大変興味深いニュースが入ってきました。
2017年中に月面にローバー(探査車)を打ち上げるという世界レベルでの競争「グーグル・ルナーXプライズ」に日本から唯一参加しているチーム「ハクト(HAKUTO)」、その運営会社である株式会社アイスペース(ispace)とJAXAは、このほど、将来的な月面での資源採掘に向けた研究開発を共同で行うという覚書に署名しました。

グーグル・ルナーXプライズは、グーグルが賞金を提供する月面探査競争です。2017年末までに、最初に月面に民間資金だけでローバーを打ち上げ、月面を500メートル走行させた上で高精度の写真・映像を地球に送信できたチームに賞金2000万ドル(日本円で約20億円)を授与するというものです。
現在、世界中で18のチームがこの競争に参加していますが、ハクトは日本から唯一参加しているチームであり、また好成績を残せる可能性が高いチームとみられています。
このハクトの開発を行っている母体が、ispaceです。

月面ローバー「ハクト」の最終デザイン

2017年打ち上げ予定の月面ローバー「ハクト」の最終デザイン (© HAKUTO/KDDI)

本日(16日)ispaceが発表したリリースによりますと、ispaceは今後JAXAと協力し、月における資源の採掘や輸送、利用、さらにはそれらを利用した産業などの市場規模や技術などの検討を実施していきます。

特にispaceが注目しているのは月面の「水」です。
水は、電気分解すれば水素と酸素になります。この水素と酸素は、地球でよく使われている液体ロケット(例えばH-IIAロケット)の燃料でもあり、月面の水を月面の太陽光で得られた電力で電気分解することにより、地球から水を輸送することなく、月面でロケット燃料を生産できることになります。
もちろん、月面にはその他にも資源として有望ないろいろなものがあります。例えばチタンやアルミニウムといった金属資源、ヘリウム3(将来的な核融合の燃料)などのエネルギー資源です。
まずはこれらがどこにあるのか、どのくらいあるのかを調査し、その次に採掘や貯蔵、輸送といった資源採掘に欠かせない技術を検討、そしてそれらを用いた産業の市場規模や必要な技術、官民の役割分担などの検討を行っていくことになります。
このあたりについては、ispaceが公開しているビデオが詳しいと思うので、ぜひご覧ください。

グーグル・ルナーXプライズは、確かに2017年末までの競争ではあります。しかしこの競争の目的は、単にローバーを月面に一番乗りさせる企業に賞金を出すことではなく、この競争を通して、月探査、あるいは月における活動を民間企業が行うような基盤を作り出すことです。
Xプライズ、という考え方自体がそのような「将来的な産業創出」を目指したものになっています。世界で初めての民間による宇宙飛行達成のための賞として設立され、2004年に「スペースシップワン」が受賞した「アンサリXプライズ」によって、民間における宇宙飛行の検討が急速に進み、今や複数の民間企業が宇宙飛行を目指す、さらには実現一歩手前というところまで来ています。
同じことを、今回のグーグル・ルナーXプライズも目指しています。ここに参加している企業やグループは、将来的な月面における活動を考えていくことになり、ispaceが出した答えは「月面の資源利用」だったのです。
今回の発表は、レース終了後を見据えた、会社としてのチャレンジになるわけです。

ispace代表取締役の袴田武史さんは、「HAKUTOなどを通して世界に対して技術的な優位性がある今のうちに事業化やルール形成に取り組んでいくことが重要」と語っており、常に産業の先頭を走り、さらには将来的にはグローバル分野でも(つまり、世界的にも)宇宙資源利用産業をリードする立場になりたいと抱負を語っています。

さて、宇宙資源利用については、世界的に動きが加速しています。
すでにアメリカでは、小惑星から資源を採掘し、利用することを目指したベンチャー企業が2社立ち上がっています。これらの動向は月探査情報ステーションブログでも随時お伝えしているところですが、彼らは2020年ころには何らかの採掘に向けた動き(探査機の打ち上げなど)を行う可能性があります。
また、ヨーロッパの小国ルクセンブルクは、宇宙資源ベンチャーを優遇する枠組み「spaceresources.lu」を立ち上げ、国を挙げて積極的に企業や投資の呼びこみを行っています。
一方日本では、動きは長らく鈍いとされてきましたが、今年(2016年)11月8日には参議院内閣委員会で宇宙資源開発産業振興の決議が行われ、さらに先日(12月13日)宇宙戦略本部で決定された宇宙基本計画工程表の改定でも、宇宙資源開発への取り組みの強化が盛り込まれています。

このような状況の中で、ついに(編集長=寺薗が思ったより早く)日本にも動きが出てきたということは歓迎すべき内容であると、私(寺薗)としては考えています。
ただ、気をつけなければならない点はいくつかあります。
1つは、宇宙資源利用に関する法整備が不完全だということです。現時点ではこういった宇宙資源採掘を規定する枠組みは、40年以上の前の1960年代に作られた「宇宙条約」や、それを受けて作られた「月協定」ですが、これらは民間企業による宇宙開発、さらには宇宙資源採掘ということを想定しておらず、かなり不完全なものとなっています。
現在、国連の下部組織である宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)では来年に宇宙資源開発についての議論を行うということになっていますが、考えるべき内容は多岐にわたっており、また取り組みを進めている国とそうでない国、さらにいえば宇宙に進出できない国とのバランスを取る必要があるなど、議論はそう簡単ではないと思われます。

また、ispaceが掲げる「月面の水利用」という点ですが、そもそも月にどのくらいの水が存在するのかという点もよくわかっていません。
アメリカの探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」、及びそれと一緒に打ち上げられた衝突探査機「エルクロス」の探査により、月面に水が存在することが明らかになった、といわれています。特に、月面のクレーターの影の部分、太陽の光が永久に当たらない「永久影」と呼ばれる部分に、水が氷の形で存在している可能性が高いといわれており、アメリカはこういった場所(極地域のクレーターに多い)に月面基地を構築しようという構想を持っています。
一方、日本の月探査機「かぐや」の調査では、こういった月面の極地域のクレーターの永久影領域の中に、アメリカの科学者が主張するような水の存在を示す証拠がないという結果が出ています。両者は真っ向から対立しています。水が存在するかどうかそのものからして、結論が出ていないのです。

これらを含め、今後ispaceとJAXAが進める調査・検討で、月面の資源がどのくらいあるか、どのようにして利用できるのかを調べていくことになると思います。
私としては、ついにここまで来たか、という思いと同時に、単に日本がそれを独り占めするということではなく、宇宙が、宇宙条約で謳われているように誰のものでもなく、その資源開発は人類全てのために行われる、という考え方のもと、進めていって欲しいと切に願います。