アメリカの小惑星探査計画「オサイレス・レックス(オサイレス・レックス)」は、小惑星からサンプルを持ち帰ることを目的としていることから、「アメリカ版はやぶさ」とも称されます。実際ミッション全体はよく似ていて、目的地の小惑星に向かうため、地球のすぐそばを通りすぎて加速すること(いわゆる「地球スイングバイ」)を行うことまで一緒です。

NASAは1日、オサイレス・レックスが9月22日午後0時52分(アメリカ東部夏時間。日本時間では翌23日午前1時52分)、地球から約1万6000キロメートル(ピンとくる方はピンとくると思いますが、「1万マイル」です)の距離を通過する「地球スイングバイ」を実施すると発表しました。

地球スイングバイを実施するオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の想像図

地球スイングバイを実施するオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の想像図 (Photo: NASA GSFC/University of Arizona)

オサイレス・レックスの目的は、「はやぶさ」や「はやぶさ2」と同様に、小惑星からサンプルを持ち帰ることです。そのサンプルを地球上で詳しく分析することで、小惑星の起源や資源利用など、様々な点に迫ろうということが目的です。

地球スイングバイは、地球の引力を利用して探査機を加速(減速させることも可能ですが、一般的には加速させることが目的です)させるため、探査機を天体すれすれのところに飛ばすという飛行方法です。小惑星に到達するためには決まった速度が必要ですから、それだけの力を天体(この場合は地球)から得るために、軌道を厳密に決めた上で飛行しなければなりません。非常に高度な技術が必要になります。
「はやぶさ」や「はやぶさ2」ではこの地球スイングバイを行って目的地の小惑星に加速しており、今回はオサイレス・レックスもその例にならう、というわけです。

実は面白いことに、小惑星に向かうために地球スイングバイを実施するというのはNASAの月・惑星探査ミッションとしてははじめてなのだそうです(過去には、土星探査機カッシーニが地球スイングバイで加速したということがありました)。

今回オサイレス・レックスが向かう小惑星ベンヌは、実は地球の公転軌道(黄道面)から約6度傾いたところを回る軌道を回っています。そのため、この地球スイングバイを利用してその軌道の傾きに合わせるようなことを行います。
これまた「はやぶさ2」とそっくりなのですが、こちらの目的地の小惑星「リュウグウ」も実は軌道が5.88度傾いており、2015年12月の地球スイングバイの際、そのリュウグウの軌道に合うように探査機の軌道を調整しています。

オサイレス・レックスは2016年9月に打ち上げられ、約2年かけて小惑星ベンヌまで向かう予定です。打ち上げ直後から運用チームは探査機の軌道を精密に調整し、そのための噴射などを行って軌道を変更してきました。そのうちもっとも大きな軌道変更は2016年12月28日に行われたもので、このときには飛行速度の調整と、今回の地球スイングバイに向けた軌道変更を実施しています。
その他にも軌道調整は、打ち上げ直後の2016年10月7日、2017年1月18日、そしてつい最近である2017年8月23日(以上すべての軌道変更日時はアメリカ現地時間)に実施されています。これらはいわば「微調整」ですが、精密な軌道を飛行するためにはこの微調整もまた、重要というわけです。

オサイレス・レックスの軌道運用チームは、NASAのゴダード宇宙飛行センター(GSFC)の職員と、カイネティクス・エアロスペース(KinetIX Aerospace)社の職員からなっています。さらにカイネティクス社のメンバーは、この探査機を製造したロッキード・マーティン社の探査機運用チーム(コロラド州デンバーに所在)と共に、軌道変更のためのコマンド送信などを実施しています。
精密な地球スイングバイを実施するためには、まず精密な探査機の軌道の計算と、必要な軌道の変更量(速度、方向など)の計算が必要です。これには様々な要因を考慮に入れる必要があります。例えば、他の天体(木星や、もちろん地球など)の引力は小さいといえど考慮しなければなりません。
これらの計算によって軌道が正しいと確認できれば、それを探査機に送る指令(コマンド)へと変換し、送信します。探査機はそのコマンドを解釈し、搭載されているエンジン(小型ロケット)を噴射して必要な軌道変更を行います。人と機械、地球上の人間と宇宙にいる探査機とが連携して行う細かい調整で、探査機は所定の軌道を飛行することができるのです。

探査機が地球のそばを通り過ぎるときの速度は時速3万キロ(秒速約8キロ)というかなりのスピードです。今回の地球スイングバイでは、(これもまた「はやぶさ」や「はやぶさ2」と似てますが)地球への最接近ポイントは南極大陸、チリのホーン岬の南側のところで、そこからオーストラリアの上空へと飛行していきます。
ただ、これはちょっとした(いや、かなりの)危険を伴います。その間通信ができないのです。

「南極上空を飛行することになるため、NASAと探査機との通信は約1時間にわたって途絶えることになる。オサイレス・レックス探査機は、NASAの通信網である深宇宙通信網(DSN)を使って通信するのだが、このうち2つの局…オーストラリア・キャンベラ、及びカリフォルニア・ゴールドストーンの両局からみても、探査機が地平線に比べてかなり下側に位置するため、通信不能となる。」(GSFCの飛行チーム主任、マイク・モロー氏)

NASAは通信回復を午後1時40分(日本時間で翌日の午前2時40分)と見込んでいます。これはスイングバイで最接近点を通過してからおおよそ50分後です。

最接近から約4時間後の午後4時52分(日本時間で翌日の午前5時42分)、オサイレス・レックスは月と地球の観測を実施します。これはたまたま地球のそばを通過するので写真を撮ろう、という広報目的ではなく、カメラの性能を試す(より正確にいえば、カメラが正しく映ることを確認する校正作業…キャリブレーション)ことが目的です。「はやぶさ」や「はやぶさ2」で地球スイングバイのときに地球や月の写真を撮影したのも、このカメラの性能確認が主要な目的でした。

もう1つの心配は地球接近の高度です。高さ約1万6000キロメートルのところを飛行するわけですから、オサイレス・レックスは地球の周りを回る人工衛星が多数あるところに猛スピードで突っ込んでいくことになります。そのためNASAでは、わずかな可能性ではあるにしても衝突を避ける手立てをすでに考えています。もし衝突が予想される場合、オサイレス・レックスの飛行力学チームが考えたプログラムにより、探査機の軌道をごくわずか変化させて衝突を防ぐ、というわけです。

「地球スイングバイから数週間後には、ベンヌへ向かう軌道の検討に入る。必要な場合には追加のエンジン噴射を実施し、正しい軌道に探査機を乗せることになる。」(軌道変更デザイン・軌道解析グループ主任で、カイネティクス社のダン・ウィベン氏)

そして、2018年6月末には、ベンヌ到着に向けた最終軌道調整を実施し2018年10月頃に小惑星ベンヌへ到着、本格的な科学観測を開始する予定です。

「なにしろ相手の小惑星は小さく、そのために重力も小さいので、これがもっともミッションにとって困難な点となることだろう。現在、そのために働いている。ベンヌはだいたい直径500メートルくらい(編集長注: 小惑星イトカワはさしわたし535メートル、「はやぶさ2」の目的地のリュウグウは直径920メートルほどと見積もられています)で、NASAがこれまで周回機を送り込んできた天体では最小だ。」(誘導チームのチーフで、カイネティクス社のピーター・アントレアシアン氏)

大変なことではありますが、「はやぶさ」でも小さな天体の周りを回る周回飛行を(しかも姿勢安定装置が壊れた中で)実施したことはあります。今回もうまくいって欲しいですが、まずそのためには地球スイングバイが無事成功することが重要です。
オサイレス・レックスのミッションマネージャー、アリゾナ大学のダンテ・ローレッタさんは、「地球スイングバイは、探査機の燃料を使うことなくベンヌの軌道へと探査機を誘導するための賢い手段だ。」と述べています。

よく誤解されるのですが、「はやぶさ2」とオサイレス・レックスはライバル同士とはいっても決して仲が悪いわけではありません。互いにチームメンバーの交流は盛んに行われており、科学面だけではなく広報などの面でも互いに協力しあっています。その意味でも今回の地球スイングバイの成功が期待されるところです。

なお、オサイレス・レックスは広報が非常に盛んなミッションでもありますが、今回の地球スイングバイに際しても広報キャンペーンを行います。「オサイレス・レックスに手を振ろう」(Wave to OSIRIS-REx)というキャンペーンが、地球スイングバイ時に実施されます。
これは、個人またはグループで、地球に接近してくるオサイレス・レックスに手を振っている写真を撮影し、それにハッシュタグ「#HelloOSIRISREx」をつけ、ミッションの公式ツイッター (@OSIRISREx)あるいはインスタグラムのアカウント (@OSIRIS_REx)へ投稿する、というものです。
投稿はいつでも可能ですが、もちろん最接近に合わせるのがいちばんよろしいとは思います。
日本ではちょうど夜中になりますが、それはそれでまたすばらしい写真が撮れるのではないでしょうか。ぜひ皆さんもオサイレス・レックスに手を振ってみてはいかがでしょう(もちろん、投稿もお忘れなく)。