月探査情報ステーションとは

月探査情報ステーションは、月・惑星探査の情報を中心として、月の科学、さらには月や月・惑星探査にまつわる様々な情報を皆様にお届けする、「月・惑星探査のポータルサイト」です。

このサイトでは、月を中心として、「科学」という視点を中心に取り上げ、月についてどのようなことがわかり、どのようなことがわかっていないのかを解説しています。

そして、まだわからないことを調べようとする「探査」(ミッション)について、最新情報をいち早くお知らせするほか、その背後にある科学などについて、わかりやすく解説しています。

月について、私たちはどの程度のことを知っているのでしょうか? ここでは、月の不思議や謎、解明された事実などをまとめました。科学だけではなく、雑学などの広い話題も網羅しています。

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人間は月に降り立ち、惑星へ探査機を飛ばしてきました。そのチャレンジは今も続いています。ここでは、そういった私たちの外の世界への挑戦をご紹介します。

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お知らせ

2804, 2017

土星探査機カッシーニ、土星の本体と輪の間を通り抜ける探査を実施、土星大気の写真を取得

20年間の探査の最後となるミッション「グランドフィナーレ」に挑んでいる土星探査機「カッシーニ」は、27日(アメリカ現地時間)、土星の本体と輪の間の空間を通り抜けるという探査を実施しました。これはグランドフィナーレにおいて特別に計画されたもので、これにより極めて近い位置からの土星本体や輪の観測が可能となります。カッシーニからはこれまでにみたこともない鮮明な土星本体の大気の写真など、極めて貴重な、そして私たちがはじめてみるデータが送られてきました。

 

1997年に打ち上げられ、2004年から土星とその衛星の探査を続けているカッシーニは、燃料が残り少なくなったことから、今年9月に土星大気に突入させて探査を終了させる予定となっています。その最後のミッション「グランドフィナーレ」では、土星本体と輪の間のすき間部分に探査機を「ダイブ」(突入)させて、土星の大気や輪の様子を極めて詳細に探査することを計画しています。
この部分には、輪などを構成する小さな石や岩などが存在する可能性もあり、また探査機自体も打ち上げられてから20年も経過するなど老朽化の懸念もあり、ある意味極めて危険な「賭け」でもありますが、20年に及ぶ探査の最後に行う、そして最後を締めくくる探査としては最も適切ということで、このような大胆な探査が選択されました。
もちろん、カッシーニの探査としても、そして人類が行う(土星)探査としてもはじめての試みです。

グランドフィナーレでは、合計22回にわたる「ダイブ」が計画されていますが、この最初のダイブ(本体と輪の間の空間の通過)が26日(アメリカ現地時間)に実施されました。
通過しているときには探査機は大きなアンテナを進行方向(つまり、土星の下側)に向けるために地球との交信ができません。このような姿勢を取る理由は、上述のように、小さな岩や石などが万が一探査機に激突した場合でも、アンテナがある意味盾となって探査機自体の損傷を最小限に留める…だろう…という理由からです。
探査機からの通信は4月26日午後11時56分(アメリカ太平洋夏時間。日本時間では翌27日午後0時56分)に再度捉えられ、データはそのあと、27日午前0時1分(アメリカ太平洋夏時間。日本時間では翌27日午後1時1分)より地球に送信され始めました。ミッションは成功です。

NASAの惑星科学部門長のジム・グリーン氏は「長く正統たる探査の歴史において、カッシーニはまたもや、新たな道を切り開いた。今回の大胆な探査は、私たちの好奇心が導くところへ挑戦しさえすれば、新たな驚異と発見が待っている、ということを示してくれた。」と語っています。これは私(編集長)も、そう思います。

今回の「ダイブ」は、土星の北極から南極方向へ、土星本体と輪の内側にあるすき間の部分を通り抜ける(なので「ダイブ」という表現を英語では多用しているのですが、日本語でもう少し穏やかに「土星本体と輪の間を通過する」というふうにした方がよいかもしれません)ものです。
最も近いところでは土星の表面、より正確にいえば土星の表面に浮かぶ雲の表面(地球の大気圧と同じ1気圧のところ)から高さわずか3000キロメートルというところを通り抜けていきます。地球の人工衛星でも、例えば静止衛星は地球の表面から高さが3万6000キロメートルもあります。それを考えると、土星の「すぐそば」を高速ですり抜けるという表現は決して大げさではないでしょう。
さらに土星の輪の方向から考えると、いちばん輪の内側からはなんとわずか300キロというところを通り抜けます。この300キロという距離、人工衛星で考えますと、地球の表面から国際宇宙ステーションまでの距離とだいたい一緒です。本当にすぐ近くであることがお分かりいただけると思います。
この通り抜ける速度は、なんと時速12万4000キロメートル、秒速に直すと34.4キロというとんでもない速さです。小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還するとき、大気に突入した速度が秒速約20キロです。スペースシャトルの飛行速度は秒速7.9キロ。それに比べて、今回の探査機のスピードがいかにものすごいものであるかお分かりいただけるかと思います。
今回の通過ではミッションマネージャーはカッシーニは無事通り抜けると確信はしていたのですが、正直、どのようなデータが取れるかまでは想像できなかったようです。なにせ、はじめてのことですから。

「こんなに土星に近づいた探査機はこれまでになかった。私たちは、これまでの土星の輪に関する観測を下地にした経験に基づく予測を信じるしかなかった。土星の本体と輪の間がどのようになっているかは、そのようにするしか考えることができなかった。私は、カッシーニがこの本体と輪の間を事前に計画した通りに通り抜け、反対側に予定通り抜けることができたことを皆様にご報告できることを、大変うれしく思う。」(カッシーニ計画のプロジェクトマネージャー、ジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏)

土星本体(上記の通り、大気が1気圧となる場所から)と輪の間の距離は約2000キロほどです(編集長注: この距離の数値は、上記の「土星本体から3000キロ、輪から300キロのところを通過」という表現と矛盾します。ここではNASAから公表された数字をそのまま用いますが、おそらく輪の端の部分に食い込む形で通過したとも考えられます)。事前に計算されたモデルによれば、カッシーニが通過する領域に存在する粒子は小さく、おそらくは煙の粒子の大きさほどであろうと考えられています。それでも、探査機本体に当たったら、まるで超高速のライフルの弾丸(ちなみに、一般的なライフル銃の弾丸速度は秒速1キロほどです)に当たったような大きな衝撃を受け、探査機本体がそのエネルギーで壊されてしまうことも十分に考えられます。そのため、アンテナを進行方向に向けるなどして、細心の注意を払って今回の通過を実施しました。

こうして得られた、私たちがまだみたことがない土星本体の大気の様子の写真をご覧下さい。

 

 

写真ではなかなかわかりにくいのですが、何らかの渦のような模様や、大気が何か後を引いているような流れなどがみえます。これらの大気の流れの正体は今後の解析に任せるとして、私たちがこれまでみたこともないものを捉えたことは確かです。

今後カッシーニは、土星の周りを回りながら、だいたい週1回のペースでこのような土星本体と輪の間の通過を試みます。ミッション終了までに合計22回、すなわちあと21回このようなチャレンジを実施します。次回の通過は5月2日(アメリカ現地時間)の予定です。そして、アメリカ現地時間で9月15日、カッシーニは土星大気へ突入、20年にわたる探査(土星到着からは13年)を終了します。
今回送られてきた写真だけでもワクワクしますが、さらに21回の挑戦で私たちがみたこともないどのような世界をみることができるのか、期待が尽きることはありません。

NASAのニュース 
https://www.nasa.gov/feature/jpl/nasa-spacecraft-dives-between-saturn-and-its-rings
カッシーニ (月探査情報ステーション)

カッシーニ/ホイヘンス – Cassini / Huygens

2604, 2017

土星探査機カッシーニ、衛星タイタンへの最後の最接近を実施

先日のブログ記事でもご紹介した通り、土星探査機カッシーニがいよいよ、最後のミッション「グランドフィナーレ」へ挑むことになりました。
その最初の挑戦として、土星最大の衛星タイタンに再接近し、画像の撮影などを行いました。カッシーニ探査においてはもう何度もタイタンに最接近を行っていますが、今回の最接近が最後の最接近となります。いってみれば「カッシーニがタイタンと最後のお別れをする」最接近といえるでしょう。

タイタンは土星最大の衛星で、太陽系でも有数の大きさを持つ衛星です。その大きさは直径が5150キロと、地球の月はもちろん、惑星である水星をも超えるという大きさを誇ります。
しかし、その表面は地球よりも分厚い大気に覆われており、表面の様子はなかなかわかりませんでした。しかし、カッシーニ探査機と共に土星に向かい、2005年1月にタイタンの分厚い大気をくぐり抜けて着陸に成功したホイヘンス探査機により、人類はその表面の様子をはじめて垣間見ました。そこには、柔らかいメタンあるいはエタンの氷でできた地面、一見地球の海のようにみえる風景…しかし、その海の成分はエタンやメタン…という、私たちがみたこともない不思議な世界が広がり、世界に衝撃を与えました。

今回のタイタンへの接近は、アメリカ太平洋夏時間で21日午後11時8分(日本時間では翌22日の午後3時8分)に行われ、探査機はタイタンの上空約979キロメートルを通過しました。

分厚い大気があるので写真ですとぼんやりとした衛星の姿しかみえませんが、カッシーニ探査機はレーダーも搭載しているため、大気を貫いて地面の様子をみる(というか「調べる」)、ということも可能です。
先ほど申し上げた、メタンやエタンといった炭化水素でできている海や湖(主に北極地域にある)などの様子などもレーダー観測データからより詳細がつかめるのではないかと思われます。
今回の写真撮影範囲は、すでにこれまで何度となく行われた接近で撮影された範囲ですが、実はレーダー観測ではまだ観測されていない領域です。そのため、レーダーでのデータはかなり貴重なものとなりそうです。
また、タイタンのレーダー観測チームは、今回はじめて、タイタンの湖の深さ、そして物質構成をレーダー電波から探るという試み(もちろん、最初にして最後になりますが)も行います。
また、以前のレーダー観測において見つかっていた、湖の上にある不思議な島、通称「マジックアイランド」(magic island)の観測も行われる予定で、その正体が明かされることが期待されます。

カッシーニ計画のプロジェクト科学者であるリンダ・スピルカー氏は、「タイタンはすでに後ろへと過ぎ去ってしまったが、私たちにはこれまでの観測の膨大な蓄積がある。これから、カッシーニが残したこの膨大なデータの解析が続くだろう。」と述べています。

今回のタイタン最接近は、「グランドフィナーレ」の幕開けともなるものです。実際、今回タイタンに接近することによって、タイタンの重力を利用してカッシーニ探査機は軌道を変更し、土星の輪のちょっとだけ外側を回る軌道へと移ります。また、タイタンの重力を利用した加速、いわゆる「スイングバイ」を実施したことで、秒速0.86メートルだけ速度を挙げています。
この先、グランドフィナーレでは探査機が22回、輪と土星のすき間へと「ダイブ」するということになります。最初のダイブ(輪の通過)はこの26日(今日です)が予定されています。この探査により、特に土星の大気についての詳細な観測ができることが期待されています。

カッシーニ計画のプロジェクトマネージャーであるジェット推進研究所(JPL)のアール・メイズ氏は、「このタイタン最接近によっていよいよグランドフィナーレが始まった。探査機は今や所定の軌道へ入ったが、この軌道自体は調整されていくものではない。もし我々が今後探査機の微妙な軌道調整を行ったとしても、探査機は予定通り9月15日に土星の大気へと突入するだろう」と述べています。

カッシーニ探査機はタイタンを離れ、一度遠土点(軌道が土星から最も遠くなる点)へ到達します。これはアメリカ太平洋夏時間で22日の午後8時46分(日本時間では翌23日の午後0時46分)です。ここからいよいよ、グランドフィナーレのメインイベント、輪と土星のすき間へのダイブが実施されます。
そしてまず最初の見どころは、アメリカ太平洋夏時間で26日午後2時(日本時間で翌27日の午前6時)に予定されている最初のダイブです。この間、探査機は地球と交信不能となります。しかも、途中には岩などが存在しており、探査機と衝突するかも知れません。さらにカッシーニは1997年に打ち上げられた(つまり1990年代の技術で作られた)探査機で、老朽化に伴う問題が出る恐れもあります。しかし、やってみるだけの価値はあるといえるでしょう。
探査機との交信が回復するのは、アメリカ太平洋夏時間で翌27日の午前0時5分(日本時間で同日午後4時5分)です。どのようなデータが受信されるか楽しみです。

今後、カッシーニの最終ミッションは、探査機が土星に突入する9月15日まで続きます。このイラストにある内容を日本語に直しますと、

土星の雲の中を通過する深さ…1628キロ
土星の輪の通過回数…22回
通過する土星の輪の幅…約2400キロ
最高速度…時速12万3608キロ
土星の大気を通過する回数…5回
土星大気に突入してから通信途絶までの時間…1分

となります。
これから9月まで、カッシーニの最後の活躍により、私たちはどのような新しい風景をみることになるのでしょうか。
私たちはとりあえずまずは、VR映像でそれを楽しむことにしましょう。

NASAの記事 
https://www.nasa.gov/feature/jpl/cassini-completes-final-and-fateful-titan-flyby
カッシーニ (月探査情報ステーション)

カッシーニ/ホイヘンス – Cassini / Huygens

2504, 2017

インド、金星探査実施を検討開始 – インド紙が報道

1月に、インドが金星探査と木星探査実施を考えているとブログ記事で紹介しましたが、その記事にもあるように、インドはまず金星に行く道を選んだようです。
インドの新聞「ザ・ヒンドゥー」は21日、インド宇宙研究機関(ISRO)が、近世探査計画を正式に承認したと発表しました。

同紙の記事によると、今回ISROは科学者を招き、金星探査ミッションについての基礎的な検討を開始したとのことです。
ISROの計画によると、探査機は最初に金星を回る非常に細長いだ円軌道に投入されるとのことです。sorae.jpの記事では、軌道は近金点(金星に最も近い点)が500キロ、遠金点(金星から最も遠い点)が6万キロとのことです。このような長だ円軌道は、金星周回衛星では一般的です。日本の金星探査機「あかつき」も、ヨーロッパの金星探査機「ビーナス・エクスプレス」も、このような長だ円軌道に投入されて、金星の観測を行っています。
探査機は175キログラムの科学機器を搭載し、総発電量は500ワットとのことです。かなり小さい探査機になりそうで、4〜5つ程度の科学機器が搭載されるものと考えられます。

現時点ではISROは検討を始めたばかりで、最終的にはISROの宇宙科学アドバイザリー委員会の承認を得たあと、政府の宇宙委員会の承認が必要で、これによってやっとミッションが正式にスタートできます。
ISROによれば、探査機についてより詳細な情報は来月(5月)19日までには提供されるとのことで、おそらくその時点で機器などについてより詳細な情報が出てくると思われます。
現在搭載機器については募集(AO: Annoucement of Opportunity)が出ており、選定の結果機器が決まることになります。

ザ・ヒンドゥー氏によれば、探査は2020年より前にはならないとのことで、2020年より後になると考えられます。これは妥当な判断でしょう。月や火星とは異なり、強い太陽光などが障害となる金星探査は難易度がぐんと上がります。ですので、いくら「安くて早い月・惑星探査」が得意なインドとはいっても、ここはじっくりと検討を続けるという判断を行ったのかと思われます。

もし実現すれば、インドは月、火星に続き、金星に向かうということになります。いってみれば、地球から近い探査目標を順々に攻略するという(地球に近づく小惑星は別として)、ある意味一貫した哲学のもとに探査を実施しているようにみえます。
いずれにせよ、来月の情報などを含め、今後の情報に期待しましょう。

ザ・ヒンドゥー紙の記事 
http://www.thehindu.com/todays-paper/after-mars-isro-decides-its-time-to-probe-venus/article18168753.ece
sorae.jpの記事
http://sorae.jp/030201/2017_04_24_indo.html
ISROのページ  ※4月25日現在、金星探査計画に関するアナウンスはありません。
http://www.isro.gov.in

1804, 2017

JAXAとフランス宇宙機関、火星衛星サンプルリターンミッション計画(MMX)で協力へ

2017年4月10日、JAXA東京事務所にて、JAXAとCNES(フランス国立宇宙研究センター)による、火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)の検討を共同で行うための署名式が執り行われました。

 

 

火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)は、火星の衛星「フォボス」または「デイモス」の表面から物質を採取し、地球に持ち帰るという意欲的なミッションです。現在は2014年9月に探査機の打ち上げ、2019年9月に地球帰還を目指して検討が進められています。

JAXAとCNESの協力関係は、次の3つの点に関するものです。

フランスによる近赤外分光計(MacrOmega)の開発・提供
火星の衛星に到達するための軌道の検討(フライトダイナミクス)
『はやぶさ2』搭載の『MASCOT』のような小型着陸機の搭載可能性の検討

JAXAの奥村直樹理事長は、MMXのミッションについて「大変挑戦的なミッションで誇り思う」と述べました。来日したCNESのジャン=イヴ・ル・ガル総裁は、旧NASDA(宇宙開発事業団)や水星探査機「ベピ・コロンボ」などこれまでの日本とヨーロッパの協力関係に触れ、「火星は宇宙のパイオニアを引きつけ、どの国も探査に強い意欲を持っている」と日仏協力による火星の衛星探査に期待を示しました。
続く、JAXA宇宙科学研究所の川勝康弘准教授、ミッションの理学を主導する藤本正樹教授らによるミッション説明でMMXの目指す探査について詳細な説明が行われました。

川勝准教授によると、火星は地球型惑星領域のいちばん外側にあり、火星を周回する2つの衛星は火星がなければ小惑星と認識されていたといいます。皆様も火星の外側、木星との間に「小惑星帯」があることはご存知かと思いますが、多くの科学者は、火星の2つの衛星の起源はその小惑星帯ではないかとにらんでいます。2つの衛星は、過去に火星にもっと水や大気があった時代に、太陽系のもっと外側の領域から水を運んできた「カプセル」の名残りではないかというのです。

火星は、地球のような固体の惑星の存在する領域の一番外側の入り口にあり、水が運ばれてきた課程を解明するために重要な惑星です。そして、2つの衛星直径23キロメートルのフォボスと直径12キロメートルのデイモスが火星の衛星となっている理由として、2つ説があります。ひとつは、「捕獲小惑星説」。火星よりももっと遠方にあった小惑星の軌道が何らかの原因で変わり、火星の近辺に来てその重力に捕まって衛星になったというもの。この場合、MMXが衛星のサンプルを取ることで、水輸送カプセルの一部を手に入れることができます。

もうひとつは、「巨大衝突説」。火星で大きな天体の衝突が生じ、バラバラの破片が火星の軌道で集まって衛星になったというものです。この場合、MMXは火星に水を運んできたカプセルの破片や、火星そのものの破片を一緒に入手することができます。

火星の起源に迫るミッションであるだけでなく、地球と火星を往復し、探査機がほかの惑星圏に入って、かつ帰ってくるというミッションは史上初になります。「20g以上のサンプルを取得したい」と川勝准教授は意欲を見せました。

今回の署名式にあたり、フランスからMMX スタディーマネージャとなるCNESのパスカール・シャザルノエル博士と、MMX 近赤外分光計の主任研究者(PI)となるフランス宇宙天体物理学研究所(IAS)ジャン=ピエール・ビブリング博士が来日されました。

CNES側の発表によると、現在は検討段階であるMMXのミッションは、2024年の打ち上げに向けて2017年末までに正式なプロジェクト化を予定しているといいます。これに向けて、シャザルノエル博士のコメントではJAXAとCNES間で2度にあwたる対面ミーティングを行っているといいます。また、CNESの研究部門、トゥルーズ宇宙センターがMMXのフライトダイナミクス関係検討に協力するとのことです。

そして、今回の署名式で強い印象を残したのが、IASのビブリング博士。MMXへの搭載を検討している近赤外分光計を「マクロメガ」(MacrOmega)といいますが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」には“OMEGA”という近赤外分光計が搭載されており、過去に火星の表面にあった水の痕跡を留める鉱物の特定にも活躍しています。

OMEGAをさらに小型化したと考えられるマクロメガですが、ビブリング博士によれば「MMXへ搭載されれば、はじめての探査機搭載となる超小型の機器。感度が非常に高く、探査機は火星の衛星に対して低速度で周回するため、感度を10倍~100倍に上げることができる。衛星全体を探査でき、精度は数メートルまで上げることができる。氷や水分を含んだ物質を特定でき、これまでフォボスには観測例がないものの、炭素があればその特定も可能かもしれない」といいます。現在も活躍中のマーズ・エクスプレスで実績を上げた観測機器をさらに高精度化、小型化して搭載できるとすれば、フランス側のMMXへの期待のほどもうかがえるというものです。さらに、マクロメガはMMXが火星の衛星からサンプルを採取するにあたり、高解像度画像を撮影して着陸地点の決定にも利用できる」と重要な役割を担うのではないかとコメントしました。

これまでにない、日本とフランスがが協力するミッションとなりますが、日本はこれまでに火星探査機「のぞみ」で火星の軌道投入に失敗しており、火星に到達できれば日本初のミッションとなります。達成にあたってのハードルについて、川勝准教授は「いくつもの難しいシーケンスが連続している。火星へ行くだけでも、まず衛星とのランデブーがある。火星の軌道に入れるところがまずハードルとなる。成功率は2分の1かもしれない」とその難しさについてコメントしました。

これまでMMXのミッションについて公表された資料によれば、火星の衛星フォボス、またはデイモスは「はやぶさ」が探査を行った小惑星イトカワ(さしわたし545メートル)よりは大きいものの、火星に比べて非常に小さく、衛星の周囲を周回する軌道に入ることは難しいといいます。そのため、MMX探査機は、実際には火星を周回する軌道に入りつつ、衛星の周囲を巡っているように見える「疑似周回軌道」という軌道を組み立てるのだといいます。こうした、これまで例のない軌道を計画することも、MMXミッションの挑戦的な側面なのです。

一方、火星の2つの衛星フォボスとデイモスを目指した探査は、これまであまり例がありません。NASAのマリナー9号、バイキング探査機、ESAのマーズ・エクスプレスなどが火星探査の際に画像撮影などの衛星の探査を行ったほか、直接に火星の衛星を目指した計画として、旧ソ連の「フォボス」計画(「フォボス88」計画と呼ばれることもあります)、「フォボス・グルント」計画がありました。このうち、2011年のフォボス・グルント探査機は打ち上げ失敗により火星へ向かうことができませんでした。実際に衛星までたどり着いたのは、1988年のフォボス計画のみになります。ただ、このフォボス計画では、衛星までたどり着いた時点で交信途絶となり、探査が行えませんでした。

その旧ソ連のフォボス計画ですが、ビブリング博士によると、旧ソ連が主導し、14カ国の国際協力によって行われたフォボス計画は、「2つのミッションを同時進行した探査計画。フォボス1は火星への航行中に失われた。これは計算機の問題によるもので、コマンド送信の問題により探査機の安定性を喪失したと見られている。2機めのフォボス2は1989年に火星の軌道に到達することができた。2か月の運用でき、フォボスへ数メートルにまで接近しデータの送信もできた。だが、フォボスへの観測機器投下のミッションを目前にバッテリー充電に入ってしまった。1989年3月29日、巨大な太陽フレアで発生した高エネルギー粒子のため、搭載コンピュータの機能喪失し、ミッション途中の事故によって失われてしった」と予期せぬ探査中の事故があったといいます。

日仏は過去のこうした困難な経験を経て、火星の衛星探査に挑戦します。現在の検討内容によれば、MMX探査機は2024年9月にH3-24Lロケットで打ち上げられ、往路に約1年、火星圏への到着は2025年8月を検討しています。3年間、火星の周囲で観測を行い、2028年8月には火星を離脱、2019年の9月に地球へ帰還し、火星の衛星のサンプルを届けることを目指しています。もちろん今後変わりうる可能性はあります。

MMXについては、正直世界の関心があまり高いともいえませんが、内容をみると非常に野心的なミッションです。
また、「はやぶさ」や「はやぶさ2」での探査の実績も活かされる一方で、フランスとの国際協力という点でいえば、「はやぶさ2」のローバー、マスコットの例もあります(こちらは正式にはドイツ・フランス共同です)。また、フランスは地球物理学系の探査にも強く、以前月に地震計を搭載した探査機を打ち上げる計画では、フランス(CNES)が開発した地震計を搭載するということも検討されていました。
科学者同士の交流も強く(実際編集長(寺薗)も、特に月の自身関連ではフランスの科学者の皆さんともやり取りをしてきました)、MMXは国際協力としては非常にいいチームになるのではないかと期待されます。

一方で、国際協力は、国をまたぐプロジェクトとなるだけに、お互いの事情などが影響しあってミッションに影を落とすことがあることも指摘しておかなければなりません。ただ、宇宙研はこれまでも科学探査での国際協力を数多く実施してきているだけに、おそらくこういった点をうまく克服し、スケジュール(今回かなり詳細なスケジュールが出ました)通りの打ち上げ、そしてミッションの成功に繋げられるかと思います。
今後、MMXは本格的な開発に入ってくると思いますが、各段階における詳細な情報公開をJAXA、及びCNESにはお願いしたいところです。

【おことわり】火星の衛星について、書籍やメディア報道では「フォボスとダイモス」と書かれているケースが多いかと思いますが、月探査情報ステーションにおいては、衛星名称の慣例を尊重し「フォボスとデイモス」と表記しております。

JAXAのプレスリリース
http://www.jaxa.jp/press/2017/04/20170410_cnes_j.html
火星衛星サンプルリターン計画(MMX) (月探査情報ステーション)

火星衛星サンプルリターン計画 – MMX (Martian Moons eXploration)

1204, 2017

ニューホライズンズ探査機、9月初めまで「冬眠」状態に

冥王星を探査し終え、次の目的地であるカイパーベルト天体探査へと向かっているニューホライズンズ、しばしの「休眠」となりました。
10日、ニューホライズンズチームは、ニューホライズンズ探査機が「ハイバネート」(冬眠)状態に入ったと発表しました。冬眠は4月7日からで、9月初めころまでこの状態になるとのことです。

より正確な時間ですが、アメリカ東部時間の7日午後3時32分、日本時間では翌8日の午前4時32分)とのことです。
この時点でニューホライズンズ探査機と地球との距離は約57億キロ、光の速さで往復しても10時間半以上かかります。つまり、地球から「冬眠せよ」という指令を送信し、それが探査機に伝わり、探査機側の返答が届くまで、10時間以上も待たなければいけないのです。いま探査機がいかに遠い距離にいるかわかると思います。

探査機がこのような「冬眠」状態になる(される)のは、電気をできるだけ消費しないようにするためです。ハイバネート状態では、必要最低限の機器以外の電源が切られ、まさしく「冬眠」のように最小限の電気(エネルギー)しか消費しない状態となります。遠くまで長い距離を長い間飛行する探査機では、このようにしておけば電気を大幅に節約し、いざ探査に臨まなければいけないときのためにエネルギーをとっておけるというわけです。
ノートパソコンなどでも、よく電源は切らないが一部の機器を止めてしまっている状態(サスペンド)や、メモリーなどまで全てディスクに書き戻して電源を完全にオフにしてしまう状態(まさしくハイバネート)という状態にすることがありますが、これとよく似ていると考えてよいでしょう。
この状態でも、搭載コンピューターは稼働していて、月に1回、状態を地球に送ってくることになっています。また、目覚める方法ですが、あらかじめ「目覚まし時計」というか、タイマーがセットされていて、その指令により探査機は「目覚める」、つまり機能を回復することになります。

ニューホライズンズの運用担当マネージャーであるジョンズホプキンス大学応用物理研究所のアリス・ボーマン氏は、「ハイバネーション期間に探査の労力が減り、全体的な仕事量が減ることを期待している。2019年1月1日のカイパーベルト天体へのフライバイまではこの状態で行きたい。」と述べています。探査機の労力が減るだけでなく、探査機を見守る人の労力も減るというわけです。

ニューホライズンズ探査機も実は、地球から打ち上げられてからしばらくの間はずっとハイバネート状態でした。その状態から目覚めたのは2014年12月6日。冥王星に近づき、観測モードに入るためでした。それから約2年半にわたって、冥王星への再接近、そして詳細な観測をこなすなど、探査機は非常に「多忙」な状態に置かれていました。
次の大仕事は2019年1月1日、カイパーベルト天体である2014 MU69への最接近(フライバイ)です。逆にいいますと、冥王星最接近の例からみて、その半年前…おそらくは2018年中頃までは寝ていてもいいのですが、探査機は意外と早く目覚めます。

ニューホライズンズがこの冬眠状態から回復するのは、今年の9月11日で、たった(?)157日の冬眠でしかありません。それでも、探査機にとっても探査機を見守る人たちにとってもしばしのお休み、次のミッションに向けて気力を充実させることになるのでしょう。

ニューホライズンズチームの記事 
http://pluto.jhuapl.edu/News-Center/News-Article.php?page=20170410
ニューホライズンズ (月探査情報ステーション)

ニューホライズンズ – New Horizons

1204, 2017

火星衛星サンプルリターン計画「MMX」のページを設置

日本が2020年代初頭(2024年の打ち上げが有力です)に打ち上げを計画している、火星衛星サンプルリターン計画、通称「MMX」のページを、月探査情報ステーション「火星・赤い星へ」内に設置しました。
今後、このページから、MMXについての最新情報を随時発信していく予定です。どうぞご期待下さい。

協賛企業

渡辺教具製作所
ウイルネット

提携企業・団体

TeNQ