1994年1月25日に打ち上げられた米国のクレメンタイン探査機は、レーダーを月面に向けて発射し、その反射波を地上で受信して、電波の強度や偏波の程度から月面の構造・物性を探る観測実験を行いました。
その結果、1994年4月9日から10日にかけての観測で、南極を中心とする緯度2.5度の範囲で、偏波の強度が急に強くなることが観測されました。考えられる原因として最も可能性が高いのは、水の氷のような気化しやすい物質が氷結していることです。

極地域は太陽高度が低いため、クレーターの壁の陰になって太陽の光が永久に当たらない場所(永久陰)があります。このような場所に、かつて月に衝突した彗星からもたらされた氷が蒸発せずに残っているのではないか、と推測されました。
ただし、このレーダー観測は、存在する物質の量、表面の状態、測定の感度等が結果に影響するので、氷の存在を確定的にするものではありませんでした。また、同じ様に永久陰のある、月の北極周辺の観測では氷の存在するような反射波はありませんでした。

その後、1998年1月6日、ルナープロスペクター探査機がNASAによって打ち上げられました。この探査機は水の氷を探すための中性子分光器を搭載していました。
中性子分光器は、直接水の氷を見つけることはできませんが、次のような原理で間接的に水の存在を推定します。
宇宙線が物質に当たったときに飛び出す高速の中性子は、水素原子にぶつかったときにだけ減速されます。氷の中には水素原子が含まれるので、速度の遅い中性子を検出することで、氷の存在量を推定できます。月面に常に吹き付ける太陽風も水素原子でできていますが、もしも水が十分に存在すれば、太陽風による水素原子の量よりも水分子に含まれる水素原子の量のほうがずっと多いはずです。

1998年3月5日、月の両極付近に氷が存在する可能性が高いと発表されました。
それによると、氷が存在すると考えられている地域は、北極で広さ10000~50000平方キロメートル、南極で5000~20000平方キロメートルに及んでおり、クレーターの土の中に0.3~1パーセントの割合で氷が含まれるとすると、氷の総推定量は1000万トン~3億トンと予想されました。
さらに観測と分析を続けたNASAは、1998年9月、この予想を大きく上回る総推定量60億トンの氷が存在すると発表しました。

その後、ルナープロスペクターは1999年7月31日に南極に衝突しました。衝突によって水蒸気の煙が上がるのではないか、と期待された計画でしたが、水蒸気は検出されませんでした。

月に氷があるかどうかという問題を解決するには、探査機を着陸させて表面を掘り、直接月の水(氷)の量を測定することが必要ですが、着陸探査は技術的にもかなり高度なものです。
そこで計画されたのが、「月面に物体を衝突させ、そこから舞い上がったチリの成分を観測することで、内部にある水の量を推定する」という作戦でした。まさにこのような計画のために作られた探査機が、エルクロス(LCROSS)です。

2009年6月19日に打ち上げられたエルクロス探査機では、同年10月9日、月の南極地域にあるカベウスクレーターに衝突ました。巻き上がるちりの内容を調べた結果、月面の土(レゴリス)の中には、5パーセントもの氷が含まれているという、驚くべき結果が判明しました。これらの水は、ルナープロスペクターで予想された通り、彗星からもたらされた、という推測が現実味を帯びてきました。
月面における氷の存在がかなり確実になってきたいま、今度は着陸探査で(ちょうど火星で「フェニックス」探査機が行ったように)、実際に掘削して氷の存在を確認するような探査が行われると、より確実に氷の存在、そして量がはっきりとわかることでしょう。


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