やや月・惑星探査からは離れるかもしれませんが、興味深い話題でしたのでこのブログでご紹介します。
よく、「満月の日に出産が多い」という話を聞いたことがないでしょうか。私の周りの人にも、「そういえば自分が生まれたとき満月だったと聞かされた」とか、「自分が子供を産んだときには満月だった」という話をする人が結構います。
ただ、それが科学的に立証されるためには、統計学的に「満月のときに(人間の)出産が多い」ということを証明する必要があります。そしてそれは結構簡単なことではありません。
まず、人間には思い込みの効果があって、「そういえば…」というときにはひょっとすると誤った記憶が入っているかもしれません(生まれたときの月齢なんてまず覚えている人はいないですよね)。また、世の中でそのようにいわれると、それを信じてしまうという人も多いようです。つまり、本当はそういうことがないのにそうだと信じてしまう効果が働いてしまうのです。

では、そういう効果を避けるためにはどうすればよいでしょうか。人間でなくてもいいので、人間に近い哺乳類で似たような効果が出ていれば、少なくとも思い込みではないことは間違いないでしょう。
今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の研究で、乳牛の出産が満月に近づくと増えるという結果が明らかになりました。

牛の出産

牛の出産 (© Dr. JY Li, The University of Tokyo)

研究を行ったのは、同研究科の米沢智洋准教授らのグループです。
研究グループでは、北海道の農場で、同じ条件で育てられている、遺伝子の近交度(それぞれの遺伝子の近さを示す値とお考えください)が近い乳牛(ホルスタイン)の出産データを分析し、2011年9月から2013年8月の3年間の計428例の自然文言(人工的に出産を行った例を除いたもの)について分析を行いました。
その結果、牛の出産数が満月前から満月にかけて多くなるという傾向があることが統計的に見出されました。さらに、初産の牛よりも、何回も出産を行った牛の方により、満月に近いほど出産が多くなる傾向があることも見つかりました。

人工的な原因を極力取り除いた上で、遺伝子的に近い牛でこのような傾向が出たというのは大変興味深いことです。人間ですとどうしても出がちな心理的な効果も牛では現れないはずですから、これは(少なくとも牛では)月齢、あるいは満月と出産に関係が有ることを示すデータということができるかもしれません。

米澤准教授は、今回のケースは、人間では(心理的な影響などがあって)調べにくいケースを家畜で調べるということを実践した好例と話し、「明確な結論を出す前に、より多くのサンプルを使って今回の研究結果を裏打ちしていくことが必要」と、慎重な立場を示しています。
もちろん、統計的に「満月前~満月の頃に出産が多くなる」というデータが示されたからということは、次になぜそうなるのか、ということを(生理学的に)示さなければいけません。その研究はこれからということになります。
米澤准教授も、さらなる研究を重ねることで、人間の出産にも当てはまるようなデータが出るかもしれないという期待を述べています。今後の研究に期待しましょう。

ちなみに、月探査情報ステーションのQ&Aコーナーでは、人間の「月経」についての解説をしています。月経もちょうど月の満ち欠け周期に近いほぼ28日のリズムを持っています。このことが人間のお産などとの関係があるという意見もあるようですが、他の哺乳類では周期が異なります。したがって人間の場合は「偶然月齢と近い」という結論になっています。ただ、この研究が進めば、この結論がひっくり返されるかもしれません。

[英語] http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0161735
  • 「月経」というように、月と我々の体のリズムは結びついているようにみえます。これは本当なのでしょうか? 他の動物などでも同じようなリズムを持っているのでしょうか? (月探査情報ステーション Q&A)
    https://moonstation.jp/faq-items/f707
  • 月経などのほかに、月のリズムと関係しているできごとというのはあるのでしょうか? (月探査情報ステーション Q&A)
    https://moonstation.jp/faq-items/f708