月のリズム、という部分を、月の潮汐、という形に置き換えると、生物の活動をはじめ、いろいろなことが月の潮汐リズムと関係していることがわかってきています。
- 動物
- 動物の行動リズムの中には、月の満ち欠けの周期と関係が深いものがあります。
有名なものにはサンゴがあります。サンゴ(サンゴは植物のようにみえますが、立派な動物です)は、満月や新月などの大潮の日に産卵を行うことが知られています。そのほかにも、カニの中には、大潮の夜に、卵からかえったばかりの幼生を海に帰す行動をとるものがあることが知られています。これらの行動は、大潮の日が潮位の差が激しくなり、潮流が強くなるため、産まれた卵や幼生などがより遠くまで運ばれる(つまり、より生き延びる確率が高くなる)ことを利用していると考えられます。
では、どのようにしてこれらの生物が月の満ち欠けを知るようになったのか、ということについては、現在でもよくわかっていません。大潮の時期を知ることができた種だけがより生き延びる確率が高かったため現代まで生き延びている、という考え方もありますが、そうするとではそもそもどうやって知ったのか、という根本的な疑問が残ってしまいます。
この不思議がわかれば、動物と月との関係に新たな知識が開かれるかも知れません。 - 地震・火山活動
- 従来から、地震や火山活動は、満月や新月などの時期が多いといわれていました。最近になって、それを裏付けるような研究が発表されました。
2010年1月28日、防災科学研究所は、2004年に発生したスマトラ島沖の巨大地震の前後に発生した地震を調べた結果、月や太陽の引力がこれらの地震の発生に強く関与している可能性が高いことを見つけ出したと発表しました。
同研究所の田中佐千子研究員が発表された論文によると、地震が集中していた時間帯は地球潮汐が最大になる時間帯に集中していたということです。
気をつけなければいけないのは、潮汐の力によって地震が引き起こされるのではない、ということです。地震自体のエネルギーは、地球潮汐の力の1000分の1以下に過ぎません。しかし、地球潮汐の力が、十分にひずみがたまっている地殻に「最後の一押し」として作用する可能性は十分にあります。
また、統計で気をつけなければならないのは、地震と満月・新月との関係を論じる記事の中には、意図的に満月や新月の日に発生した地震しか掲載していないものもあるということです。上記のように科学的にしっかりと考察された論文ではなく、ただ満月や新月の日に起きた地震だけを並べて「満月や新月の日には地震が多い」といっても説得力はありません。統計的にみれば毎日世界中のどこかでは地震が起きているわけで、特に満月や新月の日に集中して起きているわけではありません。
いずれにしても、今回の防災科学技術研究所の研究は、将来的な地震予知などにつながる貴重な成果であることは確かです。 - 人間活動
- 人間の活動に月のリズムが深く関わっている、という説は、昔からいろいろと唱えられてきました。
よくいわれるのが、人間の活動が月の周期、特に潮汐周期と深く関係があるという説です。例えば、新月や満月の時期に犯罪が増加したりするという説があります。確かに、満月や新月の時期と合わせて犯罪数が増加しているようにみえるのですが、この点については調査方法や分類、あるいは「たまたまそのようにみえるデータだけを出してきたのではないか」という批判もあり、あまり根拠がないものといえるでしょう。
また、「人間の出産が満月や新月の時期に多い」という根強い説もあります。これは、上で述べたような動物の産卵と関係していわれるのかも知れませんが、これについても沖縄やアメリカ・カリフォルニア州などで行われた大規模な調査により、そのような関係がないことが明らかにされています。
そもそも、潮汐力が人間の体に与える直接的な力は本当にごくわずかなもので、例えば、私たち自身を地球が引っ張っている重力などに比べてもまったく小さな力です。ですから、潮汐力が私たちの体のリズムを支配しているとか、ましてや犯罪などの精神的な面をコントロールしているということはきわめて考えにくいことといってよいでしょう。
かつて、「満月の日に犯罪が多い」という理由の中には、満月の日は外が明るいため、外出する人が多い、あるいは夜遅くまで外出している人が多い、ということがあったと考えられます。そのような人が犯罪に襲われたりする確率は、当然外出している人が多い満月の日に大きくなるはずです。
そのような意味では、月のリズムが人間の行動を支配しているという点はあるかも知れませんが、それは合理的な理由があっての話であって、超自然的な意味で「人が月のリズムに支配されている」ということは(少なくともいまのところわかっている限りでは)ありません。
■関連ページ
- 月や太陽の引力が地震の引き金に (防災科学技術研究所) [PDFファイル]
■参考資料
- Newtonムック「月世界への旅」、株式会社ニュートンプレス、2009
- と学会著(山本弘、志水一夫、皆神龍太郎)、トンデモ超常現象99の真相、洋泉社、1997
- A.L.リーバー著、藤原正彦、藤原美子訳、増補・月の魔力、東京書籍、1996