アルテミス計画のイメージ(ロゴ、月、火星)

アルテミス計画のイメージ。左下はアルテミス計画のロゴ、月の背景に火星が遠くに映し出されていることで、この計画が究極的に有人火星探査に結びつくことが示されている。
(Photo: NASA)

■アポロから半世紀以上を経て、ふたたび人類が月へ

1960〜1970年代のアポロ計画以来、人類は月に足を踏み入れていません。
そこから半世紀以上を経て、再び人類を月に送る計画が進行中です。

2017年にNASAが提案した有人月探査計画が「アルテミス計画」です。ちなみに、「アルテミス」はギリシャ神話ではアポロの双子にあたり、この計画がまさに「アポロの双子」、すなわち半世紀を超えたアポロ計画の再来であることを暗示しています。その後日本をはじめとした国々が加わり、現在では国際共同の有人月探査計画として実施されています。

アメリカはアポロ計画以来、月への歩みは決して積極的とはいえませんでした。1990年代には科学探査機クレメンタインルナープロスペクターを打ち上げたものの、共に小型の無人探査機で、国家的プロジェクトとはいえませんでした。ただこの2機の探査機により、月の極地域に水があることが発見され、月がまたにわかに注目を浴びるきっかけとなります。

21世紀に入り、アメリカのブッシュ政権は有人月探査計画「コンステレーション計画」を打ち出します。ロケットと有人宇宙船を新規開発し、人間を再び月に送り込む計画でしたが、予算とスケジュールの超過が問題視され、次のオバマ政権時代に中止に追い込まれます。
一方、21世紀初頭には日本やヨーロッパ、中国、インドが月探査機を次々に打ち上げます。ヨーロッパは2005年に「スマート1」、日本は2007年に「かぐや」、アメリカは2009年に無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」(LRO)を打ち上げました。LROに付随して搭載された衝突体「エルクロス」は月面に水の痕跡を発見、LROは10年以上の探査で詳細かつ膨大な量の月表面のデータを取得し、2022年12月現在も観測を続けています。

月に水があれば、人類の居住に大きなメリットが生まれます。水を地球から運ばなくても、生命の維持に必要な水が得られれば、月への長期滞在へのハードルはぐっと下がることになります。

■オライオン宇宙船を使い、2024年に人類を「ふたたび月へ」

コンステレーション計画では、SLSと呼ばれる打ち上げシステム(ロケット)と、オライオン(オリオン)宇宙船を使用します。
実は、このSLSとオライオンは、上述のコンステレーション計画において開発が始まったもので、十数年かけてようやく実用化にめどがついてきたところです。

SLSはスペースシャトルの打ち上げシステムをベースとしたアメリカの新しい打ち上げシステムで、NASAが開発しています。将来的にはこのロケットで月だけでなく、火星へ人間を送ることも想定されています。何度か計画が変更、延期されてはいますが、ようやくその姿がみえつつあります。
オライオン宇宙船は、スペースシャトルでの反省点から、翼を持たないカプセル型の宇宙船として製作され、最大4名の宇宙飛行士が搭乗可能です。これも当初はコンステレーション計画のために開発が始まったものですが、紆余曲折を経て同計画中止後も開発は続行され、2014年12月にテスト機の飛行に成功しました。

■2022年に初飛行に成功、2025年に月着陸を目指す

アルテミス計画では、合計3回の飛行を経て、人類を月面へと送り届ける計画になっています。

最初の飛行であるアルテミス1では、無人のオライオン宇宙船で月を周回し、宇宙船とロケットの性能を試験します。
次の飛行となるアルテミス2ではいよいよ人間が登場します。2024年に予定されている飛行では、人間を載せて月を周回して地球に帰還します。
そして、2025年、アルテミス3によりついに、人類が月面へと降り立つ予定です。このとき2人の人間が月面に到達する予定ですが、NASAはそのうちの1人が女性、もう1人は非白人の宇宙飛行士になると発表しています。どちらももし実現すれば史上初となります。

2022年11月、アルテミス1は無事打ち上げられました。当初予定が2021年11月であったことを考えると実に1年の延期を経ての打ち上げでしたが、打ち上げ後のミッション経過は順調で、25日間の飛行を経て、オライオン宇宙船は無事地球に帰還しました。今後宇宙船の損傷などについての詳細な分析が実施され、今後のミッションに生かされるでしょう。

但し、今後スケジュールが順当に進むかどうかは予断を許しません。もともとの月面着陸予定であった2024年は、トランプ前大統領が2期目に当選した際に在任最終年となるはずだった年であり、多分に政策的要素から目標が設定された可能性があります。バイデン現大統領も計画の見直しを進めるとみられています。

アルテミス3以降もミッションは継続され、人類が常時月面、ないしは月周辺空間に滞在することになるとみられます。
そして、アメリカが目指す宇宙開発の究極の目標「有人火星飛行」の拠点として月を活用することになるでしょう。すでに NASAは「ムーン・トゥ・マース」(月から火星へ)といういい方を多用するようになっており、早ければ2033年ともいわれる火星有人飛行へ向けた動きともつながってくるでしょう。

■日本も参加、中国・ロシアへの牽制の意味合いも

アルテミス計画は、深宇宙ゲートウェイとは異なり、当初はアメリカ1国の計画として進められましたが、途中から国際共同計画として進められるようになりました。この中には日本も含まれています。

日本政府は2019年10月にアルテミス計画への参加を表明、翌2020年7月に協定に署名しました。協力がどの分野に及ぶのかといった詳細については今後詰めていくこととなりますが、日本が得意とするロボティクス、ローバー技術での協力、また宇宙飛行士の月面活動などが考えられます。2020年10月にはJAXAが次の世代の宇宙飛行士募集を表明したこともあり(実際の募集は2021年秋ごろにスタートとみられる)、この世代の宇宙飛行士はまさに「アルテミス世代」として、将来的に月面探査で活躍する可能性があるともみられています。

一方、アルテミス計画そのものは政治的な意味合いも帯びています。特に近年になって科学技術の面で急速に力をつけてきている中国への対抗の意味合いが大きいともいわれています。
中国は2007年に初の月探査機「嫦娥1号」を打ち上げてから、これまでに5回にわたって月面着陸に成功、月探査における存在感を着実に高めています。ある意味アメリカや日本などよりも月探査に関しては経験を積んでいるともいえるでしょう。2022年には独自の宇宙ステーションを建設、2030年頃をめどにロシアと共同で月面基地を構築するともいわれています。
このような中国の技術覇権、宇宙における存在感増大に「待った」をかける意味合いが、アルテミス計画に込められているとも考えられます。

アルテミス計画は今後のアメリカの政権の考え方や技術的な進展など様々な要素に影響されるため、その目標年や形態などは今後も頻繁に変わると考えられます。また計画全体もまだ完全には固まっていません。最新の情報を入手し、動向を追いかけていくことが必要です。月探査情報ステーションでもアルテミス計画については随時情報をお知らせしていく予定です。


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