NASAは30日、史上初となる火星の内部構造探査のための探査機「インサイト」を5月に打ち上げると発表しました。2016年打ち上げの予定であったものが、直前(2015年)に搭載機器のトラブルにより打ち上げが2年延期され、満を持しての打ち上げとなります。

火星に着陸したインサイト

火星に着陸したインサイトの想像図 (Photo: NASA/JPL-CALTECH)

インサイトは、これまでの火星探査機とは異なり、火星の内部構造を調べるという目的を持った探査機です。
もちろん地球でもそうですが、天体の内部構造を直接、例えば掘って調べるということはまずできません(地殻あたりの「浅い」ところならまだともかくとして)。そのため、天体の内部構造を調べるためには、天体の中を伝わってくる情報…基本的には地震波を利用します。
このため、インサイトにはメインの測定機器として、地震計が装備されています。上記「インサイト」の写真で、探査機の手前にある丸い、ボールを伏せたような装置が地震計です。

地震計を送り込むということは、当然のことながら、火星に地震があるかどうかを調べることにもつながります。
地球以外の他の天体に地震があるかどうかということは、科学者にとって大きな興味の一つでもあります。アポロ計画では月に地震計を設置し、多数の自然地震を捉えることに成功し、「月震」(moonquake)と呼ばれました。
火星へは1976年の「バイキング計画」において着陸した2つの着陸機に地震計が搭載されました。しかし、火星表面に吹く強烈な風などを捉えてしまったことから、火星の自然地震を捉えられたかどうかは明らかではありません。今回「火震」(marsquake)を捉えることができるかどうかが、インサイトの最大のミッションの1つでもあります。

インサイトではまた、天体内部からもたらされる情報として、内部からの熱の量(熱流量)を測る装置を搭載しています。
上記のイラストで、地中内部に食い込んでいる細長いものがこの装置です(地中にはセンサーだけが潜り込んでおり、計器は地上に置かれています)。
また、電波を使って探査機の位置を正確に測ることで火星の自転軸のブレの量を調べ、結果的に火星内部の様子、とりわけ火星内部にあるとされるコアの大きさを調べるための装置も搭載されています。

火星といえばこれまでローバーによる探査が頻繁に行われてきましたが、今回の「インサイト」では着陸機の探査となります。これは、地震計や熱流量計、あるいは精密に場所を特定することが必要な電波観測装置などは、移動させることができない(移動することによって精度が著しく下がる)ためです。
地震計は地球の地震計よりもはるかに精度が高いもので、「原子1個分」のズレすら捉えることができるというものです。ただこのため、製造にも極めて高度な技術が必要となり、これが2015年12月に、打ち上げ6ヶ月を前にしての打ち上げ延期とつながってしまいました。
2年をかけた改良によって、今回ようやく、火星へと飛び立つことになります。

本ミッションの主任研究者であるジェット推進研究所(JPL)のブルース・バーナード氏にとっては、いよいよこれまでの非常に忙しい仕事が報われるときでもあります。
「ある意味、インサイトというのは、火星ができた45億年前の情報を私たちにもたらしてくれるタイムマシーンのようなものでもある。この探査によって、この天体がどのようにして形成され、さらには地球や月、さらには同じような固体の天体がどのように形成されたかを知ることができるだろう。」
インサイトは、天体の内部を知るミッションです。天体の内部が形成されたのは、太陽系、そして惑星や衛星、各天体が形成された45億年前でもあります。ですから、天体の内部を知ることは、どのようにその天体が形成され、今に至ったのかを知ることにもつながるのです。
さらに、火星は私たちが住む地球のすぐお隣の天体でもあります。太陽系の初期、ガスやチリが集まり、大きな熱を出しながら惑星が形成された、その最もいい実例、というか比較対象が火星というわけです。

さて、今回の「インサイト」は、いろいろな点で変わったミッションであるのですが、その変わった点の1つに、アメリカのミッションであるにもかかわらず、科学機器のほとんど(火星地震計と熱流量測定装置)が海外から供給されているということがあります。火星地震計はフランス(パリ地球物理研究所)から、熱流量測定装置はドイツ(ドイツ航空宇宙センター=DLR)から供給されています。従って、ドイツやフランスにとっても、今回の打ち上げは非常に待ち遠しいものであったというわけです。
今回の多国間ミッションを束ねた、インサイトのミッションマネージャー、JPLのトム・ホフマン氏は、「インサイトはまさに国際科学ミッションである。私たちのパートナーは、信じられないほど強力な装置を提供してくれた。到着後、非常に面白い科学的成果を送ってくれるだろう。」と、期待を語っています。

現在「インサイト」探査機は、打ち上げ場所であるカリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地にあり、最終準備に臨んでいます。ちなみに、アメリカの月・惑星探査機が西海岸から打ち上げられるのは今回がはじめてとなります。
この水曜日(4日)には、打ち上げ時の回転に耐えられるかどうかを試験する回転テストが実施されます。ホフマン氏には、来月にはロケットに探査機が据え付けられ、打ち上げに向けた結合準備が実施され、打ち上げに向けた最終トレーニングが実施されるとのことです。「来月はワクワクする月になる。やるべき最後の仕事が残っているが、火星への準備はほぼ完了した。」(ホフマン氏)

打ち上げ後、インサイトは火星に約半年かけて飛行し、11月には火星に到着する予定です。

火成、さらには天体の内部を探ることを目的とした初のミッションとなる「インサイト」ですが、編集長(寺薗)は、月内部を探る目的で開発が進められていた宇宙科学研究所(JAXA)のルナーAミッションのことをどうしても思い出してしまいます。
あれが実現していれば、あるいは搭載地震計は日本から供給できたかもしれません(熱流量計も、です)。あるいは日本独自で、火星内部構造探査ミッションを実施していたかもしれません。
でもここは「もし〜ならば」は封印し、いまはまず、インサイトの打ち上げ成功を祈りたいと思います。