火星の隕石に生命の痕跡?
1996年8月、NASAは、火星で見つかった隕石の中に、生命の痕跡らしきものがあると発表し、世界に衝撃を与えました。もし本当だとすれば、地球以外で生命が発見されたはじめての証拠になるだけに、この発表は宇宙科学だけでなく、社会的にも広く反響を呼びました。
この「証拠」が発見されたのは、火星隕石のALH84001というものです。南極で発見された後、アメリカで解析が進められてきました。このALHは隕石が発見された南極の場所(Allan
Hills)の略です。
生命の「痕跡」が見つかった、火星隕石ALH84001 |
生命の証拠とは?
この隕石を分析した、NASAジョンソン宇宙センターのデビッド・マッケイ博士らは、この隕石の中に、次のような生命の「痕跡」と考えられる点を発見しました。
- 隕石の中に、バクテリアに似たチューブ状の形をした物体が見つかっている(下の写真)。大きさは20〜100nm(ナノメートル。1ナノメートルは10のマイナス9乗分の1メートル)程度のものであるが、これは地球上でバクテリアが混入したり、自然にできたものとは考えられない。また、電子顕微鏡で調べるために試料を準備している際にできてしまった可能性や、地球上のバクテリアである可能性も却下された。
- 隕石の中に、細かい鉱物粒が発見された。これらの鉱物は磁鉄鉱などであるが、これらは、地球上の微生物が、生命活動によって作り出すものによく似ている。また、これらの鉱物粒が自然にできたものと考えると、アルカリ性の液体の環境下である必要があるが、周囲の(炭酸塩岩の)溶け具合をみると、この岩ができた環境はむしろ酸性の液体であったと思われる。
- 隕石の中には、多環式芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons: PAH)という有機物が見つかった(ナフタリンなどに近い物質)。これらは実験室や地球での混入ではなく、実際に火星から来たものであり、また他の隕石などに含まれるものとは異なっており、火星から地球へ到達する間に汚染されたものでもない。従って唯一の解は、火星で作られたものであるということである。また分析の結果、これらのPAHの組成は、バクテリアなどの生物が分解されたときにできるものとそっくりである。
論議は続く
しかし、この「証拠」とされるものについて、その後多くの科学者から反論が寄せられるようになりました。例えば、火星の「生命」が作り出したとされる磁鉄鉱の小さな粒ですが、これと同じものが実は自然に発生する可能性があるという研究結果も出されています。
一方で、生命の痕跡であることを支持する証拠なども出されており、この議論はまだまだ結論が出るまでに時間がかかりそうです。
しかし、最近の火星探査のデータをみると、火星には水が流れた跡などもふんだんにあり、しかも地質学的にごく最近に液体の水が地表を流れた形跡なども見つかってきています。生命が存在するためには水が不可欠ですが、その条件はひとまず達成されているといえます。
この火星の「生命」については、今後とも火星探査と共に、目が離せないといえるでしょう。
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