行方不明になっているヨーロッパ・ロシア共同の火星探査「エクソマーズ」の着陸機「スキアパレッリ」ですが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、、NASAの探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)が撮影した画像の分析について見解を発表しています。それによると、スキアパレッリは「かなりの速度で」地上に激突した可能性が高いとのことです。残念ながら、着陸機が着陸に失敗した可能性が高くなってきました。

スキアパレッリと思われるものを示す写真

NASAの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」が撮影した、スキアパレッリと思われるものの写真。写真は2枚の写真を重ね合わせ、アニメーションとしたもので、1枚の写真はスキアパレッリ到達前の今年5月19日、もう1枚は10月20日に撮影されたもの。黒い枠の範囲に、5月の写真にはなかった黒い点が10月の写真には写っている。(Photo: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

この前のブログの記事にもありましたように、NASAは21日、スキアパレッリが着陸する予定であった火星のメリディアニ平原の着陸予定地点付近を、NASAの探査機MROの広範囲カメラ(CTX)で撮影しました。スキアパレッリ着陸前に取得した同じ地点の画像と比較すると、スキアパレッリと思われる黒い点と、パラシュートと思われる明るい点が写っていました。
なお、CTXの解像度は1ピクセルあたり6メートルです。

ESAでは、この明るい白い点は、直径12メートルあるパラシュートではないかとみています。スキアパレッリは大気中を降下するとき、パラシュートでの減速を行います。そしてある程度減速し、地上に近づいた段階でパラシュートを切り離すのですが、そのパラシュートが落下しているのが見えているのではないかと思われます。

スキアパレッリが着陸するはずであったメリディアニ平原

スキアパレッリが着陸するはずであったメリディアニ平原。MROのCTXによって撮影された画像をつなぎあわせて(モザイク化)作られたもの。下2枚の画像は、上の写真の白枠の範囲を撮影した、上記アニメーションの2枚の画像。(Photo: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

問題は、NASAの画像に見えている黒い点です。楕円形で、大きさは短い直径部分で15メートル、長いところで40メートルとなっており、着陸機の大きさ2.4メートルからすると非常に大きなものであることがわかります。また、着陸機のように縁がシャープではなく、端にいくにつれてぼやけていることも特徴的です。
この黒い点はパラシュートの明るい点からは約1キロほど北に行った場所にあります。ESAでは、この黒い点はスキアパレッリが減速できず、地面に衝突したことを示す穴ではないかという見解を発表しています。恐らくは減速のためのスラスターが(何らかの理由により)予定より早く動作を停止したあと、減速することなく待機中を自由落下し、そのまま地面に激突したものと思われます。

ESAでは、着陸機は2〜4キロメートルの高さからそのまま自由落下で激突したと考えており、そのため衝突の際の速度は「相当なもの」(原文ではconsiderable speed)であったと推定しています。おそらくは時速300キロを超えていたとのことです。
さらに、スラスターによる減速が十分に行われていなかったということは、スラスターの燃料が十分に残ったまま地面に激突したということを意味しており、ESAではもう1つの可能性として、そのスラスター用の燃料が地面に激突した際に爆発し、着陸機が粉々になった可能性も指摘しています。
ただ、現時点ではまだ解像度があまり高くない写真での解析です。MROはさらに高解像度…最大解像度が1ピクセルあたり50センチの解像度を見分けられる高解像度撮像装置(HiRISE)を搭載しており、今後これによる撮像結果が送られてくれば、詳細がわかる…あるいは「事実が確定する」ものと思われます。

スキアパレッリの大気中の降下は3つの異なった場所から観測されていることから、ESAの解析チームでは、大気圏降下の軌道及びできごとの時系列を復元できると考えています。ただ現時点では、スキアパレッリがいつどのような異常を発生させたのかは不明のままです。

これらのスキアパレッリの残骸は、火星の東経353.79度、北緯2.07度の位置にあります。この位置は、スキアパレッリの本来の着陸予定地点より西に5.4キロ離れた場所です。

一方ESAの解析チームは、これまでに地上に届いているスキアパレッリのデータの解析も進めています。これらのデータは、降下途中にスキアパレッリからのデータを中継していたエクソマーズの微量ガス探査周回機(TGO)、データ中継を行っていたESAの火星周回機マーズ・エクスプレス、そしてインド・プーネにある巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)それぞれで記録されたもので、これらを総合するとかなりの量のデータが得られているようです。

なお、周回機(TGO)については現在順調に稼働しており、軌道は火星から最も遠い点(遠火点)が10万1000キロ、火星から最も近い点(近火点)が3691キロとなっています(距離はいずれも火星の中心からのもの)。軌道周回周期は4.2日で、今後この軌道は火星の科学観測に適した軌道へと変更され、最終的には高度400キロの円軌道を周回することになります。
軌道を変更するためには周回機の速度を減速させる必要があり、そのためには火星大気との摩擦によって速度を落とす「エアロブレーキング」という方法が使われます。ESAでは来年3月からこの方法での軌道変更を行う予定にしています。
探査機自身の状態は正常で間もなく科学観測機器のテスト・校正作業が実施されることになっています。

いずれにしましても、これでスキアパレッリが火星地表に激突してしまった可能性が極めて高くなったことは間違いありません。編集長(寺薗)としても大変残念なことです。もちろん、正確な情報を得るためには、より高精度の写真による分析や、スキアパレッリから送られてきたデータの分析が必要です。とりわけ、大気圏降下途中に何が起こり、どのような原因でこのような事態に至ったのかをしっかりと調べ、次の探査、とりわけ2020年に予定されているエクソマーズのローバー打ち上げに反映させることが必要となります。
また、ESAは2003年にも火星着陸機「ビーグル2」を失っており、今回で2回めの火星着陸失敗となります。今回のスキアパレッリの開発ではこのビーグル2の経験も十分に活かしているはずですから、それにもかかわらず今回の事態が発生したことについて、単に技術的な問題だけでなく、ミッション全体の設計や管理体制、ESAにおける情報共有の体制など、総点検を実施していくべきだと思います。

一方、火星への着陸は容易なことではありません。火星は大気があるため、一見すると着陸は簡単そうにみえるのですが、大気があるがゆえに減速が思い通りにいかなかったり(大気がなければロケットエンジンだけで減速させるということになるため、かえって単純です)、着陸時に激突して着陸機が壊れてしまったといった例は、1960年代から続いています。
先ほどヨーロッパとしては2回めの火星着陸(実際にはヨーロッパとしては、天体への着陸ミッションは火星でのみ行われており、これは月や金星などへの探査も含め、ヨーロッパとしても月・惑星への2回めの着陸ミッションとなります)と申し上げましたが、逆にいうと「まだ2回」であり、ここで歩みを止めてしまっては、将来の月・惑星探査に必要な着陸技術という必須技術を得られないことになってしまいます。それはヨーロッパの科学全体にとってもマイナスになります。
ESA、そしてヨーロッパ各国は、今回の失敗からできる限り多くの教訓を引き出した上で、さらなる前進を行って欲しいと思います。それは、ミッションを達成できず火星に散った(確定はまだとしても)スキアパレッリが望むことでもあるでしょう。