ヨーロッパとロシアが共同で開発を進めていた火星探査機エクソマーズは、3月14日午後6時31分(日本時間)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、プロトンMロケットにより打ち上げられました。
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)によると、衛星からの信号が受信でき、ロケットとの分離は確認できたとのことで、打ち上げは成功しました。

打ち上げの模様は以下の動画からどうぞ。

 

 

エクソマーズ打ち上げ

バイコヌール宇宙基地におけるエクソマーズ打ち上げ。© ESA–Stephane Corvaja

また、シグナル受信の様子は以下の動画でどうぞ。動画は約26分ありますが、シグナル受信の瞬間は大体21分30秒くらいから始まります。

エクソマーズは、ヨーロッパとロシアが共同で進めている火星探査計画です。ヨーロッパ側はESAが、ロシア側は、この1月1日にロシア宇宙機関・企業の再編・合併によって誕生した新生ロスコスモス(ROSCOSMOS)が担当しています。

打ち上げ後、ロケットは上段のブリーズMに点火し、日本時間で3月15日午前5時13分に衛星とロケットとの分離が行われました。さらに、ESAの管制センターであるESOC(ヨーロッパ宇宙運用センター)が管轄するアフリカのマリンジにある追跡局が、日本時間で15日午前6時29分に衛星からの信号を確認しました。
この信号により、打ち上げの成功が確認され、衛星も問題のない状態であることが確認されました。衛星の太陽電池パネルはすでに展開され、衛星は火星への飛行を行っています。

ESAのヨハン・ディートリッヒ・ベルナー長官は、以下のように述べて打ち上げを祝しました。
「最初の(編集長注: エクソマーズは2018年にも打ち上げがあります)エクソマーズミッションを打ち上げ場所まで持ってくるには、長い長い旅となった。国際的なチームによる献身的な仕事と努力によって、新たな火星探査の歴史はすでに私たちの手の中にある。私はロシアのパートナーに深い感謝の意を表したい。ミッションに最高ともいえるスタートを提供してくれたからだ。今や私たちは、共に火星を探査する仲間である。」

一方、ロスコスモスの国営宇宙企業のイゴール・コマロフ長官は、「協働の過程こそがベストな技術的な解をもたらし、それが大きな研究における成功につながる。ロスコスモスとESAはミッションの成功を確信している。」と述べています。

今回打ち上げられたのは、微量ガス探査周回機(TGO: Trace Gas Orbiter)と、着陸実証機の「スキアパレッリ」です。この「スキアパレッリ」の名は、1877年、火星大接近の際に火星を観測し、火星表面に無数の溝のような地形が存在することを発見したイタリアの天文学者、ジョバンニ・スキアパレッリにちなんでいます。
ちなみに、この発見は当初イタリア語のcanali(溝)という言葉で書かれたのですが、これが英語に翻訳された際にcanal(運河)と訳されたことで、火星に人工的な地形、それも水が流れる地形があるという発見(誤解ですが)を生むことになりました。これによって火星に生命を発見しようと躍起になったのが、冥王星を発見したアメリカの天文学者、パーシバル・ローウェルです。彼がアリゾナ州フラッグスタッフに作った天文台(ローウェル天文台)は、まさに火星表面の運河、そして生命(さらには文明)の痕跡を発見することが目的でした。

TGOとスキアパレッリの話に戻りましょう。このあと、両者は一体となったまま火星を目指します。そして10月19日、スキアパレッリは火星の大気に突入し、着陸を試みます。成功すれば、2003年にヨーロッパが達成できなかった「ビーグル2」のリベンジとなり、ヨーロッパとしてはじめての火星着陸となります。
スキアパレッリの目的は、火星大気への突入・大気中の降下、そして着陸の技術実証にあります。これは、2年後に打ち上げられるローバーにも活かされ、ローバーの安全な着陸に貢献することとなります。
またスキアパレッリは、短いミッション期間の間に、火星表面の観測も行う予定です。例えば火星表面の電場や大気中のダスト濃度の観測などを実施し、火星の砂嵐に電場がどう関係するのかを明らかにすることになっています。

スキアパレッリ降下模式図

スキアパレッリの降下模式図。火星大気突入から着陸までは約6分間。© ESA/ATG medialab

一方、TGOも同じ10月19日に火星周回軌道に入ります。TGOの軌道は円ではなく、近火点(火星にもっとも近い点)が300キロ、遠火点(火星からもっとも遠い点)が96000キロというかなり細長い楕円軌道を4日で1周します。
その後、火星の大気を利用して減速する「エアロブレーキング」という技術を用いて軌道を徐々に変更し、最終的には高度400キロの円軌道へと入る予定です。
TGOの目的は、その名の通り、火星大気中に存在するわずかなガス(痕跡ガス)を見つけ出すことです。特に期待が集まっているのがメタンです。

実は、火星大気中にメタンを発見したのは、ヨーロッパ初の火星探査機、マーズ・エクスプレスでした。メタンがあるということは、メタンを発生させる何か…ひょっとしたら生物が存在するかも知れないという可能性を示唆しています。もちろん、メタンは生物起源ばかりではなく、火山など、生物ではない起源のものもあります。そこで、TGOは火星大気中のメタンを詳細に分析し、その発生メカニズムや分布を探ることになっています。
メタン検出の精度はこれまでの検出器の数千倍という高感度で、火星のメタン分布を詳細に探ることができると期待されています。

また、TGOはメタンなどの痕跡ガスと関連すると思われる火山などを探るため、地表の様子を調べるという任務も持っています。さらには地下の氷なども調べることができます。これらの結果は、2018年に打ち上げられるローバーの探査地点選定にも大きな役割を果たします。
そのローバーが火星に到着してからは、TGOは「通信衛星」としての役割も果たします。つまり、ローバーからの通信をTGOが中継、地球へと送るというわけです。ローバーの打ち上げは2018年5月が予定されており、到着は2019年の早い時期になる予定です。

2回に分けて打ち上げられる火星探査ミッションというのは世界でもはじめてであり、また2つの国(組織)が組んで行われる火星探査というのもはじめてです。このミッションが果たしてどのような成果を生み出し、また赤い星のベールがどう剥がされるのか、10月以降、目が離せません。

  • ESAのプレスリリース