ここのところ「トランプ次期政権の宇宙政策」やら「中国の月探査計画」といった固い話題ばかりが続いていましたので、今日は少し柔らか目の話題でまいりましょう。
アメリカ火星周回探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)が印象的な写真を送ってきました。火星周回軌道上から捉えた地球と月です。NASAが7日に公開しました。
MROは火星を周回して火星表面の地形などを探査することを目的とした探査機で、2006年に打ち上げられました。2006年11月から観測を開始していますので、昨年で観測開始から10年を迎えたことになります。もちろん想定寿命は超えていますが、まだまだ現役で大活躍しています。
MROは、火星の地表を最大解像度1メートルという超高精度で捉えることができるカメラを搭載しています。それまでの探査機の10倍近い性能を誇り、火星表面の様々な様子を明らかにすると共に、各種着陸機の着陸地点などを詳細に調べるといった「補佐役」も果たしています。
そのカメラの性能は、昨年10月にヨーロッパ・ロシアが共同で火星に送り込み、一時行方不明になった着陸機「スキアパレッリ」の姿を上空から捉え、その事故原因究明に貢献しているほどです。
今回、MROはその高性能カメラ「高解像度撮像装置」(HiRISE)を、ふだん向けている火星地表ではなく、上空に向けました。
今回撮影された写真は、2016年11月20日に2回に分けて(2段階の露出で)撮影されています。
もちろん、印象的な写真を取ることも重要ですが、この写真の撮影には1つ大きな目的があります。カメラの補正です。
地球の明るさ(輝度)はよくわかっています。そこで、カメラが地球をどれくらいの明るさで捉えているかによって、カメラの露出度を補正することができるというわけです。ただ上の写真は見栄えをよくする目的で少し明るさなどに補正を加えてはいます。
この写真でみますと、意外なことではありますが、月は地球よりずっと暗くみえます。私たちが夜空に浮かぶ月を眺めるときは、特に満月のときは「明るい月だ」と思うことが多いのですが、こと宇宙空間においては、月よりも地球のほうがずっと明るくみえるのです。
なお、この写真では地球と月の距離は実際より近く写っています。これはなぜかといいますと、上記の目的、つまり明るい地球を捉えることでカメラの露出補正(校正)を行うことが、この写真撮影の主目的だったからです。写真撮影を行った時点では、火星からみると月は地球の裏側にいてみえなかった、というわけです。2回撮影して重ね合わせた写真ではありますが、月と地球の大きさの比率は正しくなるようになっています。
写真を撮影した時点で、地球と火星との距離は約2億500万kmありました。ちなみに、地球と月との距離は平均で約38万キロです。もう少し「ピンとくる」数値でいいますと、地球と月の距離は、地球が間に大体30個入るくらいの距離です。どれほど遠いところから撮影した写真かお分かりいただけるかと思います。
上の写真では、地球の一部に茶色っぽい場所が写っていますが、これはおそらくはオーストラリア大陸です。
さて、「火星探査機が撮影した地球と月の写真」ということでいえば、私たちが忘れることができないのは、日本の火星探査機「のぞみ」が撮影した地球と月の写真です。こちらは火星軌道上からではなく、火星へと出発する途中で捉えたものなのでより大きく写っていますが、それでも地球と月という、かけがえのないペアを捉えた貴重な写真です。
地球と月を捉えた写真としてはほかにも、海王星の先からボイジャー1号が振り返って撮影した「ペール・ブルー・ドット」(小さな青い点)として知られる写真や、木星探査機ガリレオが捉えたものがあります。
ただ、ペール・ブルー・ドットではまさに「点」にしか地球は写らなかったので、火星軌道上からの地球と月という写真は本当に貴重なものといえましょう。
ほかの惑星からみると、地球はこんなに小さい天体なのだ、ということを考えると、私たちがいかに小さな世界で生きているのかを改めて実感させられます。将来、有人火星探査計画が実行され、火星に降り立った人類が、このような地球と月の姿を(望遠鏡で)みる…そのような時代がやってくるのでしょうか。やってきたとしたら、人間の意識というものは変わっていくのでしょうか。
いろいろなことを考えさせる、歴史に残る宇宙写真だといえるでしょう。
- NASAのページ
http://www.jpl.nasa.gov/spaceimages/details.php?id=PIA21260
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/MRO/
https://moonstation.jp/ja/mars/exploration/nozomi.html