大変な…あるいは、ひょっとした歴史を変えるかも知れないというニュースが飛び込んできました。少なくとも、宇宙開発の歴史は変えるかも知れません。
民間宇宙ベンチャー企業として数々の技術的な挑戦を成し遂げてきたアメリカのスペースX社が、27日、同社が開発する宇宙船「レッド・ドラゴン」を火星に着陸させるミッションを実施すると発表しました。ミッションは早ければ2018年にも実施されるとのことです。
Planning to send Dragon to Mars as soon as 2018. Red Dragons will inform overall Mars architecture, details to come pic.twitter.com/u4nbVUNCpA
— SpaceX (@SpaceX) April 27, 2016
上記のスペースX社の公式ツイッターのツイートに続いて、同社の共同創設者でもありCEOであるイーロン・マスク氏は、「(新規開発される)レッド・ドラゴン宇宙船は、太陽系のどこにでも着陸できる能力を有している。この火星ミッションがレッド・ドラゴンのテスト飛行となるだろう。しかし、有人ミッションとなると月以遠に関してはあまりおすすめしない。それは、あまりに長期になるからだ。大きさはスポーツ多目的車(SUV)サイズだ。」とツイートしています。
Dragon 2 is designed to be able to land anywhere in the solar system. Red Dragon Mars mission is the first test flight.
— Elon Musk (@elonmusk) April 27, 2016
But wouldn't recommend transporting astronauts beyond Earth-moon region. Wouldn't be fun for longer journeys. Internal volume ~size of SUV.
— Elon Musk (@elonmusk) April 27, 2016
また、スペースX社の公式フェイスブックページでは、このミッションの目的を、火星への大量の物資輸送の実証のためと述べています。
現在のところ、スペースX社からの発表はツイッターとフェイスブック経由だけで、詳細は明らかにされていません。ツイッターの中にも”details to come”(詳細は後ほど)という記述がありますので、その詳細についてはスペースX社からの公式発表を(あると期待して)待つことにしましょう。
今回発表されたレッド・ドラゴン宇宙船は、現在運用されているスペースX社の宇宙船「ドラゴン」をベースにしたものとなります。
ドラゴン宇宙船は再使用が可能な宇宙船で、現在は国際宇宙ステーション(ISS)への補給・物資持ち帰りミッションに使用されています。基本設計としては月などへの飛行も可能となっています。
さらに2014年には、このドラゴン宇宙船を発展させた有人型ドラゴン宇宙船も発表されています。有人型のドラゴン宇宙船は7人乗りで、現在開発が進められています。
打ち上げに使用されるロケットですが、公表されている絵をみる限りでは、スペースX社の「ファルコンヘビー」が使用されるものとみられます。このロケットは同社が現在運用中のロケット「ファルコン9」をベースに開発を進めているもので、その性能は、地球周回低軌道(ISSなど、高度数百キロのレベルの軌道)にはなんと53トンもの物資を打ち上げることができるとのことです。静止軌道には19トンと、これまた桁外れの量の物資を打ち上げることができます。当然、月・惑星にも相当な量の物資を打ち上げることができることは想像に難くありません。スペースX社によれば、今年にも初打ち上げを行う予定とのことです(実際には2013年の打ち上げを目指していましたが、遅れています)。
次に、2018年というタイミングです。
このブログ、あるいは月探査情報ステーション本編でも何度も述べているので、このサイトの読者の方はご存知とは思いますが、火星探査には、2年に1回の好機が訪れます。これは、太陽の周りを回る(公転)火星と地球との互いの位置関係が、探査機を送り込むのに都合のよいタイミングがこの周期で訪れるためです。
今年(2016年)はまさにその都合のよいタイミングにあたっており、3月にはヨーロッパとロシア共同の火星探査機「エクソマーズ」が打ち上げられたほか、同じ3月には本来であれば、アメリカの火星探査機インサイトも打ち上げられる予定でした。ただこちらの方は直前の12月に搭載機器の不具合が発見され、打ち上げが延期されています。
もうここで皆さんお気づきかと思いますが、次の火星探査打ち上げの好機は2018年です。つまり、スペースX社は「次の好機に打ち上げる」と宣言したわけです。まだ火星どころか月にさえ探査機を届けていない会社が本当にそれを成し遂げられるのか、と心配になりますが、私としては可能性は高いと考えています。
まず、スペースX社が非常に高い技術を有していることです。2003年に設立されて以来、10年経たずして世界を代表するロケット打ち上げ・宇宙輸送企業に成長したことでもわかるように、同社は高度な技術、そしてそれを開発する多くの技術者を擁しています。また、そもそも母体とするドラゴン宇宙船は月以遠の飛行をも前提とした十分なポテンシャルを持った機体です。
また、スペースX社の姿勢として、非常に強い技術へのこだわりがあります。最近では、ファルコン9の再利用試験を繰り返し実施し、3回の失敗の末、4回めにようやく成功させました。世間では「予想された失敗」などとこき下ろされたりもしましたが、そういう「雑音」をものともせず自社の技術開発に積極的な姿勢は、ベンチャー独特ともいえますが、宇宙開発に欠かせないものといえるでしょう。火星探査もそのような技術開発の延長線上にあります。
また、イーロン・マスク氏は、そもそもスペースX社を立ち上げた理由を「火星に2025年までに人類を到達させること」と述べています。
火星有人探査計画は、いってみればアメリカの宇宙計画(あるいは世界の宇宙開発)にとって究極の目標といえるものですが、最もそれに熱心なアメリカは、NASAが2030年代なかばの実施に向けて計画を進めています。しかし、マスク氏の計画はそれより10年も早いものです。
ただ、なんといってもイーロン・マスク氏は「伝説の起業家」です。「彼ならやってくれる」、そう思わせる実績もあり、決して不可能ではないと思うのは私(編集長)だけではないでしょう。
ただ、懸念材料もあります。まずはロケット。ファルコンヘビーが今年中に…というか、できるだけ早くしっかりと打ち上げられ、信頼を勝ち取る必要があります。
また、今までの地球周回軌道へのミッションとは異なり、火星は距離もかかる時間も桁違いです。従って、火星探査に必要となる信頼性、通信技術、宇宙船システムなども十分な検討が必要です。無人だからとはいっても、適当な性能で打ち上げるというわけにはいかないはずです。まして民間企業ですから、経済的な側面も重視しなければなりません。
しかし、私は「やってくれる」方に賭けたいと思います。あるいは期待といってもいいでしょうか。宇宙開発、あるいは月・惑星探査は、これまで道を切り開いてきたパイオニアによって進められてきました。しかしどの国も財政難などで探査にはなかなか踏み出せないというのが現状です。
そんな中で、民間企業による火星探査という新たな枠組みを提供しようというスペースX社の試みは、大いなる希望といってもよいでしょう。私も心から応援したいと思います。
いずれにしても、繰り返しになりますがまだ情報はわずかです。今後スペースX社からより多くの情報が出てくると思いますので、月探査情報ステーションではそれらをわかりやすく、また素早くお伝えしてまいります。
- スペースX社のページ
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/future.html
※今のところ、このスペースX社の火星探査計画は入っていません。