クエスチョンマークを2つくっつけてしまうあたり、私(編集長)としても疑問が大きいのですが、ロシアと中国が共同の月探査(月着陸)計画で合意したという記事が、ロシアのインターネット通信社「スプートニク」(Sputnik)の日本語版ページに掲載されています。

この記事によりますと、ロシアと中国は、有人宇宙システムの統一基準制定で合意、その次の段階として、中国が積極的な月探査に焦点を当てているとのことです。
記事では、この協力関係はロシアと中国の宇宙飛行士による有人月面探査となるようです。記事内のロシアの専門家のコメントでは、中国は世界で3番め(おそらく、アメリカ、ロシアに次ぐということでしょう)の月探査技術を持った国に成長したとのことで、中国とロシアが共同で有人月探査を計画するのは自然な流れだとのことです。
構想では、現在ロシアが開発中の大型ロケット「アンガラ」を打ち上げに用い、建設が進められているシベリア東部のロシアのボストーチヌイ宇宙基地からの打ち上げを目指します(そもそもボストーチヌイはアンガラの打ち上げを念頭に建設が進められています)。タイミングとしては2028年という数字が出てきています。

このあたり、私の見解も含めた上で、過去の経緯なども含めて少し解説が必要かと思います。
まずロシアの月探査計画ですが、2000年代にほとんどといっていいほど月探査計画(さらには惑星探査計画)を打ち出せなかったロシアは、ここ1〜2年、月への回帰を目指しています。2014年には、往年の探査機シリーズ「ルナ」を復活させ、2010年代後半から2020年代にかけて無人探査を、最終的には2030年頃に有人探査を目指すというシナリオを発表しています。
また、中国は着実な月探査を進めており、2010年代後半にはサンプルリターン機の打ち上げを、そして早ければ2020年代には有人月探査を実施するとされています。

今回の記事は、ロシア側が月探査について中国との協力関係を明確にする(おそらく、他の分野、例えば有人飛行関連でも協力を進めていくでしょう)ことを意味している可能性があります。
ウクライナ問題などの影響でロシアは国際的に孤立しており、特にこれまで宇宙開発での積極的な協力関係を進めてきたヨーロッパとの関係が冷却しています。アメリカとも関係はよくありません。アメリカはおそらく独自の(民間を含めた)有人宇宙輸送システムの構築を進めていくことになり、2020年頃にはその初期段階が動き出すものと考えられます。

一方、最近のロシアの宇宙開発は、相次ぐプログレス宇宙船の打ち上げ失敗など、かつての宇宙先進国としての面目がまったく立たなくなっている状況です。また、国内の技術的な側面でも宇宙開発は大きく後れを取っており、もはや一刻で対処できるレベルを超えた可能性もあります。
そのような中で浮上したのが、中国との協力関係ではないでしょうか。そもそも中国の宇宙開発は、その黎明期にロシアからの技術導入が行われたということもあり、ロシアとの共通規格の導入はそれほど難しくはありません。

政治面からみてもロシアと中国の接近は明確です。この5月8日にロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談が行われ、数多くの相互技術協力協定や経済圏構想が提案されています。日本経済新聞の記事によると、宇宙分野では、測位衛星の相互運用が挙げられています。ロシアが持つ測位衛星「グロナス」と中国の「北斗」の相互運用を進めるというものです。
おそらくは政治主導での今回の宇宙分野でのさらなる相互協力なのではないかと思われます。

しかし、私としては、このような政治主導での協力が盛り込まれる際に、技術面でいろいろな問題が出てくることを心配しています。
そのよい例が、失敗したロシアの火星探査機「フォボス・グルント」です。2011年11月に、中国初の火星探査機「蛍火1号」と共にロシアのロケットで打ち上げられましたが、地球から火星へ遷移する軌道への移行に失敗、最終的には翌年1月に地球に落下してしまいました。
一連の事故の検証過程では、フォボス・グルントの開発段階で、ある程度内容が固まっていた火星探査機に、政治的な理由で中国の火星探査機の相乗りが決まり、技術面での混乱がみられたという指摘もあります。
今回はまだ開発前だから、といっても、宇宙開発技術は両国にとっての先端技術であり、なるべくなら手の内を出したくない技術です。その意味で情報のやりとりがうまくいかず、結果としてミッションの遅れや失敗につながるのではないかという心配はあります。

また、ロシア側についていえば、肝心のボストーチヌイ宇宙基地の建設の遅れ、深刻というよりもはや破綻レベルに近づいている宇宙技術の問題も克服する必要があります。
中国は中国で、景気減速の問題を抱えています。習近平指導部が「新常態」(ニューノーマル)という言葉を最近よく使うように、これまでのハイレベルの経済成長は一段落し、低成長(中成長?)を前提とした経済政策に舵を切り替えていく必要が出てきています。しかし、そうなると、高い経済成長の余力として得られた宇宙開発などの費用が減少することもありうるでしょう。
もっとも、両者とも問題を抱えているからこそ、協力して何とかしようという方向性に至ったと考えてもよいでしょう。今後この協力関係がうまく進むのかどうか、注視していくことが必要かと思います。