ロシアによるウクライナ侵攻の影響で2022年の打ち上げが中止されたヨーロッパ・ロシア共同の火星探査機「エクソマーズ」ですが、ヨーロッパは自前のローバーの打ち上げを、NASAとの協力によって2028年にも実施できるかも知れません。marsdailyが報じています。
エクソマーズの打ち上げは2回に分けて行われ、第1回の打ち上げはすでに2016年に実施されています。問題は、ロシアの着陸機「カザチョク」とヨーロッパのローバー「ロザリンド・フランクリン」を打ち上げる予定だった、2022年の第2回の打ち上げです。
そもそも新型コロナウイルスの世界的な感染の影響で、当初2020年だった打ち上げ予定が2年ずれ込んだところに、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)はこの問題に対応するため、エクソマーズの2022年内の打ち上げを中止しました。
とはいっても永遠に中止するというわけではなく、何らかの機会があれば、少なくともヨーロッパ開発のローバーだけでも打ち上げるという選択肢は考えられていました。
この場合の問題は、ローバーはカザチョクの中に収められて火星に到着するという点です。現時点でのエクソマーズの設計では、ローバーだけを打ち上げるというわけにはいきません。そのため、まずは打ち上げ準備のためすでに着陸機に収められたヨーロッパのコンポーネント(機械類)を取り出すこと、そして新たな打ち上げ形態を準備することが必要になります。そして後者については、もはやロシアの協力は仰げませんので、他の国の協力を求めることになります。
marsdailyによると、ESAの評議会は、今後3年にわたって5億ユーロ(日本円で約710億円)の費用を当時、ミッションを継続させることに合意したとのことです。
そのためにまず必要となるカザチョクからのヨーロッパのコンポーネント(レーザー高度計や搭載コンピューターなど)の取り出し作業にはロシアの技術者が必要となります。そもそも政治的に先鋭的に対立しているヨーロッパとロシア、そして往来にも厳しい制限がかかる状況ということで、この技術者の派遣はかなり難しい仕事になっています。エクソマーズのチームリーダーであるティエリー・ブランケルト氏によると、ロシアの技術者が1月半ばには来訪する予定だったが、彼らは来なかったとのことです。彼によれば「3月末までにはすべてを終わらせるよう依頼した」とのことで、うまくその予定通りになれば、来月にもこの取り出し作業が完了し、エクソマーズからロシアの要素が取り除かれることになります。
続いては打ち上げに向けた機器類の再構成です。いくらESAが3年間予算をつけたといっても、元々ロシアというパートナーが(ロケットも提供して)組んでくれて実現した火星探査です。やはりパートナーが必要となるわけですが、火星探査に豊富な経験があるという点ではNASAに期待がかかります。そしてNASAも割と積極的であると、marsdailyは報じています。
そもそも、エクソマーズは2000年代なかばから計画が進められていましたが、その当時のパートナーはアメリカ(NASA)でした。ところが、2010年代のアメリカの宇宙予算削減のあおりを食らってNASAは計画から撤退、ヨーロッパは変わってロシアをパートナーに選んだという経緯があります。10年経過して、再びアメリカが戻ってきたというわけです。
NASAがパートナーになる利点はいろいろあります。NASAはすでにキュリオシティやパーセビアランスといった大型ローバーを火星に送り届けており、この分野での豊富な経験があります。また、すでにNASAとESAは、火星からのサンプルリターンを目指す「火星サンプルリターン探査」(MSR)を計画していますが、そのうち着陸機の打ち上げが2028年に予定されています。このような背景があれば、NASAと組むのはごく自然、というよりいい流れであるといえるでしょう。このMSRの2028年はまさにロザリンド・フランクリンを搭載して打ち上げるのにいいチャンスになるかも知れません。
現時点では、NASAが公式にロザリンド・フランクリンの打ち上げを実施すると発表したわけではありません。しかし先述のブランケルト氏は「(NASAとESAの)共同作業を準備しており、順調に進行中である」とのことですので、今回は期待できるでしょう。
政治と経済に振り回されたローバーがいつ打ち上げられるのか、それは正式発表を待つことになります。いずれにしても、火星の科学的な探査を目指したローバーが、地球上の人間たちの事情を離れ、その真の能力を解き放つ日が一日も早く訪れるよう祈りましょう。
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