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NASAの小惑星イニシアチブ、小惑星捕獲計画(ARM)がNASA予算未確定のため遅れ

NASAが進める小惑星探査フレームワーク「小惑星イニシアチブ」、その中の大きな柱として位置づけられている、小惑星捕獲・回収・有人探査計画(アーム…ARM: Asteorid Redirect Mission)が、アメリカ2017年度予算が確定していないことにより数ヶ月程度の遅れを生じる可能性があるとのことです。アメリカのスペース・ニューズ(SPACENEWS)が報じています。

小惑星表面で岩をつかむアーム探査機

小惑星表面で岩をつかみ、サンプル回収を試みるアーム探査機の想像図 (Photo: NASA)

アームは、小惑星イニシアチブの中核をなすものです。まず無人探査機が地球周辺の小惑星(地球近傍小惑星)に飛行、大きさ数メートルサイズの岩石を採取します。その後、小惑星の軌道を変える実験を行ったあと、岩を抱えたまま地球-月付近の軌道(月遷移軌道)へ移動します。この段階で地球から有人宇宙船(おそらくはオライオン宇宙船)を打ち上げ、月遷移軌道上でドッキングし、小惑星(の岩)を調べ、一部は持ち帰るという計画です。
もともとは小惑星をまるごと(!)持ち帰ろうという野心的な計画だったのですが、それですと技術的に非常に難しく、また予算もかかることもあり、現在ではこのような形に落ち着いています。
それでも当初予定より進行が遅れているようで、議会ではARM計画について懐疑的な意見もあるということは以前お伝えした通りです。

11日、アリゾナ州ツーソンで開催されたNASAの小天体アセスメントグループ(SBAG: Small Bodies Assessment Group)の会議ではこのスケジュールについて話し合われた模様です。

ARMのプログラムディレクターのミシェル・ゲイツ氏は、NASAがARM探査機の主要部分であるロボット部分について、当初予定されていた3月から5月に契約を延期したと述べています。同様に、搭載機器の開発についても、それを選定するグループの立ち上げを4月から6月に延期したとのことです。
ゲイツ氏によれば、この遅れは2017年10月のNASA予算の継続決議に基づくものです。この「継続決議」(CR: Continuing Resolution)とは、いってみれば「暫定予算」ともいえるべきもので、歳出のための法案が可決されていない場合にとりあえず前年度と同じ形での支出を可能にする、というものです。ゲイツ氏はこれが4月28日まで続くとし、それより先に重要な決定を延期しなければならないと述べています。
今回のスケジュール修正により、主要部分の契約などは、ARMに対しての予算が正式に確保される段階か、あるいは継続決議がより延長されて、曲がりなりにも予算が確保できるようになってからでないと本格的な開発段階に入れないことが明らかになりました。
ただし、ARM全体スケジュールへの影響は大きくはなく、予定している2021年の打ち上げに向けて支障はないとのことです。

また、ゲイツ氏はこの件に関連して、ARM計画が今後どうなるかについては言及していません。上でも述べたように議会での懐疑論もありますし、産業界もARMが将来キャンセルされるのではないかという見方を徐々に強めているようです。さらに、まもなく就任するトランプ次期政権下で、この計画が継続されるのかどうかも不透明です。そもそも共和党は伝統的に月回帰の傾向がありますし、トランプ次期政権がアメリカの宇宙開発についてどのような施策を持っているのか、今はまだはっきりとはしていません。多くのアメリカの宇宙関係者はいわば様子見をしているという状況で、それがまた不安感を煽る元になっているようです。

また、この記事ではヨーロッパの小惑星サンプルリターン計画AIM(Asteroid Impact Missionのことを指しています)についても触れられています。上記のツーソンの会議ではこのことが話題になりました。ヨーロッパでも予算がヨーロッパ宇宙機関(ESA)から十分に得られないため、全体的に縮小させる方向で計画を練り直すことが明らかになりました。12月にスイスで開催された説明会で、計画に対して十分な予算を支出するということにならなかったようです。
ESAのAIMのマネージャーのイアン・カーネリ氏は、2019年の打ち上げに向けての開発費用として最低1億500万ユーロ(日本円にして約128億円)の費用が必要と説明したのですが、会議で得られた額はその3分の2に当たる7000万ユーロ(日本円で約85億円)だったそうです。
予算が削減された理由としては、国際宇宙ステーション(ISS)の資金拠出が必要になったことが挙げられているそうです。2024年までISSを維持するための予算のために、AIMがいわば「犠牲」になった形です。

AIMはヨーロッパが打ち上げる小惑星探査計画です。行き先は小惑星ディディモス(Didymos)で、2020年に打ち上げられる予定です。小惑星の詳細な観測に加え、NASAが開発した装置である二重小惑星軌道変更テスト(DART: Double Asteroid Redirection Test)で小惑星の軌道変更実験を実施します。いってみればヨーロッパ版のARMともいえなくもありません。
ただ、予算が減ってしまっては別のことを考える必要があります。カーネリ氏は、AIMの計画縮小版を現在検討しているとのことで、その名前は…AIMlight(「エイムライト」)と呼ばれています(なんかビールみたいですが)。現在計画されているAIMの半分の重量の探査機を想定していて、当然のことながらより小型のロケットで打ち上げる、あるいは別のロケット打ち上げへの相乗りの形での打ち上げを考えているようです。しかし、軽くしなければならないということで、エイムライトでは機器はカメラたった1つだけになる可能性があります。さらに小惑星における観測期間も短縮されるとカーネリ氏は述べています。
AIMが全体構想実現のためには2億5000万ユーロ(日本円で約305億円)必要とされるのに対し、エイムライトでは1億5000万ユーロ(日本円で約183億円)にとどまるとのことです。確保できた予算よりもう少し費用が必要ではありますが、不可能な額ではないと思います。
カーネリ氏は、エイムライトについては6月までにミッション案を提出できると述べています。

このように、ヨーロッパとアメリカの小惑星探査計画がどちらも非常に不透明な状況に置かれているというのは、私たち日本にとっても決して望ましいことではありません。ただ、ARMについては次期政権発足後の宇宙政策なども見極める必要がありますし、議会内の動向にも振り回される可能性がありますから(共和党が多数を占める議会での宇宙政策の扱われ方にも気をつけなければいけません)、しばらくはミッションが不安定な状態に置かれる可能性が出てきそうです。
そして、ARMがもし「キャンセル」という最悪の事態になった場合、それを柱の1つとしている小惑星イニシアチブ自体にも大きな変更が及ぶ可能性があります。
思えば、ここのところアメリカの宇宙計画は、政権が変わるたびに大きな変更を余儀なくされてきました。ブッシュ(子)政権が打ち上げた「新宇宙政策」(VSE)、そしてそれを具現化した「コンステレーション計画」は、予算の肥大化やスケジュール遅延などによってオバマ政権下でキャンセルされました。そしてオバマ政権で新たに打ち出されたのが、小惑星有人探査ミッションとしての「小惑星イニシアチブ」だったのです。
コンステレーション計画も小惑星イニシアチブも、アメリカ宇宙開発の究極の目標である火星探査に向けた計画です。ただ、コンステレーション計画が月を経由して火星に向かうという形なのに対し、小惑星イニシアチブは小惑星を有人火星探査のテスト場所にするという考え方にしています。
このように、政権が変わるごとにミッションが揺れているアメリカの宇宙政策、とりわけ大型の月・惑星探査計画が、次期トランプ政権下でまた変更ということになる可能性もありますが、このようなことの繰り返しは結局はミッションに投資する資源の無駄につながる恐れがあるのではないかという危惧を私(編集長)は持っています。そして、将来的には他国、とりわけ中国の宇宙開発における優位、あるいはリードを許す可能性もあります。

トランプ氏の大統領就任まであと1週間。混沌とした状況の中で、いま私たちができることは、情報をしっかりと集めること、そして月・惑星探査推進の声を上げることのようです。

 

2017年1月13日(金)|Categories: 小惑星イニシアチブ|

火星周回機マーズ・リコネサンス・オービターが捉えた地球と月

ここのところ「トランプ次期政権の宇宙政策」やら「中国の月探査計画」といった固い話題ばかりが続いていましたので、今日は少し柔らか目の話題でまいりましょう。

アメリカ火星周回探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」(MRO)が印象的な写真を送ってきました。火星周回軌道上から捉えた地球と月です。NASAが7日に公開しました。

マーズ・リコネサンス・オービターが捉えた火星軌道上からみた地球と月

マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)が火星軌道上から撮影した地球と月。火星と地球の距離は撮影時点で約2億キロ。(Photo: NASA/JPL-Caltech/Univ. of Arizona)

MROは火星を周回して火星表面の地形などを探査することを目的とした探査機で、2006年に打ち上げられました。2006年11月から観測を開始していますので、昨年で観測開始から10年を迎えたことになります。もちろん想定寿命は超えていますが、まだまだ現役で大活躍しています。

MROは、火星の地表を最大解像度1メートルという超高精度で捉えることができるカメラを搭載しています。それまでの探査機の10倍近い性能を誇り、火星表面の様々な様子を明らかにすると共に、各種着陸機の着陸地点などを詳細に調べるといった「補佐役」も果たしています。
そのカメラの性能は、昨年10月にヨーロッパ・ロシアが共同で火星に送り込み、一時行方不明になった着陸機「スキアパレッリ」の姿を上空から捉え、その事故原因究明に貢献しているほどです。

今回、MROはその高性能カメラ「高解像度撮像装置」(HiRISE)を、ふだん向けている火星地表ではなく、上空に向けました。
今回撮影された写真は、2016年11月20日に2回に分けて(2段階の露出で)撮影されています。
もちろん、印象的な写真を取ることも重要ですが、この写真の撮影には1つ大きな目的があります。カメラの補正です。
地球の明るさ(輝度)はよくわかっています。そこで、カメラが地球をどれくらいの明るさで捉えているかによって、カメラの露出度を補正することができるというわけです。ただ上の写真は見栄えをよくする目的で少し明るさなどに補正を加えてはいます。

この写真でみますと、意外なことではありますが、月は地球よりずっと暗くみえます。私たちが夜空に浮かぶ月を眺めるときは、特に満月のときは「明るい月だ」と思うことが多いのですが、こと宇宙空間においては、月よりも地球のほうがずっと明るくみえるのです。

なお、この写真では地球と月の距離は実際より近く写っています。これはなぜかといいますと、上記の目的、つまり明るい地球を捉えることでカメラの露出補正(校正)を行うことが、この写真撮影の主目的だったからです。写真撮影を行った時点では、火星からみると月は地球の裏側にいてみえなかった、というわけです。2回撮影して重ね合わせた写真ではありますが、月と地球の大きさの比率は正しくなるようになっています。

写真を撮影した時点で、地球と火星との距離は約2億500万kmありました。ちなみに、地球と月との距離は平均で約38万キロです。もう少し「ピンとくる」数値でいいますと、地球と月の距離は、地球が間に大体30個入るくらいの距離です。どれほど遠いところから撮影した写真かお分かりいただけるかと思います。

上の写真では、地球の一部に茶色っぽい場所が写っていますが、これはおそらくはオーストラリア大陸です。

さて、「火星探査機が撮影した地球と月の写真」ということでいえば、私たちが忘れることができないのは、日本の火星探査機「のぞみ」が撮影した地球と月の写真です。こちらは火星軌道上からではなく、火星へと出発する途中で捉えたものなのでより大きく写っていますが、それでも地球と月という、かけがえのないペアを捉えた貴重な写真です。

「のぞみ」が捉えた地球と月

日本の火星探査機「のぞみ」が捉えた地球と月。1998年7月18日午後5時29分(日本時間)撮影。「のぞみ」と地球との距離は16万8100キロ、「のぞみ」と月との距離は53万5300キロ。出典: JAXAデジタルアーカイブス (© JAXA)

地球と月を捉えた写真としてはほかにも、海王星の先からボイジャー1号が振り返って撮影した「ペール・ブルー・ドット」(小さな青い点)として知られる写真や、木星探査機ガリレオが捉えたものがあります。
ただ、ペール・ブルー・ドットではまさに「点」にしか地球は写らなかったので、火星軌道上からの地球と月という写真は本当に貴重なものといえましょう。

ほかの惑星からみると、地球はこんなに小さい天体なのだ、ということを考えると、私たちがいかに小さな世界で生きているのかを改めて実感させられます。将来、有人火星探査計画が実行され、火星に降り立った人類が、このような地球と月の姿を(望遠鏡で)みる…そのような時代がやってくるのでしょうか。やってきたとしたら、人間の意識というものは変わっていくのでしょうか。
いろいろなことを考えさせる、歴史に残る宇宙写真だといえるでしょう。

2017年1月9日(月)|Categories: マーズ・リコネサンス・オービター|

中国が月探査事業第4期に…嫦娥6号打ち上げも予定

これまで情報がほとんどといっていいほどなかった「嫦娥6号」の名前がついに出てきました。

中国国家航天局の呉艶華副局長が先月27日に記者会見し、中国の第3次五カ年計画(2016〜2020年)の期間内に、中国の月探査計画を第4期に進めると発表しました。この期間内に嫦娥6号を打ち上げるというのです。

人民網日本語版の記事から要点を抜き出すと、

  • 2017年中にサンプルリターン機「嫦娥5号」を打ち上げる
  • 2018年には着陸機「嫦娥4号」を打ち上げる。それと共に、月のラグランジュ点(L2)に通信衛星を打ち上げる(おそらくこれは、月の裏側からも地球への通信が行えることを狙っているのではないかと思われます)
  • 2020年頃にサンプルリターン機「嫦娥6号」を打ち上げる。中国の月探査の例に倣い、これは嫦娥5号の予備機(中国の月探査は必ず2機体制で、1機を予備にします。例えば上記の嫦娥4号はそもそも嫦娥3号の予備機です)で、月の裏側からのサンプルリターンを目指す(おそらく、上の項で述べたL2の通信衛星が役立つのでしょう)

というものです。記事自体は短いのですが、実に野心的な月探査計画です。

嫦娥4号の打ち上げは、おそらくは嫦娥6号における月の裏側(当然、地球からはみることもできませんし、直接通信もできません)に備えたリハーサルのような形になるのでしょう。嫦娥4号で月の裏側との通信や時間差のある環境での探査機運用に習熟したあと、嫦娥6号で、これまた史上初となる月の裏側からのサンプルリターンに挑むという形になりそうです。中国は月探査でも、特に予備機を打ち上げる際にはかなりリスクの多い探査を積極的に実行しています。例えば嫦娥2号は月を周回したあと深宇宙探査に挑み、月から実に1億キロも離れたところを現在も飛行しています。このような探査によって、新しい技術を積極的に得るという姿勢なのでしょう。

さらに記事では、「今後5年と10年に、ロボットを中心とする月の南極・北極の探査を想定」していると述べています。これはおそらく5年〜10年後ではないかと思いますが、アメリカも月の南極探査を目指しているだけに、これはアメリカと正面からぶつかる探査になる可能性があります。

おそらく、無人探査はこの4期までで、そのあとは月の有人探査を目指す第5期に入るのではないかと想定されます。

2017年1月6日(金)|Categories: 嫦娥4号, 嫦娥6号|

トランプ次期政権は有人月探査を狙うのか? – ジ・アトランティック誌

トランプ次期政権始動まであと2週間を切りました。ここのところトランプ氏は「ツイッター攻勢」で自動車業界をきりきりまいさせていたり、政権着任前にもかかわらずもはや世界を支配しているかのような勢いです。
さて、このサイトは月・惑星探査を主題にしていますから、当然トランプ次期政権の月・惑星探査に向けた姿勢を追いかけています。いろいろな記事を総合すると、いまのところトランプ次期政権の宇宙開発の目標は深宇宙(火星より先)にあるようで、そこに新たな目標を打ち立てる可能性が高いということです。また、伝統的に共和党の傾向である「月に戻る」可能性もかなり高いようです。いまオバマ政権が進めている小惑星有人探査が凍結、ないしはキャンセルになるか可能性も否定できません。

とはいっても、トランプ次期政権の宇宙政策がなかなか読めないということも確かです。そのような中で、ジしっかりとトランプ次期政権の宇宙政策を見守っていく必要がある」ということになります。・アトランティック誌に掲載されたデビッド・ブラウン氏の記事「Trump Might Be Thinking About a Moon Base」(トランプ次期政権は月面基地について考えているかも)を少しご紹介しましょう。ちなみに副題は「Here’s why that’s a bad idea.」(なぜそれが悪い考えなのかを示そう)ということで、その点も気をつけてみていくことが必要です。

まず記事の冒頭で、ブラウン氏は歴史家のダグラス・ブリンクリー氏の話を引用しています。トランプ氏がNASAにどのような姿勢を見せていたのか、ということでいえば、彼は「正直いってNASAは素晴らしい」「しかし、問題もあり、それを直すことが必要だ」というところにあるとみています。
また、トランプ氏のアドバイザーを務めるギングリッジ元下院議長が長年月面基地賛成派だったことも影響していると述べています。現時点でのNASAの政権移行チームメンバーの中には月面基地支持派も入っているとのことです。

ブラウン氏は、月面基地の「意義」について、月の資源が重要との認識を示しています。とりわけ彼が注目するのはヘリウム3です。月面には110万トンのヘリウム3が眠っており、これによる核融合発電を使えば、たった40トンでアメリカの年間の総発電量をまかなえる(言い方を変えれば、アメリカの総発電量を27500年まかなえる)とのことです。ただし気をつけなければならないのは、ヘリウム3を利用した核融合技術はまだ実用化されていないということです。核融合技術もまだ人類は手にしているとはいえず、実験段階に過ぎません。現在実用化されようとしている核融合技術では、ヘリウム3を利用した核融合は温度が非常に高く(10億度)、現在の技術ではとても実用になりません。
また記事では、月面が天体観測などのプラットホームとしても使用できる可能性も指摘しています。

さて、「エクスプロア・マーズ」という、火星有人探査を推進する非営利団体の創設者兼CEOのクリス・カーベリー氏は、月面基地を作ることによって火星有人探査に遅れが生じるのではないかと懸念しているということです。月には水などの資源が少ないのに対し、火星には二酸化炭素も酸素も水も窒素もある、つまり、「月には基地を作れるが、火星は植民地化できる」という点をもっと考えるべきだと述べています。
一方で火星探査については議会があまり乗り気ではないことをカーベリー氏は指摘しています(編集長からするとそうは思えないのですが、火星探査推進の団体からみればそうなのでしょう)。さらに宇宙開発企業も火星探査については消極的と述べています(これまた、編集長からすればスペースXの例などもあるのでそうとも思えないのですが、カーベリー氏はスペースXも消極的な側に入れています)。

さて、ブラウン氏は、いま月に最も熱心なのはヨーロッパであり、その代表がヨーロッパ宇宙機関(ESA)の代表、ヤン・ベーナー氏だと述べています。ベーナー氏は月面基地構想を熱心に推進しており、国際宇宙ステーションのあとの国際プロジェクトを月に設定したいようですが、現時点では予算不足のようです。
予算を満たすためにはNASAと組む必要が(多分)あるが、NASAはどちらかというと火星に熱心。その間でやはり争いがあると、ブラウン氏は述べています。

さて、月面基地を作るにはどのくらいの規模の予算が必要になるでしょうか。この点について、アメリカ惑星協会のキャシー・ドレイナー氏は、おそらくはアポロ計画(もちろん、現時点の予算規模に換算して)並の予算が必要になると述べています。つまり、国際協力で行わない限り、月面基地は建てられないということです。
一方、アメリカの現時点での有人探査計画では、月面基地は特に入っていませんが、「地球-月軌道」は依然として重要な目標です。オバマ政権が実現に熱心な小惑星探査プログラム「小惑星イニシアチブ」では、小惑星から持ち帰った岩を地球-月軌道付近まで持ち帰り、そこに有人宇宙船を打ち上げ探査するという構想になっています。
最近ではこの有人小惑星探査プログラム(ARM)は、火星探査に向けたテストとしても位置づけられています。

一方、カーベリー氏は、アポロ計画はどのように宇宙計画を立ててはいけないかの見本であり、長期的な目標の欠如こそが、アポロ計画の最大の問題だったと述べています。つまり、アポロ計画の基本的な目標はソ連に勝つことであり、ひとたびそれが達成されてしまうと、アポロ計画の存在意義は急速に失われていきました。長期にわたって持続可能な目標を掲げなければ、月面基地構築への世論の支持は得られない、というのがカーベリー氏の意見です。編集長もこの点は非常に重要かと思っています。
上記のように、「火星探査の前哨基地」として月を設定したとしても、世論の関心がそこで止まってしまえば月基地より先に進むことはない、ということになるのです。つまり、長期にわたる目標をどう設定し、どう持続させるかが重要だというのです。

では、次期政権はどのように将来的な宇宙計画を考えるでしょうか。NASAの現状をみる限り、月と火星両方に行く予算はありません。ブラウン氏は、国際宇宙ステーションの教訓として、例えば月面基地や火星植民地のような「建造物」を作ること自体は「安上がり」であるが、それを維持し、運用していくコストこそが膨大であるという点を指摘しています。例えばNASAの予算の20パーセントが国際宇宙ステーションの維持・管理に使われています。月面基地を作ればおそらく同じことが起こり、その維持費のために将来的な火星探査の予算がなくなってしまう可能性をブラウン氏は指摘しています。
ドレイナー氏は、その将来的な目標を「月火星か」だと述べています。「月、そして火星」ではないということです。月に行ったあと火星に行くのであれば、月面基地を放棄してしまうオプションも考えねばならないということでしょう。つまり、火星を重視するのであれば、月面基地というアイディアは一時的なものに過ぎず、そこに投資をするということは将来的な運用コストなども含めて火星探査の障害になる、という考え方のようです。

私(編集長)自身は記事を読んで、確かになるほどと思える面はありました。とりわけ、月面基地についての維持・管理といった側面は忘れられやすく、そのための費用を工面することを最初から考えなければ、アポロ計画のような「いっときの花火」で終わってしまうということも十分に考えなければなりません。
一方で、トランプ次期政権は、有人火星探査よりもさらに遠く、深宇宙(おそらくは木星または土星の衛星)への有人探査を打ち出す、という情報もあります。そうしますと、月面基地で言ってきたことが、今度は火星基地でも起きることになります。逆に、国際宇宙ステーションのあとの月面基地という構想で、月面基地構築後国際宇宙ステーションは放棄されるかどうかといわれると、私としては怪しいと思います。いまの国際宇宙ステーションは放棄されるかも知れませんが、必ずまた同じようなものは作るでしょうし、そうなれば維持費はかかります。

結局、人類の宇宙進出には少なからずコストがかかるわけで、そのコストをアメリカ一国が負担するのか、全世界で負担するのか、全世界で負担するならどのような枠組みで負担するのか、といった点を議論していくことが重要でしょう。ただ、それを、どちらかというと「内向き」のトランプ次期政権が主導できるかといえば、私としては否定的です。さらにいえばそこで日本が議論の主導権をとれれば非常に面白いと思うのですが、これもまたあまり期待できないかも知れません。

このように、トランプ次期政権がどのような宇宙政策、とりわけアメリカが堅持している究極の目標「有人火星探査」についてどのような形での反応を示すのかが興味深いところです。また、月に戻るのかどうかという点についても今後、政権移行チーム、さらに体制が一新されるであろうNASAなどでも議論が進んでいくことでしょう。ただ、現在はさらにここに、民間宇宙企業という新たなプレーヤーも入ってきます。それが議論をさらに複雑にしていくことになるでしょう。
こうして、結論は毎回似てしまうのですが、「しっかりとトランプ次期政権の宇宙政策を見守っていく必要がある」ということになります。

2017年1月6日(金)|Categories: 月探査 (ブログ)|

【一部記述修正】NASA、新しい2つの小惑星探査計画を将来探査として選定

NASAは5日、低予算の月・惑星探査ミッションプログラム「ディスカバリー計画」において、新たに2つの小惑星探査計画を将来的な打ち上げ候補として選定したと発表しました。小惑星探査計画が2つ同時にディスカバリー計画として選定されるというのははじめてのことです。

今回選定されたミッションは、トロヤ群と呼ばれる小惑星を探査する「ルーシー」(Lucy)と、金属質の小惑星を探査する「サイキ」(Psyche)の2つです。

ディスカバリー計画は、NASAが進める低コストでの月・惑星探査です。かつての大型ミッションが多額の予算を使いすぎ、ミッションの進捗が遅くなってしまうなど、動きが鈍くなったことを反省し、科学者が自分の目標とするものを探査することを念頭に、小型で低予算、かつ打ち上げまでの期間を早くできるようなミッションを実現することを目標としています。その代わり、ミッション実現に際してはNASAの審査を経る必要があります。
過去には、火星への着陸、そして超小型ローバーが活躍した「マーズ・パスファインダー」や、世界初の水星周回を実施した「メッセンジャー」、月の重力探査を行った「グレイル」などがディスカバリー計画のプログラムとして承認され、実施されました。

今回の選定には、5つのミッションが残っていました。上記2つに加え、

  • DAVINCI(ダビンチ)…金星の大気を降下する探査機によって金星の大気を調べるミッション
  • VERITAS(ベリタス)…金星を周回しながら金星(大気に覆われているため直接地表を観測できません)の高精度マッピングを実施するミッション
  • NEOCam(ネオカム)…地球近傍小惑星のうち、地球に潜在的に衝突する危険がある小惑星(PHA: 潜在危険小惑星)のうち、未発見のものを発見することを目的とした宇宙赤外線望遠鏡

これらにルーシーとサイキ、合計5つが候補となっていました。

それでは、選ばれた2つのミッションをみていきましょう。

ルーシー

ルーシーは、木星の「トロヤ群」と呼ばれる小惑星を調べるミッションで、2021年10月に打ち上げ予定です。最初の目標は小惑星帯の小惑星の探査で(まぁ、通過するのでちょいと調べていこうか、という感じでしょうか)、2025年に到達予定です。そして、最終的に木星の軌道上にあるトロヤ群小惑星に到達し、そのうち6つの小惑星を調べることになっています。この探査期間は2027〜2033年と、かなり先のことになりそうです。
トロヤ群とは、小惑星のうち、木星と同じ公転軌道上を(太陽の周りを)回る小惑星です。木星との軌道上、重力が吊り合って比較的安定している点「ラグランジュ点」のうち、L2点とL4点の周辺にある小惑星をトロヤ群小惑星と呼びます。

トロヤ群小惑星の図

木星の公転軌道上に存在するトロヤ群惑星の図。木星(Jupiter)の公転軌道上にある緑色の物体がトロヤ群小惑星。ウィキペディア日本語版より。

 

小惑星にもいろいろなものがありますが、トロヤ群は木星の重力に捉えられ、かつ木星と重力的に釣り合うラグランジュ点に集まっているものです。これらの小惑星は太陽系が誕生した頃そのままの性質を保っていると考えられており、特に木星などの外惑星のもととなった可能性もあります。

「ルーシー」の主任研究者であるサウスウェスト研究所のハロルド・レビソン氏は、「このような探査は非常に貴重な機会である。トロヤ群小惑星は、木星のような外惑星を作り出した大元の物質と考えられ、太陽系の起源を探る上で欠かせない鍵を握っていると考えられる。ルーシーという名前から連想されるのは、エチオピアで発見された類人猿であり、人類の直接の祖先(すなわち、すべての人類の大本)ということであるが(編集長注: 最近の学説では少し異なるそうです)、その名前を受け継ぐルーシー(ミッション)も、私たちの大本を調べる上で画期的な役割を果たすだろう。」と、このミッションの意義を述べています。

ルーシーは、2015年に冥王星に再接近し、大きな話題を巻き起こした「ニューホライズンズ」の機器を活用します。具体的には、その目となった冥王星撮像装置(Ralph)と広範囲観測カメラ(LORRI)の改良バージョンが搭載される予定となっています。さらに、ニューホライズンズチームを経験したメンバーの一部がこのルーシーにも加わる予定となっています。さらには現在小惑星に向けて飛行中のオサイレス・レックス(オシリス・レックス)の機器のうち、熱赤外スペクトロメーター(OTIS)の改良版が搭載されるほか、オサイレス・レックスのチームメンバーもこのミッションに加わる予定です。

サイキ

「サイキ」は、小惑星帯にある金属質の小惑星「プシケ」(Psyche)を探査するという、これまでにない探査になります(小惑星Psycheとミッション名Psycheは同じものを指していますが、本記事ではカタカナ表記を使い分けています。記事最後の注釈をご覧ください)。
これまで探査されてきた小惑星はいずれも岩石質、あるいは有機物や揮発性物質を含むタイプの小惑星で、金属質の小惑星は探査されていませんでした。
地球に落ちてくるいん石の中に、金属の塊があるのをご覧になったり、場合によってはお手に取った経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの元になる小惑星とされているのが、金属質の小惑星です。
プシケは、そのような小惑星の中でも結構大きく、大きさは直径で210キロメートル(ただ、形が不規則なのに気をつける必要はあります)、ほとんどが金属(鉄及びニッケル)でできていると推定されています。この「鉄及びニッケル」でピンときた方もいらっしゃると思いますが、実はこの構成物質は、地球のコアを構成している物質とそっくりなのです…というか、なのだと思われています(コアの物質を取ってきた人はまだいませんからね)。

どのようにして小惑星が今のような姿になったかという理由はいくつか考えられていますが、有力な説の1つに、かつて存在した惑星(母天体といいます)が何らかの理由で粉々になり、いまのように小さな天体の集まりになったというものがあります。
母天体はそれなりの大きさを持っていたはずで、そうしますと、地球や火星、あるいは月のように、全体が溶け、金属のような重いものが下に沈み、最終的には中心に金属からなるコア、その周りにやや重い物質からなるマントル、最上部に比較的軽い物質からなる地殻という成層構造ができたのではないかと考えられます。
そして、そのコアが小惑星として漂っているのがプシケなのではないか、というのが今の科学者の推測です。それを確かめよう、というのがこのミッションであり、この「サイキ」が打ち上げられれば、私たちは基本的にすべてのタイプの小惑星を一応は探査することになります。そして、小惑星の成り立ちや、その母天体(そもそも母天体なるものが存在したのかも含めて)の謎、さらには太陽系全体の成り立ちを解き明かす大きなチャレンジにつながっていくことでしょう。

「サイキ」の主任研究者であるアリゾナ州立大学タンパ校のリンディー・エルキンス氏は、「これは全く新しいタイプの世界への旅である。岩石でも氷でもなく、金属の世界への旅だ。プシケはこの種の小惑星として唯一知られているものであり、人類が天体のコアを訪れるという唯一の体験へとつながる旅でもある。外宇宙を訪れることで、私たちは内宇宙を知ることになる。」と、ミッションの意義を語っています。

「サイキ」は2023年10月(ちょうどこのタイミングは、オサイレス・レックスの帰還とほとんど同じ時期にあたります)に打ち上げられ、途中2024年に地球スイングバイ、2025年に火星スイングバイを実施し、相手の小惑星プシケに到着するのは2030年の予定です。

 

さて、上記2つのミッションの選定に加え、NASAの選定委員会は、落選してしまったネオカムについて、さらなるミッション研究のための追加資金を供給することを決定しました。

NASAの惑星科学部門長のジム・グリーン氏は、「これらのミッションは、どのように太陽系ができ、そして今に至ったのかを調べるという、NASAのより大きな戦略にまさに沿った形のミッションであるといえる。私たちはすでに地球型惑星を、ガスでできている外惑星を、そしてその他様々な、太陽系の天体を調べてきた。ルーシーは太陽系最古の物質を直接探査しに行くという使命を、サイキは天体の内部を直接観測するという使命を負ったものである。これらにより、新たなパズルの埋め合わせができ、私たちの太陽系や惑星がどのようにして誕生し、いまに至るまで進化してきたのかをより深く理解することができる。そして、生命がなぜ、どのように誕生し、いまに至ったのかを知る上でも、将来的に大きな助けになるだろう。」と、この2つのミッション選定の意義を語っています。並んで並んで

今回のミッション選定に当たったNASAの科学ミッション部門でNASA副長官のトーマス・ザーブチェン氏は、「ルーシーはトロヤ群小惑星という非常に多くの環境を持つ天体を探査する。サイキは金属質小惑星という、これまで探査したことがない小惑星の探査に挑む。こういった計画こそがディスカバリー計画の意義である。私たちがこれまでやってきたことがないことに挑むというのが、その意義なのである。」と、こちらはディスカバリー計画の意義を語っています。さらにいえば、そのような挑戦を「低価格で」成し遂げるということにも意義があることかと思います。

さて、今回2つのミッションが同時に選定されましたが、その両者が小惑星であった、ということについても非常に興味深いところです。ディスカバリー計画で2つのミッションが同時に選定されたということは過去にもいくつか例がありますが、その両方が小惑星という同じターゲットであるというのははじめてです。もちろん、片方がトロヤ群小惑星、片方が小惑星帯の金属質小惑星と異なる目標であることは確かですが、5つの最終提案の中から2つの小惑星探査を選出したということは、単にミッションの優劣だけではなく、現在のNASAが進める小惑星探査プログラム「小惑星イニシアチブ」の影響が大きいのではないかとも考えられます。
実際、小惑星イニシアチブについては計画の遅れなども指摘され、議会で2017年度予算の拠出が否決されるといった事態にもなっています。さらに、まもなく発足するトランプ次期政権が打ち出す宇宙政策によっては、これらがすべてひっくり返されることも想定されます。その前に、小惑星探査、そしてそこから火星に向かうという布石を打っておこうというオバマ現政権の意向が働いているのかもしれません。

しかしいずれにしても、これら2つの計画は野心的であり、私たちとしても非常に興味深いものであります。実際に探査天体にたどり着くのは2030年ころと非常に先ではありますが、ぜひその結果を見届けましょう。私も見届けたいものです。

ルーシー計画とサイキ計画のイメージ

ルーシー計画とサイキ計画のイメージ。実際に両者がこのように並んで飛行するわけではありません。(Photo: NASA)

[おことわり] Psycheについては、多くのサイトにおいて、綴り読み、あるいはラテン語読み(小惑星など天体に関してはラテン語読みを原則として採用することが多いようです)として「プシケ」と記されていることが多いようですが、月探査情報ステーションにおいては、「ミッション名については当事国における発音に従う」という原則に基づき、本ミッションをその発音に最も近い読み方である「サイキ」と本記事では記述しております。今後月探査情報ステーションにおいて記述に変更が生じる可能性がありますことをご了承ください。

【追記】(2017年1月5日午後8時30分)記事内で、Psycheについては小惑星としてのPsycheとミッション名としてのPsycheが同時に使われています。ところが、日本語では小惑星についてのPsycheは「プシケ」と表記されることが多く、例えば日本語版ウィキペディアの項目も「プシケ」となっています。一方、ミッション名は上記おことわりにあるように「サイキ」が適切と考えられます。そのため、記事を若干修正し、小惑星名について述べる際には「プシケ」と、ミッション名として述べる場合には「サイキ」という表記に改めました。なお、この修正に合わせて誤記や打ち間違いの修正も行いました。

2017年1月5日(木)|Categories: サイキ, ルーシー, 小惑星探査 (ブログ)|