ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は13日、「中断」状態となっていた火星探査機「エクソマーズ」を巡るロシアとの協力関係を正式に「中止」すると発表しました。今後の実施方針については、20日に開催される評議会で正式決定するとのことです。ESAのジョゼフ・アッシュバッカー長官がツイッターで発表しました。

エクソマーズ2022ローバー・着陸機

エクソマーズ2022で打ち上げが予定されているヨーロッパのローバー「ロザリンド・フランクリン」(手前)と、ロシア製の着陸プラットホーム「カザチョク」の想像図
© ESA/ATG Medialab

エクソマーズは、ヨーロッパとロシアが共同で進めている火星探査計画です。打ち上げは2回に分かれていて、2016年に第1回の打ち上げが行われ、ここでは火星大気を観測する周回機(TGO)と、着陸実証機が打ち上げられました。周回機は火星周回軌道投入に成功しましたが、着陸実証機は降下中に行方不明となりました。
第2回の打ち上げでは、ヨーロッパ製のローバー「ロザリンド・フランクリン」と、ロシア製の着陸プラットホーム「カザチョク」が打ち上げられる予定でした。

第2回の打ち上げは当初2020年が予定されていましたが、新型コロナウイルスの流行などの理由で2年延期され(火星への打ち上げ好機は2年に一度やってきます)、2022年となりました。そこに襲ったのが、ロシアのウクライナ侵攻です。
この事態を受けて、ESAは直ちにロシア(ロシアの宇宙機関=ロスコスモス)との関係の見直しに入り、エクソマーズについても、今年度の打ち上げは難しいとの声明を出しました

アッシュバッカー長官は13日に発信されたツイートで、上記の通りエクソマーズについては、ロシアとの協力関係を築くことが難しい状況に変化はないとの認識を示した上で、エクソマーズにおけるロシアとの協力関係を(「見直し」から)正式に中止とすると発表しました。これはESAの評議会により決定したものです。
なお、正式な発表は20日(現地時間)の記者会見で行うとのことです。

一方、ロシアのタス通信は、この発表について「ロシアはESAなしでもエクソマーズ(の一部)ミッションを遂行できる」との表題の記事を出しています。

こちらによりますと、ロスコスモスのプレスサービスは「ヨーロッパ(の協力)なしでもロシア側の(エクソマーズ)ミッション部分は実行できる」とのことで、まだESAからの正式を受け取っていないため、彼らの「ツイッター外交にしか反応できない」と述べています。その上で、ヨーロッパは「火星での生命探求といった共同の(科学的な)目的よりも、特定の当局者や国の野心を優先した」と批判しています。

またこの記事では、ロシアの国営宇宙開発法人(ロスコスモスのことでしょうか)がESAと交渉し、2024年にロシア製の着陸プラットホーム「カザチョク」を打ち上げることに合意した、という内容も含まれています。ただ、これについては他の報道機関などからの同様のニュースはありません。またそもそも、上記のアッシュバッカー長官のツイートなどとも全く矛盾する内容なので、これはないのかと思われます。

ESAとロシアとの協力関係は、このエクソマーズの他にも、ソユーズロケットの打ち上げがあります。こちらについては侵攻直後にロシアの技術者が南アメリカ・フランス領ギアナの打ち上げ基地から撤退しています。エクソマーズと同様、こちらでの協力関係も停止するとみられます。

今回のESAからの「中止決定」は、ほぼ確実なものかと思われます。ウクライナ情勢がすぐに好転するということは100パーセント考えられませんし、ロシア側とヨーロッパ側の「言い分」が完全にずれていることからも、相互の医師の修復は相当困難かと思われます。
となりますと、今後については以下のようなルートが考えられるでしょう。

①エクソマーズ2022の完全中止。打ち上げもせず、ローバー、着陸プラットホームともそのまま保管ないしは廃棄。
②ヨーロッパ側だけでエクソマーズ2022を実施。具体的には、何らかの方法でローバーだけを打ち上げられるような改造を施す。また、ロケットも新たに調達する。

①はそれなりに可能性が高いのですが、個人的には大変もったいない決断になるかと思います。構想段階から20年もかけてようやくたどり着いたローバーですし、ヨーロッパとしては史上初の月・惑星探査ローバーとなります。なんとしても実施したいというのが、特にミッションチームの希望でしょう。
ただ問題は、ロシア側が「着陸プラットホーム」という、ローバーにとって必要不可欠な部分を握っていることです。仮にロシア側の協力を得られずにそのまま打ち上げるということになると契約違反などの問題も出てきかねませんし、ロシア側からのサポートを得られなければいざというとき、あるいは火星地表へローバーを下ろすときなどに運用が困難になる恐れがあります。

そこで、②の作戦です。つまり「何らかの形で」ロシア側の着陸プラットホームの代替品を開発する、あるいは全く別の方法で、着陸プラットホームを必要としない形でローバーのみを単独で打ち上げる形です。
重量や打ち上げ時の計上などは大幅に変更になりますので、再設計からかからなければいけません。ローバーも再設計が必要になるかも知れません。その場合、一度分解し、使える部品だけを確保した上で再度組み立てを行い、打ち上げるという形が考えられます。
もっとも、そもそも打ち上げ用のロケットも新たに調達する必要がありますから、その時点で再設計を余儀なくされることは確かです。であればあとは時間と費用の問題ということになります。

時間ですが、火星への打ち上げ好機は2年に一度しかやって来ませんので、それを睨むと、2024年に間に合わせるためには、再設計やロケットの調達などは非常に厳しいと思います。余裕を持たせる線でいえば2026年あたりの打ち上げを目指して再設計にかかるというのが妥当な線ではないでしょうか。

一方、ロシア側が主張する「単独で着陸プラットホームだけを打ち上げる」(つまり、エクソマーズ2022のロシア部分だけをロシア独自で実施する)という方ですが、この場合も準備にかなり時間がかかるように思います。そもそも、ロシアは現在海外から厳しい経済制裁を受けており、そのための部品調達だけで(宇宙開発には最先端の部品が必要です)相当な苦労を強いられるはずです。実現性は低いように思われます。

いずれにせよ、ESAは20日に記者会見を開き、今後について明らかにすると述べています。その情報を待つことにしましょう。