冥王星(及びカイパーベルト天体)探査機ニューホライズンズのチームは7日、2015年の探査機の冥王星最接近の際に発見された冥王星表面の各種地形に公に名前がつけられたと発表しました。
新たに命名された冥王星の名前は、地下(冥土…なんといっても「冥」王星ですから)の神の名前、歴史を変えるような発見を成し遂げた月・惑星探査ミッション、そして冥王星に関係する人の名前がつけられています。そのこともあり、地名にはあの日本の小惑星探査ミッション「はやぶさ」の名前もつけられています。

冥王星表面の地形名称

冥王星の表面の地形につけられた名称。冥土(地下)の神、歴史を変えた月・惑星探査、冥王星に関連する人たちの名前がつけられている。(Image: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/Ross Beyer)

本来は地名がどのように名付けられたかからはじめなければいけないかと思いますが、気になる方も多いと思いますので、まずは今回命名された名前の一覧をご紹介します。

  • トンボー地域 (Tombaugh Regio)…冥王星で有名になった「ハート型模様」のハートの右側にあたる。トンボーは、冥王星を発見したアメリカ人、クライド・トンボー (Clyde Tombaugh)の名前から。
  • バーニー・クレーター (Burney crater)…スプートニク平原(後述)西側のやや大きめのクレーター。名前は、トンボーが新しい惑星を発見した際、名前を「冥王星」(Pluto)にするように提案した、当時(1930年)11歳の小学生、ベネティア・バーニー (Venetia Burney)にちなむ。
  • スプートニク平原 (Sputnik Planitia)…いわゆる「ハート型模様」の左半分を占める。名前は、旧ソ連が1957年に世界ではじめて打ち上げた人工衛星、スプートニク1号から。
  • テンジン山 (Tenzing Montes)、ヒラリー山 (Hillary Montes)…スプートニク平原の南部に位置する高い山。両者の名前は、1953年、世界ではじめて世界最高峰のエベレスト(チョモランマ)登頂に成功した、ニュージーランド出身の登山家エドムンド・ヒラリー (Edmund Hillary)と、シェルパ(ネパールの現地民族。登山の際荷物運搬や登山家の各種サポートを行う)のテンジン・ノルゲイ (Tenzing Norgay)にちなむ。
  • アル・イドリースィー山 (Al-Idrisi Montes)…スプートニク平原の西に位置する山。中世(12世紀)に活躍したアラビアの地理学者、ムハンマド・アル・イドリースィーにちなむ。彼は当時としては極めて正確な世界地図を作成し、またそれらの地図は「地平線を越えることを熱望した男の喜び」(The Pleasure of Him Who Longs to Cross the Horizon)と訳され、中世ヨーロッパに伝えられると大航海時代の基礎となった。
  • ドゥジャンガウル地溝谷 (Djanggawul Fossae)…スプートニク平原のかなり西に位置する谷。ドゥジャンガウルとは、オーストラリア原住民の神話において、彼らの祖先となる3人の神様の1人であり、オーストラリアから死者の国へと旅し、オーストラリアの地形を作り、木々で満たしたとされる。
  • スレイプニル地溝谷 (Sleipnir Fossa)…トンボー地域の東側に細く伸びる谷。スレイプニールは、古代北欧神話に登場する8本の足を持つ馬。巨神オーディンを乗せ、天や大地を自在に駆け巡ったとされる。また、日本ではブラウザーの名前やゲーム「ファイナルファンタジー」に出てくるモンスターの名前としても有名。
  • バージル地溝谷 (Virgil Fossae)…スプートニク平原西部に位置する谷。有名なローマ時代のローマの詩人、ウェルギリウス(英語読みでは「バージル」となる)にちなむ。ダンテの作品『神曲』では、地獄及び煉獄を案内する役として登場する。
  • アドリバン窪地 (Adlivun Cabus)…スプートニク平原南部に位置する谷。北極域先住民(イヌイット)の神話に登場する地下の神、アドリバンから。
  • ハヤブサ平原 (Hayabusa Terra)…スプートニク平原及びトンボー地域の北東に広がる広大な平原地帯。いうまでもなく、世界初の小惑星サンプルリターン探査を達成した日本のミッション「はやぶさ」にちなむ。
  • ボイジャー平原 (Voyager Terra)…スプートニク平原の北西側にある広い平原地帯。ハヤブサ平原の西隣にあたる。いまからちょうど40年前(1977年)に打ち上げられ、外惑星探査を実施し、現在(2017年)も探査を続行している探査機ボイジャーにちなむ。
  • タータラス尾根 (Tartarus Dorsa)…トンボー領域東側、スレイプニール地溝谷の南に位置する山脈地域。ギリシャ神話に登場する、もっとも深く暗い奈落の穴、及び冥界よりさらに下に住む神の名前であるタルタロスにちなむ。
  • エリオット・クレーター (Elliot crater)…恒星の掩蔽現象をはじめて太陽系の研究に活用し、天王星の輪の発見や冥王星の薄い大気の発見など、外惑星に関する様々な発見を成し遂げたマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者、ジェームズ・エリオット (James Elliot)にちなむ。

以上、地形の特徴を表す部分については以下のように日本語で表しています。

  • Regio…地域
  • crater…クレーター
  • Planitia…平原
  • Montes…山
  • Fossa, Fossae(複数形)…地溝谷
  • Cavus…窪地
  • Dorsa…尾根

地名の日本語表記については、綴りをもとにアメリカ英語での発音と考えられるカタカナに直してあります。そのため、「タルタロスにちなむタータラス尾根」といった(タルタロスはギリシャ語およびラテン語発音)表記があります。また、表記についてはインターネット上を調べてなるべくすでに使われている表記に合わせましたが、中には日本語表記が見つからないものもあるため、実際のアメリカ英語の発音とずれている場合もあるかもしれません。ご了承ください。

また、惑星システム命名ワーキンググループ (WGPSN)のページによれば、冥王星の地形の命名規則は以下のようになっています。

暗い点、明るい点、溝 神話、民話及び文芸作品において、地下世界と関連付けられる神、女神及びそれらに関係したもの
窪地、尾根、湖のような平原 神話、民話及び文芸作品における地下世界の場所、場面
地溝谷、谷 地下世界の英雄及び探検者
クレーター、領域 冥王星及びカイパーベルト天体に関係する科学者・技術者
細長い地形、平原 革新的な宇宙探査ミッションの名前
山、崖 地球上、海や空など、新しい世界を切り開いてきた歴史上の探検家

地名は、惑星探査を行う上で欠かせないものです。ある場所について、例えばチーム内で「あの白い場所」「そこにみえる細長い黒っぽいもの」といっているだけでは、互いにどれを指しているかわからなくなる場合があります。正確にどの場所であるかを示すためには、その地形に名前をつけ、それを確定させることで、誰が呼んでも一つに定まるようにしなければいけません。

これらの名前は、ニューホライズンズの2015年7月の冥王星最接近以降提案されました。それまではチーム内で「仮に」つけられた名前で地形を呼び合っていました。ハート型の模様を「スプートニク平原」と呼んでいたりしたことは当時のブログ記事などにもまだ残っています。

今回はこれら14の地名が、IAUによって正式に冥王星の地名として認定されました。さらにチームではもっと多くの地名、さらには冥王星の衛星についての知名の提案も行われており、今後承認されていくものとみられます。
ニューホライズンズ計画の主任科学者であるサウスウェスト研究所のアラン・スターン氏は、「今回の命名は、冥王星とカイパーベルト天体という、太陽系でもっとも遠方の地の探査へと道を開いてくれた、多くの先駆的な人たち、及び宇宙探査計画に敬意を表するものである。」と述べ、その意義を解説しています。

IAUのWGPSNグループ長のリタ・シュルツ氏は次のように述べています。
「今回の命名が、冥王星にとって重要な人たち、重要な探査、そしてなんといっても地下の神話から取られたことは大変うれしい。多くの人たちが今回の命名に際して示唆を与えてくださったこと、さらにはニューホライズンズのチームがこの命名を提案してくれたことに感謝したい。」

シュルツ氏の中に「一般の人の」という言葉がありましたが、これは2015年、冥王星最接近後に行われた一般の人に向けたキャンペーン「私たちの冥王星」(Our Pluto)を指します。これはインターネットで冥王星にふさわしい名前を一般の人が提案できるキャンペーンです。ベネツィア・バーニーを始めとしたいくつかの神話に基づいた地名がこのキャンペーンからきています。
ニューホライズンズの冥王星地名命名ワーキンググループの座長でもあり、IAUとのリエゾン(交渉役)でもあったSETI研究所のマーク・ショウォルター氏は、「今回認定された地名のほとんどが最初から一般の方に強い推薦を受けていたものであったことは大変うれしい」と述べています。

「はやぶさ」のときもそうでしたが、基本的に新しい天体を探査したときには、その探査したチーム内で命名規則を考え、名前を提案していきます。今回も基本的にはニューホライズンズのチームが命名規則や名前を考えましたが、インターネットで一般の人の意見を募集するというのは新しい試みかと思います。
また、このあとにも冥王星やその衛星の名前が決定されていく見込みとのことで、これもどのような名前になるかが楽しみではあります。

そしてなんといっても、あの「はやぶさ」が冥王星の地名として永遠に刻まれるというのは、「はやぶさ」ミッションに関わった編集長(寺薗)としてもこの上もない喜びです。遠くはるかな地に、人類のフロンティアを押し広げたミッションによって発見された地形が、フロンティアを押し広げたミッションの名を冠する。それは人類が永遠にフロンティアを探求し続けることを意味しているといってもよいでしょう。

ニューホライズンズの旅はまだまだ続きます。そして、人類のあくなき宇宙への冒険の旅も、終わることはないでしょう。今回の冥王星への地名命名は、そのような私たちの営みの一つの印でもあります。