皆様、新年あけましておめでとうございます。
旧年中は月探査情報ステーションをご愛顧いただきまして、本当にありがとうございました。

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2023年も、月・惑星探査関係では様々なトピックがありました。
中でも日本として語らなければいけないこととしては、アイスペースが開発した月面探査機「ハクトR」M1が月面着陸にチャレンジしたことでしょう。
残念ながら、最後の最後の着陸の段階でのソフトウェアトラブルによって着陸は叶いませんでしたが、着陸に向けての貴重なデータと経験が得られたという意味で、非常に素晴らしい成果であったと思います。
そしてもう一つの特徴は、この挑戦が民間企業(宇宙ベンチャー企業)によって行われたという点です。
この挑戦が行われた4月に、アイスペースは東証グロース市場への上場を果たしています。いよいよ、宇宙ビジネスは日本の産業としても「当たり前」のものとなったことを示すものとなりました。宇宙産業が自動車産業のように日本経済の牽引役になる可能性も十分にあると思います。

そして9月には、JAXAの月探査機スリム(SLIM)が打ち上げられました。
SLIMは現在月に向けて順調に飛行しており、今年1月20日未明(19日深夜)に月面着陸を実施します。着陸に成功すれば日本の探査機としてはじめて、月への着陸を果たすことになります。それのみならず、誤差100メートルという、これまでにない精度での着陸は、これからの月探査の大きな進歩につながります。日本だけではなく、世界の月探査にもつながる成果です。

その他にも、インドによるチャンドラヤーン3の打ち上げ・月面着陸成功、ロシアのルナ25号の打ち上げなど、月探査に関して話題に事欠かない1年でした。

惑星探査に関しても、木星及び木星の衛星を目指した探査機ジュースが4月に打ち上げられるなど、着実に歩みが進んでいます。ジュースは日本も深く関わっている探査で、その成果が期待されます。

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2023年がそうであったように、そしてそれ以上に、2024年は月探査の話題が多くなる年になりそうです。

すでに、NASAの商業月輸送プログラム(CLPS)の第2号機として、インテュイティブ・マシーンズ(IM)社の月着陸機が打ち上げを待っています。早ければ1月8日にも打ち上げ予定とのことです。
この次のIM社のローバーには、日本の企業・ダイモンが開発した超小型ローバー「ヤオキ」(YAOKI)が搭載されます。重さ500グラム、長さ15センチのローバーが月面で走り回り、活躍する光景がみられるはずです。

さらには年の後半には、HAKUTO-Rの2号機(M2)が打ち上げられる予定です。
今年は3機も、日本の月探査機が月に着陸する予定という、歴史的な年になりそうです。

また11月には、1年遅れとなったアメリカの探査機、バイパー(VIPER)が打ち上げられます。
バイパーは月の南極に着陸し、水を探査するローバーです。
これまで、「月の水」の存在については、上空からの探査によってのみ明らかになっていました。月探査、そして将来の月面基地構築がいまこれだけ盛り上がっているのも、月の水の存在が大きいことは確かなのですが、一方で実際に月面で、例えば「月の氷」を見つけたという報告はまだありません。
バイパーの探査により、特に水の存在が多いとされる月の南極でどのくらいの月の水(氷)が存在するかが明らかになれば、将来の月探査や月面基地構築に大きなはずみになると期待されます。

月を離れますと、木星の衛星エウロパに向け、探査機「エウロパ・クリッパー」が打ち上げられます。構想から探査機製作に長い時間がかかりましたが、ようやく打ち上げとなります。
エウロパには地下に塩分を含んだ海があるとされ、そこに生命が育まれている可能性も指摘されています。エウロパ・クリッパーは上空からの探査により、その地下海の存在、そしてその規模などを明らかにしていく予定です。

一方、当初2024年打ち上げとした探査機の打ち上げが遅れている事例が目立ちます。
日本ではH3ロケット開発の遅れで、2024年打ち上げ予定だった火星衛星探査機MMXの打ち上げが2026年に延期、また月探査機ルペックス(LUPEX)も1年程度延期され、2025年度内の打ち上げになりました。
この冬に予定されているH3ロケット試験機2号機の打ち上げの成否次第では、さらにこの予定が不安定になる可能性があります。

また海外においても、政府による資金承認が降りなかったり、民間における資金調達が困難になるなど、様々な理由で、宇宙開発計画の遅れが生じているようです。
宇宙開発が民間主体になればなるほど、世界的な経済状況の影響を受けます。その影響がどのように宇宙開発自体を変えてしまうのか、私たちも十分気をつけていかなければいけないでしょう。

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月探査情報ステーションは、昨年25周年を迎えました。
そして、火星探査コーナー「火星・赤い星へ」も、満20周年を迎えました。
1998年、今のような月探査ブームが来ることなど予想もせず、日本の新たな月探査をプロモートするために「小さく」作られたこのサイトは、今やページ数だけで4000を超える巨大なサイトへと成長しました。
紛れもなく、月・惑星探査分野に関しては、日本で最大の情報サイトと申し上げてよいと思います。
ここまでの25年を振り返って感慨を新たにするとともに、また皆様のご支援を得ながら、よりよいサイトへと拡大・更新を続けてまいります。

昨年は、今後より長く月探査情報ステーションを維持していくことを目的に、サイトのインフラの大規模更新を実施しました。大規模リニューアルから7年、次のステップを目指した更新です。
今後もシステム面でも強化・更新を進めてまいります。

人員不足についてはここ十数年の定常的な課題でしたが、この1年でお手伝いをして下さる方が加わってきました。本当にありがたいことです。
サイト自体の収益化も、まだまだ目標は遠いですが、より頻繁な更新やページデザインの工夫、より魅力的なコンテンツの追加などを地道に進めながら、着実に進めていきたいと思います。

今年の月探査情報ステーションは、月探査の時代を踏まえ、存在価値をより確かなものにするべく、ビジネスの視点も踏まえながら改めて本サイトのミッション「わかりやすく」「正しく」「素早く」を推し進め、月、そしてその先を目指す人たちのための道しるべとなりたいと思います。

2024年1月1日
月探査情報ステーション 編集長
合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表社員(社長)
寺薗 淳也