それはバイキング探査機の写真からはじまった
1976年に火星に接近したバイキング探査機は、火星のまわりを周回しながら、膨大な量の写真を撮影しました。ところが、この写真の中に、ふしぎな「もの」が発見されたのです。
1976年7月、バイキング探査機による火星探査を実施していたNASAのジェット推進研究所は、バイキングが撮影した写真の中に、「人間の顔によく似た岩」が見つかったと発表しました。
ところが、この発表以降、この岩が実は人工的に作られたという説を唱える人が出てきました。それ以来、この「顔」は、「ザ・フェイス」(The
Face)あるいは「サイドニア(シドニア)・フェイス」(Cydonia Face)などと呼ばれ、様々な憶測を呼んできました。
中には、「火星超古代文明の痕跡」「人類がかつて火星にいたことを示す証拠」といった話まで飛び交うようになり、果ては、「火星探査機マーズ・オブザーバが行方不明になったのは、人面像の秘密を知られたくない火星人が探査機を打ち落としたためだ」などという噂まで流れるようになってしまいました。
JPLが発表した「人間の顔によく似た岩」の写真。
写真の中央のやや上の方に、「顔」のような岩が写っている。(Photo by NASA)
(写真をクリックするとより大きな写真をご覧頂けます。サイズ=319KB)
バイキング探査機が撮影した火星の人面像(写真番号: 035A72。Photo by NASA)。
「顔」は結局、自然の産物
バイキングの写真は、結局のところ解像度が低く、これ以上の議論は、より高い解像度での撮影が必要でした。そして、それを実現できるのは、1996年に打ち上げられた、マーズ・グローバル・サーベイヤでした。この探査機には、最大解像度2mという、地球観測衛星をも上回る精度を誇るカメラが搭載されています。
そのカメラが捉えた「人面像」が、下の写真です。ご覧になれば一目瞭然、どうみても人の顔にはみえません。
バイキング探査機が撮影した写真が人の顔にみえてしまったのは、おそらく撮影した際の太陽光の角度が低く(約20度)、岩の影がたまたま、目や鼻、口のようにみえてしまったためではないでしょうか。
特に、人間が直感的に「顔に似たもの」を「顔」として考えてしまう傾向があるということは、火星の「人面像」に限らず、「人面岩」や「人面魚」などで、おなじみの現象といえます。
結局のところ、人面像は、火星の地形に、太陽光の角度が作用して起きた、「光と影の偶然」でしかなかったといえるでしょう。
マーズ・グローバル・サーベイヤが撮影した「人面像」の写真。
(写真番号: E03-00824。Image: NASA/JPL/Malin Space Science Systems)
中解像度(サイズ=1384KB)、高解像度(サイズ=5521KB)の写真もご覧頂けます。
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