2025年に開催されることが決定した大阪万博で、火星探査機MMXからの生中継を放映する計画があると、産経新聞が報じています。
アポロ11号で月面着陸の生中継はありましたが、火星からの生中継はもちろん世界初です。また、無人の深宇宙探査機(月や火星などの探査機)からの生中継を一般の人がみられるイベントというのも世界ではじめてかと思われます(少なくとも編集長=寺薗は聞いたことがありません)。

MMXと火星

火星を背景にして飛行するMMX探査機の想像図 (© JAXA)

MMXは、火星の衛星からのサンプルリターンを目指す探査機です。火星に2つある衛星(フォボスとデイモス)のうちどちらかからのサンプルリターンを実施、もう1つの衛星についても観測を行う予定です。打ち上げについては2024年度が有力とみられています。

記事によりますと、2025年に開催される大阪万博において、火星の衛星を探査しているMMX探査機から火星の映像を撮影した上で、地球(万博会場)に生中継することが検討されているとのことです。おそらくは大型のスクリーンに上映することになるのではないかと思います。
2024年に打ち上げの場合、MMXは火星に向かう途上にあることから、万博開催期間である5〜11月には、火星に向かうMMXからの火星の映像が得られることが期待されるようです。さらに、もし火星に近い距離(記事では200〜300キロ)からの映像が撮れれば、火星の表面などもはっきり見えるかも知れないとしています。

記事では宇宙研所長の國中均JAXA理事・教授のコメントとして、「リアルタイムの映像を通じて、日本がいよいよ火星への布石を打つことを、ぜひ知ってほしい」と述べられています。

リアルタイム、とありますが、当然のことながら、火星と地球とは距離がありますので、撮影した時点と地球で見る時点とでは時間差があります。ただ、探査機からの映像を直接上映するということであれば、生中継と称してもよいのかとは思います。

地球外からの生中継として記憶に残るのは、ちょうど50年前のアポロ11号の月面着陸でしょう。アポロ以降、月を含め、他の天体(月より遠い宇宙空間)からの生中継というのは行われたことはありません。火星からの生中継が実現すれば世界初、世界でもっとも遠くからの生中継になるかと思われます。
はやぶさ」「はやぶさ2」でも小惑星からの生中継はありませんでしたし、ハイビジョンカメラを搭載していった月探査機「かぐや」でも、生中継はせず、いったん地球にダウンロードされた映像を後日公開する形を取りました。

ただ、技術的な課題はかなりあります。距離が遠いために電波が弱まり、通信速度が遅くなる可能性があります。もし遅くなってしまうと、「カクカクした」映像になるか、低解像度の映像しか中継できないという懸念もあります。
逆に、もし高精度の映像を中継しようとすれば、しっかりとしたカメラと高速通信が可能なアンテナを搭載していく必要がありますが、その開発や試験にも当然費用がかかりますし、すでにMMXの基本設計が進んでいる(と思いますが)中で、もしそれを変更して搭載するとすれば全体計画に支障が出る恐れもあります。
また、通信時間の確保や(探査機との位置の問題などでもし日本のアンテナが使えない場合、NASAなどの海外のアンテナを借りる必要があります)中継ができない場合のバックアッププランなど、検討すべき事項は多々存在します。

もっとも、國中所長がコメントをするくらいであれば、MMXチーム内でもこのことは了承済みであり、すでに計画が進んでいる可能性もあります。
國中所長が「日本がいよいよ火星への布石を打つ」と述べていますが、日本は火星探査では諸外国の後塵を拝しているだけに、世界中から人が集まる万博という機会をうまく活かした日本の宇宙技術のプロモーションとしての役割は大きいでしょう。