日本の宇宙開発スタートアップ企業アイスペースは20日、最初の打ち上げを予定している月着陸機の進捗に関して発表しました。この中で、打ち上げに向けた試験は順調に進んでいて、早ければ今年(2022年)11月にも打ち上げができるとの見通しを述べています。

試験中のHAKUTO-R月着陸機

試験中のHAKUTO-R月着陸機
(プレスリリースより、 © ispace)

HAKUTO-Rは、アイスペースが開発を進める月着陸機・ローバーおよびそのプロジェクトです。世界初の民間企業独自の月着陸を目指して開発が進められています。2022年中には1号機となる月着陸機を、2024年中(当初は2023年中)には2号機として、着陸機およびローバーを月に向けて打ち上げる予定です。

1号機はすでに2021年6月から組立作業を開始しており、2022年6月に組み上げ作業を完了。現在、打ち上げに向けての最終試験を実施しているということです。
試験は順調に推移しており、このまま順調に進めば9月にはすべての試験を終了することになります。このあと、着陸機は組み立てを行っているヨーロッパ(ドイツ)から打ち上げ場所であるアメリカ・フロリダ州へと輸送され、もっとも早いスケジュールであれば11月にも打ち上げられるとのことです。なお、打ち上げはスペースX社のロケット「ファルコン9」を使用します。

アイスペース、そしてHAKUTO-Rは月への挑戦の長い歴史を持っています。アイスペースの母体は、2018年に勝者なく終了した宇宙開発競争「グーグル・ルナーXプライズ」に挑戦した日本チームであり、そのときに開発されたローバーがHAKUTOでした。しかし残念なことに打ち上げ機の確保に手間取るうちに競争のタイムリミットが来てしまい、結局月への打ち上げには至りませんでした。
しかし、技術的には月に行けるだけのポテンシャルを十分に有していたことから、今度は会社としてのミッションを行うこととし、名前もリブート(再起動)などの意味から「HAKUTO-R」と名付け、計画を着々と進めてきました。HAKUTOでの反省を活かして早い時期に打ち上げロケットを確保するなど、まさに着実な開発を積み重ね、もうあと一息というところまでやってきました。

アイスペースのCEO(最高経営責任者)・創設者および代表取締役である袴田武史さんは、このHAKUTO-R1号機が「民間宇宙開発の歴史的転換点になる」と信じていると語り、この打ち上げがアイスペースだけではなく、日本、そして世界の月探査、商業月輸送の歴史を変える可能性があることを強調しています。その上で、この後に続くミッションにとってもこの1号機が大切なものであると述べており、またミッションのために日々努力しているアイスペース全社員、関係者、パートナーへの謝意を表しています。

またアイスペースはこれに合わせ、HAKUTO-Rに新たなサポーティングカンパニー(支援企業)が2社加わったことを発表しました。

  • 東レ・カーボンマジック
    同社はもともとスーパーカーの開発事業を手がけており、そこで培われた最適化設計、軽量化技術を月着陸機や月面ローバーに応用することを目指します。
  • 横河電機
    工業機器やプロセス制御システムの世界最大手のうちの1社です。日本ではあまり名前が知られていないかも知れませんが、海外では圧倒的な知名度と信頼力を誇ります。水資源探査に必要な計測技術や水素バリューチェーンに必要な制御技術など、将来的な月面活動のインフラ技術で貢献することになります。

現在、日本で月へ向かおうとしている探査機は、アルテミス1に相乗りする「エクレウス」「オモテナシ」と、NASAの商業月輸送プログラム(CLPS)1号機によって月に運ばれる予定の「ヤオキ」(YAOKI)、またJAXAが開発を進めている「スリム」(SLIM)があります。いずれもが今年度中…2023年3月…までに月に向かう予定で、今回のHAKUTO-Rもそのうちの1機となるわけです。
なお、純民間による月探査(月輸送)はこのHAKUTO-R1号機がはじめてとなる見通しです。その前にCLPS1号機が月に向かうかも知れませんが、こちらについてはまだ明確に打ち上げ時期がアナウンスされていません。

長い努力と苦労を重ねてきたHAKUTO-R、無事、月へと届いて欲しいものです。