ヨーロッパ(ESA=ヨーロッパ宇宙機関)とロシアが共同で実施する火星探査「エクソマーズ」の着陸実証機「スキアパレッリ」は、本来減速して着陸するはずが何らかの原因で減速せず、火星地表に激突したことがほぼ確定的となっています。
着陸点の写真は、粗い写真から詳細な写真が得られ、事故の原因究明に役立てられると期待されていますが、さらに今回、カラー写真も届きました。撮影したのは、粗い写真と細かい写真と同様、アメリカの火星探査機、マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)です。

スキアパレッリ衝突点のカラー写真

スキアパレッリ衝突点のカラー写真。MROの高解像度撮像装置(HiRISE)で11月1日に撮影。上部の大きな写真は衝突点と思われる場所、下側2つは、左側がパラシュートと後部熱シールドと思われるもの、右側は前方の熱シールド。(Photo: NASA/JPL-Caltec/University of Arizona)

今までの写真は、急ぎということもあったのですが、衛星の横側からみる設定になっていました。今回は衝突点の真上にMROがやってくる軌道から撮影しています。光が真上からあたって影が少ないということもあり、これまでの写真より全体に鮮明なみえ方をしているようです。
例えば、着陸機の衝突点の周辺にはいくつかの白い点がみえます。この白い点の正体が何なのかはまだわからないのですが、少なくともこれが写真撮影や伝送の際のノイズではないことははっきりしています。そのことからも、この衝突点の写真が改めて「本物」であることの証拠ともいえます。
何がその原因かはまだはっきりとしたことがいえませんが、この白い点が最初に出てきたのは、先週に撮影された画像からでした。そのことからも、これがおそらく衝突由来であることは間違いなさそうです。
同じように、衝突点の西側にちょっと明るくなった部分がありますが、おそらくこれは衝突によってまき散らされた物質なのではないかと思われます。1つの可能性としては、衝突の際に爆発したと思われる燃料、あるいはその燃料を入れた燃料タンクかも知れません。

今回は、0.9キロ南側にあるパラシュート・後方熱シールドについてもカラー撮影ができました。最初に写真が撮影された25日から7日が経過していることもあり、パラシュートの形が変形していることがわかります。おそらく火星表面の風によって、布でできているパラシュートの形が変わって、このように写っているのかも知れません。

スキアパレッリのパラシュートが、おそらくは風によって動いている様子

スキアパレッリのパラシュートが、おそらくは風によって動いている様子を比較した写真。左側は10月25日に撮影されたもの、右が今回(11月1日)撮影されたもの。白く写っているパラシュートの形が変わっていることがわかる。ともにMROの高解像度撮像装置(HiRISE)で撮影されたもの。(Photo: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

上のように2枚の写真を並べてみると、光の当たり方が違うことを利用してステレオ視(立体視)を行うこともできます。これによって後方熱シールドの向きが分かれば、事故調査の一助になるかも知れません。
また、カラー写真でみると、後方熱シールドと思われる丸い部分には明るい部分と暗い部分があります。これは後方熱シールドの外側をみている可能性があり、熱遮断用の素材が燃えてしまっている可能性も考えられます。

今回、前方熱シールドと思われる部分は、カラーではなく白黒での撮影となりました。これは、前方熱シールドの場所がちょっと離れていて、MROのカメラでカラーで撮れる部分から離れてしまっていたためです。こちらの方は前回から変化がないようにみえます。
違う方向からみていても同じ形で写っているということは、この白い部分が実際に何らかの探査機の物体を写している(撮影や伝送でのエラーなどではない)ことを示しています。以前の記事にもありましたが、これは多層断熱材(MLI)が写っているのではないかと推定されます。

次の写真撮影は2週間後となっており、その際に今回の写真と比較することで、事故原因の究明につながる手がかりがえられるのではないかと期待されます。