中国はこれまで、火星(探査)にも興味があるということをたびたび表明してきました。どうやらその動きが本格的になってきたようです。このほど中国が、2020年に火星探査機を打ち上げ、2021年に着陸させるという計画を持っていることが明らかになりました。いろいろなメディアが報道しています。

中国の火星探査機(模型)

上海の第17回中国国際工業博覧会で展示された中国の火星探査機の模型。実物の3分の1スケールということで、上部が周回機、下部が着陸機とのこと。人民網より。

この発表を行ったのは、中国の月探査計画の技術面でのリーダーである葉培建氏です。
葉氏の発表によると、中国の火星探査機は、火星探査の好機である2020年に打ち上げられ、7ヶ月の飛行ののち、2021年に着陸するということです。また、ローバーも搭載し、火星表面を動き回って探査することも予定されています。このローバーは、現在嫦娥3号により月面に運ばれ、活動をしている「玉兎」ベースになるものとみられます。また、チャイナ・デイリーによると、探査機は月探査機「嫦娥3号」をベースにするとのことで、現時点では長距離通信についての技術開発を先行して行っているようです。ただ、月と火星は環境が大きく異なりますので、それに合わせるための新たな技術の開発、あるいは探査機の改造は当然必要となるでしょう。
葉氏は、このスケジュール(4年で開発)は非常に厳しいスケジュールだが、チームとしてはそれを成し遂げる自信があると述べています。

中国の火星探査については、以前から開発中であるという情報がありました。昨年11月にも、上海で開催された第17回中国国際工業博覧会に火星探査機が展示されたということがありました(上記の写真はそのときのものです)。このときすでに探査機は着陸機と周回機の2段構成となっていましたが、模型全体の精密さがそれほどなかったこともあり、火星探査は(編集長としては)まだ先かと考えていました。上記の葉氏の発言は、火星探査を確実に実現させる方向であるということと共に、それをかなり早いタイミングで実現させることを示しています。

中国の火星探査は2011年にさかのぼります。この年に打ち上げられたロシアの火星探査機「フォボス・グルント」に相乗りする形で、中国初の火星探査機「蛍火1号」が打ち上げられました。しかし、本体のフォボス・グルントが地球脱出に失敗、最終的には地球へと墜落してしまい、蛍火1号はそれと運命を共にしました。
今回の探査は中国製のロケットを使い、100パーセント中国独自のものとなるようです。
なお、そのロケットについて、チャイナ・デイリーは長征5号シリーズが使用されると述べており、すでに打ち上げを担う中国航天科技に対して開発命令が下っているとのことです。

さて、この2020年、そして2021年というタイミングですが、人民網日本語版によると、葉氏の話として、着陸は中国共産党創立100周年に合わせたい、とのことです。中国共産党の創立は1921年7月1日。この7月1日は党創立記念日で中国では記念日となっています。とすると、この日にピタリと合わせて着陸させるとすれば、打ち上げは2020年末ということになるでしょう。
一方、同じ2020年という尺度でみてみますと、アメリカは「マーズ2020」という大型着陸機・ローバーを打ち上げる予定です。一方、新規参入組としてはアラブ首長国連邦があり、同じく2020年に同国初の火星探査機、そして月・惑星探査機となる「アル・アマル」を打ち上げる予定です。
火星探査は約2年に一度、打ち上げの好機が訪れます。今年(2016年)も打ち上げ好機で、間もなくヨーロッパとロシア共同の火星探査機「エクソマーズ」が打ち上げられます。2018年にはエクソマーズの第2段、そして今年打ち上げるはずだったアメリカの探査機「インサイト」の打ち上げが控えています。
世界的にみますと、もし中国が火星探査に成功すれば、旧ソ連(ロシア)、アメリカ、ヨーロッパ、インドについで5カ国目となります。着陸としては旧ソ連(ロシア)、アメリカに次いで3カ国目となります。この「インド」についてはどうも中国は意識しているようで、人民網日本語版が伝える葉氏の言葉の中にも、「火星周回軌道から一部のみを観測したインドの探査機と異なり、中国の探査機は火星全体を探査する。」という言葉が出てきます。
インドの探査機マンガルヤーンですが、こちらは火星全体の観測を行う予定で、一部だけではないはずですが、こういうことを述べるあたりに、インドへの対抗心がチラリとほのみえるようです。

さて、それではこの火星探査、実際に実現できるでしょうか?
中国の今までの月・惑星探査のやり方を考えると、既存の、あるいは開発済みのものを改良して次につなげるという形を取ってきています。また、技術的に「ジャンプ」する場合(例えば、月の周回機の次に着陸機に進む場合)には、用心のために代替機を必ず開発し、先行機がうまくいった場合には、この代替機をかなり挑戦的なミッションに投入するというやり方をとっています。
火星探査機も同様に、代替機を開発しながら新規開発を試みるが、そのベースは月探査機ということになりそうです。ただ、先ほども述べた通り、火星と月の環境は大きく異なります。とりわけ、月と異なり火星には大気があり、砂嵐などの過酷な環境が待ち構えています。また、ロケットは長征5号というかなり大型のものを使用するとはいえ、月に持っていくにはローバーや着陸機、周回機は軽量化が要求されます。この技術の開発も容易ではないと思われます。
ヨーロッパにしても、現在も火星を周回しているマーズ・エクスプレスと同時に火星着陸に挑んだ着陸機「ビーグル2」は着陸に失敗しています。また、旧ソ連(ロシア)、アメリカとも、火星着陸には何度も失敗しています。
さらに通信の問題も重要です。電波の早さで2.5秒で往復できる月とは異なり、火星は電波でも往復数十分かかるケースもあります。火星表面で各種探査機を動作させるには、自律機能が不可欠です。この点、過去の月探査機でかなり技術やノウハウは蓄積していると思われるのですが、果たしてそれで十分なのかは不明です。

いずれにしても、「やる」と宣言したわけですから、今後火星探査計画が中国の宇宙開発計画に新たに加わる(加わった)ことは間違いありません。世界的に火星探査、そして有人火星探査の潮流ができつつある今、中国もその流れに加わろうとしているのか、あるいは中国はやはり世界的な潮流(あるいはアメリカ中心の流れ)とは別の方向で進めようとするのか。探査を取り巻く周辺状況と共に、目が離せません。