月に限らず、天体について探査や資源開発を行う場合に必ず守らなければならない国際条約として「宇宙条約」があります。この条約に加盟している国は、条約に定められているやり方で、探査や開発をしなければなりません。 また、この宇宙条約に基づいて、天体の探査や開発についてより詳しく定めた条約として、「月協定」(月その他の天体における国家活動を律する協定)があります。

宇宙条約の第2条では、月をはじめ天体がいかなる国家によっても領有の対象にならないことが規定されています。また、宇宙条約の第6条には、非政府団体(会社など)に関しても国と同じような制限が課せられることが書かれています。
また、月協定の第11条にも同様の規定があります。

では、開発をどのように行えばよいか、という点については、同じく月協定第11条第5項に 「この協定の締約国は、月の天然資源の開発が実行可能となったときには適当な手続を含め、月の天然資源の開発を律する国際的レジームを設立することをここに約束する。この規定は、この協定の第18条に従って実施されるものとする。」となっています(「レジーム」というのは法律用語のようですが「枠組み」と捉えておけばよいと思います)。
つまり、具体的に月の資源などを採掘することが可能になった場合、新たに何らかの国際的な枠組みを作って、その中で議論しましょう、ということです。それまでは、勝手にどこかの国や会社が、月の資源を持っていってはいけないということになっています。

しかし、ここには大きな問題点があります。まず、月協定を批准している国はまだ少ないこと。また、枠組みをどのように進めていくかについての議論が、まだ全くなされていないという点も問題になりつつあります。
現実問題として、例えば月の土地を「売る」といった会社も出始めていますし、小惑星探査を民間で行うという動きなどもあります。近いうちに、例えば月資源や小惑星の資源を地球で売ろう、という企業が現れてもおかしくはありません。

条約や協定はあくまでも道義的なものですので、必ずそれを守らなければならないという強制力は必ずしもありませんが、今のところ、技術力を持っている国がそれほどないことや、相互監視メカニズム(例えば、どこかの国が暴走したとしても、それを監視し、状況によっては制止するような仕組み)は、アメリカや旧ソ連などの宇宙機関などによって確立されているようにみえますので、今すぐにどこかの国が月を植民地にしてしまったり、民間会社が勝手に月の資源を開発し始める、ということはないと思われます。

ただ、たとえば南極の例などをみてみますと、1920〜1930年代にかけて、当時のナチス・ドイツが、南極の一部を領有しようとしたという経緯もあります。当時はまだ南極条約のような枠組みがしっかりと確立されていなかったため、その隙をついてナチス・ドイツが南極を植民地にしようとしたわけです。
南極については、現在でもアルゼンチンなどが一部地域の領有権を主張していますが、この点は南極の地下資源とも絡むといわれています。
また、最近の月探査では、インドや中国は、月の「ヘリウム3」をはじめ、資源探索を念頭に置いているようにみえます。いったんどこかの国、あるいは民間が月面などでこういった資源開発を行ったとしても、止める手段は具体的には存在していません。
従って、将来、それも近い将来(10年くらいのレベル)では、国レベル、あるいは民間企業による資源探索などについての枠組みを定める必要があるでしょう。

その意味では、上記の「月の天然資源の開発が実行可能となったときには(中略)国際的レジームを設立する」時期がもはや来ていると思われます。
そのためには、まずこういった問題に対処できるよう、民間などによる月開発をも含める形で月協定などの見直しを進めること、そして、資源利用のための国際的な枠組みを早めに構築することが必要でしょう。


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