今年(2018年)5月に打ち上げられた火星探査機インサイトは、約半年の飛行を経て、11月26日、火星に無事着陸しました。火星の地下を調べるという史上初のミッションがいよいよ始まります。インサイトの着陸によって、現在火星で活動中の探査機は合計で9機、そのうち地表で活動する探査機は3機(ローバー2台、着陸機1機)となりました。

火星表面に着陸したインサイト探査機の想像図

火星表面に着陸したインサイト探査機の想像図。手前の丸いものは地震計。(Photo: NASA/JPL-CALTECH)

インサイトは、5月5日に打ち上げられ、火星までの4億8500万キロの旅を経て、火星の赤道付近にあるエリシウム平原に着陸しました。到着の信号は午前11時52分(アメリカ太平洋標準時。日本時間では翌27日の午前4時52分)に地球に到着しました。

今回の到着の信号は、同時に打ち上げられた超小型衛星(キューブサット)である「マーズ・キューブ・ワン」(MarCO)によって中継されました。このキューブサットは2つあり、両者でインサイトの電波の中継を試みました。なお、火星へのキューブサットの打ち上げは史上初となり、それが動作したということも史上初です。MarCOは、インサイトの火星大気圏突入、降下、着陸まで全ての過程を見守りました。
実はこのMarCO、活躍はこれだけで、あとは任務終了となります。たったその瞬間だけの活躍でしたが、任務を立派に果たしたことになります。

「カバンほどの大きさの小さな衛星にとって、これはまさに偉大な第一歩だ。キューブサットには地球外に大きな未来があり、我々はその未知を切り開けたことをうれしく思っている。」(MarCOの開発責任者である、JPLのジョエル・クライェフスキー氏)

到着を喜ぶJPL担当者

インサイト到着を確認し喜ぶ、ジェット推進研究所(JPL)の運用担当者、クリス・ブルボルド氏(左)とサンディ・クラウスナー氏(右)。11月26日、JPLのミッションサポートエリアにて。
(Photo: NASA/Bill Ingalls)

毎度のこととなりますが、火星への着陸は決して簡単なことではありません。
火星には薄いながらも大気があります。通常の火星探査機(着陸するもの)は、この大気との摩擦で減速して着陸するわけですが、うまい角度で大気圏に突入しなければ大気に跳ね返されるリスクがあります。また、軌道をちょっと間違っただけで、大気圏内で燃え尽きたり、逆に原則が不十分で火星の地表に激突してしまうケースもあります。火星への着陸は緊張と危険に満ちています。これを称して「恐怖の7分間」ともいうことがあります。

インサイトのプロジェクトマネージャーのトム・ホフマン氏は、「インサイトは火星大気に時速1万9800キロという高速で突入した。大気圏突入から着陸までは6分半。この間、数十にわたる全ての動作はインサイト自身が自動で行うが、探査機はこれを完璧にこなした。」と、探査機をたたえています。過去うまくいかなかった火星への着陸も多かった中、無事着陸をこなせたということはそれだけでも重要なことなのです。

もちろん、着陸すれば全て終わりというわけではありません。まず着陸したら、自身の電力を確保する必要があります。
インサイトには、特徴的な十角形の太陽電池パネルが2つありますが、着陸後16分後からその展開を開始、さらに16分かけて展開する必要があります。これについては26日中には正常な展開を確認できる予定です。なお、こちらの信号は上空を飛行するNASAの周回探査機「2001マーズ・オデッセイ」が中継して地球に送ってくれます。受信は着陸から約5時間半後の予定です。
「太陽電池によるエネルギーが得られれば、インサイトはいよいよすてきな科学ミッションに取りかかることができる。火星の内部がどうなっているのか、いよいよその謎に徹底的に挑むときが来るのだ。」(ホフマン氏)

インサイトは1週間以内にさっそく科学データを集め始める予定です。ただ、最初はまずは機器が正常に動くかどうかを確かめるのが運用チームの仕事になるようです。着陸後少なくとも2日後には、インサイトに搭載された長さ1.8メートルのロボットアームを動かし、火星の写真を撮影する予定です。

インサイトがはじめて撮影した写真

インサイトがはじめて撮影した写真。これは着陸機下部に取り付けられた機器モニターカメラ (ICC: Instrment Context Camera)によって撮影されたもの。写真の黒いものは火星の砂などがレンズについたもの。おそらく着陸の際に吹き上げられたものと推定される。2018年11月26日撮影。
(Photo: NASA/JPL-Caltech)

もっとも、インサイトはさっそく火星から写真を送ってくれてはいます。これは、探査機の下部に取り付けられたカメラが撮影した火星の地表です。黒く写っているのはカメラの汚れで、おそらく着陸の際に付着した火星表面の砂などではないかと思われます。

火星の地表を撮影するのには理由があります。着陸機がちゃんと火星に降りられたかどうかを確認するためです。信号だけでなく、実際の写真で撮影することが重要というわけです。
(ところで、インサイトのつぶやきは「私」なんですね。最近NASAの探査機のつぶやきが一人称になるケースが増えてきましたが、これ、ひょっとすると「はやぶさ」の影響かも知れません。)

インサイトは火星の内部を調べるため、地震計と熱流量計を使います。内部から伝わる地震波と、内部から伝わる熱の量で、火星の内部がどのようになっているかを調べようというものです。
そこで、そのための機器類…火星地震計(SEIS)と熱流量測定装置(HP3)を設置する必要があります。とりわけ、HP3はドリルで穴を掘って地下に設置する必要があるので、ちょっと大変です。
インサイトの主任研究者であるブルース・バーナード氏は、「着陸はスリリングだったが、今度はドリリングが必要だ」と述べています。
「最初の画像(上記)がやって来たとき、いよいようちらの仕事が始まることになる。まずはどこに科学機器を設置するのかを検討しなくてはならない。2〜3ヶ月をかけて、ロボットアームを使ってSEISとHP3を設置することになる。」(バーナード氏)

インサイトの運用期間は2年間となっており、2020年11月24日までを予定しています。

NASAの探査機を含め、火星への着陸はこれで8回目の成功となります。NASAが目指す有人火星探査にとっても、この成功の積み重ねは非常に重要といえるでしょう。
JPLのマイケル・ワトキンス所長は、「火星への着陸は毎回非常に手強いものだが、今回インサイトがそれを乗り切り、無事火星に着陸したことで、私たちは火星の新たな科学へ進めることになる。また、MarCOが無事機能を果たしたことで、惑星探査への超小型衛星の応用可能性が広がった。今回、非常に特徴的なミッションが実現することに際し、この実現のために能力を捧げ、この日を迎えることに貢献した何百人もの有能な技術者、科学者たちに感謝を伝えたい。」と述べています。

NASAのブライデンスタイン長官は、「今日、私たちは人類として8回目となる火星への着陸に成功した。インサイトは火星の内部を調べることで、多くの科学的な知見を得ることになるだろう。それは宇宙飛行士を月へ、その後火星へと送ることにもつながる。今回の成功はアメリカ、そして協力してくれた国々の技術の証であり、私たちのチームの献身と忍耐の証ともなるものだ。NASAの最良のときはこれからであり、それは間もなくやってくる。」と、来たるべき有人火星探査につながる期待を語っています。

2年にわたる史上初の火星内部構造探査ミッションで、どのようなことが明らかになるのか。これまでの火星探査と全く異なる新たな探査に、大きな期待が集まっています。