ミッションにとって最も緊張する瞬間がやって来ました。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とロシアとが共同で実施する火星探査「エクソマーズ」は、日本時間で19日の夜、火星周回機「微量ガス探査周回機」(TGO)の火星周回軌道投入と、着陸実証機「スキアパレッリ」の着陸という2つの大きなイベントを迎えました。
微量ガス探査周回機は火成周回軌道に無事、投入されました。一方、着陸実証機「スキアパレッリ」については着陸直前に交信が途絶えました。ESAでは引き続き交信を試みているとのことです。イギリスBBCの報道では、着陸直前、パラシュートが開いたところまでは確認されているものの、その後交信が途絶えたとのことで、交信が回復する見込みは低いとの見通しを明らかにしています。
周回機の投入により、ヨーロッパは2003年の「マーズ・エクスプレス」以来、13年ぶりに火星探査機を送り込むことに成功しました。ロシアとしては、国際共同とはいえ、実に1973年の旧ソ連時代の「マルス5号」以来、なんと43年ぶりに火星周回軌道に探査機を送り込んだことになります。
さらに、エクソマーズの火星到着により、現在火星に送り込まれて動作中の探査機は実に8機となり、1つの天体で同時に稼働している探査機数の最高記録を更新しました(エクソマーズ到着前の7機でももちろん最高記録ですが)。

逆噴射を行うエクソマーズ

火星周回軌道投入に向け、逆噴射を行うエクソマーズ微量ガス探査周回機の想像図 (© ESA/ATG Medialab)

19日、エクソマーズの周囲機は、日本時間で午後10時5分から翌20日の午前0時24分(ヨーロッパ中央標準時では午後3時5分から午後5時24分)にかけて、139分にも及ぶ逆噴射を行い、火星周回軌道に入るための減速を実施しました。この減速で周回機の速度は秒速1.5キロ減速しました。
現在、周回機は予定された軌道上を周回しています。ヨーロッパ宇宙運用センター(ESOC)では、探査機の状態が正常であるかどうかの確認を実施しています。この確認には、打ち上げから13年を経過したマーズ・エクスプレスも支援に加わっています。

一方、着陸実証機「スキアパレッリ」については、日本時間で午後4時42分に火星大気に突入したとみられています。
スキアパレッリの重さは577キログラム、着陸に際するすべての動作を全自動で行うことになっています。着陸の際にはパラシュートが展開し、全面の熱シールドが高度11〜7キロの間で分離、最後は逆噴射ロケットを高度1.1キロから噴射して、ゆっくりと降りていき、高さ2メートルに達した時点で探査機の衝撃吸収機構を使って「どすんと着陸」、という手順です。

午後11時42分(日本時間)の大気圏突入前には、インド・プーネにある巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)によりスキアパレッリからの信号が受信されていました。しかし大気圏突入後に、信号は途絶しました。
スキアパレッリからの信号は、火星上空を周回するいくつかの探査機によって中継されて地球に届く仕組みです。上記のマーズ・エクスプレスをはじめ、アメリカのマーズ・リコネサンス・オービター(MRO)やメイバン(MAVEN)などが中継に加わります。
従って、これらの探査機のいずれかが上空に到達しなければスキアパレッリからの電波を受信することができません。そのタイミングを待って、スキアパレッリが実際に着陸に成功したのかどうかを判断することになります。また、地上でも上記のGMRTを使った受信を試みることになっています。

スキアパレッリは、地上到達後3〜10日は動作できるバッテリーを内蔵しています。逆にいいますと、この間にみつけられなければスキアパレッリは永遠に失われてしまいます。交信回復は時間との戦いという要素も持っているのです。

今回の周回機の火星周回軌道投入成功によって、上述の通り、現在火星で動作している探査機は合計で8機となりました。並べてみましょう。

火星について、史上例をみない「火星大探査網」が敷かれていることがおわかりかと思います。まさに、世界の関心は火星に向いているといっても過言ではありません。ちなみに月については、現在中国の嫦娥3号と、アメリカのルナー・リコネサンス・オービターの2機が探査を行っています。月よりも(探査機数でいえば)火星の方がはるかに関心が高いわけです。

ともかくも現時点でもっとも心配なのは、着陸実証機「スキアパレッリ」の成否です。ヨーロッパは2003年のマーズ・エクスプレスにおいても、着陸機「ビーグル2」を搭載していきましたが、降下途中で行方不明となり、この着陸ミッションは失敗に終わっています。
それだけに、13年をかけた今回の「リベンジ」火星着陸には並々ならぬ意欲を示していました。私もぜひ、この熱意と努力、そして執念が実を結び、管制室がもう一度歓声に包まれることを期待して待ちたいと思います。

  • ESAのプレスリリース