皆様、あけましておめでとうございます。

2016年は、火星探査の打ち上げに適した年であったということもあり、探査の世界でもいろいろなことが起こりました。
火星探査では、3月にヨーロッパ・ロシア共同の探査であるエクソマーズが打ち上げられ、10月に無事、火星に到着しました。周回機は火星周回軌道への投入に成功したのですが、着陸機「スキアパレッリ」は着陸に失敗、火星表面に激突するという事態になりました。ヨーロッパは2003年のマーズ・エクスプレスの着陸機「ビーグル2」以来、13年ぶりのリベンジを狙っていましたが、またも火星の厚い壁(火星の大気は地球の100分の1ほどですが)に阻まれてしまいました。
厚い壁という点でいいますと、火星探査の相次ぐ延期が目立っています。2016年打ち上げ予定であったアメリカの火星探査「インサイト」は、探査機搭載の観測機器の不具合により打ち上げが2年延びて2018年に、またエクソマーズ後段のローバーの打ち上げは、2018年の予定がこちらも不具合によって2020年へ、それぞれ延期になってしまっています。
有人火星探査の動きも着実に進んでいる状況ですが、火星は人類の挑戦を跳ねつける存在であることをみせつけられた1年でもありました。しかし、各国での探査の動きはとどまるどころか拡大傾向にあります。
中国が2020年に火星探査を行うと発表、アラブ首長国連邦も同国初の火星探査計画「アル・アマル」を推進しています。日本でも火星衛星からのサンプル・リターン計画「MMX」の検討が本格的に開始されました。民間でも、アメリカの宇宙ベンチャー企業「スペースX」の火星宇宙船打ち上げ計画がメディアでも大きく取り上げられてました。
人類は間違いなく、この赤い星へ向かってチャレンジを続けることでしょう。

うまくいった探査としては、7月に木星に到着したジュノーが挙げられます。5年の飛行を経て木星の周回軌道に投入され、現在観測を行っています。途中探査機の不具合なども生じましたが、一応現時点では順調に探査を実施しています。

また、小惑星に向けて新たな探査機が打ち上げられました。「アメリカ版はやぶさ」ともいわれるオサイレス・レックス(オシリス・レックス)です。9月に打ち上げられたこの探査機は、まさに「はやぶさ」と同様、小惑星からサンプルを持ち帰ることを目指しており、2019年に小惑星ベンヌに到着、2023年に帰還予定です。日本の「はやぶさ2」とも協力体制を組んでおり、日本とアメリカが手を組んで小惑星に挑むという構図になっています。

金星探査機「あかつき」が、5年遅れとはなりましたが、金星の観測を開始しました。2010年12月に金星周回軌道投入に失敗した際には、私も含め「もうダメか」と思いましたが、その後ミッションチームの不屈の意志と多大な努力、そして数多くのアイディアを実現させる動きによって、見事な復活を遂げました。

さて、2017年は、月・惑星探査にとってどのような年になるでしょうか?
私はズバリ、「月探査」、さらにいえば「月レース」の年になると思っています。
月レースとは何か。それは、グーグル・ルナーXプライズ (GLXP) というレースです。

GLXPとは、2017年末までに、月に純民間の資金でローバーを打ち上げるという競争です。
月面に最初にたどり着き、表面を500メートル以上走行させ、地球に高精度の写真や映像を送ってきたチームに、賞金2000万ドル(約24億円)が授与されます。「最初に」たどり着くことが重要ですから、来年の後半はこの打ち上げのラッシュになるのではないかと考えられます。しかし、打ち上がったとしても、月面でちゃんとローバーが動作するかどうかは別問題です。
早く打ち上げなければいけない、しかし、ローバーは月面で完璧に動作するような性能を持たねばならない。両者はある意味矛盾しますので、各チームがどのようにその問題を解決するか、その腕前も見せ所となります。
そしてこのGLXPにおいては、日本から唯一参加しているチーム「ハクト」の活躍に、私(編集長)としても大いに期待したいと思います。ハクトは、GLXPに参加している18チームの中でも月にたどり着く可能性が高いチームの1つとして世界的に期待されています。しかし、これはレースです。競争です。他のチームがそれに先んじて、あるいはさらに高い技術力で先行するかも知れません。どのようになるか、しっかりと見守っていきたいと思います。

2017年をちょっと離れるかも知れませんが、GXLPに参加したチームはレースが終了すればそれで終わりではなく、その経験を活かして会社として運営を続けていくことが求められています。ハクトを運営するアイスペース(ispace)は先日、JAXAと共同で月資源の調査・採掘を実施することを検討すると発表しました。このようなレース後の動きは、私たちの月へのチャレンジを一層加速させることになるという意味で見逃せません。

月へ向かうのはGLXPチームだけではありません。中国は、同国初の月からのサンプル・リターンを行う探査機、嫦娥5号を10月にも打ち上げるとみられています。それにタイミングを合わせたように、インドも月探査機チャンドラヤーン2の打ち上げを行う可能性があります。
長らく月探査から遠ざかってきたロシアも、ひょっとすると月探査を復活させるかも知れません。
アメリカはトランプ新大統領が就任し、新しい宇宙計画が策定される可能性があります。共和党はどちらかというと月探査に熱心な党ですので、これまでの小惑星を主体にした計画から、また月を中心とした探査に戻ることになるかも知れません
2017年は月探査が熱い年になりそうです。
そして、2017年はまた、日本の月探査機「かぐや」が打ち上げられて10周年になる年であるということも、私たちは忘れてはならないでしょう。日本が月に対してどのようにアプローチしていくべきか、いろいろな競争や探査ラッシュの中で、改めて考えるべきときかと思います。

そして、2017年はいくつかの探査が終了する年でもあります。
まずは土星。1997年に打ち上げられ、20年にも及ぶ(土星到着は2004年)ミッションを行ってきた土星探査機「カッシーニ」が、ついにミッション終了を迎えます。現在、カッシーニは「グランドフィナーレ」という、最後の観測ミッションを実施していますが、それが終了しますと、土星大気に突入し、燃え尽きて(あるいはつぶされて)最後を迎えることになります。その期日はまだ公式にはアナウンスされていませんが、おそらくは2017年9月になるのではないかと思われます。
また、昨年木星に到着したばかりの探査機「ジュノー」も、ミッション期間が1年ですので、ミッション終了を迎えることになります。こちらも最後は木星大気に突入し、消滅することになっています。
両ミッション共に、終了直前には大きな話題になることでしょう。

最後に、日本が絡むイベントについてもご紹介しておきます。
小惑星の衝突から地球を守ることを「惑星防衛」(スペースディフェンス)、あるいはスペースガードといいますが、これに関する国際会議が、5月に東京で開催されます。
小惑星の衝突はめったにないことであるとはいえ、一度起こってしまったらまさに取り返しがつかない…人類の存続に関わる事態になってしまいます。これに関する世界の専門家が日本で一同に会するだけでなく、関連した一般向けのイベントも実施されるようで、非常に楽しみです。
さらに10月には、世界の宇宙機関で構成される国際宇宙探査協働グループ(ISECG)の会合が東京で実施されます。
ISECGは、月・惑星探査を推進し、将来的な有人火星探査に向けて各宇宙機関が共同で検討していくための国際組織で、JAXAをはじめとした世界の宇宙機関がメンバーとなっています。日本がホスト国になるということは、日本の月・惑星探査に向けた姿勢が世界中から注目されるということで、それに向けて日本でも何らかの動きがあるかも知れません。

 

今年も月探査情報ステーションは、月・惑星探査に関する話題を「素早く」「わかりやすく」「正しく」お伝えすることをモットーに、運営してまいります。昨年3月のリニューアル、11月の運営合同会社設立と、月探査情報ステーションの新しい体制、新しいサイトも1年目を迎え、ますます充実してまいります。
2月には、このブログがスタートしてからちょうど10年を迎えます。新しい迅速な情報発信手段としてスタートしたこのブログも、記事数が900に迫ろうとしています(下書き分=未公開分も含めるとすでに1000を超えています)。このブログで使われたシステムが、昨年のリニューアルにおいて新たな月探査情報ステーションのプラットフォームとなりました。迅速な記事の執筆やニーズの把握ができるようになってきており、今年もこのシステムを大いに活用してまいります。
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月探査情報ステーション 編集長
(合同会社ムーン・アンド・プラネッツ 代表)

寺薗 淳也