NASAのジョンソン宇宙センターの研究チームが、新たな分析機器を用いて火星隕石を分析した結果、火星にかつて生命が存在した強力な証拠を発見した、とNASAが発表しました。
今回の分析では、隕石の中に含まれる、生命の存在を示すとみられる物質を分析することにポイントが置かれています。この研究により、隕石の中にみつかったとされる物質について、生命が存在したという説明がもっとも確かなものであると結論づけられると、この研究グループでは主張しています。
いまから13年前の1996年、ジョンソン宇宙センターに所属する研究者であるデビッド・マッケイ博士を長とするグループが、南極でみつかった隕石 “ALH84001” の中に、生命の痕跡を発見したと発表しました。この論文はアメリカの科学誌「サイエンス」に掲載され、大きな反響を呼びました。今回の論文は “Origin of Magnetite Nanocrystals in Martian Meteorite ALH84001” (ALH84001火星隕石に発見された磁鉄鉱の微小結晶の起源について)という題名で、キャシー・トマス−ケプルタ博士などを含む、ジョンソン宇宙センターの宇宙物質研究・探査科学グループのメンバーにより執筆されています。この論文は”Geochemica and Cosmochemica Acta”という学会誌の11月号に掲載されています。
この隕石ALH84001において、中に発見されている磁鉄鉱の起源が、生命の可能性についてもっぱら議論の対象となってきました。磁鉄鉱は、鉄を含む、磁力を持つ鉱物です。地球では、水や土の中に生息するバクテリアの一部がこの磁鉄鉱を体内に持っていることが知られています。1996年の時点での研究では、この磁鉄鉱を含む炭酸塩の粒が、地球のバクテリアにおいてみられる特徴とかなり一致していることから、これが生物起源であるということを述べています。一方、これが生物起源ではないとみなす科学者は、この隕石に含まれる磁鉄鉱が実は生物起源ではなく、実験室において炭酸塩鉱物を「熱分解」と呼ぶ方法で処理することにより、隕石にみつかったものと同様の磁鉄鉱を作ることができるということを示しました。
今回の研究では、ジョンソン宇宙センターの研究グループはこの磁鉄鉱について、非生物起源の説としていちばん濃厚とされる、衝突の衝撃によってできるという説を検証しました。研究グループでは、隕石からみつかった磁鉄鉱はこのような衝突の衝撃によりできることはないと主張しています。そして、この隕石の起源として生物起源であると説明した方がよりふさわしいと結論づけています。
論文の筆頭著者であるトマス−ケプルタ博士は、「今回の研究で、私たちの分析結果の解釈として、非生物学的な過程を考えるのはふさわしくないという結論に達した。従って、生物学的な過程がもっとも妥当な説明であろう。」と述べています。
また、論文の共著者で、この研究グループに属するエベレット・ギブソン博士は、「いまや、13年前に比べても、(磁鉄鉱の)生物起源説はより強まったといえよう。」と述べています。
この研究チームは、今回の論文に加え、火星隕石の中にある形状が、地球の微化石や微生物の形状などとの比較を行った論文も出版しています。走査電子顕微鏡により明らかになったその形状は、「生物形態」(biomorph)と名付けられました。これは、その形が、地球で生物により作られたものと非常に似ているからです。この隕石中の生物形態については、今後研究チームが、その同位体や化学組成の分析などを含め、詳細に調べていく予定です。
この研究チームの長であり、NASAの主任科学者でもあるデビッド・マッケイ博士は、「火星に過去に生命が存在したという証拠は、この10年間の間に、少しずつ積み上がってきている。証拠の中には、過去に火星表面に川が流れていたという事実、湖の存在、海の可能性、表面あるいは地下に水が存在する可能性、古い土地に存在する水に関連した粘土鉱物や炭酸塩、堆積物の存在、火星大気に最近になって放出されたとみられるメタン…地球ではメタンの主要排出源は微生物である…などがあげられる。」と述べています。
【写真等はこの後追加する予定です】
・NASAジョンソン宇宙センターのプレスリリース (英語)
  http://www.nasa.gov/centers/johnson/news/releases/2009/J09-030.html
・火星に生命の痕跡? (火星・赤い星へ – 月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/life_on_mars.html
・火星生命の「証拠」に否定的な見解 (火星・赤い星へ – 月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/life_on_mars_200405.html
・火星・赤い星へ (月探査情報ステーション)
  http://moon.jaxa.jp/ja/mars/