別ページにて述べた通り、1996年8月に発表された、火星隕石内の生命の痕跡らしき「証拠」は、世界に大きな衝撃を与えました。そしてそれ以降、科学者たちの間で、この痕跡が果たして生命によるものなのかどうかという点について、大きな議論が巻き起こりました。
2004年5月、D. C. ゴールデン (Golden)氏を中心としたグループは、この痕跡とされる証拠が生命起源ではないという見解を発表しました。
このグループが発表した論文によると、生命の証拠とされた、隕石内の磁鉄鉱について、当初の発見者の主張とは異なり、生命起源ではないという結論になっています。同じような磁鉄鉱を研究室内でも作ることができたというのです。
この磁鉄鉱は、生命の痕跡の「証拠」とされるもの中でも最も論議を呼び起こしているものです。1996年、JSCのデーブ・マッケイ (Dave McKay)博士が生命の痕跡として発表した際には、地球上の微生物が作る磁鉄鉱と同じようなものであることを大きな論拠としてきました。また、2000年には、炭酸塩の結晶に、地球の微生物が作り出すようなものと同じ、細長くなるという特徴があることがみつかっています。
この、細長い磁鉄鉱の特徴については、ゴールデン氏らのグループは、地球上の微生物が作り出すものと異なると述べています。従って、彼らは、隕石からみつかった「証拠」が生命起源であるかどうかは確かではないと主張しているのです。
これに対して、当のマッケイ博士は、「我々はもともと、いくつかの証拠に基づいて、隕石中の痕跡が生命起源だと主張している。これに対し、ゴールデン氏らの研究は、その証拠の1つについてだけ述べているのであり、その他の多くの(マッケイ博士らが主張する)特徴を説明することができていない。もし生命起源でないというなら、他の様々な特徴についてもすべて納得できるような説明が必要である。」と述べています。
面白いことに、といっては不謹慎かも知れませんが、今回のゴールデン氏の研究には、マッケイ博士と同じ研究室のメンバーも加わっています。このような研究者の活発な議論が、まだまだ今後も続いていくと思われます。
JSCの地球外物質研究探査室(Office of Astromaterials Research and Exploration Science)の副室長のスティーブン・ホーリー (Steven Hawley)博士は、「火星からのサンプルが地球に持ち帰られて研究されるまでは、この論争が終結することはないだろう」と述べています。2020年代に行われるとされている、火星からのサンプルリターンが待たれるところです。
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