼ばれています。データが全て送られたいま、まさにKEMの旅がスタートしたともいえるでしょう。

ニューホライズンズのミッションマネージャー、サウスウェスト研究所のアラン・スターン氏は、「ニューホライズンズが撮影してきた冥王星やその衛星のデータは、その不思議さと美しさで私たちを何度となく驚嘆させてきた。400以上の科学的な観測結果の解析という、たくさんの仕事にとりかかるときだ。そして、それこそ今われわれがやるべきことである…実際、次に冥王星に探査機が行き、データを送ってくるのはいつになるか、私たちは誰も知らないからだ。」と述べています。
スターンさんの言い回しは、どこかワクワクした、楽しそうな感じを受けます。科学者としては、50ギガバイト、400以上(おそらく「400セット」という意味かと思います)もの「宝の山」を前に、これからそれを開封していくという楽しみが待っています。それはある意味、プレゼントを目の前に置かれた子どもがその封を解く楽しみに似ているかも知れません。そして、その楽しみは、結果の発表という形で私たちも共有できるはずです。

2019年初頭の新たな天体への接近に向けて、ニューホライズンズは歩み出しています。冥王星からのデータによる新たな成果、そして3年後の新たな発見に期待しましょう。