待っていた、ともいえますし、見たくなかった、ともいえる写真が届きました。
このブログでもずっとお伝えしていますが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とロシア共同の火星探査計画「エクソマーズ」において、19日に周回機は火星周回軌道投入に成功したものの、同時に火星地表への着陸を目指して降下していた着陸実証機「スキアパレッリ」は着陸直前に交信が途絶し行方不明となりました。
その後、NASAの探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)が着陸予定地点の写真を撮影し、着陸実証機と思われるものを発見しましたが、写真の様子から、ESAではスキアパレッリが高速(時速300キロほど)で、減速することなく地面に激突、残っていた燃料が爆発して試算したものとの推定を発表しました。現時点ではスキアパレッリになにか重大な(よりはっきりというならば「致命的な」)問題が発生したことはほぼ疑う余地がなくなっています。
しかし、それを実証するようなもの、特に詳細な写真がまだ撮影されていませんでした。このたび、MROはこのスキアパレッリと思われる残骸周辺の高解像度の写真を撮影しました。

スキアパレッリ残骸の高解像度写真

着陸機スキアパレッリの残骸と思われるものの高解像度写真。マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)の高精度撮像装置(HiRISE)で撮影。重ね合わされている下の画像は、先日公開された、同じくMROに搭載されている広範囲カメラ(CTX)で撮影された写真。ローバーと思われるものをはじめ、熱シールド、パラシュートなどと思われる物体が写っている。(Photo: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)

今回の写真は10月25日に撮影されたものです。
前回公開された写真は、MROの広範囲カメラ(CTX)により撮影されたものです。CTXはその名の通り、広い範囲を一度に撮影できますが、その代わり解像度が落ちます。実際、撮影された写真はそれなりに解像度は高かったものの、やはり原因を追求するにはいまひとつ不足でした。MROが誇る、火星表面を最大50センチもの解像度で撮影できる高解像度撮像装置(HiRISE)での撮影が待たれていました。
もともとこの2つのカメラは、スキアパレッリの着陸の際にその場所を撮影するようにスケジュールが組まれていたのですが、今回そのデータが公開された、というわけです。

まず、上の写真の左上の部分、CTXの画像では黒い点のように写っていたスキアパレッリの「着陸」点ですが、HiRISEの画像ではより鮮明に写し出されています。クレーターは対称形ではなく、左側の方により多くの破片が飛び散っているように見えます。大きさは上下が15メートルほど、左右が40メートルほどです。
中心部の黒い点は、激突によって発生した穴(クレーター)と考えられます。直径は2.4メートル、300キログラムの物体(=スキアパレッリ)が時速数百キロで激突したときにできる穴の大きさと整合性があります。この写真ではさすがにクレーターの深さまではわかりませんが、衝突速度などから、おそらく深さは50センチくらいだと推定されています。
問題は、このクレーター、及び黒い模様が非対称になっているということです。通常クレーターは円形をしており、これは相当高速で衝突した際に、衝撃波が1点から一様に広がることでできるものです。通常いん石などが落下する場合、このように非対称のクレーターができるケースとして考えられるのは、非常に低い角度で進入してきて地面に激突したような場合です。
しかし、スキアパレッリは最終段階ではほぼ火星表面に対して垂直に落下するはずでした。このことから考えられるのは、スキアパレッリが相当角度をつけて下降していた段階(おそらくはパラシュート展開→切り離しの段階)のまま、火星表面に激突したという可能性です。あるいは、搭載されていた逆噴射用の燃料(ヒドラジン)の爆発が非対称に起きた、あるいは片方側だけで起きたということも考えられます。
さらに奇妙なのは、右斜め上の方に飛んでいるようにみえる跡です。明らかに何かが飛んでいるようにみえるのですが、それが何なのかはこの写真からではわかりません。
衝突点の周りに白い点がいくつかありますが、これが衝突に関連するものなのか、あるいは画像のノイズなのかは現在のところ不明です。

今回の高精度の画像データでは、前回白い点として写っていたパラシュートと後方熱シールドと思われる点についてもより詳細な画像が得られています。場所はスキアパレッリの衝突点から900メートルほど南で、高精度写真では、パラシュートと後方熱シールドがそれぞれ分かれて写っています。
スキアパレッリの降下では、パラシュート(直径12メートルあります)が展開し、降下中に使われていたことはわかっています。しかし、本来予定されていた時刻よりも早く、パラシュートと後方熱シールドが分離していることが解析の結果判明しています。
おそらくですが、スキアパレッリは最終段階の一歩手前、スラスターによる減速を、衝突数秒前(本来であれば着陸の30秒ほど前にスタートします)に行ったと考えられています。このときの高度は2〜4キロメートル(本来であれば上空1.1キロ)、速度は時速約300キロほどだったようです。

今回の詳細な写真では、前回公表された、スキアパレッリと思われるものの残骸とパラシュート(と後方熱シールド)の残骸に加え、新たに前面熱シールドの残骸と思われるものが発見されました。場所は、衝突点の北東約1.4キロのところです。
前面熱シールドは、降下途中に切り離されることになっています。位置からみても、この切り離しは正常に行われたことが考えられます。
また、この前面熱シールドと思われるものは、詳細な写真でみると白い部分と黒い部分とがまだら模様になっていますが、白い部分は反射率が高いもの、すなわち前面熱シールド内部のカバーのために使われていた多層断熱材(MLI)ではないかと思われます。また、周りの黒い点は、落下の衝撃でできた穴ではないかと推定されています。

現在、スキアパレッリの事故(もはや何らかの事故が起きたことは疑う余地はありません)は現在、ESAと製造会社とで行われており、降下最終段階で何が起きたのかについて原因究明が進められています。
すべてのデータが揃い、原因究明が完全に行われるまでは、無用な推測はしない方がよさそうです。不完全なデータから導き出される結論は、往々にして単純すぎるストーリーになってしまったり、逆に大きく誤った内容に陥ってしまう可能性があるからです。
例えばすでに、スキアパレッリのチームでは当初、2分ほどテレメトリーデータ(探査機の状態を示すデータ)がない時間帯が存在するという点に注目して原因究明を進めようとしていました。この2分という時間は予定より長いものだったからです。しかしデータが集まるにつれて、これは誤りだったことがわかりました。単にデータがなかったからです。残りのデータがあることが判明し、この点については事故と関係がないということがわかりました。

現在原因究明の鍵は、降下段階におけるパラシュート・後方熱シールドの分離からスラスター点火の部分、さらにこの点火が予定より早くかつすぐに停止してしまったことに絞られています。調査チームではこの原因の究明と結果の発表を11月半ばには行えると確信しています。

また、このような火星大気降下中のテレメトリーデータが取得できたということ自体は、スキアパレッリにとって「成功」といえる部分です。もともとスキアパレッリは「着陸実証機」であり、火星大気中の降下という、非常に危険を伴うミッションのデータを収集することが、スキアパレッリにとっての重要な役割だったからです。
また、周回機からの分離や超高速での大気圏突入、超音速状態でのパラシュートの展開などのデータが得られていることは、将来(とりわけ2020年に予定されているローバーの着陸)に役立てられるものとなることが期待されます。

しかし、いずれにしてもスキアパレッリの着陸には失敗してしまっているわけで、上記の通り、11月半ばにも発表されるとみられる原因の究明が待たれるところです。