私自身、12年前に行方不明になった探査機が周回機が撮影した写真で再度発見されるなどということはあり得ないと思っていました。しかし、火星探査の技術はここまで来たということです。
16日、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は生命を発表し、12年前の2003年12月に行方不明になったヨーロッパ宇宙機関の着陸機「ビーグル2」が、火星表面に着陸していることが確認されたと発表しました。これは、火星を周回しているアメリカの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)が撮影した画像を解析した結果、明らかになったものです。

MROにより撮影されたビーグル2

MROにより撮影されたビーグル2 (c) HIRISE/NASA/Leicester

ビーグル2は、イギリスが中心となって開発された、ヨーロッパ初の火星着陸機です。同じくヨーロッパ初となる火星探査機(周回機)「マーズ・エクスプレス」と共に火星に運ばれ、2003年12月19日、火星周回軌道上で周回機から切り離されました。この時点までは順調だったのですが、その後ビーグル2との更新が途絶えてしまいました。
マーズ・エクスプレスに加え、NASAの火星探査機「2001マーズ・オデッセイ」も利用して通信が試みられましたが、1ヶ月以上経っても信号を受信することができず、翌2004年2月6日、ESAは「ビーグル2は失われた」と、喪失を宣言しました。
その後5月には事故報告書がまとめられ、原因は完全には明らかにできなかったものの、いくつかの可能性、そしてプロジェクトマネージメントの上での問題点などが指摘されました。

そして12年後、MROの誇る高精度カメラ「ハイライズ」(HiRISE: 高解像度撮像装置)が撮影した画像により、火星表面にビーグル2が着陸していることが発見されました。
最初にこの解析を行ったのは、ドイツ・ダルムシュタットにあるESAの衛星運用センター(ESOC)に務める、元マーズ・エクスプレス運用チームのマイケル・クルーン氏でした。彼と共に、ビーグル2のチームも解析を実施しました。

上の写真をみると、大きさが2メートルほどのビーグル2が、太陽電池パネルをほぼ完全に展開した状態で着陸しているのがわかります。いくら高精度カメラといえども、大きさ2メートルの物体となると解像度ギリギリです。それを火星表面の数多くの写真から探し出すというのですから、大変な作業であったことはいうまでもないでしょう。

本来の着陸地点であった火星のイシディス平原にそれらしいものが見つかったことから、さらにMROのカメラチームやNASAジェット推進研究所(JPL)などのメンバーも加わって写真解析が大々的に実施されました。そして、今回の発見につながったのです。

ビーグル2の詳細写真

ビーグル2の詳細写真 (c) HiRISE/NASA/JPL/Parker/Leicester

上のクローズアップの画像をみてみますと、本来展開されるはずだった4枚の太陽電池パネルが、4枚とも開いているようにはみえません。1枚か2枚、最大に見積もっても3枚だけ開いているようにみえます。
またこの着陸機の付近には、着陸の際に使用されたパラシュートや、後部カバーなどが存在しているようです。写真に移った大きさや形、落ちている場所などは着陸の際の探査機の動作とも整合性がとれており、ほぼ間違いないと考えられます。また、着陸機は本来の着陸予定地点から5キロメートル以内に着陸していることがわかりました。
また、着陸の際に着地の衝撃を和らげるために使用されたエアバッグや、火星大気に突入するときの熱を遮断するための熱シールドなどと思われるものも写真に写っているようにみえますが、解像度の問題ではっきりとは断定できません。今後の解析に期待するしかありません。

この写真から、ビーグル2の交信がうまくいかなかった、ひいていえばミッション自体が失敗に終わってしまった原因がはっきりとしてきました。太陽電池が本来開くべき数開いていなかったのです。電波を送信するだけの電力を得るためには、4枚すべての太陽電池パネルが展開し、必要な電力を確保していなければいけません。何らかの理由によって、1枚、あるいは2枚太陽電池パネルが開かず、それによって通信を行うことはできなかったのでしょう。
さらに、アンテナのカバーも開いていないことから、仮に強制的にビーグル2に信号を送ったとしても、復活できる見通しはありません。

ですが、ビーグル2の失敗原因を探ることは、今後の火星探査、とりわけヨーロッパの火星探査にとって重要な意味を持ちます。折しも、来年(2016年)には、ヨーロッパとロシアが共同で進める火星探査計画「エクソマーズ」の微量ガス探査周回機(TGO)と着陸実証モジュール(EDM)が、2018年にはローバーが打ち上げられます。再度、ヨーロッパは火星への着陸にチャレンジすることになります。今回の失敗の教訓をいかに活かすかが、次のミッション成功の鍵を握るといえるでしょう。

ESAの科学・無人探査探査部長のアルバロ・ギメネズ氏は、「ビーグル2が火星に着陸していることが確かめられたことはうれしい。この着陸機を見つけるために多くの人たちが一丸となって捜索に挑んできたことは賞賛に値する。」と述べています。
当時のマーズ・エクスプレスのプロジェクトマネージャーであるルドルフ・シュミット氏は、「ビーグル2に何が起こったのかを突き止められなかったことが、私の心をずっとさいなんできた。ビーグル2が無事火星に着陸していたということがわかったことは、大変素晴らしいニュースだ。」と述べています。